魔神卿二人組のノワキタウン襲撃事件、その次の日。
「ファイアロー、上空から旋回して、ニトロチャージ! ワルビルはファイアローに合わせて、燕返し!」
ポケモンセンターの地下交流場(当然ハルの貸切状態。誰も使っていなかったようで少し埃を被っている)で、ハルはポケモンたちの特訓をしていた。
ファイアローが空中を飛び回ってワルビルを撹乱し、炎を纏って飛びかかる。
対するワルビルは素早くファイアローの気配を察知し、剣を振り抜くが如く腕を振るい、ファイアローの一撃を受け止めた。
「よし! いいぞ、ワルビル!」
ワダンから教わった、ワルビルの受けのバトルスタイル。
ハルの手持ちの中でダントツのスピードを誇るファイアローに対しての反応も安定してきたが、ハルにはまだ気がかりなことがある。
(動きはかなり良くなってきたと思うんだけど……問題は実戦で活かせないとダメってことなんだよね)
ワルビルが実戦で活かせていない、というわけではない。
ワダンとの特訓の後に戦った相手といえばダンタリオンやベリアル。魔神卿たちのポケモンは攻撃力が高すぎて、今のワルビルでは“一発受けて戦う”が通用する相手ではなかった。
(ゲンガーやヘルガーとのバトルでは活かせてあげられなかったからな……今回のジム戦こそは活躍させてあげたいな)
そろそろ、実際のバトルで特訓の成果を上げさせてやりたい。
そんな時、
「おっはー。朝から頑張ってるね、ハル」
声を掛けられる。一階からイローが降りてきていた。
「イローさん、おはようございます!」
「やほ。クリュウとのジム戦に向けて、訓練中かな? 調子はどーよ?」
「はい、いい感じですよ。後は僕が皆の力を引き出してあげることができれば、きっと勝てるはずです」
ハルが自信満々にそう返すと、イローはにんまりと笑い、
「おー? それは楽しみ。何しろ町中で噂になってるかんね、クリュウがジム戦をやるって。ジム戦の時は見物客だらけになると思うけど、緊張しちゃダメよん?」
「え……そうなんですか」
どちらかと言えば緊張に弱い方のハルは途端に不安感に襲われる。まぁジム戦が始まれば、そんな不安などすぐに掻き消えてしまうだろうが。
そんな様子のハルを見てイローは悪戯っぽく笑い、
「そんじゃ、急に弱気な顔になっちゃったハルに、あーしが一つだけお役立ち情報を教えてあげよう。クリュウは悪タイプのエキスパート。作戦を考える時に、参考にするがよいぞ☆」
悪タイプが相手となれば、ルカリオが有利に戦える。
「なるほど……ありがとうございます」
「どいたま。それじゃ、頑張んなよ。ジム戦の日にはあーしも応援に行ったげるからね。どっちの応援をするかはまだ決めてないケド」
再び冗談めかして笑い、イローは手を振ってポケモンセンターの一階へ戻っていった。
「悪タイプが相手か……よし。皆、出てきて!」
ワルビルとファイアローを呼び、残りの三匹をボールから出す。
「皆、作戦会議だよ。クリュウさんは悪タイプの使い手らしい。だからまず……五対五でもない限り、エーフィは今回はお休みかな。ごめんね」
予想はできていたのか、特に否定的な声を上げることもなくエーフィは頷く。
一応悪タイプに有利なマジカルシャインを覚えてはいるものの、主力のエスパー技が効かない以上、無理に選出する理由はない。
「となると、残りはルカリオ、ファイアロー、ワルビル、オノンドだ。五個目のバッジを賭けたカタカゲジム戦が四対四だったから、今回も恐らく四対四以上。それを想定するなら、このメンバーでそのままジム戦に挑む形になる」
明確に有利なのは格闘タイプを持つルカリオ。あとはシザークロスを使えるオノンドも一応有効打がある。
そこで。
ハルの頭に、一つの作戦が思い浮かぶ。
「皆、ちょっといいかな。対クリュウさんに当たって、面白い考えが思い浮かんだんだ。いつもとちょっと違う戦い方になるんだけど……」
