魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第91話 快進撃と波乱の影

波導弾に吹き飛ばされ、ゴロンダが地に落ちる。

それでも何とか起きあがろうと手を地面に突き立てるが叶わず、体力が限界を超えて力尽き、倒れ伏してしまう。

「ゴロンダ、戦闘不能、です。ルカリオの勝ちです」

審判の少女アンが、噛み締めるようにルカリオの一勝を告げる。まずはハルが先手を取った。

「こんなにあっさりやられちまうとは……いや、しょうがねえ。ゴロンダ、戻りな」

クリュウはゴロンダをボールに戻すと、即座に次のボールを手に取る。

「ハル。お前のルカリオ、なかなかやるな。波導の扱いも上手いじゃないか。これでも俺様、全く油断はしてなかったんだぜ?」

「ありがとうございます。一番頼れるエースポケモンですからね」

ハルの返事にクリュウは小さく笑うと、

「だがこれ以上暴れさせるわけにはいかねえな。次はこいつだ! 出てきな、ノクタス!」

二番手のポケモンを繰り出す。サボテンのように全身に棘を纏ったポケモンだが、姿形や傘帽子に似た形の頭のせいか案山子のようにも見える。

 

『information

 ノクタス カカシ草ポケモン

 昼間は突っ立ったまま眠っている。

 夜になると動き出し砂漠の気候に

 疲れ果てた獲物を探しに動き出す。』

 

見た目通りに草・悪タイプのポケモンのようだ。ルカリオはタイプ相性的に相変わらず有利だが、

「さっきの戦いを見た上で出てきたってことは、きっと何か策があるってことだ。ルカリオ、気をつけて戦うよ」

タイプ相性が不利な上でわざわざ選出してくるのだから、必ずこちらに対して何か有効な策を持っている、そう考えるのが自然だ。

元よりジム戦で油断などしないが、それでもハルは口に出す。ルカリオも頷き、クリュウとノクタスの方へと向き直る。

「では……バトル再開です」

アンの号令でバトル再開。今度は、クリュウ側が先に動き出す。

「行くぞ! ノクタス、ミサイル針!」

ノクタスが腕を広げると、全身の棘が白く輝きだし、無数の白い棘が一斉にルカリオ目掛けて飛び出す。

「っ!? ルカリオ、防いで! ボーンラッシュ!」

思わず目を見開くハル。それもそのはず、とんでもない数だ。

元々無数の棘を持つノクタスだが、何しろその棘という棘から一斉にミサイル針が飛んでくる。とても回避など出来ない。

ルカリオもそれは分かっているようで、右の掌から素早く青白い波導の槍を出現させる。

槍をまるで杖のように、曲芸の如く舞わし、ノクタスの放つミサイル針を全て弾き飛ばした。

「数が多い分、一発一発の威力は低めだな。ルカリオ、次はこっちの番だよ! 発勁!」

ミサイル針を撃ち終えたノクタスに対し、ルカリオが地を蹴って飛び出す。

手にした槍を揺らめく波導に戻して右手に纏わせ、一気に距離を詰め、波導の掌底をノクタスへと叩きつける。

だが。

 

「ノクタス、ニードルガード!」

 

