「ではこれより、シュンインジムのジムバトルを行います」
花屋の従業員の人々と思わしき眼鏡の男性が、審判としてルール説明を告げる。
「使用可能ポケモンはお互いに二体。戦闘不能以外でのポケモン交代は挑戦者のみ認められ、先に相手のポケモンを二体とも戦闘不能にした側の勝利となります」
一般的なジム戦のレギュレーションだ。いわいよ、シュンインシティのジム戦が始まる。
「それでは両者、最初のポケモンを……」
「あ、オンコさん、お待ちになって」
と、そこでイチイが審判の男性を呼び止める。
「ハル君は最初のジム戦ということですし、先に私から参りますわ。よろしいですわよね?」
「まぁ……イチイさんがそれでよいのなら、構いませんが」
「では、そういうことでお願いしますわ」
再びハルの方へと向き直り、笑みを浮かべてボールを取り出す。
「さあ、まずはこの子から。綺麗な花を咲かせて、スボミー!」
イチイの初手となるポケモンは、可愛らしい顔をした緑色の植物の種のようなポケモン。頭の上には大きな蕾を持つ。
『information
スボミー 蕾ポケモン
温度の変化に敏感なポケモン。寒い時
はじっとしているが暖かくなると蕾
を開いて毒素を含んだ花粉を飛ばす。』
「スボミー、草タイプのポケモンか。草タイプには……」
タイプ相性の知識を引っ張り出し、ハルもボールを取り出す。
「それじゃあ、出てきて、ヤヤコマ!」
ハルの一番手はヤヤコマだ。草タイプに有利な飛行タイプを持つ上、炎技も覚えている。
「なるほど。まずはセオリー通り、有利なタイプのポケモンで来ましたわね」
両者のポケモンが出揃い、準備は整った。
「それでは、ジムリーダー・イチイと、チャレンジャー・ハルのジム戦、開始です!」
審判オンコの掛け声と共に、両者が動き出す。
「さあ、行きますわよ! スボミー、葉っぱカッター!」
スボミーの周囲に鋭い葉が浮かび上がる。ヤヤコマに狙いを定めると、無数の葉が一斉に発射される。
「ヤヤコマ、躱して電光石火!」
翼を広げたヤヤコマは大きく飛翔して葉を躱すと、上空から猛スピードで突撃。
回避する間も与えず、スボミーを突き飛ばした。
「よし、ヤヤコマ、エアカッター!」
続いてヤヤコマは翼を羽ばたかせ、空気の刃を飛ばす。
「なかなか素早いですわね。スボミー、スピードスター!」
スボミーもすぐに起き上がると、蕾を開いて無数の星型の弾を飛ばす。
ヤヤコマの放った空気の刃を、スピードスターで防いだ。
「それならヤヤコマ、疾風突き!」
嘴を突き出し、再びヤヤコマが突っ込んでいく。
一気にスボミーに近づいて嘴で突き、反撃が来る前に素早く飛び去る。
「いいぞヤヤコマ! 続けて火の粉だ!」
距離を取ったヤヤコマはさらに嘴を開き、無数の火の粉を放つ。
対して、
「やはり、スピードが自慢のポケモンのようですわね。ですが」
イチイが笑みを見せると同時に、スボミーが起き上がり、再び蕾を開く。
「スボミー、ポイズンボール!」
ぴょんとスボミーは跳躍し、火の粉を躱す。
開いた蕾の間に毒素を固めた弾を作り上げ、蕾を手のように使ってその紫色の弾を投げつけた。
