魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第81話 演目:大団円の閉幕式

上空から鋏の形のオーラが飛来し、ゲンガーの放った気合玉を打ち消した。

そして。

「よし! ようやく追いつきましたわ!」

「ハル! 遅くなってごめん!」

森の中から現れたのは、エリーゼとサヤナ。上空からはハッサムが降下し、そして、

「ハル、ここまでよく頑張ったな。後は俺に任せろ」

ワダンも二人に続いて現れる。

「おやおや、これはまた大勢でお越し下さったようで。というか、またしてもお前かよ、儂の邪魔をしたのは」

やれやれといった調子で、ダンタリオンは軽く頭を掻く。

「さて、攫った観客を返してもらおうか」

ハルを下がらせ、代わりにワダンが一歩進み出て、ダンタリオンと対峙する。

「そうカッカすんなよ。観客はそこのテントの中でぐっすり眠ってる。私のゾロアークとゲンガーで幻術を仕掛けたから、当分は眠ったままかもしれませんが」

ですが、とダンタリオンは続け、

「ただでは返しませんがね? この俺様の邪魔をしたんだ、鬱憤晴らしの一つはさせて貰わんとな」

その言葉に呼応し、メガゲンガーが不気味な笑い声を上げる。

「フン、いいだろう。元よりこちらも逃がすつもりはないからな。貴様を打ち破り、牢の中へとぶち込んでやるとしよう」

ワダンが、ボールを取り出す。

「出番だ! バクーダ!」

現れたのはバクーダだが、ジム戦で使っていた個体より少し大きい。恐らく別個体、本当の意味でのエースポケモンだろう。

「バクーダ、目の前の敵を蹴散らすぞ。メガシンカだ!」

コートのボタン代わりのワダンのキーストーンと、体毛に隠されたバクーダのメガストーンが共鳴し、光を放つ。

背中に聳える火山を揺るがし、メガシンカを遂げたバクーダがメガゲンガーと対峙する。

「ゲンガー、シャドーボール!」

「バクーダ、火炎放射!」

刹那、両者共に動く。

バクーダが息を吸い込み、吐息と共に灼熱の業火を吹き出すと同時、ゲンガーが第三の眼を妖しく光らせ、漆黒の影の弾を連射する。

荒れ狂う炎と無数の影の弾が衝突。威力は互角、一歩も譲らずに競り合いを続ける。

しかし、

「っ……!」

徐々に均衡が破れ始める。バクーダが押されている。

理由は簡単。口から炎を吐き出し続けなければならないバクーダは、いずれどこかで呼吸の限界が訪れる。一度息を吸い直すためには、炎を止めなければならない。

しかしゲンガーは違う。第三の眼に力を集めて撃つと同時に次の弾を作り出し、際限なく発射される影の弾が次第にバクーダの放つ炎を押し返していく。

その末に遂に、シャドーボールがバクーダを捉えた。無数の影の弾を全身に受け、バクーダが唸る。

「気合玉だ!」

体勢を崩すバクーダを狙い、さらにゲンガーは両腕を掲げて巨大な光の念弾を作り出す。

気合玉が炸裂と同時に爆発を起こし、爆炎がバクーダを包み込む。

「ハハハ! 口ほどにもありませんねぇ! その程度で私を蹴散らすだと? 随分と笑わせてくれるじゃねえか!」

黒い煙に覆われるバクーダを見て、ダンタリオンが嘲る。

しかし。

「ダイヤブラスト!」

刹那、バクーダを覆う黒煙が吹き飛ばされる。

それと同時、バクーダの周囲が煌めいたかと思うと、青白く輝く爆発が発生。

煌めく爆風が襲いかかり、ゲンガーを吹き飛ばした。

「ほう、どうやら少しは――」

「大地の力!」

ダンタリオンの言葉など聞かず、さらにワダンは指示を続ける。

よろめくゲンガーの足元が揺れ、大地エネルギーが溢れ出す。

大地のエネルギーの奔流に飲み込まれ、ゲンガーはダンタリオンの元まで押し流される。効果抜群の一撃。まだやられてはいないものの、大きいダメージを受けたようだ。