棘だらけの腕をクロスさせ、ノクタスが防御の体勢を取る。

ルカリオの右手が触れた瞬間、ノクタスの腕から無数の鋭く長い棘が伸び、突っ込んできたルカリオを逆に突き刺し、弾いてしまう。

「なっ!?」

「今だぜ! ニードルアーム!」

予期せぬ反撃を受けて体勢の崩れたルカリオに対し、ノクタスは棘を伸ばしたままの腕を振り抜き、ルカリオを殴り飛ばした。

「っ、こいつも受けのポケモンか……! ルカリオ、大丈夫?」

ニードルアームは草技なので、ルカリオには効果今一つ。こういう時、鋼タイプの耐性は役に立つ。

「悪の波動!」

だが休んでいる暇はない。ルカリオを遠ざけたノクタスが腕を突き出し、手の先から紫黒の光線を発射する。

「ルカリオ、打ち消して! 波導弾だ!」

立ち上がったルカリオも掌から波導の念弾を放射、さらに、

「もう一度試してみるか……ルカリオ、発勁!」

両者の一撃が激突し、爆煙を起こすその中にルカリオは飛び込む。

波導の力で正確にノクタスの場所を見定め、波導を纏った右手を突き出す。

しかし、

「何度やっても同じだぜ。ニードルガード!」

再びノクタスは腕をクロスさせ、棘だらけのガードを展開。

ルカリオを突き刺して逆にダメージを与え、弾き返してしまう。

だがハルにもその結果は分かっている。ただ同じように弾かれにいったわけではない。今のやり取りで、情報を得た。

「やっぱりそうだ、ノクタス側にダメージが通った様子がない。もしかしてこの技、守るとかキングシールドみたいな防御技?」

「正解だ。このニードルガードは相手の攻撃を必ず防御し、直接攻撃を仕掛けてきた相手には棘を突き刺してダメージを与える。さらにキングシールドとは違って、補助技も無効化できるんだぜ」

となると、やはりこのノクタスも受けに強いポケモン。ゴロンダといい、クリュウは防御寄りのバトルスタイルを得意としているのかもしれない。

さらに、もう一つ分かったことがある。

(技が全部見えた。ニードルガードは厄介だけど、このノクタスにはルカリオへの打点がない。逆に言えば、それが分かっているのにクリュウさんはわざわざノクタスを選出したってことになる)

ノクタスの覚えている技のうち、攻撃技はミサイル針、ニードルアーム、悪の波動。全てルカリオには効果今ひとつ。

ならば、なぜノクタスを選出したのか。

(ニードルガードに相当の信頼があることは間違いなさそうだ。逆に言えば、それさえ破ればこのノクタスは脅威じゃない!)

