「オノンド、ドラゴンクロー!」
「ドラピオン、辻斬り!」
双方が同時に動いた。
輝く光の竜爪を両腕に纏い突撃するオノンドに対し、ドラピオンも爪を構えてその場でオノンドを迎え撃つ。
両者の斬撃が正面から激突、一歩も引かずに激しく競り合う。
「捕らえろ!」
鍔迫り合いの最中、突如ドラピオンが一歩後退し、上半身を屈めて尻尾を伸ばす。
「オノンド、弾いて!」
対するオノンドもそう簡単には捕まらない。纏った竜爪を振り抜き、尻尾を横に弾き返すと、
「背中に回って、シザークロスだ!」
ドラピオンが首を屈めたのを利用し、一気に背中まで駆け抜ける。
二本の牙を振るって斬撃を放つと、すぐにドラピオンの上から離脱しようとするが、
「そうはいかねえよ! ドラピオン!」
ぐりんっと首を180度回転させてオノンドを視界に捉え、ドラピオンの両腕が襲い掛かる。
「っ、オノンド、ドラゴンクロー!」
オノンドも両腕に光の竜爪を纏わせ、ドラピオンの爪と組み合い、一歩も譲らず競り合う。
しかし、
「背中がガラ空きだぜ。ドラピオン、捕まえろ!」
待ってましたとばかりにドラピオンの尻尾が伸び、今度こそオノンドを拘束してしまう。
「オノンド! くっ、これもだめか……!」
パワーだけなら互角だが、オノンドの腕は二本、ドラピオンは腕と尻尾で三本。手数の差はそう簡単には覆せない。
「こいつもパワータイプだから、長時間の拘束は無理だな……ドラピオン、投げ飛ばしてミサイル針だ!」
尻尾を振り回してオノンドをブン投げ、即座に両腕の爪から無数の棘を発射する。
地面に叩きつけられたオノンドは起き上がるが回避は間に合わず、降り注ぐ棘をまともに浴びてしまう。
「っ、オノンド、大丈夫!?」
思わずハルは呼びかける。グオオォ! と、オノンドの力強い雄叫びが返ってきた。
受けたダメージは決して小さくないが、それでもその瞳に怒りと闘志を浮かべ、立ち上がってドラピオンを睨む。
「よし……勝負はここからだよね! オノンド、ドラゴンクロー!」
「ほぉ、イカした根性じゃねえか。ドラピオン、辻斬り!」
両腕に輝く竜爪を纏わせ、オノンドが地を蹴って飛び出す。
ドラゴンクローを突き出すオノンドに対し、ドラピオンも両腕を伸ばし、どっしりと構えて迎え撃つ。
その瞬間。
(……! そうだ、これなら!)
ハルは思いついた。このドラピオンを打ち倒す可能性となる一手。
通用するかはわからないが、やるしかない。オノンドまで倒されてしまえば、もう後がない。
「やってやる……! オノンド、瓦割り!」
競り合う最中、一歩引いてオノンドは跳躍し、ドラピオンの頭上から手刀を構える。
「させねえよ。ドラピオン、捕まえろ!」
空中に跳んだ以上、オノンドは回避ができない。ドラピオンの右腕が伸び、鋏が開く。
やるなら、ここだ。
「今だオノンド! 腕の隙間へ、炎の牙!」
オノンドの牙に炎が灯る。
ドラピオンの腕を覆う甲殻の、その隙間へ、炎を纏った牙を突き刺した。
刹那。
悲鳴を上げて、苦悶の表情を浮かべ、ドラピオンが後退する。
「なにっ……!? ドラピオン、落ち着け!」
ハルの予想通りだった。頑丈な甲殻で体を覆っているということは、甲殻の内側は弱点である可能性が高い。
ドラピオンというポケモンは全身が殻に包まれているため内側を狙うのは難しいが、腕を伸ばした瞬間なら、殻と殻の隙間に一撃を入れられる。
右腕を突き刺されたドラピオンだが、さらに炎の牙による追加効果が発動。右腕全体が炎に包まれてしまう。
「くそっ、火傷の状態異常か……!」
