魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第86話 暴虐の紅き悪魔

対戦カードが決まると同時に、ノワキタウンに怒号が響く。

ハルたちの周りで、ノワキの住民と黒づくめの者たちの戦いが一斉に幕を開けたのだ。

そして、ハルの相手は、

「俺たちも始めるか……おい、そんな身構えんなよ」

魔神卿の中でも直接戦闘を専門とする男。紅の悪魔、魔神卿ベリアルだ。

「……」

「たしかに俺様は戦闘専門だが、今回は私用だ。それにお前に危害を加えると面倒ないざこざに巻き込まれるからな、お前をぶっ殺してまでキーストーンを奪おうとは思わねえよ。今のところはな」

無言で対峙するハルに対し、ベリアルは手の中でモンスターボールを弄びながら不敵に笑う。

「そんじゃ、まずは……暴火を、ヘルガー!」

ベリアルが繰り出したのは、漆黒の体に悪魔のようなツノと尻尾を持つ猟犬のようなポケモン。

 

『information

 ヘルガー ダークポケモン

 夕暮れ時に目覚め不気味な咆哮を

 上げる。それを聞いたポケモンは

 慌てて自分の巣に逃げ帰るという。』

 

胸には髑髏にも似た装飾が付いており、ダンタリオンのメガゲンガー程ではないがかなり禍々しい。

メガゲンガーが不気味なら、ヘルガーは邪悪といったところか。

「悪と炎タイプか……なら」

タイプ相性的にはワルビルが有利。

そう考え、ワルビルのボールを手に取ったハルだが、

「……ちょ、えっ!?」

突如、ハルのベルトにセットしたボールが開き、勝手にオノンドが出てきてしまう。

「オノンド? どうしたの?」

現れたオノンドはベリアルを睨み、唸り声を上げる。

(あっ、もしかして……)