ハルの言葉を聞いて、ポケモンたちが向き直る。
ファイアローは首を傾げ、ワルビルとオノンドはハルの顔を覗き込む。ルカリオとエーフィは波導や念力でハルの考えを読み取ったようだ。
「えっとね、まず今回は……」
そして。
次の日、ハルは約束したジム戦の場所、ノワキタウンの中央広場に立っていた。
そして向かいには、
「おはようございます。クリュウさん、町の皆さん」
「おうよ。この間は世話になったな。調子はどうだ? 万全にしてきただろうな」
「ええ、もちろんです」
広場を挟んで、ハルとクリュウが向かい合って立つ。
この町でジム戦が行われること自体、やはり随分と久しぶりのことなのだろう。ラルドやゼンタを始め、町の住民たちもこぞって見物に来ている。
「そうでなくっちゃな。一応俺もジムリーダーなんでな、ジム戦として厳しく戦わせてもらうぜ」
「はい。全力でぶつかって、ジムバッジを手に入れてみせます!」
ハルの力強い返事を聞いてクリュウはフッと笑うと、
「アン、審判を頼むぞ」
クリュウに呼ばれ、先日のゼンタ戦でも審判を務めていた青髪のメガネ少女、アンが進み出る。
「はい……それでは、只今よりジムリーダー ・クリュウさんと、チャレンジャー・ハルさんのジム戦を行います。えっと、使用ポケモンは四匹。どちらかのポケモンが全て戦闘不能になった時点で試合終了です。試合途中でのポケモンの交代は、チャレンジャーだけです」
アンの細々とした声に合わせ、クリュウとハルは同時にモンスターボールを手に取る。
「そんじゃ、まずは俺からポケモンを出すか。出てきな、ゴロンダ!」
クリュウが初手に繰り出すは、葉っぱを咥えたガタイのいいパンダのようなポケモン。場に立つとニヤリと笑って腕を組み、ハルを見下ろす。
『information
ゴロンダ 強面ポケモン
突進でダンプカーを吹き飛ばし拳で
岩を破壊する力自慢。気性が荒く
喧嘩っ早いが仲間への情は厚い。』
悪と格闘タイプを併せ持つポケモンのようだ。強面だが、その立ち振る舞いにはどこか愛嬌も感じる。
対して、ハルも初手は決まっている。迷うことなく、手にしたボールを投げる。
ハルの先発のポケモンは、
「よし……出てきて、ルカリオ!」
初手からいきなり、エースのルカリオだ。
「……ほぉ。随分と思い切ったチョイスじゃないか」
さすがにクリュウもこの展開は予想外だったようだが、しかしその程度で余裕を崩しはしない。
今回のハルの作戦はこうだ。タイプ相性の有利なルカリオを先発に出し、一気に流れを掴む。
四体抜きができるとはさすがに思っていないが、出来るだけ相手のポケモンを倒し、残ったポケモンを残り三匹で捌き切る。無論、万が一ルカリオが予定より早く倒されてしまった場合の策も考えてはいるが。
ハルはここまでのジム戦でずっと、最後の一匹をリオル、ひいてはルカリオに頼ってきた。五回に渡るジム戦の中で、ハルも分かってきたことがある。
今まで最終的にジム戦を制してきたのは、ハルとルカリオの特別な絆の力だ。しかしこの力、少なくとも今のハルには狙って発動することはできない。
そしてこの力が発動するのは、必ずジム戦の終盤。ハルとルカリオが最後の力を振り絞り試合を決める、その瞬間に、この力は覚醒する。
逆に言えば、まだエンジンがかかり切っていない序盤においては、この力は発動できない。というのが、絆の力に対する現時点でのハルの結論だ。
ハルがルカリオを初手に選んだのは、特別な絆の力に頼らずともジム戦に勝ちたい、という理由もある。
(先発からいきなりエースポケモンとはな。何を考えているかはまだ分からねえが……いいだろう。お前の戦い方、じっくり見定めさせてもらうぜ)
(いきなりジムリーダー相手に新しい戦い方を試すのは無謀かもしれないけど……いや、ジムリーダーに通用しなきゃ、新しい戦い方なんて言えない。自分と自分のポケモンを信じて、戦おう!)