「今だオノンド! ドラゴンクロー!」
雄叫び共に巨大な光の竜爪を両腕に纏わせ、オノンドが跳躍する。
苦しみ悶えるドラピオンの顔面に、竜の爪痕を刻み込んだ。
「ドラピオン……!」
断末魔をあげてドラピオンはその場に倒れ伏し、そのまま動かなくなった。
「ドラピオン、戦闘不能です。オノンドの勝利です」
アンがオノンドの勝利を告げると、ノワキの住民たちがどよめく。ジム戦用のポケモンとはいえ、やはりこのドラピオンはクリュウの手持ちの中でも強かったということだろう。
「よっしゃあ! オノンド、よく頑張った! これであと残り一体だよ!」
ハルの喜びの声に応え、強敵を下したオノンドが勢いよく咆哮を上げる。
「突破されちまったか。ドラピオン、よく頑張った。戻りな」
クリュウはドラピオンを労い、ボールへと戻す。これで、クリュウのポケモンは最後の一体を残すのみだ。
「まさか、俺が先に最後のポケモンを見せることになるとはな。予想外だったぜ」
そう言いながら、クリュウはボールを取り出し、目を閉じる。
その口元に、笑みが浮かぶ。
「長らくジム戦をしていなかったからな。忘れかけていたんだが……思い出してきた。ジムリーダーとして一番楽しいのは、この瞬間だってな」
心から戦いを楽しむような、そんな笑みを浮かべ、クリュウは再び瞼を開いた。
「お前のおかげで思い出したよ、ハル。ジムに挑む挑戦者たちが、難敵に立ち向かい、ポケモンたちと力を合わせ、考えに考え、ようやく俺様のポケモンを打ち倒す、その瞬間。戦いの中で挑戦者の成長を目の当たりにするその瞬間が、俺は楽しくて楽しくてたまらない。この感触、本当に久しぶりだ」
「僕も、そうかもしれません。ポケモンたちと一緒に強敵と戦い、考え、全力の末に勝った時、その瞬間は、本当に楽しいです」
ハルの言葉を受け、クリュウは満足そうに頷き、顔を上げる。
いよいよ、クリュウの最後の一体の登場だ。
「さあ、こいつで最後だ。出てきな、アブソル!」
『information
アブソル 災いポケモン
災害の予兆を感知すると山奥から
現れ人に危機を知らせる。昔は災害
を司るポケモンだと誤解されていた。』
クリュウのエースポケモン、アブソルが姿を現す。悪タイプのみを持つポケモンだ。
美しい純白の体毛を持つ四足獣型の姿。顔の右側に偏って生える湾曲した漆黒のツノは鎌のようにも見える。
そして、クリュウが出してきたポケモンの中では一番小柄、体高もオノンドと同程度。今までの三体とは違い、受けを得意とするようには見えない。
「予想してたのとは違うタイプのポケモンが来たな……オノンド、気をつけて。さっきまでとは全く違った戦い方になるかもしれない」
オノンドはハルの言葉に頷き、アブソルに向かって吼える。
対するアブソルは一言も発することなく、静かにオノンドを見据えている。
「それじゃ、行きますよ! オノンド、シザークロス!」
オノンドが先に動き出す。雄叫びを上げ、牙を構えると、地を蹴って飛び出していく。
だが。
「アブソル、不意打ち!」
次の瞬間、オノンドはアブソルに真正面から突き飛ばされていた。
「えっ……!?」
一瞬のうちにアブソルはオノンドとの距離を詰め、僅かな隙を狙い、オノンドを弾き飛ばしたのだ。
「アブソル、火炎放射!」
「っ、オノンド、受け止めて! ドラゴンクロー!」
体勢の崩れたオノンドへ、アブソルが灼熱の炎を吹き出す。
咄嗟にオノンドは両腕に輝く竜爪を纏わせて防御の構えを取る。
激しい炎が襲い掛かるが、何とかオノンドはドラゴンクローで耐え切り、
「反撃だよ、炎の牙!」