空中でも正確に狙いを定めて投げられた毒の弾は、吸い込まれるようにヤヤコマに直撃した。
「しまった、ヤヤコマ!」
弾が破裂し、紫の煙がヤヤコマを覆う。
とはいえ煙はすぐに霧散してしまい、ヤヤコマにも大きなダメージが入ったようには見えない。
だが、
「……ヤヤコマ、どうしたの?」
明らかにヤヤコマの様子がおかしい。
表情に苦悶が浮かび、飛び方も先ほどまでと比べて少しぎこちない。
「この状態は……確か……毒状態?」
「その通り。そのヤヤコマは、毒の状態異常を受けたのですわ」
毒。
ポケモンの技によって起こる、状態異常の一つだ。
「ポイズンボールは威力こそ高くないものの、高確率で相手に毒を付与する技。毒状態となったポケモンは、何もしていなくても少しずつ体力を削られ、やがては戦闘不能となってしまいますわよ」
ポケモンの行動そのものに直接影響を及ぼすわけではないが、それでもヤヤコマは苦しそうだ。長期戦にはできない。
「スボミーは進化していくと、美しい薔薇の花を咲かせるポケモンになりますの。ですが知っているかしら? 綺麗な薔薇には、棘がありますのよ」
それでは、とイチイは続け、
「スボミー、スピードスター!」
再び蕾を開いたスボミーが、無数の星型弾を飛ばす。
「あっ、ヤヤコマ、躱して!」
慌てて指示を出すハル。ヤヤコマも毒を堪え、スピードスターを躱そうとする。するのだが、
「……えっ?」
撃ち出された無数の星型弾はヤヤコマを追尾するように軌道を描き、旋回するヤヤコマを正確に捉えた。
「スピードスターは、いわゆる必中技。相手がバトルフィールドにいる限り、必ず相手に当たる。回避したければ地中や高高度まで逃れるか、技を当てて打ち消すしかありませんわよ」
何となくハルには分かってきた。
毒でじわじわとダメージを与えつつ、主力となる葉っぱカッターや必中技のスピードスターで攻撃を当てる。少しずつでも確実に相手の体力を削っていくのが、このスボミーの戦術だ。
「さあ、まだまだ参りますわよ? スボミー、葉っぱカッター!」
スボミーが周囲に鋭い葉を浮かべ、飛行体勢を崩して高度を落とすヤヤコマを狙う。
「っ、ヤヤコマ! 火の粉だ!」
何とかヤヤコマは顔を上げて火の粉を吹き出す。
無数の葉の刃は火に焼かれて消えてしまい、その隙にヤヤコマは翼を羽ばたかせ、再び浮上する。
「ヤヤコマ、エアカッター!」
「スボミー、打ち消しなさい。スピードスター!」
ヤヤコマが翼の羽ばたきを強めて風の刃を放つ。
しかしスボミーの放つスピードスターに防がれ、風の刃が相殺されてしまう。
「正面からの単調な攻撃では、スボミーには届きませんわよ。さあ、どうします?」
技が打ち消されるだけならまだいいのだが、
(っ、どうしよう……このまま技と技をぶつけ合っていても、ヤヤコマは毒でやられてしまう。何とか、この状況を変えないと)
探す。
何かヒントはあるはずだ。思い出せ、ここまでのバトルを。
(何か、スボミーの弱点があるはず。そこを突くことができれば……!)
「スボミー、葉っぱカッター!」
攻撃体勢に入るスボミーが、周囲に尖った葉を浮かべる。
その瞬間。
(……そうだ!)