なんとなくだがハルは感付いた。

そもそも、オノンドが洞窟で暴れていた理由は、ゴエティアの下っ端に縄張りを荒らされたからだ。

ハルがベリアルと対峙し、ボールの中から自分の縄張りを荒らした敵の匂いを感じ取ったのだろう。

「……分かった。オノンド、一緒に戦おう!」

ハルがそう言うと、オノンドは大きく雄叫びを上げる。

「なんだか知らねえが、これ以上は待ってられねえ。こっちから行かせてもらうぜ。ヘルガー、火炎放射!」

ヘルガーが息を吸い、吐息と共に灼熱の業火を吹き出す。他のポケモンの火炎放射と比べて、炎が赤黒い。

「オノンド、躱してドラゴンクローだ!」

炎の勢いは強烈だが、軌道は直線。素早く炎を躱すと、オノンドは腕に青く輝く光の龍爪を纏わせ、ヘルガーへと飛びかかっていく。

「ヘルガー、こっちも回避だ。躱しな」

立て続けに勢いよく龍の爪を振るうオノンドだが、ヘルガーは身軽に次々と躱していき、

「悪の波動!」

一瞬の隙を見計らい、不意に波状の黒い光線を放ち、オノンドを黒い波動の渦に巻き込んで吹き飛ばす。

「そんな単調な連続攻撃当たんねえよ。続けろ! ヘドロ爆弾!」

オノンドへ向けて、ヘルガーはさらに無数の毒液弾の弾幕を放つ。

「オノンド、防御だ! ドラゴンクロー!」

両腕に光の龍爪を纏わせ、腕を交差させてオノンドはヘドロ爆弾を迎え撃つ。

毒液弾が次々と降り注ぎ、龍爪が引き剥がされていくも、オノンドは地に足をつけてしっかりと耐え切り、

「シザークロス!」

即座に地を蹴って突進、ヘルガーとの距離を詰めていく。

「ヘルガー、押し返してやれよ。火炎放射!」

ヘルガーが再び赤黒い炎を吹き出すが、オノンドは跳躍してその炎を躱すと、一気にヘルガーまで接近、二本の牙で瞬時に二度ヘルガーを切り裂いた。

「オノンド、続けて瓦割り!」

体勢を崩すヘルガーに対し、オノンドは叩き割るかのように牙を叩きつける。

だが、

「させねえっつの。炎の牙!」

大きく首を振ってオノンドの牙を躱し、ヘルガーが炎を灯した牙でオノンドに噛み付く。

ヘルガーの牙が突き刺さった途端、爆発が生じ、オノンドが吹き飛ばされた。

「なっ!? オノンド!?」

唸り声を上げながら、オノンドが起き上がる。効果は今ひとつなので大ダメージではないものの、体の一部が黒く焦げてしまっている。

「フフ、どうだい? こいつの炎の牙の威力は。そんじょそこらのポケモンの炎の牙とは一味違うだろう? 効果今ひとつだからって、何度も受けられる威力じゃねえぜ」

ベリアルが薄ら笑いを浮かべ、ヘルガーは対照的に低く唸ってオノンドを睨みつける。

「オノンド、大丈夫……?」

ハルが呼びかけるとオノンドは体の煤を払い、心配するな、と言わんばかりに吼え、ヘルガーを逆に睨み返す。

オノンドと一緒に戦うのは初めてだが、なんとなくオノンドの好みの戦法が分かってきた。

ワルビルと同じくスピードよりもパワー重視の戦い方が得意だが、恐らくワルビルと違って穴を掘るのような搦め手は不得手。ワルビルよりもさらに純粋な攻撃が得意なタイプだろう。

しかし相手のヘルガーはオノンドの火力以上の持ち主だ。真っ向からぶつかるだけでは打ち負けてしまう。

「オノンド、あの牙に気をつけて戦うよ。ドラゴンクロー!」

ハルの言葉を受けてオノンドは吼え、両腕に光の龍爪を構える。

「どっからでもかかって来いよ。ヘルガー、悪の波動!」

勢いよく飛び出すオノンドに対し、ヘルガーが波状の紫黒の光線を放つ。

しかしオノンドは悪の波動を飛び越えつつ一気にヘルガーまで接近、両腕を振るい、龍爪でヘルガーを切り裂いた。

「威力はそこそこか。ヘルガー、離れろ! 火炎放射!」

さらにオノンドが腕を振り上げるが、ヘルガーは素早いバックステップでオノンドから距離を取ると、すぐさま赤黒い灼熱の炎を吐き出す。

「オノンド、躱してシザークロス!」

二本の長い牙を構えてオノンドが駆け出す。

執拗にオノンドを狙ってくる炎を潜り抜け、ヘルガーに切りかかるが、

「当たるかよ。炎の牙!」

今度は難なく回避されてしまい、その直後、炎を灯したヘルガーの牙がオノンドを捉える。

刺さった牙は爆発を起こしてオノンドを吹き飛ばし、さらに、

「悪の波動!」

ヘルガーが波状の黒い光線でさらに追撃を仕掛ける。

体勢を崩すオノンドはさらに黒い波動の波に巻き込まれ、ハルの元まで押し戻されてしまう。

「つ、強い……! オノンド、大丈夫?」

それでもまだオノンドはなんとか起き上がり、苛立ちを込めて低く唸る。

「ほーお、まだ立ち上がるのか……いいねぇ、潰し甲斐があるってもんだ! さあ、かかって来いよ! まだまだそんなもんじゃねえんだろう?」

「くそっ……上等だよ! オノンド、瓦割り!」

立ち上がったオノンドは、勢いよくヘルガーへと突っ込んでいく。

一気にヘルガーとの距離を詰め、飛びかかって硬い牙をヘルガーへと叩きつける。

しかし。

「そう来ると思ったぜ。ヘルガー、火炎放射!」

ヘルガーが赤黒い灼熱の業火を吹き出し、突っ込んできたオノンドを逆に炎の中に飲み込んだ。

炎の勢いに押し負け、オノンドは逆に吹き飛ばされてしまう。

ドサリと地面に落ち、体を黒く焦がしたオノンドはそのまま戦闘不能となってしまった。

「くっ……オノンド、よく頑張ったね。ゆっくり休んでて」

ハルはオノンドの体の煤を払い、ボールへと戻す。残念ながら、オノンドのゴエティアへのリベンジは叶わなかった。

「おい。お前のオノンドがどうして負けたか分かるか?」

そんなハルとオノンドの様子を見て、ベリアルが嗤う。

「お前のオノンドの技は全て接触技だ。俺のヘルガーみたいな特殊技主体の相手には正面切って突っ掛かって来ねえとまともに攻撃すら出来ねえってこった。つまり、俺様はお前を挑発して攻撃させて、あとは待ってるだけで勝てるんだよ」

