「バトルって……僕と?」
クリュウとのジム戦を終え、デーモンバッジを受け取ったハルは、かつて図鑑とアルス・フォンを奪った少年ラルドから、ポケモンバトルの申し出を受けた。
「おい、急にどうしたんだ、ラルド?」
「えっと……お二人のバトルを見ていて、なんだかポケモントレーナーとして触発されたというか、同じところに立ちたくなったというか……なんて言ったらいいのか分からないんですけど、トレーナー同士として、もう一度正式なバトルがしたいんです」
たどたどしい様子のラルドだが、ハルとクリュウのバトルを見て、憧れのようなものを抱いたのだろう。
熱いバトルを間近で見れば、ポケモントレーナーとして高揚しないはずはない。
「……分かったよ。その申し出、受けて立つよ」
だからハルは、笑顔で応えた。
「本当か!?」
「うん。だけど、少し待っててね。ポケモンたちを元気にしてあげないといけないから」
「そりゃ勿論だ! ありがとう、恩に着るぜ!」
満面の笑みを浮かべるラルドを見て、やれやれといった様子でクリュウは首を振る。しかし、その表情は明るい。
「全く、仕方ねえやつだなお前は。っし、イロー! すぐにハルのポケモンたちを回復してやんな! 折角の機会だ、二人のバトル、俺たちで見届けてやろうじゃねえか!」
ノワキの住民たちもジムバトルに感化されていたのだろう。クリュウの言葉に続き、歓声が上がる。
「あいあい。そんじゃハル、一回ポケモンセンターまで戻ろっか。ラルド、ちょっと待っててなー?」
イローに連れられ、ハルは一度ポケモンセンターへ戻る。
そして。
「これより、ハルさん対ラルド君のポケモンバトルを始めます。使用ポケモンはお互い一体ずつです」
アンの審判の元、中央広場にハルとラルドが立つ。
「ハル、ありがとな。お前ともう一度戦えるなんて嬉しいよ」
「どういたしまして。だけど、手加減はしないよ」
「もちろんだ。俺も全力で行かせてもらうぜ」
口上も終わり、両者同時にボールを取り出す。
「出てきて、ルカリオ!」
「さあ出てこい、リザード!」
ハルのポケモンはルカリオ、対するラルドのポケモンは以前も戦ったリザード。
(この間のリザードだよね……前回は勝ってるけど、炎技の威力はなかなか強烈だった。ルカリオには効果抜群だし、気をつけないと)
一度勝利した相手だからとはいえ、ポケモンバトルにおいて油断は禁物だ。無論、油断などするはずもないが。
「やっぱりルカリオで来てくれたな。俺とリザードの力、ぶつけてやるぜ!」
そしてハルとルカリオが格上であることは、ラルドも分かっている。
ともあれ、お互いに準備は整った。
「では、ルカリオ対リザードの一本勝負を始めます。相手を戦闘不能にした側の勝利です。バトル、開始です!」
アンの開始の合図を引き金に、両者動き出す。
「リザード、火炎放射!」
「ルカリオ、波導弾!」
リザードが大きく息を吸い、吐息とともに灼熱の炎を吐き出す。
対するルカリオは両掌を構え、青い波導を一点に集めて波導のエネルギー弾を放出する。
双方の攻撃が正面から激突。攻撃力はルカリオの方が高いようで、念弾が炎を少しずつ押していくが、最終的には炎に阻まれてしまいリザードには届かない。
「続けてボーンラッシュだ!」
波導弾が防がれたと見るや、即座にルカリオは掌から噴き出す波導を槍の形へと変え、波導の槍を携え地を駆ける。
鋭い連続突きがリザードを捉え、その体勢を崩し、
「今だ、波導弾!」
手にした槍は瞬時に波導の光弾へと形を変え、リザードに命中すると同時に炸裂し、吹き飛ばした。