ここで、ハルは閃く。
「ヤヤコマ、躱して電光石火!」
スボミーが葉の刃を放った直後、ヤヤコマは急降下して葉っぱカッターを躱し、低空飛行で突撃。
「スボミー、躱して! ジャンプよ!」
慌ててスボミーが避けようとするが、攻撃直後の後隙を狙われたためにすぐには動き出せず、ヤヤコマの高速の体当たりを受けてスボミーは突き飛ばされた。
「やった! ヤヤコマ、疾風突き!」
毒の苦痛を堪え、ヤヤコマは嘴を突き出し、飛んでいったスボミーをさらに追う。
「……スボミー、日本晴れ」
ヤヤコマの突撃を躱す間もなく、スボミーは鋭い嘴の一撃を諸に受ける。
どうにか着地するものの二、三歩とよろめき、そのまま転んで目を回し、スボミーは地面に倒れた。
「スボミー、戦闘不能! ヤヤコマの勝利です」
先に一本目を先取したのは、ハルだ。
「……やった! ヤヤコマ、頑張ったね!」
喜ぶハルに呼応して、ヤヤコマも甲高く鳴き声を上げる。
「スボミー、お疲れ様でした。ゆっくり休んでいてくださいな」
イチイはその場に屈んでスボミーを労い、ボールへと戻し、再び立ち上がる。
「なかなかやりますわね。先手を取られてしまうなんて」
「序盤にスボミーが電光石火を躱さなかったのを思い出したんです。だからもしかしたらスボミーは結構遅いポケモンなんじゃないかと思って、攻撃直後を狙いました」
「なるほど。スボミーの弱点を正確に見抜いたその観察眼、さすがですわね」
ハルの言葉にイチイは頷き、賞賛したその上で、
「ですが、スボミーはちゃんと仕事をしてくれましたわ。ヤヤコマに毒を浴びせ、体力を大きく削ってくれた。さらに」
イチイが天井を指差す。
ハルがそれを見上げると、いつの間にか上空に先ほどまではなかったはずの炎の球体が浮かび上がり、周囲を照らしている。
「気付いているでしょうか。スボミーが最後に使った技、日本晴れ。最後にこれを使えましたから、次のポケモンへのバトンはしっかりと繋がりましたわ」
ハルはまだあまりポケモンバトルに詳しくないため、上空の火の玉が何なのかはまだ分かっていない。
そんなハルの様子を見つつ、イチイは次のボールを取り出す。
「次はこの子が相手ですわ。綺麗な花を咲かせて、チェリム!」
イチイが構えたボールから現れるは、開いた桜の花びらのようなポケモン。
『information
チェリム 桜ポケモン
暖かい日差しが一番のエネルギー。
花びらを広げ全身で日光を浴びると
活発に活動できるようになるのだ。』
「チェリム、やっぱり草タイプか。しかも進化系ポケモンだ」
スグリの使っていたブイゼルと大きさは同じくらいだが、立派な進化系ポケモン。強敵であるのは間違いないだろう。
「でもヤヤコマなら、タイプ相性は有利だ。ヤヤコマ、まだ戦える?」
毒を浴びているため心配だが、ヤヤコマはハルの言葉に頷いて鋭い目でチェリムを睨みつける。戦意は充分だ。
「わかった。頑張るよ! ヤヤコマ、疾風突き!」
翼を広げたヤヤコマが嘴を突き出し、チェリムへと猛スピードで突撃する。
しかし、
「チェリム、躱してマジカルリーフ!」
踊るような身軽なステップでチェリムはヤヤコマの突撃を躱し、周囲に光を纏った無数の木の葉を浮かべる。
チェリムが腕を振るのを合図に、木の葉がヤヤコマを狙って動く。
「ヤヤコマ、躱して電光石火だ!」
攻撃を外したヤヤコマはすぐさま旋回し、木の葉を躱して再び攻撃を仕掛けようとする。
だが輝く木の葉は先ほどのスピードスターのように軌道を変えてヤヤコマを追跡し、確実にヤヤコマを切り裂く。
「なっ……!? ヤヤコマっ!」
葉に切り裂かれたヤヤコマが地に落ちる。草技なので効果は今一つなのだが、毒のダメージも重なって戦闘不能となってしまった。
「うぅ……ヤヤコマ、ありがとうね」
健闘したヤヤコマの嘴を撫でてボールへと戻し、ハルはイチイの方へと向き直る。
「もしかして、今のマジカルリーフも……」
「察しがいいですわね。その通り、マジカルリーフも必中技の一つですわ」
結局、さしたるダメージも与えられずにヤヤコマは倒されてしまった。これでハルのポケモンも残り一体だ。
「さあ、君の出番だ。一緒に頑張ろう、リオル!」
ハルの最後のポケモンはもちろんリオル。チェリムに対しては、タイプ相性の有利不利はない。
「おや、リオルですか。珍しいポケモンを連れていますわね」
「はい。僕の一番最初のポケモンなんです」
リオルを珍しそうに眺めるイチイだが、これからリオルとチェリムのバトル。
これを制した方が、このジム戦の勝者となる。
「それでは、リオル対チェリム、試合再開です!」