魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第94話 悪vs悪の最終戦! 災禍のメガアブソル

クリュウのキーストーンと、アブソルのメガストーンが光を放ち、七つの光が繋がる。

眩い光がアブソルを包み、その姿を変えていく。

漆黒の鎌や尻尾が悪魔の翼のように形状を変え、さらにメガシンカエネルギーを受けて純白の体毛が伸びてゆく。

刹那、体毛が翼のように逆立つ。頭部の鎌とは対照的に、その形はさながら天使の翼のようだ。

体毛を羽ばたかせて煌めく光を吹き飛ばし、アブソルがメガシンカを遂げる。

純白の翼からは凄まじいオーラが迸り、見るもの全てを威圧しているかのようだ。

「これが……メガアブソル……!」

アブソルのメガシンカした姿、メガアブソル。迸るオーラが、あらゆる穢れを遮断するかのようにアブソルを覆う。

「さあ……こいつの真の実力、とくと味わいな! アブソル、イビルスラッシュ!」

アブソルが地を蹴り、風のように駆ける。

瞬く間にワルビルの眼前まで迫ると、闇の力を込めて悪魔の翼のような黒刃を振り下ろす。

「来るよっ、ワルビル! 噛み砕く!」

咄嗟にワルビルも大顎を開き、自慢の咬合力で対抗する。

だが、

「くっ……!」

やはりと言うべきか、メガシンカしたことで攻撃力が大きく上昇している。

必死に喰らい付くワルビルだが、次第に押されていく。最後にはアブソルが首を振ってワルビルを地面に叩きつけ、牙を引き剥がしてしまう。

「まだまだ! ワルビル、穴を掘る!」

地面に伏したのを逆に利用し、ワルビルはそのままの体勢で即座に地中に潜ると、

「燕返し!」

地中からアブソルとの距離を詰め、素早く地中から飛び出し、刀を振り抜くように左腕を振るう。

「不意打ち!」

だが、やはりアブソルはワルビルの穴を掘るの軌道を読んでいる。

一瞬の隙をついて懐に潜り込み、同時に前脚を突き出してワルビルの腕を弾く。

「まだ終わってませんよ! シャドークロー!」

燕返しを弾かれ、それでもワルビルは右腕に黒い影を纏わせる。

効果今ひとつではあるが、漆黒の鉤爪がアブソルを切り裂き、

「もう一度燕返し!」

立て続けに腕を刀の如く振り抜き、アブソルを叩き飛ばす。

やはりワルビルの特性、威嚇が効いている。今の場面もそう。アブソルの攻撃力が下がっているおかげで、スムーズに追撃を仕掛けることができているのだ。

「ワルビル、深追いは危ないよ。一旦整えよう」

追撃の構えを取るワルビルだったが、ハルは攻撃の指示は出さず、ワルビルもそれに従いハルの元へと下がる。

「おや、畳み掛けるチャンスだったんじゃないのか?」

「引っ掛かりませんよ。追撃するなら大きく体勢を崩さないと、不意打ちから流れを持っていかれかねませんからね」

厄介なのはやはり不意打ちだ。タイミング次第ではこちらの出端を挫かれるだけでなく、一気にペースを握られる可能性もある。

それに加えてメガアブソルの圧倒的な攻撃性能。スピードとパワーを兼ね備え、主力の悪タイプの技に加えて氷と炎という使い勝手のよい遠距離攻撃を併せ持つ。

「来ないならこっちから行くぜ。アブソル、火炎放射!」

瞳を紅蓮に染め、アブソルが燃え盛る灼熱の炎を放つ。

「ワルビル、躱して燕返し!」

受けの戦法と言えど、即座に反撃のできない特殊技を受けるのは得策ではない。

迫り来る炎を掻い潜り、ワルビルは腕を構えてアブソルとの距離を詰めていく。

「弾き飛ばせ! イビルスラッシュ!」

燕返しは回避のできない必中技、アブソルは真っ向からワルビルを迎え撃つ。

立て続けに振るうワルビルの腕を、アブソルは闇の力を込めた刃で易々と弾き返していく。

「切り裂け!」

「させない! 噛み砕く!」

ワルビルの動きが僅かに鈍ったところへ、アブソルは垂直に黒刃を振り下ろす。

対して、ワルビルは再び大顎を開く。

刃に噛み付き、さらに両手で刃をがっぷりと抑え込み、全力でアブソルの刃を受け止める。

ここまでやってようやくではあるが、メガアブソルのイビルスラッシュを食い止めた。

「燕返しだ!」