「やっぱり強えな……リザード、立て直すぞ! 火炎放射!」
立ち上がって低く唸ると、リザードは再び灼熱の炎を吹き出す。
「ルカリオ、こっちも行くよ! サイコパンチ!」
拳に念力を纏わせたルカリオが駆ける。
炎を掻い潜って距離を詰め、跳躍してリザードへと飛び掛かり、念力で強化した拳を突き出す。
「だったらリザード、雷パンチ!」
リザードが握り締めた拳から、バチバチと破裂音が響く。
電撃と念力、両者の拳が激突し、互いが弾き飛ばされる。
「今だっ、ドラゴンテール!」
その次の動きはリザードの方が早かった。
炎を灯した尻尾を思い切り振り払い、ルカリオに強靭な尻尾の一撃を叩き込んで吹き飛ばし、
「火炎放射!」
大きく息を吸い、吐息と共に放つ灼熱の炎でルカリオを狙う。
「っ! ルカリオ、守って! 発勁!」
回避は間に合わないと判断し、ルカリオは両掌に波導を纏わせ、両手を突き出して炎を迎え撃つ。
鋼の体を炎がじりじりと焼き焦がしていく。何とかルカリオは波導の力でダメージを軽減し、まだまだやれると言わんばかりに吼える。
「なかなかやるね、ラルド! ルカリオ、僕たちも出し惜しみしてる場合じゃなさそうだね。本気で行くよ!」
ハルの言葉に、もちろんだと言わんばかりにルカリオは頷く。
ルカリオの右手に付けた腕輪、そこに填められたメガストーンが、陽の光を反射して輝く。
(来るのか……!)
ラルドの頬を冷や汗が伝う。その反面、表情には自然と笑みが溢れていた。
ハルがメガシンカを使うとなれば。
ラルドは今、憧れのクリュウと同じ舞台で戦えているということになるのだ。
(そんなの……高揚しないわけがねえよな!)
「僕と君の、絆の力に応えて! ルカリオ、メガシンカだ!」
ハルのキーストーンとルカリオのメガストーンが反応し、光を放つ。
七色の光は繋がって大きな光の束となり、ルカリオを包み込んでその姿形を変えていく。
天を衝く咆哮と共に光が弾け飛び、メガシンカエネルギーと波導の力をその身に刻み、ルカリオがメガシンカを遂げる。
「高鳴ってきたぜ……! リザード、俺たちも全力ぶつけようぜ! 火炎放射!」
メガシンカしたルカリオの圧倒的なオーラを前にしても、ラルドとリザードは怯まない。
寧ろ瞳により強まる闘志を滾らせ、大きく息を吸い、リザードが灼熱の炎を吹き出す。
「ルカリオ、波導弾!」
対するルカリオは両腕を構え、掌から波導を一点に集めた青い光弾を放つ。
双方の攻撃が再び激突、しかしメガルカリオの特性“適応力”により、格闘技の威力が増している。
紅蓮の炎を突き破って波導の念弾が突き進み、その奥にいるリザードを捉え、吹き飛ばした。
「ボーンラッシュ!」
波導の槍を携え、ルカリオが駆ける。
猛スピードでリザードとの距離を一気に詰め、青い槍の鋒を突き立てる。
「来るぞッ! ドラゴンクロー!」
目にも留まらぬ速度で立て続けに刺突を放つルカリオに対し、リザードは咄嗟に両腕へ光の竜爪を作り上げ、波動の槍の猛攻を何とか防ぎ切った。
「雷パンチ!」
「発勁!」
リザードの拳が電撃を、ルカリオの掌が波導を纏う。
互いの突き出した一撃が衝突。
刹那、ルカリオの掌から波導の力が炸裂し、リザードの雷の拳を打ち破り、吹き飛ばした。
「くっ、やっぱ強え……! これが、ハルとルカリオの力なんだな……!」
力の差は明確に感じる。目の前の相手は、自分より明らかに強い。
それでもなお。
ラルドとリザードは揺るがない。
「ルカリオ、サイコパンチ!」
ルカリオが拳を握り締め、波導と共に念力を纏わせる。