「チッ……おやおや、思いの外やるようで。少々計算が狂ってしまいましたな」

苛立ちを見せつつも、すぐに平静を取り戻すダンタリオンだが、

「フン、分かりやすい奴だ。取り繕っているのが見え見えだぞ」

対するワダンは全く動じず、寧ろ小さい笑みすら浮かべる。

「はぁ? なんですって?」

「マデルジムリーダーの中でもベテランのこの俺に、貴様程度の三下がよくもまぁ簡単に勝てると思ったものだな。そのゲンガーは確かに火力だけは飛び抜けているが、俺のバクーダより僅かに高い程度だ。加えて体力、スタミナはこちらの方が上。その程度で口ほどにもないだと? 随分と笑わせてくれるじゃないか」

ワダンの意趣返しに、いよいよダンタリオンが額に青筋を立てる。

「黙って聞いてりゃ好き勝手言ってくれるじゃありませんか。俺様相手にそこまで言うのであれば、地獄へ引きずりこまれる覚悟はできてんだろうなぁ」

「ちっとも黙っていなかったじゃないか。生憎だがこれ以上お前との茶番に付き合っている時間はないのでな。早々に終わらせようか! バクーダ、大地の――」

ワダンの指示は、そこで途切れた。

 

ズドォン! と。

頭上の木の上から突如何者かが飛来し、黒いオーラを纏ってバクーダの脳天に激突したからだ。

 

「なにっ!?」

突然現れた襲撃者に対応できず、頭を揺さぶられたバクーダがよろめく。

「ゲンガー、シャドーボール!」

その隙にゲンガーがさらに黒い影の弾を連射。

立て続けに影の弾が直撃し、バクーダが呻き声を上げる。

そして黒い襲撃者はダンタリオンの傍に立ち、ニヤリと笑って嘲るように吠える。

「ククク。伏兵は忍ばせておくに限ります。よくやったぞ、ゾロアーク」

襲撃者の正体は、黒い化け狐ポケモン、ゾロアークだった。

「荷車が草木を押し潰したはずなのに、その痕跡が見当たらないのは不思議だと思わなかったか? ゾロアークを森の中に潜ませ、森に入ってきた人間に幻を見せていたのさ。本当はテントの位置ごと隠すこともできたのですが、それでは張り合いがないと思ったものでね」

ダンタリオンはさらに続け、

「さて、それではそろそろ撤収しますか。このままバトルを続けてもいいんだが、モルフォンがやられている以上、流石にこの人数を一人で相手取るのは骨が折れるからの」

「っ、逃がさんぞ」

ワダンが詰め寄るが、既にダンタリオンは逃げ道を開いていた。

「そんじゃ、ゾロアークは戻るか。ゲンガー、頼むぞ」

ゾロアークがボールへと戻り、ゲンガーはダンタリオンの前に立って第三の眼を輝かせる。

そして最後に、もう一度ダンタリオンは不気味に笑う。

 

「本日はハーメルン・サーカスにお越しいただき、誠にありがとうございました。またのご来場、心よりお待ち申し上げております」

 

刹那。

ゲンガーが異次元空間の入り口を開き、ゲンガーとダンタリオンはその中へと消え去った。

 

 

 

その後、すぐにテントは解体され、中で眠らされていた観客たちは全員救出された。

すぐに目を覚ました者もいれば、ダンタリオンの言った通り幻術にやられたのか目を覚まさない者もいたが、とりあえず誰も命に別状はないようだった。一応、全員病院で検査を受けるようだが。

ハルとサヤナ、エリーゼの三人もカタカゲに戻り、代表で警察の事情聴取を受けていたワダンも一旦帰ってきた。

警察からの話を聞いたワダンによると、どうやらサーカス団自体は本当のハーメルン・サーカスで、メルヘルがグリムから団長の座を受け継いだのも事実だったようだ。

しかし、団員たちは皆カタカゲシティに着いてからの記憶が失われており、ヘンゼルとグレーテルの存在も誰も記憶していなかったという。ワダン曰く、カラマネロで記憶操作をしたかゾロアークで幻を見せ続けていたのだろう、とのことだ。

