魔王と救世の絆   作:インク切れ

95 / 121
第92話 波乱の魔蠍

「そんじゃ、バトル再開とするか」

六つ目のバッジを賭けたノワキジム戦。現在ハルのルカリオがクリュウのゴロンダとノクタスを立て続けに倒し、大きくリード。

そしてクリュウが今まさに、三体目となるドラピオンを繰り出した。

「こっちから行かせてもらうぜ。ドラピオン、まずはミサイル針!」

ドラピオンが両腕を前方へ突き出すと、爪が白く輝き、複数の白い針が一斉に放出される。

「またミサイル針か……だけどさっきのノクタスより数は少ないな。ならルカリオ、駆け抜けるよ! ボーンラッシュ!」

右手を纏う波導を槍の形に変え、波導の槍を手にしてルカリオが駆け出す。

槍を自在に振り回し、ミサイル針を捌きつつドラピオンへ迫ろうとするが、

「っ!?」

飛来する針を弾いたルカリオが僅かに体勢を崩す。

「なんだ……!? ルカリオ、防御優先! とにかく針を弾いて!」

咄嗟にドラピオンへの突撃をやめ、ルカリオは防御に集中。波導の槍を自在に舞わし、ミサイル針を弾き飛ばした。

(なるほど……針の一発一発が重いのか……!)

針を弾くルカリオの挙動で分かった。先程のノクタスのそれと比べて、このドラピオンの放つミサイル針は弾数が少ない代わりに一発一発の威力が高い。

だから初撃でルカリオは体勢を崩した。地に足をつけて構えれば流石に対応できるが、走りながら弾き飛ばせるほど軽い一撃ではないということか。

「さあ、どうするよ? ドラピオン、もう一度ミサイル針!」

腕を突き出したドラピオンが、再び爪から無数のミサイル針を発射する。

「だったら、一撃で吹き飛ばす! ルカリオ、波導弾!」

両手を構えて、ルカリオが掌に青い波導の念弾を作り出す。

大砲が如く波導弾を放出し、まとまって襲い来るミサイル針を一撃粉砕、さらに、

「発勁だ!」

即座に地を蹴って飛び出し、一気にドラピオンとの距離を詰める。

ルカリオの右掌がドラピオンへと叩きつけられ、同時に波導が炸裂。強い衝撃を受け、ドラピオンの首がぐらりと揺れる。

しかし。

「逃がすな! ドラピオン、捕らえろ!」

体勢を崩しながらも、ドラピオンの反撃は早かった。

刹那、ドラピオンの尻尾が獲物を捕らえる蛇の如く素早く伸び、尻尾の先の鋏でルカリオを挟み、捕らえてしまう。

「なっ!? ルカリオ、抜け出して!」

波導を巡らせて力を込めるルカリオだが、ドラピオンの鋏は非常に強力だった。そう簡単に脱出はさせてくれない。

「逃れられる前に仕留めさせてもらうぜ。ドラピオン、炎の牙!」

直後、牙に炎を灯したドラピオンの首が180度回転し、捕らえた獲物をその瞳に捉える。

尻尾を振るって放り投げられたルカリオを炎の大顎が襲う。牙が食い込むと同時に爆発が生じ、ルカリオは吹き飛ばされた。

「逃がすな! 辻斬りだ!」

「食い止めて! 発勁!」

鋭い爪を打ち鳴らし、ドラピオンが力任せに両腕を振り下ろす。

何とか起き上がったルカリオだが、回避は間に合わない。こちらも波導を纏った両腕を突き出し、真正面から迎え撃つ。

切り裂くと言うよりも叩き斬るような一撃が襲い掛かるが、それでもルカリオはドラピオンの両腕を受け止めた。

そのまま波導の力を強め、両腕を押し返す。

だが。

「終わりだ。辻斬り!」

その刹那だった。

ドラピオンの尻尾が伸びたかと思うと、横薙ぎに一閃を振り抜く。

鋭い斬撃がルカリオを切り裂き、ついにルカリオは膝から崩れ落ち、地に伏してしまう。

ルカリオのメガシンカが解け、元の姿へと戻る。すなわち、

「ルカリオ、戦闘不能、です。ドラピオンの勝利です」

アンがドラピオンの勝利を告げる。ゴロンダとノクタスを立て続けに倒したルカリオだが、ここで戦闘不能となってしまった。

「ルカリオ、よく頑張ったね。あとは任せて」

悔しそうに唸るルカリオを労い、ボールへと戻す。倒れたとはいえ、ジムリーダー相手に二体抜きを決めるという鬼神の如き活躍を見せてくれた。

しかし、

(技の威力がかなり高いし、何よりメガシンカした僕のルカリオの動きを封じることができるなんて。このドラピオン、相当なパワータイプだな。気をつけて戦わないと)