ともあれ、両者のポケモンが出揃った。
「それでは、ジムリーダー ・クリュウさんと、チャレンジャー・ハルさんの試合を、開始します!」
「さあ、ルカリオ! 行くよ!」
バトル開始が告げられると同時。
ブレスレットを付けた右手を掲げ、ハルは叫ぶ。
「僕と君の、絆の力に応えて! ルカリオ、メガシンカだ!」
ハルのキーストーンと、ルカリオのメガストーンが、同時に七色の光を放つ。
二人の光が繋がり、ルカリオを包み込み、その姿を変えていく。
波動の力とメガシンカエネルギーをその身に巡らせ、天を貫く咆哮と共に、ルカリオはメガシンカを遂げる。
「いきなり使ってきやがるか。それじゃこっちも手加減なしでぶつかんねえとな! やるぜゴロンダ!」
クリュウに呼応し、ゴロンダもニヤリと笑みを浮かべて拳を打ち鳴らす。
「行きます! ルカリオ、発勁!」
「こっちも行くぞ! ゴロンダ、アームハンマー!」
地を蹴ってルカリオが駆け出し、対するゴロンダはその場でどっしり構えて拳を振りかぶる。
波導を纏ったルカリオの右手と、ゴロンダの鉄拳が正面から激突。
結果は、
「ッ、さすがにメガシンカはつえーな……!」
体勢を崩しこそしなかったものの、ゴロンダが押される。
とはいえメガシンカポケモンの攻撃を地に足をつけて耐え切れるあたり、さすがはジムリーダーのポケモンだ。
「続けてボーンラッシュ!」
次の動きはルカリオの方が早い。
ルカリオの右手を纏う波導が形を変えて槍の姿を取り、ゴロンダへ立て続けに槍の連続攻撃を浴びせる。
だが、
「ぶっ飛ばせ! ゴロンダ、DDラリアット!」
やはりゴロンダは怯まず、黒いオーラを腕に纏わせてその場で回転を始める。
連続攻撃を終えたその隙を突き、遠心力を乗せた剛腕をルカリオへ叩きつけ、ハルの元まで吹き飛ばした。
「ルカリオ、大丈夫?」
ハルが尋ねると、すぐさまルカリオは起き上がって頷く。DDラリアットは悪タイプの技なので、あまり大きなダメージはないようだが、
(あのゴロンダ、もちろんパワーもあるけど、それ以上に受けが強いみたいだな。中途半端な攻撃だと、手痛い反撃を貰うかも。一気に攻め切らないと)
メガルカリオの攻撃に対して顔色を変えないばかりか、ボーンラッシュ程度なら即座に反撃を放ってくる。搦め手の通用する相手ではなさそうだ。
「だったら……ルカリオ、発勁だ!」
立ち上がったルカリオの右手を、青い波導が覆う。
そのままルカリオは駆け出し、再びゴロンダの懐へと飛び込む。
「っ! ゴロンダ――」
慌ててクリュウが指示を出そうとするが今度は間に合わず、波導の掌底を叩きつけられ、ゴロンダは吹き飛ばされた。
「よっし! ルカリオ、続けて波導弾!」
「ちょっとの素早さのダウンが、ここまで響くか……! ゴロンダ、雷パンチだ!」
先程ゴロンダが使ったアームハンマーは強力な技だが、自身の素早さが少し落ちてしまう欠点もある。
それでもすぐさま立て直し、電撃を纏った拳でルカリオの放つ波導の念弾を打ち消す。
「気合い入れ直すぜ! ゴロンダ、バレットパンチ!」
両腕を振り上げて雄叫びをあげ、ゴロンダは自身を鼓舞する。
そして次の瞬間、目にも留まらぬスピードで一気にルカリオの目の前へと飛び出してきた。
「っ!?」
ハルが驚いている間に、ゴロンダの鋼の連続パンチがルカリオを襲う。
「アームハンマー!」
ルカリオの体勢を崩し、ゴロンダは大きく振りかぶった拳を鉄槌が如く振り下ろす。
「やばっ……! ルカリオ、防御だ!発勁!」
咄嗟に波導を纏った右腕を構えて迎え撃つルカリオだが、より勢いのあるゴロンダの鉄拳には敵わず、拳を叩きつけられ吹き飛ばされてしまう。
「ルカリオ! 大丈夫!?」
波導の力でどうにかダメージを抑えることはできたようで、ルカリオはすぐに起き上がり、頷く。
