魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第85話 日陰の町で生きる者たち

ノワキタウン、中央広場。

激闘の末、勝利したのはハルとルカリオだった。

「やるではないか……まさか私の相棒であるムクホークが撃破されるとはな。ムクホーク、よく頑張った。戻って休め」

無念の表情を浮かべつつ、それでもゼンタはハルを賞賛した。

「さて……バトルは私の負けだったが、クリュウ。どうだった? 今のバトルは」

「ハッ、お前なら答えは分かってんだろ。聞くまでもねえはずだぜ」

ムクホークを戻すと、ゼンタはクリュウの後ろへと引き下がり、代わりに再びクリュウが進み出てきた。

「お前、強えんだな。メガシンカを使ったのも驚きだがよ、まさかうちのゼンタのムクホークに勝つとは思ってなかったぜ」

「さあ、約束です。僕のポケモン図鑑とアルス・フォン、返してもらえますよね」

「勿論だ。だがそう焦るなよ。返す前に、俺の話を聞いてってくれねえか」

「……分かりました」

頷くハルに対して、よし、とクリュウは言葉を続ける。

「今のバトル、俺が見ていたのは、お前の強さじゃない……見ていたというか、重要視していたのは、だな。俺が見ていたのは、お前とルカリオの戦い方だ」

「戦い方……?」

「そうだ。お前が悪人かそうでないかを確かめるには、それが一番手っ取り早い。人間は他人を傷つけ、嘘をつく生き物だ。善人のフリをして人を陥れ、排除しようとする極悪人だって珍しくない」

だが、とクリュウは続け、

「例えトレーナーがどれだけ嘘に満ちた人間だったとしても、ポケモンは嘘をつかない。悪人が育てたポケモンは、バトルの時にも悪人が育てたような動きになる。お前には分からないかもしれんが、俺みたいなやつには分かるんだ」

そんで、と、クリュウはハルの隣に立つルカリオに目線を移す。

「お前のルカリオだが、バトルが始まってすぐに分かった。どう見ても悪人が育てたポケモンじゃねえ。お前を信頼して動き、お前からの信頼に応える。ポケモンとトレーナーとの深い絆があって初めて成せる技だ。あんなバトルを見せられちゃあ、お前が悪人だとは到底思えねえ。今だから言うが、もしお前がゼンタに負けていても、図鑑とアルス・フォンはお前に返すつもりだった。お前を解放する条件は“バトルの結果次第”だったからな。勝ち負けなんて関係ねえんだ」

そこまで言うと、クリュウは後ろを振り返る。

「ラルド」

「は、はい!」

「その機械を、ハルに返してやれ」

「はい……分かりました」

緑の髪の少年、ラルドが、図鑑とフォンを持って駆け寄ってくる。

「……悪かったな。これは返すよ」

バツが悪そうな顔をしながらも、ラルドはハルへ素直に頭を下げた。

奪った二つの機械を、ハルへと渡す。

「ううん。返してくれて、ありがとう」

ハルは笑顔で図鑑とターミナルを受け取り、元の場所に仕舞った。

「ラルドはお前を悪意ある侵入者だと勘違いしたんだ。許してやってくれとは言わねえが、理解してやってくれ。ここはそういうところなんだ。この町にとって無害な奴なら見逃すが、そうじゃないなら容赦はできねえ。ここは、俺とゼンタが作った町。表社会から不当に弾き出された奴らの安全な居場所なんだよ」

