魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第82話 トンネルのひと騒動

次の朝。

「それじゃ、元気でね」

「うん。お互いにね!」

「次はイザヨイシティで会いましょう」

朝食を食べ終わったあと、ハルとサヤナ、エリーゼはひと時の別れを告げる。

エリーゼはカタカゲに残り、サヤナとハルは別の道へと進む。

ハルは次の目的地、イザヨイシティへ向けて、マデルトンネルへと足を踏み入れた。

ワダンが特訓前に言っていた通り、こちらのトンネルは既に完成され、きちんと舗装されているトンネルだ。照明もとても明るいというほどではないが、切れているものはなく、きちんと整備されているのがわかる。

あまり明るくしていないのは、住み着いている野生のポケモンへの配慮らしい。

「イザヨイシティ……近未来都市って聞いてるけど、どんな街なんだろう? 楽しみだね、エーフィ」

薄暗いので、ハルは隣にエーフィを連れている。額の珠で前方を照らしながら、エーフィはハルの方を向いて微笑む。

何しろ、サオヒメシティよりもさらに規模の大きいマデル地方一の大都市だ。

ハルが今が情報を検索しているこのアルス・フォンを製作した会社、アルスエンタープライズの本社もイザヨイシティにある。もちろんポケモンジムもある。

さらに、フォンの情報によると、少し先の出来事ではあるがこの街で大規模なポケモンバトル大会が開かれるらしい。

その規模、まさにポケモンリーグマデル大会の次に大きな大会。優勝の商品は賞金やトレーナーグッズセット、それから何と、ポケモンリーグ予選のシード権だ。

「ポケモンリーグのシード権……! これは絶対出ないと。それにこの大会でいい成績を残した選手はポケモンリーグでも戦うことになるかもしれないし、情報収集にもなるしね」

まだハルのバッジの数は五つだが、先を見据えておくに越したことはない。

とりあえず、イザヨイシティに着いたら街を散策し、ジム戦は次の日以降だ。ワルビルを始め、ポケモンたちの特訓や調整も欠かすわけにはいかない。

頭の中で予定を立てながら、ハルは薄暗いトンネルの中を進んでいく。

しばらく進むと、

「ん? エーフィ、どうしたの?」

エーフィが足を止め、尻尾で前方を指す。その先は、分かれ道だった。

しかしどっちに進めばいいかは迷わなかった。左側の道を塞ぐように立て看板が置いてある。

「えーっと……『この先ノワキタウン。関係者以外の立ち入りを禁ず』か……」

看板には、そう書かれていた。

ポケモンセンターで他のトレーナーたちから聞いた話によると、ノワキタウンは住民こそいるものの、かつて粗大ゴミの捨て場として使われていた無法の町で、今はいわゆる自治区のような扱いであるのことだ。

一応ジムリーダーもいるようだが、それも今は治安維持を目的とした形式的なものとなっているらしい。

マデル地方にはジムが八箇所しかないわけではないので、わざわざそんな無法地帯へと赴く物好きはいないし、ハルもそんな物好きではない。

「ってことは、右側に行けばいいんだね」

そう呟き、看板の立っていない道に進んで行こうとしたところで、

 

「邪魔だ! どけ!」

 

三人ほどの黒装束の男たちが通路から飛び出してきた。

ハルは突き飛ばされ、尻餅をついてしまう。

「痛たた……なんだ?」

お尻をさすりながらハルは立ち上がる。

よく見れば、その黒装束たちはゴエティアの下っ端だ。

「……あっ、お前たち、ゴエティアだな! ここで何をしてる!」

「げっ……お前、俺たちのこと知ってるのかよ」

身構えるハルだが、男たちからは戦意を感じない。

「悪いが、俺たちは今お前のようなお子様に構っている暇はないんだ。俺たちがついうっかり縄張りをちょいと荒らしちまったせいで、ここを住処にしてるポケモンが暴れ出しちまったもんでな。逃げるところなのさ」

「そういうこと。この先に進みたいなら、暴れてるポケモンを鎮めるか、引き返して日を改めるしかねえぜ」

それだけ告げると、男たちは看板の立てられた通路の奥へと逃げて行ってしまった。

「何だったんだろう?」

追いかけたい気持ちもあるが、さすがにたった一人で無法者の町の中へ飛び込んでいくのは気が引ける。

それに、ポケモンが暴れているという話も放っておけない。

どちらと戦うか選べと言われれば、野生ポケモンと戦う方がずっとマシだ。

「エーフィ、この先凶暴なポケモンに出くわすかもしれない。気をつけて進むよ」

少し考えた結果、ハルは黒装束たちのことは一旦忘れ、目的地へと足を進めることにした。

 

 

 