「なるほど……アームハンマーのスピードダウン効果を、先制技のバレットパンチで一時的に相殺できるんですね」
「その通り。バレットパンチを挟む一手間が必要になるが、この技自体が隙の少ない優秀な技だからな。アームハンマーもガンガン振っていけるぜ」
となると、素早さダウンの隙を突くのが少し難しくなってくる。
やはり、高火力の大技で一気に決めるのが得策だろう。
「さあ続けるぜ! ゴロンダ、バレットパンチ!」
「来るよ! ルカリオ、ボーンラッシュ!」
再び距離を詰めてくるゴロンダに対し、ルカリオは波導の槍を構えて迎え撃つ。
マシンガンのように乱射されるゴロンダの連続パンチを、槍の乱舞で全て捌き切る。
「DDラリアット!」
最後の右拳を捌かれたゴロンダは、しかしすぐさま次の攻撃に転じる。
両腕に黒いオーラを纏わせ、体を捻って裏拳の如く左腕をルカリオに叩きつけ、さらにもうひと回転、右腕でルカリオを殴り飛ばす。
「アームハンマー!」
ルカリオを引き離したのを確認し、ゴロンダはその場で思い切り拳を振り下ろす。
その場では絶対にルカリオには届かないが、狙い目は違う。
地面を殴りつけて大地を揺るがし衝撃波を発生させ、吹き飛ぶルカリオへと追撃をかける。
「っ、ルカリオ、ボーンラッシュ! まだ降りちゃダメだ!」
体勢を崩しながらも、ルカリオの手から青白い槍が出現する。
手にした槍を地面に突き立て、棒高跳びの如く跳躍し、何とか衝撃波を逃れた。
そして、ここでハルは攻略法を掴む。
(分かったぞ。あのゴロンダ、遠方への相手に対する攻撃方法が少ない。距離を取って準備を整えてからでも、攻撃が間に合うはずだ)
技が全て見えた。ゴロンダの遠距離攻撃はアームハンマーの衝撃波のみ。そのアームハンマーの追加効果で素早さも落ちていくため、遠距離への相手には衝撃波で牽制するか、バレットパンチの一手間を挟まなければならない。
「だったら、こうだ! ルカリオ、ゴロンダの動きを止めて! ボーンラッシュだ!」
着地したルカリオは再び大きく跳躍し、ゴロンダの上を取る。
周囲に複数の波導球を出現させ、小型の槍へと形を変える。
ルカリオが腕を振り下ろすと小さい槍が一斉に発射されるが、狙いはゴロンダではない。
その足元。ゴロンダを囲うように波導の槍は地面に次々と突き刺さり、その場に縫いとめてしまう。
「ほぉ、ゴロンダの動きを封じて、確実に仕留めようって魂胆か。いいぜ、かかって来な。俺様のゴロンダと正面からぶつかって、勝てるならの話だがな!」
「ハナからそのつもりです! ルカリオ、飛び込め! 発勁だ!」
波導の力を右手に纏わせ、上空からルカリオが飛び掛かる。
「ゴロンダ、迎え撃て! アームハンマー!」
腕を振り回して力を込め、ルカリオの掌底を返り討つべく、ゴロンダが腕を思い切り振り抜く。
両者が激突、力は互角。しかし、
「ルカリオ! ボーンラッシュの槍を、拳へ!」
ゴロンダを囲うように地面に刺さった槍が揺らめく波導へ形を戻し、ルカリオの右手へと集まっていく。
ボーンラッシュの槍はルカリオの波導で作られたもの。手から離れても、自由自在に操ることができる。
「なにッ!?」
クリュウが驚いたときには、すでに遅い。波導の力を増大させたルカリオの右手が、ゴロンダの拳を押し切った。
「今だ! 波導弾!」
右手を纏う波導が、念弾へと形を変える。
体勢を崩すゴロンダへと吸い込まれるように念弾が直撃し、青い光の炸裂とともに、ゴロンダを吹き飛ばした。
長らく更新を停止しており、誠に申し訳ございません。
本日よりまた更新を進めて参りますので、またよろしくお願いします。
活動停止の理由(言い訳)は活動報告に投稿しております。とにかく失踪は致しませんので、また気が向いたときにでも読んでやってください。