「ポケモンバトル……ですか」
クリュウから告げられた、解放してもらうための条件。
それは、ノワキタウンの中でも実力派のトレーナーとポケモンバトルをする、というものだった。
「そうだ。そのバトルの結果次第で、お前の処遇は決まる。どうする? やるか?」
クリュウが問う。
対して、
「ええ。やります」
ハルも即答した。もとより拒否権などないし、やることは単純。
ポケモンバトルをして勝てばいい。それだけの話だ。
「決まりだな。じゃあその前に、俺について来い。お前にはまずやってもらわなければならないことがある」
「……わかりました」
踵を返すクリュウに続いて、ハルもその後を追って歩き出す。
連れてこられたのは、ポケモンセンターだった。
「えっ?」
「言ったろ、やってもらうことがあるってな。ポケモンの回復だよ」
「……やることって、それだけですか?」
「当たり前だ。今からお前が戦う相手は傷ついたポケモンで勝てるような奴じゃねえからな。背景にどんな理由があろうと、ポケモンバトルはフェアであるべきだ」
戸惑うハルを尻目に、クリュウはポケモンセンターへ入っていく。
しかし二人を出迎えたのはジョーイさんではなかった。
「おっ、クリュウ! やほー……ってあれ、その隣の子だれぇ? あっもしかして、また捨てられっ子拾ってきた的な?」
待っていたのは派手な金髪の女性。化粧が濃く、ピンクのナース服は着崩しており、黄色い瞳には強い悪戯心が宿っている。
「ご苦労、イロー。生憎だがこいつはそうじゃない、これからゼンタとのバトルが控えてるんだ。こいつのポケモンを回復してやってくれ」
「あぁ、そっち系ね。おっけー、任せといて。君、名前は?」
会話から察するに、この女性はイローという名前らしい。
「ハルです」
「おっけー、ハルだね。あーしはイロー、この町のポケモンセンターの管理人だよ。怪しいお姉さんに見えるかもしれないけど、こー見えてもちゃんと医師免許は持ってるから、安心するがよいぞ☆」
キャハッ、と大層自慢げにイローは笑う。ギャルっぽいというか、何だかやけに距離が近い。
「ま、そういうわけだ。怪しむ気持ちは分かるが、腕は確かだから安心しろ。それとイロー、俺はまた後でこいつを迎えに来るから、よろしく頼んだぞ」
「はい……わかりました」
「あいよー」
クリュウに促され、ハルはモンスターボールをイローへと預ける。
しばらく待機していると、
「おまたせー、みんな元気になったよん」
奥の部屋から、モンスターボールを持ったイローが出てきた。
「ありがとうございます」
イローからボールを受け取ると、ハルは試しにファイアローを出す。
「ファイアロー、体の方は大丈夫?」
ハルに尋ねられ、ファイアローはご機嫌そうに翼を上げて頷く。傷も完全に治っているし、どうやら医師免許の話やポケモンセンターの管理人だというのは嘘ではなさそうだ。
「あっ、ハル、今あーしのこと疑ってたでしょ? せっかくポケモンたちを元気にしてあげたのに、ひどーい」
「えっ? あ、いや……」
「なーんてね☆ 冗談よ。気持ちはわかるし」
悪戯っぽくケラケラとイローは笑うと、
「あんたがなんでここに来たのかは知んないし、あーしには人を見る目はないからあんたが善人なのか悪人なのかも分かんないけどさ。何にもやましい事がないんなら、多分クリュウはあんたのことを逃がしてくれると思うよ。ちょっと怖いけど、ああ見えて悪い人じゃないから」
「……はい、ありがとうございます」
「あっ、こんな馴れ馴れしく話をしてたことはクリュウには内緒ね。あーしが怒られちゃうから」
ハルにはよくわからなくなってきた。ラルドが急に襲い掛かってきたかと思えば、イローはやけに友好的だし、クリュウに至っては全く考えが読めない。この町の人たちは何を考え、どんな暮らしをしているのだろう。
「イロー、そろそろ終わったか」
そんなことを考えていると、再びクリュウがポケモンセンターに戻ってきた。
「おかえりー、バッチリよん」
「よし。ハル、来い」
クリュウに呼ばれ、ハルは立ち上がる。