道が険しくなってきた。

照明は設置されているのだが、ところどころ切れてしまっているらしく点灯しておらず、道もごつごつした石が目立つようになってきた。

薄暗い通路の中を、ハルとエーフィは黙々と進んでいく。

その時だった。

 

ズガァン! と。

トンネルの壁が破壊され、何者かが姿を現わす。

 

「な、何だ!?」

後ずさりし、身構えるハル。

襲撃者の正体はポケモンだった。恐らく野生のポケモンだろう。

赤い爪を持つ、緑色の小型の怪獣のような風貌のポケモン。口からは長い牙が突き出している。

 

『information

 オノンド 顎オノポケモン

 牙は大岩をも砕く破壊力を持つが

 一度折れると生え変わらない。

 戦いが終わると牙を丹念に磨く。』

 

オノンドというドラゴンタイプのポケモンのようだが、かなり興奮している様子。牙を剥いて吼え、ハルを威嚇している。

「もしかして……さっきあいつらが言ってたのって、このオノンドのことか」

間違いないだろう。このトンネルを住処としていたところ、下っ端たちに縄張りを荒らされて気が立っているのだ。

「引き返してもいいけど……いや、次に通る人が危ない目に遭うかもしれない。戦って気を鎮めさせるしかなさそうだね」

ハルの言葉に反応して、エーフィが進み出る。

「頼んだよ、エーフィ。でもやりすぎないようにね。落ち着かせる、もしくは撤退させることが目的だからね」

エーフィは振り返り、頷くと、すぐに一歩踏み出してオノンドと対峙する。

そして相対するオノンドは、ハルが撤退しないばかりか戦う姿勢を見せたことにより、いよいよ本格的に襲い掛かってくる。

咆哮と共にその腕に凄まじいオーラを纏わせて光の巨大な爪を作り出し、エーフィへと飛び掛かってきた。

「この技は……ドラゴンクローか! エーフィ、躱して!」

エーフィは素早く跳びのき、光の龍爪を躱すと、

「サイコショットだ!」

額の珠に溜め込んだ念力を集め、サイコパワーの念弾として発射する。

しかし突如、オノンドの長い牙が炎を灯す。

炎を纏った牙を振り抜き、オノンドは力任せにサイコショットを破壊してしまった。

「エーフィの得意技を一撃で打ち破るのか……なかなかのパワーだな……!」

この辺り一帯を縄張りとしているだけのことはあり、実力は高そうだ。パワーだけならハルのワルビルといい勝負かもしれない。

そうこうしているうちに、オノンドは再び突っ込んできた。

「動き自体は単調だな……エーフィ、躱してスピードスター!」

トレーナーの指示もない野生のポケモンなので、動きは単純。

襲いかかるオノンドの炎の牙をエーフィは身軽に躱し、尻尾を振るって無数の星型弾を飛ばす。

回避しようとするオノンドだが、必中の星型弾は軌道を変えて、確実に標的を捉える。

「よし、続けてシャドーボールだ!」

エーフィの額の珠が黒く染まり、漆黒の影が集まる。

対するオノンドもスピードスター程度では大きなダメージは受けておらず、腕に巨大な爪のオーラを纏わせ、再び突っ込んでくる。

エーフィがシャドーボールを放つが、即座にオノンドは光の龍爪を振り抜いて影の弾を破壊、さらに今度は牙を構えて突撃し、エーフィに鋭い牙の斬撃を浴びせ、さらに体当たりをかまして突き飛ばした。

「っ! エーフィ、大丈夫!?」

予想以上にダメージが大きい。それでもエーフィは立ち上がり、ハルの声に応えて頷く。

図鑑を取り出し、ハルは今のオノンドの技を確認すると、

「えっと……なるほど、シザークロスか。通りでダメージが大きいわけだ」

虫技のシザークロスは、エスパータイプに効果抜群となってしまう。

そしてオノンドもシザークロスがよく効くことに気づいたようで、再び牙を構えて突進する。

「そう何度もは当たらないよ! エーフィ、躱してサイコショット!」

今度は跳躍してオノンドの牙を確実に躱し、勢い余って後方に飛んでいくオノンドの背中へ念力の弾を放つ。

飛び上がったエーフィの方を振り返ったオノンドの顔面に、サイコパワーの念弾が直撃した。

「よし! いいぞ、エーフィ!」

着地してオノンドを静かに見据えるエーフィとは対照的に、オノンドは怒りを露わに咆哮する。

(……だめだな、全然落ち着いてくれそうにない。このオノンド、かなり好戦的なんだな)

いくら攻撃を当ててもオノンドは逃げる気配など微塵も見せず、寧ろ攻撃を受けるたびにより怒りを強めているように見える。

(しょうがない。こうなったら、捕まえて大人しくさせるしかないな)