アブソルをその場に縫い止めたワルビルは、拘束を解くと同時に太い尻尾を横薙ぎに振るう。

尻尾の一撃がクリーンヒットし、アブソルを叩き飛ばす。ようやく、手応えのある一撃が入った。

「仕掛けるなら今だ! ワルビル、シャドークロー!」

大きく体勢を崩せば、不意打ちも間に合わない。

待ってましたとばかりに、ワルビルはニヤリと笑い、両腕に漆黒の影の爪を纏わせて切り込んでいく。

「アブソル、立て直せ! 冷凍ビームだ!」

アブソルも起き上がると同時に凍える冷気の光線を発射。

ワルビルを牽制し、その隙に体勢を立て直すと、

「イビルスラッシュ!」

影の爪を構えるワルビルに対し、返り討たんと飛び掛かる。

「ワルビル、来るよ! 気をつけて!」

身構えるワルビルだが、アブソルは速い。ワルビルの眼前に迫り、鎌を振りかぶると見せかけ瞬時に背後へと回る。

気配を察知し腕を背後に突き出すワルビルだが、アブソルはそこからさらにワルビルの右横へ移動、間髪入れずに闇の力を込めた鎌を振り下ろし、斬撃と共にワルビルを吹き飛ばした。

「っ……! この一瞬で、二回もフェイントを掛けた……!?」

「これが俺様のアブソルの機動力だぜ。さあ、畳み掛けろ! 冷凍ビーム!」

地面に落ちたワルビルへ、アブソルが立て続けに冷気の光線を放つ。

「まずいっ、ワルビル! 躱して!」

地に伏したワルビルは四肢を使い跳躍、何とか冷凍ビームの回避には成功するが、

「上だ! 火炎放射!」

跳んだ直後、さらに放射された灼熱の炎までは回避できず、ワルビルは炎に焼かれて再び地に落ちてしまう。

「イビルスラッシュ!」

「空中がダメなら……地下だ! ワルビル、穴を掘る!」

ワルビルが素早く穴を掘り、地中へと身を隠す。

一気に接近したアブソルが鎌を振るうが、間一髪のところで潜伏に成功、アブソルの刃は空を切り、

「今だ、ワルビル!」

潜ったその場所から即座にワルビルが飛び出し、攻撃直後のアブソルを殴り飛ばす。

「っ!」

「逃がさない! ワルビル、噛み砕く!」

宙に打ち上げられたアブソルを狙い、ワルビルは大顎を開く。

頑丈な牙を食い込ませて動きを封じ、首を振るい、アブソルを地面へと叩きつけた。

「ワルビル、一気に行くよ! 燕返し!」

起きあがろうとするアブソルを一気に仕留めるべく、ワルビルが飛び掛かる。

しかし、

「冷凍ビーム!」

腕を叩きつけられたアブソルは怯まなかった。真紅の瞳がギョロリと動き、ワルビルを捉える。

刹那。

凍てつく冷気の光線が、ワルビルを捉えた。

「そんな……ッ! ワルビル!」

腹部に冷凍光線の直撃を受け、ワルビルの半身、腹から下が凍りついていく。

ワルビルを覆う氷は床まで広がり、ワルビルは完全に地面に縫いとめられてしまった。

必死にもがくワルビルだが、氷が割れる様子はない。

そもそも、氷技はワルビルにとって効果抜群なのだ。こうしている今も、纏わりつく冷気がワルビルの体力を蝕んでいる。

「その状態で放っておくのも酷だろう。次の一撃で終わりにする。まだ終わりたくないってんなら、お前たちの根性と意地、見せてみやがれ! アブソル、イビルスラッシュ!」

クリュウが叫び、アブソルが地を駆ける。

身動きの出来ないワルビルに対し、容赦無く闇の黒刃を振り下ろす。

「ワルビルっ!!」

ハルの叫び声に対し、ワルビルは、分かっている、と言わんばかりに猛り吼える。

動けなかろうが、まだバトルは終わっていない。最後の力を振り絞り、最大の武器である大顎を開き、アブソルの刃へ噛み付いた。

それでも、やはり氷に力を奪われ続けている今のワルビルのパワーでは、メガアブソルには敵わない。

大顎と両腕で刃を押し留めようと踏ん張るが、徐々にアブソルのオーラに押し潰されていく。

だが。

「ワルビル……っ!」

まだ、終われない。負けられない。

主人の声は届いた。こんなところで、諦めている場合ではない。

ジムリーダーのエースポケモンの相手に、ハルは自分を選んだのだ。今こそその期待に応え、特訓の成果を見せる時。

打ち倒すべき相手の姿をその瞳に映し、ワルビルがカッと目を見開いた。

 

