魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第87話 救済の白き悪魔

「さて、私たちも始めましょうか」

ノワキタウンの主クリュウの相手は、純白の悪魔、魔神卿ヴィネーだ。

「それでは。撃滅の時です、シンボラー」

ヴィネーがそう告げると、背後に控えていた異形の鳥もどきポケモン、シンボラーが進み出る。

「アブソル、片付けろ」

対するメイゲツが繰り出したのは、額に黒い鎌を持つ白毛の獣ポケモン、悪タイプのアブソル。

「ふむふむ、エスパータイプのシンボラーに対して悪タイプのアブソル。まずはセオリー通りにといったところでしょうか」

ヴィネーの笑みは一見すると柔和だが、しかしその目には隠しきれない悪意を孕んでいる。

「黙ってろ。先手なんかやらねえぞ、一発目で吹き飛ばす。アブソル、イビルスラッシュ!」

クリュウの指示を受け、アブソルが動き出す。

地を蹴って駆け出し、額の黒い鎌をシンボラーへと振りかざす。

「対策は完備しています。シンボラー、シルフウィンド」

対するシンボラーが細い翼を羽ばたかせ、白く煌めく光を乗せた突風を放つ。

一直線に攻めるアブソルだったが、風の勢いに押され、押し戻されてしまう。

「ふふふ。シンボラー、もう一度です」

一度目の風でアブソルを押し切り、さらにシンボラーはもう一度突風を吹かせる。

「フン、フェアリー技か……ならばアブソル、十万ボルトだ!」

風の流れを察知し、アブソルは煌めく風を素早く回避、さらにすかさず高電圧の強烈な電撃を放って反撃を仕掛ける。

「おや。シンボラー、大丈夫ですか?」

素早い反撃がシンボラーに直撃するが、魔神卿のポケモンはその程度では倒れない。シンボラーは体勢を整え、機械のような無機質な鳴き声を上げる。

「よしよし、偉いですよ。ではシンボラー、お次はシグナルビームを」

シンボラーの胴体の目らしき模様が点滅し、激しい光を放つ光線が発射される。

「フェアリー技に虫技か。悪タイプへの敵意が高いようだが……アブソル、躱せ! イビルスラッシュ!」

光線を身軽に躱し、アブソルは地を蹴って駆け出す。

一気にシンボラーとの距離を詰め、額の鎌を振るって今度こそシンボラーを切り裂いた。

「シンボラー、シルフウィンド」

だが効果抜群の一撃を受けたというのに、シンボラーの反撃は非常に早い。

翼を羽ばたかせて煌めく風を吹き付け、アブソルを風に巻き込み、クリュウの元まで押し返してしまう。

「次はこうです。シンボラー、冷凍ビーム!」

続けてシンボラーは不気味な単眼から白い冷気の光線を放射する。

「アブソル、火炎放射!」

対するアブソルはシンボラーの放つ冷気の光線を跳躍して回避、さらに上空から灼熱の炎を吹き出す。

「シンボラー、上です。サイコキネシス」

上空を見上げたシンボラーが念力を操作し、サイコパワーを放出する。

作り上げた念力の壁で炎を挟み込み、強引に炎を掻き消してしまい、さらに、

「っ、アブソル?」

着地したアブソルの体勢が、急に大きく崩れた。

慌ててクリュウがその足元を見ると、先程の冷凍ビームによりアブソルの足元の一帯が氷漬けになっていた。

「ふふふ、気づいていませんでしたね? シンボラー、シグナルビームです」

待ってましたとばかりにシンボラーが激しい光を放つビームを発射。

凍った地面の上では踏ん張ることも躱すこともできず、アブソルは光線の直撃を受けて吹き飛ばされてしまう。

「さらに、冷凍ビーム」

「チッ、アブソル、溶かせ! 火炎放射!」

宙を舞うアブソルを狙い、シンボラーはさらに冷気を凝縮した光線を放って追撃を仕掛ける。

対して、アブソルが瞳を見開く。

その瞳に一瞬だけ赤い光を宿し、咆哮とともに灼熱の業火を放ち、冷気を打ち消す。

「シンボラー、食い止めなさい。サイコキネシス」

冷凍ビームを溶かされ、咄嗟にシンボラーは強い念力を操作し、サイコパワーの壁を使って炎を食い止める。

「裂け。アブソル、イビルスラッシュ!」

シンボラーが炎と競り合う中、その自ら放った炎の中にアブソルは突っ込む。