「ハル、今回のことでは迷惑を掛けたな、すまなかった。協力、感謝しているぞ。サヤナとエリーゼ、お前たちにも謝らなければな」

一通り説明が終わった後、ワダンはハルたち三人へ頭を下げた。

「いえいえ、僕は大丈夫ですよ。寧ろ助けてくれてありがとうございました」

「ハルと同じく、礼を告げるのは私の方ですよ。あそこでワダンさんが来てくれなかったら危なかったかも」

「頭をあげてくださいな、ワダンさん。事件が無事解決して、何よりですわ」

ダンタリオンたちを捕まえられなかったことは心残りだが、ひとまず事件は解決といえるだろう。

「さてハル、すまないが俺はまたこれから警察の捜査を手伝わなければならん。特訓の続きはできそうにないが、なんとなくコツは掴めただろう。お前のファイアローのスピードなら、サンドパンの代理もこなせるはずだ。あとは実践あるのみ、だな」

「はい、ありがとうございます。新しいバトルスタイル、必ずものにしてみせます!」

ハルが笑顔で返事を返すと、ワダンは小さく笑みを浮かべ、

「じゃあな。次に会ったときにでも、ワルビルの特訓の成果を見せてもらおうか」

それだけ告げ、ジムへと走り去って行った。

「ふぅ……今日は大変でしたわね。サーカス鑑賞のはずが、ゴエティアの騒動に巻き込まれるなんて」

「ほんとだよー。一時はどうなることかと思った……ハルも危なかったね。魔神卿と戦うことになるなんてね」

「まさかダンタリオンが絡んでるとは思わなかったよ。ワダンさんがいなかったら、本当にやばかった」

モルフォンこそ倒せたが、ゲンガーにはまるで歯が立たなかった。ハルも成長しているとはいえ、まだ魔神卿には及ばないということか。

「そういえば、二人はこの後どうするんですの?」

アルス・フォンを取り出し、エリーゼが尋ねる。

「僕は今日はカタカゲに泊まって、明日からはマデルトンネル経由でイザヨイシティを目指そうと思ってます」

「あっ、じゃあハルと次に会うのはイザヨイシティだね。私は少し大回りして、別の街を回ってイザヨイに行くつもりだよ」

特訓の休憩中に聞いた話によると、イザヨイシティはマデル地方における科学技術の最先端を突き詰めた近未来都市であり、マデル地方一番の大都市であるそうだ。

「そうなのですわね。私もイザヨイには行くつもりなのですけれど……少し別の予定があるから、私も二人とはここで一旦お別れになりますわね」

明日からはまた一人旅。少し寂しい気もするが、それもまた旅の思い出となる。

ひとまず、三人ともポケモンセンターへ戻る。

今日はゆっくり休んで、明日からはまたそれぞれの道へ出発だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