ルカリオですら抜け出すのに時間を要する、ドラピオンの強靭な鋏。これを両腕と尻尾の三本も有するのが相当厄介だ。一度捕まってしまえば、大ダメージは免れないだろう。

「よーっし、上出来だドラピオン。ようやくルカリオを倒したぜ。さてハル、これでお前のエースはやられたが、次は誰で来る?」

クリュウとドラピオンを見据え、ハルは考える。

タイプ相性を考えるならここはワルビルだ。しかし、ハルとしてはワルビルはまだ出したくない。

理由は、効果抜群の技が“穴を掘る”の一つしかないからだ。地中からの奇襲を仕掛けても、体勢を崩せなければ逆に鋏に捕らえられてしまう。

増して相手は待つ戦い、受けのバトルのエキスパート。タイプ相性は良くても、戦い方の相性が悪すぎる。

と、なれば。

「鋏に捕まらないように戦えるのは……君だ。出てきて、ファイアロー!」

ハルが二番手に選んだのはファイアロー。スピードならばメガルカリオよりも速く、ドラピオンの隙を突いて戦うにはファイアローが最適だという判断だ。

無論、相手のドラピオンが“受け”に関しては滅法強いということを忘れてはいけないのだが。

「ファイアロー、相手はかなりのパワーだから気をつけて。特にあのハサミには注意してね」

ハルの言葉にファイアローは頷き、翼を広げて甲高く啼き、ドラピオンを睨む。

「ファイアローか……ラルドと戦ってた時のあいつだな。ドラピオン、相手のスピードに惑わされるなよ」

対するドラピオンもクリュウに呼応して両腕を振り上げ、雄叫びをあげる。

「それでは……バトル再開です」

再びバトルが始まる。先に動いたのはハルだ。

「ファイアロー、ニトロチャージ!」

ファイアローが翼から火の粉を吹き出し、その身に炎を纏う。

流星が如く赤い残光を残し、目にも留まらぬスピードで一瞬のうちにドラピオンを突き飛ばした。

「っ、速え……! 立て直せ、ドラピオン!」

ドラピオンが顔を上げるが、既にファイアローはそこにはいない。

「続けてアクロバット!」

慌てて周囲を見回すドラピオンなど構わず、ファイアローはその周囲を高速で飛び回り、隙あらば翼を叩きつけ、爪で切り裂き、高速の連続攻撃を浴びせる。

「ドラピオン、焦るな! 辻斬りだ!」

「ファイアロー、離れて!」

クリュウの指示を受けてドラピオンは平静を取り戻し、腕を構えるが、それを見たファイアローは素早くドラピオンとの距離を取る。

「よし。ファイアロー、その調子だよ。深追いはしないで、隙を見て攻めていこう」

圧倒的なスピードを誇るファイアローだが、だからといってこのドラピオン相手に有利だとは言えない。

何しろ捕まったらおしまいなのだ。相手はメガルカリオですら動きを封じられてしまうほどの力自慢。ファイアローのスピードを見切られてしまえば、そこで終わりだ。

「ドラピオン、ミサイル針!」

「ファイアロー、躱して! アクロバット!」

腕を突き出して爪の先から無数の棘を放つドラピオンに対し、ファイアローは翼を羽ばたかせて果敢に弾幕の中へと飛び込む。

撹乱飛行で飛来する棘を躱し、潜り抜け、再びドラピオンに迫ると、

「鋼の翼!」

ドラピオンの眼前で急上昇し、翼を鋼のように硬化させ、すれ違いざまに硬い翼でドラピオンを切り裂く。

「……後ろだ! 捕らえろ!」

だがファイアローの攻撃後の僅かな隙すら見逃さず、ドラピオンの尻尾が伸びる。

「させないっ! ニトロチャージ!」

ファイアローの体が燃え盛る炎に包まれる。

炎に遮られて鋏の動きが遅れ、間一髪でファイアローはドラピオンの尻尾の範囲から逃れた。

「逃すな! ミサイル針だ!」

だがドラピオンが尻尾の爪の先からさらに無数の棘を放つ。

離脱するファイアローに次々と棘が突き刺さるが、それでもファイアローは何とかドラピオンと距離を取り、ハルの元まで戻ってくる。

(隙あらば拘束を狙ってくるな……長期戦になればなるほど、こっちが不利になるな)

このドラピオンの戦法は、まさしくワダンから教わった受けのバトルスタイルの理想の形。

相手の攻撃を耐えながらひたすらチャンスを待ち、隙を狙って大ダメージを与え、一気に流れを引き込む。ハルのワルビルの目指す戦術の形の中の一つだ。

(それならこっちのやることも決まってくる。相手の体勢を崩したところに、一気に大技を叩き込む。よし!)