悪タイプのアブソルにはサイコキネシスは効かない。炎を潜り抜け、念力の壁を突破し、額の黒い鎌を振り下ろす。

「おっと……シンボラー、離れなさい」

「逃すかよ! 冷凍ビーム!」

慌てて後ろへ下がるシンボラーだが、斬撃を外したアブソルはすかさず冷気の光線を発射。

横薙ぎに振るった氷のレーザーが、まるで切り裂くようにシンボラーを捉え、その身に一直線に氷の傷痕を残す。

「なかなかやるようで……扱いやすい三タイプの大技に加えて、主力の悪タイプの技。一筋縄ではいかないようですね」

「あまり俺を甘く見てくれるなよ、悪党かぶれの三下が。悪党っていうのはな、カタギの人間には手を出さねえんだよ」

そう吐き捨て、クリュウは冷たい瞳でヴィネーを睨むが、

「はい? 何が言いたいのです?」

それに対して嘲るような笑みを浮かべ、ヴィネーはそう返す。

「悪党はカタギには手を出さない、と? それはつまり、まさかとは思いますが……貴方、自分たちのことをカタギの人間だと言い張るつもりですか?」

「っ……お前……」

「このノワキタウンについては私も調べてきています。自分たちだけのコミュニティを形成し、何らかの理由で余所者を拒絶、時には乱暴な手を使って排除する。まさか、そんな人間たちがカタギの人間であると、そう主張するつもりではありませんよね? 善人かぶれの三下さん?」

怒りに歯噛みするクリュウを見てなお、ヴィネーは蔑むようにせせら嗤う。

「……容赦しねえぞ」

「どうぞご自由に?」

憤怒と嘲笑。

双方の感情に押され、互いのポケモンが再び動き出す。

「アブソル、十万ボルト!」

「シンボラー、シルフウィンド」

大きく叫んだアブソルの額の鎌から、高電圧の強力な電撃が放たれる。

対するシンボラーはふわりと舞い上がって電撃を躱すと、翼を羽ばたかせて白く煌めく突風を起こす。

「打ち破れ! 火炎放射!」

クリュウの怒りに呼応し、その瞳を燃える憤怒の赤に染め、アブソルが荒れ狂う爆炎を吹き出す。

灼熱の爆炎が白い突風を吹き飛ばし、シンボラーを炎に呑み込む。

「刈り取れ! イビルスラッシュ!」

すぐさまアブソルが地を蹴って飛び出す。

体を焼き焦がし苦しむシンボラーの脇を一瞬で駆け抜け、すれ違いざまに額の黒鎌を振り抜く。

死神の鎌が命を刈り取るが如く、シンボラーがその場に崩れ落ちた。

「おや、シンボラー?」

ヴィネーが首を傾げる。シンボラーが戦闘不能であることは、誰の目にも明らかだった。

「おやおや、やられてしまいましたか。シンボラー、お疲れ様でした。休んでいなさい」

特に焦る様子も見せず、ヴィネーはシンボラーをボールへと戻す。

「まさか先手を取られてしまうとは。所詮ゴミ捨て場の住民、シンボラー一匹でも充分だろうと思っていましたが、少しはやるみたいですね。他のポケモンも連れてきてよかったです」

「は? 舐めんなよ。俺様はこのノワキタウンのリーダーだ。カタギの人間には手ぇ出さねえが、俺たちから何か奪おうってんなら容赦しねえ。出て行ってもらうぜ、この場所から、もしくは、この世からな」

凄むクリュウだが、

「……ふふっ」

そこで、確かに聞いた。

ヴィネーの笑い声を。笑いを堪えきれず、思わず吹き出してしまったような、そんな声を。

「……残念ですが」

嘲るような半笑いで、ヴィネーは続ける。

「その程度では足りないんですよ。たかが無法地帯のリーダー如きではね……到底我々ゴエティアには届かない」

不気味な笑い声と共に、ヴィネーは第二のモンスターボールを取り出す。

「それを今から教えて差し上げますよ。断罪の時です、キリキザン」

ヴィネーの二番手となるポケモンが姿を現す。

赤い鋼の鎧に身を包み、無数の刃物を体に纏ったポケモンだ。

「キリキザンか、攻撃の高い厄介なポケモンだが……鋼タイプなら好都合だ。焼き尽くす! アブソル、火炎放射!」

キリキザンを睨むその瞳を赤く染め、アブソルが灼熱の業火を放つ。

瞬く間に炎はキリキザンに纏わりつき、その鋼の体をじりじりと焼き焦がしていく。

だが。

 