森の中を、ただひたすらに駆け抜ける。

やがて、メルヘル団長は森を抜け、舗装されていない薄暗い道路へと出た。

「はぁ……し、死ぬかと思った……」

肩で息を吐き、汗を拭う。絶体絶命のピンチにまで追い込まれたが、どうにか逃げ切ることができたようだ。

「おーおー、大丈夫かいな。団長の威厳のかけらもあらへんで」

そこで待機していたのは、青いピエロのヘンゼル。この場所は、任務を終えた彼らの待機場所だった。

「元からそんなのないでしょ。雑魚のくせに、往生際の悪さだけは一流ね。捕まってしまえばよかったのに」

ヘンゼルの隣には、蝶を模したゴシックな衣装のグレーテルもいる。

「お、お前たち! どうして団長を助けなかったのかね! おかげでひどい目にあったんだよ! 分からないのかね!?」

部下を見つけた途端、メルヘルは怒鳴りだすが、

「……ムカつく。ねえ兄さん、もうこいつ殺しちゃっていい?」

そんな団長の様子を見て、ついに見かねたグレーテルが低い声で呟く。

「な……き、君は誰に何を言っているのか分かっているのかね!? 私は団長であるぞ!? 君たちの上司であるのだぞ!?」

「はぁ? あんたは名ばかりの肩書きを背負った、ただの役立たずでしょうが」

実力の差は分かっているようで、グレーテルの剣幕にメルヘルは一転してビビり出すが、

「まぁ、待ちぃなグレーテル。気持ちは分かるけど、団長さんの処遇は私らが決めることちゃうよ。気持ちは分かるけどな」

相変わらず柔和な表情のヘンゼルに肩を叩かれ、不承不承と言った様子でグレーテルは引き下がる。

「なぜ二回言ったのかね? 君も私のことを馬鹿にしている……?」

先程からコロコロと表情を変えるメルヘルだが、ヘンゼルはそれを無視し、

「そろそろ、あのお方も到着する頃や。そんじゃ、後はお任せしまっせー」

そう言ってグレーテルの手を取り、一歩引き下がる。

すると、

「気付いていたか。とりあえず、今回の任務は終了した。引き上げますよ」

地面が歪み、異空間の入り口が開き、そこからダンタリオンとメガゲンガーが姿を現わす。

直後、ゲンガーの体を七色の光が包み、元の姿へと戻す。

「お疲れさんです。どないなもんでした? 成果の方は」

「うむ……最低限、といったところじゃの。キーストーンは残念ながら手に入りませんでした。他の魔神卿へ渡して貸しを作るのもいいかと思ったのたが、ま、やむを得まい」

ヘンゼルの言葉にそう返すと、ダンタリオンはメルヘルの方を向く。

「さて、メルヘル。お前とは少し話すことがある」

「は、はいぃ!」

ダンタリオンに呼ばれ、メルヘルは打って変わって姿勢良く振り返る。

「さて……まずはこう言っておきますか。お疲れ様でした。任務終了だ」

「え……あ、はい! ありがとうございますぅ!」

手のひらを返すように態度が変わるメルヘル。本当に分かりやすい。

「お前が散々しくじってくれたおかげでだいぶ計画を変更せざるを得なくなったが、それでも最低限やることはやった。とりあえず、お前の失態は全て水に流しましょう」

「た、大変もったいないお言葉……! ありがとうございますぅ!」

「まぁそれはいいや。ところでメルヘル。もう少し前に出てくれますか?」

「……?」

不思議な問いかけに怪訝な表情を浮かべながらも、メルヘルは一歩前に進み出る。

「うん。それでいい」

にっこりと笑ったダンタリオンに釣られて思わず笑みを浮かべるメルヘルだが、そこで気づく。

ダンタリオンの背後に立つ兄妹の、自分に対する哀れみの顔に。

何故だ。

何故こいつらは、こんな顔をしている?

「――そんでさ。ここからは話の続きなんだがよ」

メルヘルの思考がまとまらないまま、にっこり笑ったままのダンタリオンは言葉を続ける。

「俺様はもうハーメルン・サーカスに関しては完全に手を引く。だからメルヘル、君との繋がりもここで切れてしまうんですよ。そうなると、困った問題が起こる」

「……! そ、そうですよ! 私はこのあとどうすればよいのです!? 今さらサーカス団に戻るなんて、できっこありませんよ!」

「落ち着きなされ。ちゃんと考えてある。というか、やることはもう決まっています」

喚くメルヘルを制し、ダンタリオンは続ける。

「お前との繋がりが切れるってことは、お前はもうゴエティアの人間じゃなくなるってことだな。困った問題が起こるよな? ゴエティアではない人間なのに、ゴエティアの内情を知りすぎた人間がいることになりますよね。それはまずい。本当にまずい」

「ええ……そうですね……?」

「そうだよな? ならばこの問題を解決するには、その“知りすぎた人間”を排除しなくちゃいけないんだ」

「……へ?」

まさか。

メルヘルの背筋に、寒気が走る。

最悪の事態が脳裏に浮かぶが、もう遅い。

「メルヘル」

思考を遮り、白い悪魔が名前を呼ぶ。

 

「――任務終了だ。お疲れ様」

 

風切音、衝撃。

メルヘルの意識は、そこで途絶えた。

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