「ファイアロー、アクロバット!」

方針は決まった。

ファイアローが翼を羽ばたかせ、一気にドラピオンに近づく。

ドラピオンの周囲を飛び回りながら、爪や翼で連続攻撃を浴びせ、

「今だ、ブレイブバード!」

撹乱したところでドラピオンの頭上へと急上昇、燃え盛る炎が如き凄まじいオーラをその身に纏い、翼を折り畳んで急降下、全力の突貫を仕掛ける。

対して。

「来るぞ。準備はいいな」

クリュウの指示を受け、ドラピオンが上空を見上げ、両腕を構える。

 

「ドラピオン、クロスポイズン!」

 

ドラピオンの爪が毒々しい紫色に染まる。

猛毒を爪に纏わせ、ドラピオンは両腕を交差させ、力一杯振り下ろす。

刹那。

Xの字の形をした猛毒の衝撃波が、斬撃となってファイアローを迎え撃つ。

捨て身のファイアローと、猛毒の衝撃波が激突。

結果は一瞬。クロスポイズンを打ち破り、さらにその奥のドラピオンへと突撃するファイアローだが、

「よし、充分だ! ドラピオン、捕らえろ!」

待ってましたとばかりにドラピオンが両腕を伸ばす。

オーラを纏うファイアローに対し、頑丈な爪で真正面からその突撃を受け止め、そして、

「なっ……!」

ハルが思わず驚愕の声を漏らす。

ファイアロー最強の大技をこのドラピオンは受け止め、逆に捕らえてしまったのだ。

「どうやら、俺様のドラピオンを少し甘く見ていたみたいだな」

勝ち誇った表情で、クリュウが口を開く。

「確かに今のブレイブバードはかなりの高威力だった。だがその勢いを削いでしまえば、受け止めるのは容易い。ここぞという時のために、クロスポイズンを隠しておいて正解だったぜ」

ドラピオンも無傷ではない。しかしこの状況では、どちらが有利かなど火を見るよりも明らかだった。

「ドラピオン、叩き伏せろ! クロスポイズン!」

両腕を振り上げ、ファイアローを地面に叩きつけると、即座にドラピオンは腕を振り抜いて猛毒の衝撃波を放つ。

「っ、ファイアロー――」

「辻斬りだ!」

宙を舞うファイアローが体勢を立て直すよりも早く、ドラピオンの一閃がファイアローを捉えた。

狙い澄ました一撃を浴び、ファイアローが墜落し、そのまま動かなくなってしまう。

「ファイアロー、戦闘不能です。ドラピオンの勝利です」

これで二対二。

あまりにもあっさりとファイアローを倒され、戦況を五部にまで戻されてしまった。

それどころか、クリュウがまだエースを温存していることを考えれば、むしろクリュウに流れが傾いている。

「ファイアロー、よく頑張った。君のバトル、決して無駄にはしないよ」

ファイアローの嘴を撫で、ボールへと戻す。

一見すればかなり早くにやられてしまったように見えるが、その試合内容は決して無駄ではない。攻撃は通っていたし、受け止められたとはいえ最高火力のブレイブバードが真正面からヒットしたのだ。鉄壁を誇るドラピオンとて、ダメージは小さくない。

次の策を考えながら、ハルがボールを手に取ったところで、

「さて、ハル。ここまでのバトル、お前はどう見る?」

クリュウが言葉を投げかける。

「そうですね……ルカリオで二体抜きしたものの、ドラピオンに抜き返され、だけどドラピオンも無傷ではない。試合の流れなども考えると、ほぼ互角といったところでしょうか」

「なるほどな。ま、半分は正解か」

ハルの返答を聞き頷いた上で、だが、とクリュウは言葉を続け、

「ルカリオで二体抜きした、と言ったな。ここが違う。ルカリオに二体抜き“させた”んだ。お前というトレーナーのバトルの癖を見極めるためにな」

「えっ……二体抜き、させた?」

思わず、ハルは聞き返す。

「そうだ。初手をゴロンダに任せることは決めていたが、お前のエースであるルカリオが出てきた時点でバトルの流れを決定した。ゴロンダとノクタスの二体掛かりで、ルカリオ、ひいてはトレーナーであるお前のバトルスタイルを見極め、それに応じて三体目から巻き返す。お前みたいなスピードを生かした攻め重視のトレーナー相手には、ドラピオンが適任だ。実際、ドラピオンを出してからのバトルは、全て俺の読み通りに進んでいる」

恐るべき、クリュウの試合運び。

二体目にノクタスを選出したのも、ニードルガードに相当の信頼があるから、などではない。

受けの強いポケモンで戦うことで、ハルの戦術を見極めるための時間稼ぎをしていたのだ。

「……凄いですね、クリュウさん。お見事です。だけど、ここで終わりじゃない。バトルはまだまだここからです」

「そう来なくちゃな。俺様の試合運び、打ち破って見せろよ」

「望むところです! 出てきて、オノンド!」

ハルが三体目に選んだのはオノンド。

ファイアローの敗北で学んだ。スピードを生かした戦法は、このドラピオンには通用しない。

であれば、ルカリオを除けばハルの手持ちで一番のパワーを誇るオノンドの攻撃力で突破する以外に道はない。

「さあオノンド、存分に戦うよ。あの頑丈な鋏にだけは気をつけてね」

ハルの言葉に頷き、オノンドは咆哮して自身を鼓舞し、ドラピオンを睨みつける。

「次はオノンドか。俺様のドラピオン相手にどこまで通用するか、見せてくれよ」

ドラピオンもクリュウに呼応し、爪を打ち鳴らして雄叫びをあげる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。