「キリキザン、メタルバーストです」

 

刹那。

炎の中からアブソルへ向け、銀色の光が放出される。

回避する間も無く、無数の銀色の光弾がアブソルへと降り注ぎ、貫いていく。

「アブソル!? っ、メタルバーストだと……!」

「おや、ご存知でしたか。では説明は不要ということで」

メタルバーストは物理・特殊を問わず、受けた技のダメージを鋼エネルギーに変え、より大きなダメージを相手に与える、カウンター技の一種。

鋼タイプを持つキリキザンには炎技は効果抜群、つまり、アブソルはそれをさらに上回る大ダメージを受け、そのまま戦闘不能にまで追い込まれてしまった。

「……チッ、アブソル、戻りな」

アブソルをボールに戻すと、すぐさまクリュウは次のボールを手に取る。

「こういう奴が相手なら、お前の出番だ。ドラピオン!」

クリュウの二番手は巨大な紫色の蠍のようなポケモンだ。手や尻尾の先には、頑丈な爪が生えている。

「ほうほう、次はドラピオンですか。頑強な体で防御力に優れるポケモンですが、毒技が効かない分こちらにも余裕がありますね」

それに、とヴィネーは続け、

「私のキリキザンにはメタルバーストもある。これを打ち破らない限り、貴方に勝ち目は――」

「うるせえ、こいつを喰らいやがれ! ドラピオン、ミサイル針!」

ヴィネーの言葉を遮り、クリュウの指示を受けたドラピオンが両腕を構える。

鋏が白く輝き、無数の白い棘を模したエネルギー弾がミサイルのように一斉に飛び出す。

「ではキリキザン、メタルバースト」

次々と白い棘がキリキザンを突き刺すが、痛がる様子もなくキリキザンは反撃の銀の光弾を放ち、ドラピオンを貫く。

しかし、

「おや……?」

ヴィネーが首を傾げる。メタルバーストを浴びたはずのドラピオンもまた、まるで表情を変えないからだ。

「残念だったな、こいつには効かない。ミサイル針は無数の棘の弾を打ち込む技だが、一発一発の威力は低いからな。お前がいくら反射しようと、跳ね返せるダメージは針の一発分だけ。痛くも痒くもねえんだよ」

「なるほどなるほど……そんなところだろうとは思っていましたが。しかしそうなれば、こちらも攻撃パターンを入れ替えるだけ。大した脅威ではありませんね」

クリュウと彼の二番手、ドラピオンに対し、ヴィネーは相も変わらず不敵な笑みを浮かべ、

「それでは、こちらから動きましょうか。ヘビーブレード!」

ここまで待ち一辺倒だったキリキザンが、自ら動き出す。

「ドラピオン、受け止めろ! ポイズンクロー!」

腕に備えた刃を思い切り振り下ろすキリキザンに対し、ドラピオンは頑丈な両腕の爪でキリキザンの襲撃をガッチリと受け止める。

「投げ飛ばせ、ミサイル針だ!」

鍔迫り合いのさなか、ドラピオンが腕を大きく振るい、力尽くでキリキザンを投げ飛ばす。

体勢を崩すキリキザンに向け、無数の針が襲い掛かるが、

「弾いてしまいなさい。ヘビーブレード!」

立ち上がったキリキザンが右腕を力一杯振り抜く。

刹那、キリキザンの前方に鋼の衝撃波が生じ、飛来するミサイル針を薙ぎ払ってしまう。

残った僅かな針は刺さってしまうが、

「この程度なら痛くもありません。キリキザン、辻斬りです」

「ドラピオン、こっちも辻斬りだ!」

キリキザンが飛び出し、ドラピオンはどっしりと構えてそれを迎え撃ち、互いの刃が激突。

再び、両者が火花を散らして激しくせめぎ合う。




《シルフウィンド》
タイプ:フェアリー
威力:80
特殊
白く煌めく光を乗せた突風を吹かせる。一定の確率で相手に光が纏わりつき、回避率を下げる。

※威力はあくまでも目安です。

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