「それなら……ルカリオ! 波導弾だ!」

ならば非接触技で攻める。

ルカリオの開いた右手に青い波導が集まり、念弾となって放出される。

「砕け! ノクタス、ミサイル針!」

ノクタスが全身の棘からミサイル針を発射し、その針を一点に集める。

集まった針はドリルのように螺旋状に展開され、波導の念弾を破壊し、

「悪の波動!」

さらに両腕の先から二対の紫黒の光線を発射、ルカリオを狙う。

「突っ込め! ボーンラッシュだ!」

波導の槍を手に取り、ルカリオが地を駆ける。

槍を突き出して悪の波動を突っ切り、そのままノクタスとの距離を一気に詰め、

「波導弾!」

「ニードルガード!」

手にした槍を念弾に変えて放つと同時、ノクタスも腕を構えて棘だらけの盾を展開する。

波導弾がノクタスに直撃するが、盾に守られるノクタスにダメージはない。

「今だ! ルカリオ、発勁!」

ノクタスが盾の構えを解いたその刹那、右手に青く揺らめく波導を纏わせたルカリオが掌底を突き出す。

「そう来ると思ってたぜ。ニードルアーム!」

対するノクタスも棘を伸ばした腕をそのまま振り抜き、真正面からルカリオを迎え撃つ。

火力はルカリオの方が上、しかしノクタスの腕から伸びた棘が衝撃を吸収したのか、ノクタスの体勢は崩れず、

「悪の波動!」

間髪入れずに放った紫黒の光線がルカリオを捉え、ハルの元まで押し戻す。

「っ、なかなか厄介だな……!」

「来ないならこっちから行くぜ! ノクタス、ミサイル針!」

ノクタスの全身の棘が白く輝きミサイル針を発射、今度は無数の弾幕となってルカリオへ降り注ぐ。

「突撃! ボーンラッシュだ!」

針の雨を潜り抜け、ルカリオが駆ける。

揺らめく波導を槍の形に変え、一気にノクタスとの距離を詰め、波導の槍を突き出す。

「なら、ニードルガード!」

ノクタスが腕を交差させ、棘だらけの盾を展開する。

波導の槍は棘の盾に弾かれてしまうが、ルカリオ本体には棘は届いていない。

「波導弾!」

「ニードルアーム!」

両者の指示が出たのはほぼ同時だった。

ルカリオが手にした槍を波導の念弾へ変えて放出し、ノクタスは棘を伸ばした腕を振り抜く。

棘だらけのラリアットで波導弾は破壊されてしまうが、しかし、

「このタイミングなら、どうだ! ルカリオ、発勁!」

勢いよくノクタスが腕を振り回したその直後、右手に青く揺らめく波導を纏ったルカリオがさらに追撃を放つ。

脇腹に掌底が叩き込まれると同時に、青い波導が炸裂。怒涛の連撃をついに捌き切れず、ノクタスが吹き飛ばされた。

その上この一撃は効果抜群。ジムリーダーのポケモンとはいえど、そう素早く立て直すことはできない。

「ルカリオ、もう一度発勁!」

「っ! ノクタス、悪の波動だ!」

ルカリオの右手が再び波導に覆われ、咄嗟にノクタスが腕の先から紫黒の光線を放つ。

「ルカリオ、躱しちゃだめ! 正面突破!」

ハルの指示に頷き、ルカリオは右腕を突き出し、悪の波動の中へ飛び込んでいく。

勿論これは考えがあっての指示だ。ここで回避してしまうと、僅かな隙とはいえノクタスに防御を許す時間を与えてしまう。

しかし回避を挟まずノクタスの攻撃を打ち破ってしまえば、ニードルガードは間に合わない。

結果。

ノクタスが立ち上がるより早く、ルカリオの右手がノクタスへと届いた。

波導を纏った右手を叩きつけ、それと同時に、

「波導弾ッ!」

ルカリオの右手を覆う波導が、青く輝く光の弾となって発射される。

ゼロ距離から放たれた波導の念弾、当然躱すことなど出来はしない。

「ノクタス……!」

どうやら守りはニードルガード頼りなのか、元々の耐久力はそこまで高くはないようだ。

派手に吹き飛ばされたノクタスは地面に叩きつけられ、そのまま目を回して動かなくなってしまった。

「……! ノクタス、戦闘不能です。ルカリオの勝利です……!」

アンがルカリオの勝利を告げると同時、周りのギャラリーがどよめく。

何しろ、ジムリーダーであり街のエースでもあるクリュウが二体抜きされてしまったのだ。ノワキの住民たちが驚くのも、無理はない。

「よしっ! いいぞ、ルカリオ!」

小さくガッツポーズを決めるハルに呼応し、ルカリオもハルに目線を向けて頷く。

そんな中で、一人だけは落ち着いたままだった。

「やるじゃねえか。ノクタス、戻りな」

ノクタスをボールに戻すクリュウの表情は変化しない。

冷静に、しかし口元に小さく笑みを浮かべたまま、次のボールを手に取る。

そんなクリュウを見て、ハルはすぐに気を引き締める。まだジム戦は終わってはいないのだ。

「さて、ルカリオ一体にゴロンダとノクタスがやられちまったわけだが……おかげでだいたい分かったぜ、お前の戦い方」

ハルの瞳を見据えるクリュウのその表情には、余裕すら感じられる。

「基本的には攻撃重視。たまに搦め手や防御を混ぜることもあるが、どう耐えるかよりどう打ち崩すかを重視する攻撃的なバトルスタイル。違うか?」

「それは、どうでしょうね」

ハルがそう返すと、クリュウはニヤッと笑う。

「ま、教えたくはねえよな。だが間違いないと思うぜ。ゴロンダとノクタスの敗北は決して無駄にはなっていない。そしてそんなバトルスタイルの相手には、こいつが適任だな」

そう言ってクリュウはボールを構える。

手にした三番目のボールから、次なるポケモンが現れる。

「出てきな、ドラピオン!」

 

『information

 ドラピオン 化けサソリポケモン

 自慢のパワーを武器に戦うが手強い

 相手と戦うときは猛毒も使用する。

 首が180度回転するので死角がない。』

 

紫の頑丈な甲殻に身を包んだ巨大なサソリのような、毒と悪タイプのポケモン、ドラピオン。

場に立つと、自身を鼓舞するように鋏を打ち鳴らして野太い声で吠える。

(毒と悪タイプってことは……弱点は地面タイプだけか。というか、またしても随分硬そうなポケモンで来たな)

クリュウの手持ちの傾向から見て、このドラピオンも受けの強いポケモンだろう。体を覆う鎧のような紫の甲殻が、そのパワーと防御力を物語っている。

「だけどこっちが押してるってことは変わらない。ルカリオ、この調子で行けるところまで行くよ」

ルカリオの闘志も充分。ハルの言葉に力強く頷き、両手に波導を纏わせて戦闘体勢に入る。

「そんじゃ、バトル再開とするか」

クリュウがそう告げ、ドラピオンも両腕を振り上げて雄叫びを上げる。

 

 

 

この時点で。

ハルはまだ、クリュウという男の恐ろしさに気が付いてはいなかった。

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