そう語るクリュウの口調は、とても無法者とは思えない深みを帯びていた。

いや、寧ろ。

排他的にならざるを得ないこの町の住民のことを、外の人間たちが勝手に無法者と呼んでいるだけではないのだろうか。

「例えば、ラルドやアンは親に捨てられたみなしごだった。ゼンタが保護してこの町に連れてきたんだ。お前がさっき会ったイローもかつて医学の専門学校で酷いいじめに遭い、俺と出会った頃は心身ともに衰弱しきっていた。その他にも、この町の住民は暗い過去を抱えたやつらばっかりだ。言い訳に聞こえるかもしれねえが、ここはそういうワケありのやつらが平和に過ごすことのできる安全な町なんだ。もちろん、外の街にいる数少ない理解者は、仕事口を紹介してくれたりもする。それでも外からの訪問に対しては過敏になるし、そいつに少しでも悪意があれば容赦なく攻撃する。それで俺が無法者と呼ばれるだけで済むんなら、別に構わねえ」

そこまで話すとクリュウは、ふぅ、と息を吐き、薬を取り出して丁寧にルカリオの傷を回復させる。

「あ……ありがとうございます」

「さ、もう行きな。ここはお前みたいな光の世界の住人には不釣り合いな場所だ。今度は道を間違えるんじゃねえぞ」

「はい。気をつけます、ありがとうございました」

しかし、今だにハルはどこで道を間違えたのかが分からない。

思い返せば、トンネルの中にいたゴエティアの下っ端も気掛かりだ。無法者の町と聞いていたのでてっきりノワキタウンに拠点があるのだろうと思っていたのだが、そうではないとなると下っ端たちはあんなところで一体何をしていたのだろうか?

「……あの、クリュウさん」

どうしても気になって、ハルは再び振り返る。

「なんだ? まだ何か用か?」

「ゴエティアって組織のことを、ご存知ですか?」

「あぁ? 百年前の大組織の名を騙った犯罪集団だろ? 散々ニュースでやってるやつじゃねえか。この間は確かハダレタウンの大会にメンバーが潜んでたっつったか。それがどうした? まさか俺たちをあんなのの仲間だと疑ってるんじゃねえだろうな?」

「あ、いえ、そういうわけではなく……」

クリュウの剣幕に慌ててハルは首を振る。

「ここに来る前、トンネルの中でゴエティアの下っ端を見たんです。こっちの町に続く道から出てきたので、その時はノワキタウンはゴエティアの拠点だと思っていたんですけど、そうじゃないみたいだったので……」

「なに?」

クリュウの顔色が曇る。

しばしの間、何か考え込んでいる様子だったが、

「おい。ハル、一旦カタカゲシティに戻った方がいいかもしれねえぞ」

やがて再び顔を上げ、ハルにそう告げる。

「ノワキにゴエティアが来た形跡はない。もし奴らが一歩でも足を踏みいれようもんなら逃すはずはねえからな。となると、イザヨイで奴らが暗躍している可能性がある。奴らが動けば必ずニュースになるはずだし、何か動きがあるまで大人しくしていた方がいいかもしれねえ。とりあえず、カタカゲに戻んな」

「……分かりました」

あくまでも憶測なのだが、考え出すと不安になってくる。

ひとまずクリュウの言う通りカタカゲシティに戻ってエリーゼと合流しようか、もしくはサヤナが進んだ道へ出直そうか、などと考え、ハルは振り返ってトンネルへと足を運ぼうとする。

その瞬間。

 

ズドォン!! と。

ハルの行く手をふさぐ形で、炎の弾が地面へと直撃した。

 

「うわっ!?」

「何だ!?」

ハルは揺れに足を崩して尻餅をつき、クリュウたちは慌てて上空を見上げる。

すると、

「あーあー、タイミングが最悪だな、お前。まさか俺たちと目的地が被るとはなぁ」

「貴方はキーストーンを持っている。残念ながら逃すわけにはいかないのですよ」

一組の男女が、それぞれのポケモンに掴まり、空からゆっくりと降りてくる。

純白の修道服を着た女に、赤黒いスーツ風の服を身に纏った男。

「お前たち……!」

どちらもハルが見たことのある者だ。魔神卿ヴィネーに、魔神卿ベリアル。

ヴィネーはシンボラーの念力を受け、ベリアルは三つの頭を持つ黒いドラゴンポケモンの足に掴まっている。

 