「躱せリザード! 躱して、ドラゴンテールだ!」
地を蹴って飛び出し、一気に迫り来るルカリオの繰り出す拳を、リザードは大きく身を捻って回避する。
そのまま遠心力で勢いを乗せた尻尾を振り抜き、ルカリオの腹へと打ち据える。
「火炎放射!」
「ボーンラッシュ!」
さらにリザードが灼熱の炎を吐き出し、対するルカリオは腕を覆う波導を槍の形へと変える。
曲芸が如く槍を舞わし、リザードの放つ業火を食い止め、
「波導弾!」
その槍をさらに波導の光弾へと変化させ、掌から撃ち出す。
「リザード、守れ! ドラゴンクロー!」
回避不可能の波導弾に対し、リザードは両腕に光の竜爪を作り上げ、防御の体勢を取る。
ズザザザザッ!! と地面を擦る音が響く。
波導弾の直撃を受け、ラルドの元まで押し戻されたが、それでもリザードは地に足をつけて耐え切った。
「まだだよ! 発勁!」
だがルカリオの攻撃はまだ終わっていない。跳躍して一気にリザードの目の前まで距離を詰め、波導を纏った手をリザードへと叩きつける。
次の瞬間、ルカリオの掌から波導が炸裂し、リザードは今度こそ吹き飛ばされた。
「っ! リザード!?」
吹き飛ばされ、リザードが地面を転がる。
まだ戦闘不能になってはいないようだが、立て続けの被弾でダメージはかなり大きいはずだ。
それでも、リザードは立ち上がる。
絶対に折れない、ラルドの闘志に呼応し。
刹那。
リザードの尻尾の炎が、大きく、激しく膨れ上がる。
「っ! これは……!」
「来たぜ、猛火だ!」
猛火。
体力が残り少なくなった時、炎技の威力を強化するという、リザードの持つ特性だ。
体内に漲る炎エネルギーが規模を増し、リザードの吐息に炎が混じる。
「リザード、まだバトルは終わっちゃいない。ハルに、ノワキの皆に、俺たちの力を見せつけてやるんだ!」
ラルドの叫びに、リザードが目を見開く。
炎竜の咆哮が、天を衝く。
刹那。
リザードの体が、青白く眩い光に包まれる。
「なっ……!?」
「おい……これ……!」
ハルもラルドも、息を呑んでいた。
間違いない。この光は、先ほどのハルとクリュウの戦いでワルビルが見せたものと同じ。
つまりは、進化の光。
光に包まれるリザードが、そのシルエットを変化させていく。
体つきが次第に大きく、頑強になっていくが、最も大きい変化はその後。
背中から一際輝く一対の光が飛び出したかと思うと、大きな翼の形を作り上げたのだ。
咆哮と共に光が弾け飛び、リザードの進化した新しい姿が現れる。
『information
リザードン 火炎ポケモン
口から放つ炎は強力だが弱い者に
向けることはない。青白い炎を放つ
個体は戦いを重ねた歴戦の個体だ。』
「リザードン……!? 進化した……だって!?」
リザードの進化に一番驚いていたのは、他でもないラルド自身だった。
信じられないと言った様子で目を擦り、もう一度、進化を遂げた己の相棒の姿をその瞳に映す。
「マジかよ……! すっげえカッコいいじゃねえか、おい! リザードン、お前最高だよ! 俺たち今、最高に輝いてるぜ!?」
ラルドの喜び勇む様子を見て、リザードンも天高く咆哮し、炎を吹く。
「っと……すまねえ、ハル。バトルの最中だってのに、舞い上がっちまったな」
「ううん。ラルドとリザードンの気持ち、よく分かるよ。自分のポケモンが進化した瞬間って、最高にワクワクするもんね」
そんなラルドに対してハルはにっこりと笑い、ルカリオも頷く。
「ありがとうよ。さあ、バトルを続けなきゃな! リザードン、進化したお前の力を、ハルに見せつけてやろうぜ!」