今度は牙に炎を灯し、再びアブソルへと切りかかる。
「躱しな」
だがアブソルには牙が当たらない。
立て続けに牙を振るうオノンドだが、対するアブソルは表情一つ変えず、必要最低限の動きで確実に炎の牙を躱し続ける。
「不意打ちだ!」
オノンドの動きが単調になってきたところへ、アブソルがすかさず前脚を突き出す。
反応が間に合わず、オノンドは殴り飛ばされてしまい、
「今だアブソル、冷凍ビーム!」
間髪入れずにアブソルは凍える冷気の光線を発射する。
横薙ぎに振り抜いた氷のレーザーが切り裂くようにオノンドを捉え、その身に一直線に氷の痕を残す。
「しまった……! オノンドっ!」
氷タイプの技は、ドラゴンタイプには効果抜群となる。
半身を凍りつかせ、オノンドはそのまま動けなくなってしまった。
「……オノンド、戦闘不能です。アブソルの勝利です」
アンのジャッジが下る。これで、ハルも残り一体。
「オノンド、大丈夫? よく頑張ったね」
オノンドを抱え、体を覆う氷から引き剥がすと、オノンドは目を開け、悔しそうに唸る。
それでも、難敵ドラピオンを倒すという大戦果を上げてくれたのだ。
「いい活躍だったよ。ゆっくり休んでてね」
オノンドを戻し、ハルは最後のボールを手に取る。
今までのジム戦とは違い、絶対的なエースであるルカリオはもう使えない。
だが、そんなことは関係ない。まだ戦ってくれるポケモンがいる。それだけで充分だ。
「さあ、君で最後だ、頑張るよ! 出てきて、ワルビル!」
ハルが最後の一体に選んだのはワルビル。場に立つと、アブソルにガンを飛ばして大きく吼える。
「最後はワルビル……ほぉ、悪タイプ同士の戦いってわけだな。だが俺様は悪タイプのエキスパートだ、どこまで戦えるかな?」
「どこまで、ですか。そりゃ勿論、勝ってバッジを手に入れるところまでですよ。ワルビルなら、やってくれます!」
ハルの威勢のいい返事と、それに呼応するワルビルの雄叫びを聞き、クリュウはニッと笑う。
「そうこなくっちゃな。それじゃ、始めようぜ。最高のバトルをな。アン!」
「はい。では、ノワキジム戦最終戦を始めます」
審判の少女アンが、最後の試合の開始を告げる。
「ワルビル対アブソル……開始です」
「ワルビル、燕返し!」
ハルが先手を取り、ワルビルが動き出す。
腕を構えてアブソルへと向かっていくが、
「アブソル、不意打ちだ!」
次の瞬間、アブソルは一気にワルビルの懐まで飛び込み、前脚でワルビルを突き飛ばしていた。
「っ! さっきからこのスピード……もしかしてこの技、先制攻撃技?」
「その通りだ。不意打ちは悪タイプの先制攻撃技、しかも威力も高い。その代わり、相手が攻撃しようとした瞬間にしか成功しないがな。扱いが難しい分、強力な技だぜ」
悪タイプが得意とする、ハイリスクハイリターンな技、不意打ち。ハルのワルビルやオノンドのように攻撃技しか持っていないポケモンにとっては、かなり厄介な技となる。
「なるほど……それにしても、不意打ちのスピードといい、オノンドの時のバトルといい、そのアブソルはここまでの三体とは全く違うバトルスタイルみたいですね」
「ご名答。ドラピオンたちは受けの戦いに特化しているが、こいつだけは違う。相手の僅かな隙も逃さず、スピードと攻撃力で相手を圧倒する。それがこのアブソルの戦い方だ」
ゴロンダやノクタス、ドラピオンとは真逆の、スピードを生かした攻めのバトルスタイル。
だが、
(それなら、勝算があるぞ。スピードタイプが相手なら、鍛えてきたワルビルにとって有利に戦えるかもしれない)