刹那。

ワルビルの体が、青く眩い光を放つ。

 

「こっ……これは……!」

ワルビルを覆う、膨大な生命エネルギーを込めて輝く光。

そして、ハルだけではなく、

「馬鹿な……」

クリュウも、この光を知っている。

そう。

「この局面で、進化するだと!?」

輝く青い光が、ワルビルに力を与えていく。

エネルギーの奔流に耐え切れず、ワルビルを覆っていた氷が音を立てて砕け散った。

光を放つシルエットが形を変えていく。身長がぐんぐん伸び、やや細身であった体つきが太く頑強に変化していく。

成長を遂げてより大きくなった大顎が、ゆっくりと開く。

咆哮と共に光が弾け飛び、ワルビルが最終進化したその姿を現した。

 

『information

 ワルビアル 威嚇ポケモン

 双眼鏡のように遠くを拡大して

 見ることができる目で獲物を探す。

 大顎は分厚い鉄板を食い破る破壊力。』

 

進化前の砂色から一転、体は紅に染まり、黒いラインがその身を刻む。

「ワルビル……! 遂に、ワルビアルに進化したんだね!」

ワダンにワルビルの進化系の存在を教えられてから、待ちに待った進化。

ハルの歓喜の声を聞き、ワルビアルは振り向いてニヤリと笑い、一声上げるが、すぐにアブソルの方へと向き直る。

「……ハッ、まさかのまさかだぜ。想定すらしてなかったよ」

呆然としていたクリュウが、ようやく口を開く。

驚いているのはハルやクリュウだけではない。見物人のノワキの住民たちも、ワルビルの進化にざわついていた。

「おいおい、最高に熱くなってきたじゃねえか。ハル、お前はどこまで俺様を楽しませりゃ気が済むんだ? こんなに熱く楽しいポケモンバトル、そうそう巡り会えるもんじゃねえってのによ」