覚悟は決まった。クリュウの後に続き、ハルはもう一度イローに礼を告げ、ポケモンセンターを後にする。
ハルが連れてこられたのは、町中の広場だった。
しかし、広場といっても、他の街にあるような人々が集まってわいわいできるようなところではない。とりあえずここなら人が何人も集まれるだろうという程度の広場だ。
そして周りには見物人がぞろぞろと集まってきている。皆ノワキタウンの住民なのだろうか。
「ゼンタ、行ってきな」
クリュウが名前を呼ぶと、すぐ近くにいた赤い髪の大柄な男が反応して顔を上げる。
以前ハダレタウンで見た見た魔神卿アモンには劣るが、それでもかなりの筋肉質で、背も二メートルくらいはある。
「このゼンタはノワキタウンの中で俺が最も信頼を置けるトレーナーだ。いいバトルを期待してるぜ」
クリュウの紹介を受けて、ゼンタと呼ばれた大男はハルの向かい側に進み出て、ハルと対峙する。
「手加減は無しだ。いざ、尋常に勝負」
「……ええ、望むところです。よろしくお願いします」
ハルとゼンタが同時にボールを手に取る。
「アン、審判をやれ。公平にな」
続いてクリュウに指名されたのは、メガネをかけたおかっぱの青髪の少女。
「はい……それではこれより、ゼンタさんと、ええと……ハルさん、でしたっけ? のポケモンバトルを行います。使用ポケモンは一匹ずつです」
「では俺からポケモンを出そう。いざ、ムクホーク!」
ゼンタが繰り出すのは、赤いトサカを持つ鷹のような鳥ポケモン。
『information
ムクホーク 猛禽ポケモン
賢いが獰猛で好戦的な性格。体の
大きな相手にも臆せず挑みかかり
自身が傷つくことも厭わず戦う。』
見た目通り、飛行タイプのポケモンのようだ。
「出てきて、ルカリオ!」
対するハルは、エースのルカリオで立ち向かう。
「それでは、バトルスタートです!」
アンと呼ばれた審判の少女の声を引き金に、いよいよバトルが始まる。
「先手はいただく。ムクホーク、飛べ!」
バトルが始まると同時、ムクホークが翼を広げ、一気に急上昇する。
「ムクホーク、フェザーラッシュ!」
かなりの高度まで飛び上がったムクホークが翼を羽ばたかせると、無数の尖った羽根が矢のように次々と降り注いでくる。
「ルカリオ、弾いて! ボーンラッシュだ!」
ルカリオの手を纏う波導が形を変え、青白い槍となる。
波導の槍を手にしたルカリオはそれを振り回し、無数の羽根の弾幕を弾き飛ばしていく。
「ならば、ブレイブバード!」
甲高く嘶いたムクホークの体が、燃え盛る炎の如きオーラに包まれる。
そのままムクホークは翼を折りたたみ急降下、彗星が如くルカリオへと襲い掛かる。
「ルカリオ、下がって!」
上空を見上げたルカリオは即座にその場から飛びのくが、
「逃すな!」
地面に激突する直前でムクホークは翼を広げ、瞬時に軌道を修正してルカリオを追う。
二度目の回避は間に合わず、ムクホークの渾身の一撃がルカリオを貫き、吹き飛ばした。
「ルカリオ! 大丈夫!?」
強烈な一撃を受けたが、立ち上がったルカリオはハルの言葉に応えて頷く。これくらいでやられはしない。
「さあ、続けるぞ! 鋼の翼!」
旋回するムクホークが翼を硬質化させ、再びルカリオへと向かってくる。
「ルカリオ、迎え撃つよ! 発勁!」
ルカリオの右手を覆う波導が大きく展開される。
鋼の翼を叩きつけるムクホークに対し、波導を纏った掌底を突き出し、ルカリオはムクホークと互角に競り合う。
「今だよルカリオ! 波導弾!」
ルカリオの右手を覆っていた波導が瞬時に形を変え、青い光の念弾となる。
ゼロ距離の波導弾で均衡を打ち破り、ムクホークを押し戻す。
「続けてサイコパンチ!」
「そうはさせん! ムクホーク、フェザーラッシュ!」
拳に念力を纏わせ、さらに殴り掛かろうとするルカリオだが、ムクホークも反撃が早い。
翼を羽ばたかせて無数の尖った羽根を射出し、ルカリオへ羽根を突き刺してその動きを止め、
「熱風だ!」
翼を激しく羽ばたかせ、灼熱の風を巻き起こす。