ハルに対して自ら種明かしをするのは、ベリアルの余裕の表れだろう。メルヘルとは違う、ネタばらしをしたところで負けるわけがないという自信あってのものだ。

しかし、ハルとしてもこのまま負けるわけにはいかない。

「……だったら、次は君の番だ。ワルビル、出てきて!」

ハルが二番手に選んだのは、最初に出すはずだったワルビル。地面タイプなので相性はいいが、

「また血の気の多そうなやつが来たが……おいおい、俺の話聞いてたのか? そいつも接触技主体のポケモンだろ」

「それは、どうかな。やってみなきゃ分かんないよ」

そうハルは返すが、実際のところワルビルも接近戦を得意とするタイプであることは間違いない。

しかしオノンドと違い、ワルビルはある程度の搦め手も交えて戦うことができる。少なくとも、同じミスは繰り返さない。

「ま、俺からすりゃ別にいいんだがよ。それじゃ行くぜ。ヘルガー、火炎放射!」

再びヘルガーが先手で動き出す。大きく息を吸い、吐息と共に赤黒い灼熱の炎を吹き出す。

「ワルビル、穴を掘る!」

対するワルビルは素早く地面に穴を掘り、地中に身を潜める。

オノンドとは違い、ワルビルには確実に相手との距離を詰める技があるのだ。

「ケッ、面倒な手を……だがまぁ、想定の範囲内だ。ヘルガー、爆破しろ! 炎の牙!」

悪態をつきながらも、ベリアルの指示は早かった。

ヘルガーが頭を下げ、炎を灯した牙を地面へと突き刺す。

次の瞬間、牙が刺さった地面が爆発し、ヘルガーを中心として周囲を纏めて吹き飛ばした。

しかし、

「……あ?」

ベリアルが怪訝な表情を浮かべる。

周囲の地面を纏めて吹き飛ばしたはずが、ワルビルがどこにもいないからだ。

そして。

「今だワルビル! 行けっ!」

直後、ヘルガーの真下、足元からワルビルが強襲し、ヘルガーを殴り飛ばした。

「よし、思った通りだ! ワルビル、チャンスだよ! 噛み砕く!」

全方位を爆破し吹き飛ばしたヘルガーの炎の牙だが、実は死角が存在する。

その位置は、ヘルガーの真下。周囲を吹き飛ばすとはいえ、自分の足場まで吹き飛ばしてしまっては自身がダメージを受けてしまう。

だからそれを逆手に取り、ワルビルは素早くヘルガーの真下まで移動したのだ。

そして体勢を崩すヘルガーを狙い、ワルビルが自慢の大顎を開いて襲い掛かる。

顎の力だけでヘルガーを持ち上げて頑丈な牙を食い込ませ、締めに思い切り首を振るってヘルガーを投げ飛ばし、地面に叩きつけた。

「おいおい、楽しませてくれるじゃねえか! ヘルガー、悪の波動!」

だがそれでもヘルガーは倒れず、薄ら笑いを浮かべるベリアルとは反対に怒りの形相を浮かべ、波状の黒い光線を撃ち出してワルビルを押し戻す。

「今度こそ近づけさせねえぜ。ヘルガー、火炎放射!」

「来るよ! ワルビル、躱して!」

ヘルガーが放つ赤黒い業火を、ワルビルは身を捻って躱していく。

だが際限なく繰り出される炎についに動きを捕捉され、ワルビルが炎を浴びて吹き飛ばされる。

「逃がさねえ! ヘルガー、炎の牙だ!」

牙を紅蓮に滾らせ、血走った目を見開き。

獲物を仕留める獣のように、ヘルガーが体勢を崩すワルビルへと飛び掛かる。

「っ……そうだ! ワルビル、シャドークロー! ヘルガーの口を掴むんだ!」

一瞬の判断。

ワルビルが右手に黒い影を纏わせ、影の爪でヘルガーの口を掴み、その口を塞いだ。

ヒザカリタウンでのジム戦で、当時のイーブイがブーバーに対して使った戦法だ。