クリュウの口元には、自然と笑みが浮かんでいた。

だが、と言葉を続ける。

「どれだけ楽しい戦いとて、いずれは終わりがやってくる。進化したとはいえ、お前のワルビアルの体力は残り少ないはずだ。この勝負、勝たせてもらうぜ」

クリュウが拳を握り締め、アブソルが翼の如き体毛を大きく広げる。

ほとんど表情の変わらないアブソルだが、その瞳に映る闘争心はより強く燃え上がっている。

「前半は同意ですが、後半はそうは行きません。勝つのは僕と、ワルビアルですよ!」

威勢のいいハルの返事と共に、ワルビアルは両腕を振り上げて雄叫びをあげる。

図鑑を取り出しワルビアルの技を確認すると、何と四つの技のうち、三つも新しい技へと変わっている。いずれも威力の高い攻撃技だ。

「ここが正念場だな! 行くぞ! アブソル、冷凍ビーム!」

「望むところです! ワルビアル、ストーンエッジ!」

双方が同時に動いた。

ここまでほとんど声を発さなかったアブソルが、甲高い叫び声と共に凍てつく冷気の光線を発射する。

対するワルビアルが太い尻尾で地面を叩くと、大地を突き破って次々と尖った岩の柱が出現。

冷気の光線は無数の岩の柱に阻まれ、ワルビアルには届かない。

「なら、イビルスラッシュ!」

アブソルが地を蹴って駆け出す。

ワルビアルが呼び起こした岩の柱を逆に利用し、姿を隠しながら不規則に距離を詰める。

「ワルビアル、気をつけて。砂中の感覚で、アブソルの位置を探るんだ」

全神経を集中させ、ワルビアルは周囲を警戒する。

風を切る音、静かな足音、僅かな要素から最大限の情報を得るべく、ワルビアルはアブソルの動きを感覚で追う。

そして、

「……!」

刹那、ワルビアルが目を見開く。

岩の柱の上に立ち、上空から襲い来るアブソルの姿を、瞳に捉えた。

「ワルビアル! ドラゴンクロー!」

ワルビアルの両腕が光を纏い、輝く竜爪を作り上げる。輝く竜爪のオーラを携え、アブソルを迎え撃つ。

両者が激突、しかし落下の勢いを乗せた分アブソルの方が上回る。

競り合った末、闇の力を込めた漆黒の刃が竜爪を両断する。

だが。

「今だ! 噛み砕く!」

黒き一太刀を受けたワルビアルは怯まなかった。

大顎を開き、攻撃直後のアブソルを捕らえ、固い牙を食い込ませ、締め上げる。

「なっ――」

「ワルビアル! 次で決めるよ!」

ハルの言葉にワルビアルは頷き、大きく首を振り回す。

アブソルを投げ飛ばし、地面に叩きつけ、

「地震だ!」

渾身の力を込めて、ワルビアルが右脚で地面を踏み付ける。

ワルビアルを中心に大地が揺れ、衝撃波が発生。

強烈な衝撃波にその身に受け、アブソルが吹き飛ばされた。

「っ、アブソル!?」

アブソルが宙を舞い、再び地面に叩きつけられる。

一拍置いて、アブソルの体を七色の光が包む。

その光が弾け飛ぶと、アブソルは元の姿へと戻り、目を回して倒れていた。

すなわち、

 

「……あ、アブソル、戦闘不能。ワルビアルの勝利です。よって勝者、チャレンジャー、ハル……!」

 

「よっ……しゃあああああ! ワルビアル! 僕たち、勝ったよ! 勝ったんだ!」

ハルの歓喜の叫びにより、少し遅れてワルビアルも自身がジム戦を制したことに気づき、天高く雄叫びをあげる。

「カッコよかったよ! よく頑張ったね……って、うわあ!?」

ハルが急に素っ頓狂な声を上げたのは、喜び勇むワルビアルに両手で抱え上げられてしまったからだ。

「負けたな……アブソル、お前が熱くなるなんて、珍しいこともあるもんだ」

クリュウは倒れるアブソルの側にしゃがみ込む。声を掛けると、アブソルはバトル時には全く変化させなかった表情を崩し、ようやく小さく笑みを浮かべた。

「戻りな。ゆっくり休め」

アブソルをボールに戻すと、クリュウはようやくワルビアルから下ろしてもらえたハルへと歩み寄る。

「やるじゃねえか、ハル。ジム戦は久々だったが、俺もアブソルたちも決して腕が鈍ってたわけじゃねえ。見事なバトルだったぜ」

「ありがとうございます、でもクリュウさんも本当に強かったです。僕もワルビアルも、ギリギリでした」

周囲からは、ノワキの住民たちがハルへの賞賛を囃し立てる。

ハルの言葉を聞き、クリュウはニヤリと笑う。

「そりゃ嬉しいねぇ。さて、形式上のものとはいえここも立派な公式のポケモンジムであり、お前はジム戦に勝利した。と、いうことはだ。ゼンタ、あれを」

クリュウが振り向くと、人混みの中からゼンタが小箱を持ってくる。

箱を受け取り、クリュウはその中からジムバッジを取り出す。黒い片翼の形の真ん中に、白いDの文字が刻まれたバッジだ。

「こいつはノワキジム制覇の証、デーモンバッジ。このバッジを持ってるやつは滅多にいねえから、自慢できるぜ? バッジケースに大事に飾っときな」

「はい、ありがとうございます!」

冗談めかして笑うクリュウから、デーモンバッジを受け取る。

このバッジは、ハルにとってただのジム制覇の証だけではなく、ノワキの住民たちとの友情の証ともなった。

と、そこで。

「あの、ハル。クリュウさん。お願いがあります」

人混みから出てきて、二人に声を掛ける者がいた。

「あん? どうしたんだ、ラルド」

声の主は緑髪の少年、ラルド。ハルがノワキタウンに踏み込んだ際、図鑑とアルス・フォンを強奪したあの少年だ。

ラルドはハルとクリュウ二人を見て、深々と頭を下げた。

 

「お願いします。ハルともう一度、ポケモンバトルをさせてください。この間みたいな勘違いのバトルではなく、今度はポケモントレーナー同士として!」

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