『information

 サザンドラ 凶暴ポケモン

 動くもの全てに反応し襲い掛かる。

 雑食性なので獲物が何であろうと

 三つの頭で喰らい尽くしてしまう。』

 

以前ベリアルが連れていたジヘッドの進化系のようだ。

「……何だお前ら。何者だ、ここへ何しに来た」

騒然とするノワキタウンの住民たちを制し、クリュウが先頭に進み出る。

「なるほど、なるほど。貴方がこの町のリーダーのようですね。私はヴィネー、私たちはゴエティアの王に仕える悪魔、魔神卿。ほらベリアルちゃん、貴方も自己紹介なさい?」

「は? 別にどうでもいいだろ。つか俺様をちゃん付けで呼ぶなって前から言ってるだろうが」

魔神卿の二人が地面に着地。敵地にもかかわらず冗談を交えてくすくすと笑うヴィネーに対し、ベリアルはうんざりした様子でそっぽを向く。

「お前たち、この町に何しに来たんだ!」

そんな魔神卿二人に対峙するのは、この二人と面識のあるハル。

「あ? あぁ、今回は完全に俺たち二人の私用だよ」

ハルの言葉に答えたのはベリアルだ。

「この町からキーストーンの反応を見つけたんだが、生憎ヴィネーと同タイミングでな。さてどっちが戴こうかと思ったんだが……せっかくだから二人で競争。負けた方は一本奢るのさ」

「競争……? お前たち、そんな遊び感覚で、人のキーストーンを奪いに来たっていうのか!」

「ハッ、そりゃ当たり前だろ。だって――」

激昂するハルに対し、悪びれる様子もなくベリアルは続ける。

「――俺たちは、悪党だからな」

その言葉と同時に、どこからともなく無数の黒装束の人間たちが現れ、ノワキタウンの住民を取り囲む。

「チッ、噂をすればってところか……ハル、お前はこの町の行く末とは関係ねえ存在だ。上手く隙を見つけて、さっさと逃げろ」

ハルにそれだけ告げると、ハルの返事を待たずにクリュウは振り返る。

「ゼンタ、お前はエースのムクホークをやられてる。イローに連絡して二人で指揮を執り、全員で周りのザコどもを蹴散らせ」

「了解した……だがクリュウ、お前は」

「決まってんだろ」

ゼンタの言葉を遮り、クリュウは続ける。

「こいつらは、俺一人で片付ける」

刹那。

周囲の空気が張り詰める。クリュウの突き刺すような鋭い殺気を、周囲の人間が感じ取った。

そして、

「クリュウさん。僕も戦います」

殺気に触発され、取り出したハルも進み出る。

「この間から、こいつらの悪事には苛立ってるんです。目の前に現れた敵、放っちゃおけません」

「好きにしろ。だが俺にはお前を庇いながら戦う余裕も義理もねえ。何かあっても自己責任だぞ。いいな」

「もちろんです」

恐怖など、怒りでとうに掻き消された。

ボールを手に取り、ハルもクリュウに並び、魔神卿の二人と対峙する。

「ほーお? こいつぁ面白くなってきた。ヴィネー、やるぞ」

「ええ。我らに仇なす愚か者を打ち倒し、キーストーンを手に入れる。楽しい障害物競争の始まりですね」

そしてクリュウの凄まじい殺気を直に受けても、魔神卿の二人は顔色ひとつ変えない。

「競争というからには、ダブルバトルってわけにはいきませんね?」

「確かにな。んじゃお前、好きな方選べよ」

「あら、いいのですか? それじゃ、私はこっちの黒い人を」

「なら、俺はガキの方だな」

対戦カードは決まった。

クリュウの相手は『母なる君』こと魔神卿ヴィネー、ハルの相手は直接戦闘専門の魔神卿ベリアル。

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