目標変更。このオノンドをゲットする方針に切り替える。

落ち着いてもらうためなのはもちろんだが、ハルの手持ちはまだ四匹しかいない。そろそろ新しい仲間がほしい頃だ。

このオノンドを仲間にして心を通わせることができれば、心強い味方になってくれるだろう。

「エーフィ、引き続き頼むよ! スピードスター!」

尻尾を振り抜き、エーフィはて無数の星形弾を飛ばす。

この技は躱せないと理解したようで、オノンドは手刀を振るうように牙を叩きつけ、星形弾を破壊する。

「なるほど、もう一つの技は瓦割りか……エーフィ、一旦離れてサイコショット!」

エーフィはその場からジャンプしてオノンドから距離を取り、サイコパワーの念弾を放つ。

突撃を仕掛けようとしたオノンドに念弾が直撃し、オノンドは体勢を崩す。

「よし……! 今だ!」

オノンドが転んだところに、ハルはモンスターボールを取り出し、それを投げつける。

モンスターボールがオノンドの額に当たると、ボールが開き、オノンドを吸い込む。

ボタンが赤く点滅し、激しく揺れる。

しかし、

「……っ! まだだめか!」

一旦ボールに入ったものの、オノンドはモンスターボールを突き破り、中から出てきてしまう。

荒々しく吼えると、オノンドは再び巨大な光の龍爪を構えて突っ込んでくる。

「エーフィ、スピードスター!」

対するエーフィは無数の星形弾を放つが、オノンドは爪を突き出して強引に突っ込み、星形弾を打ち破り、その奥にいるエーフィに斬撃を与えて吹き飛ばす。

オノンドの攻撃はそこで終わらず、さらに牙で切りかかって来る。

「っ、エーフィ、シャドーボール!」

咄嗟にエーフィは倒れたままくらい影の弾を放つが、影の弾はオノンドの牙に押し負け、威力は弱めたものの、エーフィは再び切り裂かれてしまう。

「くっ、エーフィ!」

吹き飛ばされるエーフィに対し、オノンドは爪に龍の力を纏わせ、飛び出してくる。

ようやく立ち上がったエーフィ。普通ならば回避できる余裕はないが、

「……今だエーフィ! マジカルシャイン!」

エーフィの額の珠が白く輝き、周囲に純白の光が放出される。

フェアリータイプの技は、ドラゴン技を無効化する。オノンドの腕の龍の力を容易く打ち消し、さらにオノンドを光に飲み込み、吹き飛ばした。

「今度こそ! いけっ!」

ハルはもう一度モンスターボールを取り出し、オノンドへと投げる。

仰向けに倒れるオノンドに当たると、再びオノンドをボールの中へと吸い込んだ。

地面に落ちたモンスターボールはボタンを点滅させながら何度か揺れ、やがて動きを止める。

「……よし! オノンド、ゲットだ! エーフィ、お疲れ様!」

予想以上に強敵だったオノンドとの戦いで消耗したエーフィへ、ハルはエーフィの好物である甘いモモンの実と、体力回復効果のあるオボンの実を渡す。

その後、捕まえたオノンドをボールから出す。

まだ興奮が収まらない様子のオノンドだったが、自分を打ち負かしたエーフィがハルの傍で睨みをきかせているからか、ハルに対して攻撃は仕掛けてこない。

「オノンド。君は黒い服の人たちに縄張りを荒らされて怒ってたんだよね。あの黒い服の人たちは、僕の敵でもあるんだ。同じ目的を持つ者同士、力を貸してほしい。僕と一緒に来てくれないかな」

ハルがまっすぐにオノンドの目を見てそう言うと、オノンドは少し時間を挟んだ後、やれやれと言った感じで頷いた。

ハルはにっこり笑うと、木の実ケースの中からいくつか木の実を取り出す。

オノンドは少し戸惑っているようだったが、そのうち、ハルの差し出したものの中から、ロゼルの実にかぶりつき、上機嫌そうに喉を鳴らす。どうやら見た目に反して、甘い味が好みらしい。

新しい仲間としてオノンドを手持ちに迎え入れ、ハルは今度こそイザヨイシティを目指す。

 

 

 

「あれ……?」

トンネルの出口を抜けたハルは、そこで愕然とすることになった。

最先端の科学技術で作られたような施設や設備は一つも見当たらず、寧ろハルを出迎えたのは古い家のような建物の数々。

さらに、管理が行き届いていないのか、そこら中に粗大ゴミが投げ捨てられている。

どう考えても、ここが科学技術の最先端、イザヨイシティとは思えない。

不審に思い、ハルはターミナルを取り出して地図を確認する。

すると。

「嘘……でしょ……!?」

どこで道を間違えたのか。

ハルがやって来てしまったこの場所は、ノワキタウンだった。

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