ルカリオを押し戻し、鋼の体をじりじりと焼いていく。特攻があまり高くないのかそこまで威力は高くないが、それでも効果抜群なので痛い。
「なかなか強い……こうなったら、ルカリオ! やるよ!」
ハルがルカリオの名を呼ぶと、ルカリオは振り返り頷く。指示を受けずとも、ハルの言いたいことは伝わっている。
右腕を掲げ、ハルは叫ぶ。
「僕と君の、絆の力に応えて! メガシンカだ!」
ハルの腕輪のキーストーンとルカリオの腕輪のメガシンカが反応し、光を放つ。
七色の光に包まれ、ルカリオの容姿が変わっていく。
黒い波紋をその身に刻み、天を貫く咆哮とともに、ルカリオはメガシンカを遂げる。
「ええっ……!?」
「ほぉ……!」
ルカリオのメガシンカした姿に、審判のアン、クリュウやラルドを始めとした見物人たちから感嘆の声が上がる。
そして、
「なっ……貴様、メガシンカの使い手だと!?」
何より一番驚愕していたのは、ハルの対戦相手、ゼンタだ。
「ええ。ゼンタさん、勝負はここからです! ルカリオ、発勁!」
ルカリオの右手から青い波導が吹き出す。
そのままルカリオは地を蹴って飛び出し、一気にムクホークに接近、爆発的な波導を乗せて右手を突き出す。
「っ! ムクホーク、フェザーラッシュ!」
ルカリオのメガシンカに圧倒されていたムクホークが慌てて翼を広げるが、羽根を撃ち出すよりも早くルカリオの波導の掌底を叩きつけられてしまう。
「波導弾だ!」
吹き飛ぶムクホークに向け、ルカリオはさらに青い波導の光弾を放出する。
「壊せ! ブレイブバード!」
燃え盛る炎の如き凄まじいオーラを身に纏い、ムクホークが飛び出す。
「来るよルカリオ! 躱して!」
猛スピードで迫り来るムクホークの渾身の突撃を、ルカリオは大きく跳躍し、間一髪で回避。
「フェザーラッシュ!」
しかしブレイブバードを外したムクホークは翼を開いてすぐさま飛翔、ルカリオの上から矢のように無数の尖った羽根を撃ち出す。
「ルカリオ、ジャンプだ! ボーンラッシュ!」
ルカリオが右手を開くと、波導が姿を変えて槍の形をとる。
後ろに跳んで無数の羽根を躱すと、ルカリオは槍を地面に突き立ててジャンプ、棒高跳びのように一気に跳躍して上空のムクホークに迫り、
「サイコパンチ!」
上昇の勢いも利用し、念力を纏った拳を突き出す。
「ムクホーク、迎え撃て! 鋼の翼!」
対するムクホークも硬質化させた翼を振り下ろし、ルカリオの拳を迎撃する。
再び両者の攻撃が激突するが、
「熱風!」
その次の動きはムクホークの方が早かった。
灼熱の風を吹き付け、ルカリオを吹き飛ばして地面へと叩き落としてしまう。
「今だムクホーク! ブレイブバード!」
「そうはさせない! 発勁!」
狙った獲物を仕留めるかのようにムクホークが翼を折りたたんで凄まじいオーラと共に急降下、地面に落ちたルカリオは素早く起き上がると、青い炎の如き波導を纏った右手を突き出す。
両者がまたも正面から激突。火花を散らし、お互いに一歩も引かない。
だが、
「ルカリオ! 吹っ飛ばせ!」
渾身の力を込め、ルカリオは右手を力一杯振り上げる。
規模をさらに増していく波導の力の前に均衡が崩れ、ルカリオの力に遂に押し負け、ムクホークは青い波導の波に飲まれて吹き飛ばされる。
「なにっ……!?」
大きく吹き飛んだムクホークを狙って、ルカリオは両手を構え、掌から青い波導の念弾を放出した。
波導の念弾は正確にムクホークを捉え、波導の力が炸裂し、青い爆風と共にムクホークを地面へ撃墜した。
「くっ……!」
砂煙が晴れると、既にムクホークは戦闘不能になっていた。
「……! む、ムクホーク、戦闘不能です!」
驚きを隠せない様子で、審判の少女アンはムクホークの敗北を告げる。
このバトルは、ハルの勝利だ。
原作タグに《ポケットモンスター》が付いているので、タイトルからポケットモンスターを外しました。
《フェザーラッシュ》
タイプ:飛行
威力:25(連続攻撃)
物理
鋭く尖った羽根を無数に飛ばし、相手に突き刺す。
※威力はあくまでも目安です。