ヘルガーの牙を纏う炎の力は、口を塞がれたことによって力の行き場を無くしてしまう。

その結果。

「なにっ……!?」

口内で爆発が生じ、ヘルガーが大きく吹き飛ばされた。

「今だワルビル! 噛み砕く!」

吹き飛んだヘルガーを追い、ワルビルは大顎を開いてヘルガーへと襲い掛かる。

ヘルガーに頑丈な牙を食い込ませ、そのまま大きく首を振ってワルビルを投げ飛ばし、ヘルガーを地面へと叩きつけた。

「っ、ヘルガー? やられたのか?」

ベリアルの言葉に、ヘルガーは答えなかった。

地面へ叩き落とされたヘルガーは、目を回し、戦闘不能となって倒れていたからだ。

「……マジか。俺様のヘルガーを倒すたぁ、なかなかやるじゃねーか。ヘルガー、休んでろよ」

ハルを賞賛し、ヘルガーをボールへ戻したベリアルは、いくつかのボールを取り出し、それらを眺める。

「さてっと、次は誰で行くかねぇ。押し潰しちまってもいいが、それは任務の時にいつでも出来るし……たまには戦闘を楽しむか」

やがて二番手が決まったらしく、不敵な笑みを浮かべ、ベリアルは手の中のボールの一つを手に取る。

「撃砕を、ドリュウズ!」

現れたのはモグラのようなポケモン。その頭部と両腕は、鋼の鎧で武装されている。

 

『information

 ドリュウズ 地底ポケモン

 地中100メートルに迷路のような

 巣穴を作る。使わなくなった巣穴は

 洞穴として他のポケモンが住み着く。』

 

鋼と地面タイプのポケモン、ドリュウズ。

先程のヘルガーよりも小柄なポケモンであり、背丈もハルやワルビルより低い。

しかし、

(あの鋼のツノに爪。体格は小さいけど、かなりの手練れだな)

かなり使い込んでいるのであろう、傷だらけだが切れ味のよさそうな爪。見ただけで、その実力の高さが分かってしまう。そもそも、魔神卿の中でも戦闘専門を名乗る男のポケモンが弱いわけがない。

「ワルビル。あいつ、小さいけどかなりの強敵だよ。気をつけて」

ハルの言葉を受けてワルビルは頷き、ドリュウズを睨む。

対するドリュウズはといえば特に声を上げることもなく、じっとワルビルを見据えている。

「さて、今度は先手はやらねえぞ。こっちから向かわせてもらう。アイアンヘッド!」

ベリアルの指示で、ドリュウズが動き出す。武装した鋼のツノを突き出し、地を蹴って飛び出す。

「来るよワルビル! 穴を掘る!」

猛スピードで距離を詰めてくるドリュウズに対し、ワルビルは素早く穴を掘って地中に潜り、身を隠す。

だが。

「っはは! 笑わせんなよ、それで隠れたつもりか? ドリルライナー!」

鋼のツノを構えたまま、ドリュウズは両腕をツノと合わせて高速回転、ドリルのように地中へと突っ込んでいく。

大地を穿ち、掘り進み、地中に潜んでいたワルビルに激突。回転に巻き込み、そのまま地上へと押し出した。

「なっ!?」

「俺様のドリュウズに地中から攻撃なんざ、百年早えんだよ。さて、シザークロスだ!」

口の端を吊り上げてベリアルが笑い、ドリュウズは両腕を広げて跳躍。

両腕をXの字に振り抜き、体勢を崩すワルビルを斬り払った。

「ワルビル……っ!」

ドリュウズが構えを解いて振り返った、次の瞬間。

ドサリ、と。

ワルビルの体が、力なく地面に崩れ落ちた。

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