このアブソルが相手ならば、ワルビルの受けの戦いを存分に発揮できる。
今こそ、特訓の成果を生かす時だ。
「それじゃ、続けるぜ。アブソル、火炎放射!」
「ワルビル、迎え撃って! シャドークロー!」
アブソルが灼熱の炎を吹き出し、対するワルビルは両腕に影を集め、黒い爪を纏う。
影の鉤爪を突き出し、真正面から炎を食い止める。
「イビルスラッシュ!」
その炎の背後から、アブソルが猛スピードで襲い来る。
闇の力を込めた頭部の鎌を振りかぶり、斬撃を放つ。
「来るよ! ワルビル、燕返し!」
咄嗟にワルビルは腕を振り抜き、間一髪でアブソルの鎌を受け流す。
しかし、
「終わっちゃいねえぞ。もう一度だ!」
すかさず背後に回ったアブソルが、即座に二発目の斬撃を放つ。
「ワルビル、後ろ!」
裏拳のように振り向きざまに腕を振るうワルビルだが、僅かに反応が遅れ、斬撃を浴びてしまう。
「だったら、穴を掘る!」
イビルスラッシュは悪技ゆえ、効果いまひとつでダメージは抑えられる。
着地すると同時にワルビルは地面に潜り、地中に身を潜める。
「なるほど、穴を掘るを覚えているか……アブソル、用心しろ。全方位に気を配れよ」
一聞すると無茶な指示だが、災害を予知する力のあるツノを持つアブソルなら、その力を応用して周囲一帯を警戒できる。
「今だ、ワルビル!」
少し間を置いて、アブソルの左後ろからワルビルが飛び出す。
「させねえ! アブソル、不意打ち!」
その瞬間、アブソルは振り向くと同時に距離を詰め、鎌を振るってワルビルを切り裂く。
しかし、
「来たッ! ワルビル、受け止めて! シャドークロー!」
地中のワルビルを探るアブソルの様子を見て、素早い迎撃が来ることはハルも想定していた。
アブソルの攻撃に怯まず、ワルビルは両腕に影の爪を纏わせ、突っ込んできたアブソルを掴み、その動きを止める。
「なにっ!?」
「今だ! 噛み砕く!」
ワダンに教えてもらった通りだ。頑丈なポケモンは一発もらう覚悟でいれば、相手に大ダメージを与えることができる。
ワルビルが大顎を開く。アブソルに頑丈な牙を食い込ませ、顎の力だけで振り回すと、そのまま投げ飛ばしてアブソルを地面に叩きつけた。
「よっし! いいぞ、ワルビル!」
ニヤリと笑って雄叫びをあげるワルビルだが、すぐにアブソルの方へと向き直る。
「なかなかやるじゃねえか。こりゃ、本気を出す必要がありそうだな。楽しくなってきやがった!」
アブソルが立ち上がる。高揚するクリュウとは対照的に、相変わらずその表情は変化しないまま、じっとワルビルを見据えている。
「ハル。このバトル、俺様ちっとばかし本気で行かせてもらうぜ。大人げねえと思われるかもしれねえが、全力の戦いを楽しみたい気分なんだよ」
「大人気ないなんて言いませんよ。最終戦、お互い全力で戦いましょう。望むところですよ!」
「それでこそだ。そんじゃ……!」
ハルの力強い返事を受けて、クリュウは頷き、首にかけた翼の形のネックレスを指で叩く。
何が来るかは分かっていた。そこに何があるか、ハルは知っている。
クリュウはキーストーンを持っている。であれば、クリュウの言う“本気”が何を意味するのかは想像に難くない。
それを証明するように。
アブソルの首元の体毛が風を受けたようにたなびき、その首元に隠されたメガストーンが露わになる。
「来るか……!」
クリュウのキーストーンと、アブソルのメガストーンが反応し、光を放つ。
「見せてやるぜ……熱く固い俺たちの絆、そしてノワキの絆をな! アブソル、メガシンカだ!」