ラルドの言葉に応え、リザードンが尻尾の炎を熱く激しく燃え上がらせる。
「ルカリオ、気をつけてね。相手は進化して乗りに乗ってる。流れは今向こうにあるはず、押し流されないようにね」
忘れてはいけない。今、リザードンは猛火の特性が発動している。
得意とする炎技の威力は、リザードの頃のものとは比べ物にならないだろう。
「行くぜッ! リザードン、火炎放射!」
リザードンが大きく息を吸い込み、灼熱の炎を放つ。
先程のリザードの火炎放射の三倍はあろうかという凄まじい規模と勢いの炎が、ルカリオへと襲い掛かる。
「ルカリオ、波導弾!」
その灼熱の業火を前に逃げも隠れもせず、ルカリオは構えた両手を突き出し、波導を一点に集めて念弾を撃ち出す。
しかし、
「……!」
競り合った末に、波導の光弾が炎に飲み込まれてしまう。
波導弾で炎の勢いを削ぐことはできていたようで、火炎放射はルカリオに届く前に消えてしまうが、それでもメガルカリオの波導弾をこのリザードンは打ち破ったのだ。
「どうやら遠距離戦は危なそうだね……それならルカリオ、発勁!」
ルカリオが地を蹴ったかと思うと、一気にリザードンとの距離を詰める。
「っ! 迎え撃てリザードン、雷パンチだ!」
波導を纏わせた右手を突き出すルカリオに対し、リザードンも迸る電撃を込めた拳を振るう。
今度は双方が真っ向から激突、だがこれはルカリオに分がある。
リザードンの特性“猛火”は強力だが、強化されるのは炎技のみ。
波導を纏ったルカリオの掌底がリザードンの雷の拳を押し返し、突き飛ばした。
「もう一度だ!」
「っ、守れ! ドラゴンクロー!」
右手を覆う波導をそのままに、ルカリオは駆ける。
対してリザードンは体制を崩しながらも両腕に輝く竜爪を作り上げ、防御の構えを取る。
重い一撃がリザードンを襲う。それでもリザードンは地に足をつけたまま、ルカリオの攻撃を耐え切った。
そして。
「ラルド」
「ハル!」
両者は、同時に宣言する。
「「次の一撃で、決めてやる!!」」
「ルカリオ、波導弾!」
「リザードン、火炎放射!」
ルカリオの体内を駆け巡る波導の力が、掌の一点に集約される。
砲塔が如く両腕を突き出し、構えた両掌から青く輝く波導の念弾を放出する。
対するリザードンも目を見開き、熱く燃え盛る灼熱の業火を力一杯吐き出す。
ほぼゼロ距離から繰り出された互いの全力の一撃は、一歩も譲らずにせめぎ合い、力を膨らませたその末に、二匹を大爆発に飲み込んだ。
「ルカリオっ!」
「リザードン……!」
最後に立っているのはどちらか。
爆煙が次第に晴れていく。メガシンカ後の姿を保ったまま、相手をしっかりと見据えるルカリオと、尻尾の炎を燃え上がらせ、構えを崩さないリザードン。
刹那。
リザードンの体がぐらりと傾き、静かに地に倒れ伏した。
「……決まりですね。リザードン、戦闘不能。ルカリオの勝利です」
アンがゆっくりと腕を振り上げ、バトル結果を示す。
それと同時に、ルカリオの体を七色の光が包み、元の姿へと戻した。
「よーっし! ルカリオ、お疲れ様! いいバトルだったね」
ハルが駆け寄るとルカリオは勿論だと言わんばかりに微笑み、喜ぶハルと拳を突き合わせる。
「リザードン、大丈夫か? よく頑張ったな、いいバトルだったぜ」
ラルドもリザードンの元へ駆け寄る。地面に伏したまま、リザードンは目を開き、悔しそうに唸る。
「悔しいけど、やっぱハルは強えよな。だけどリザードン、お前もカッコよかったぞ。もっと強くなって、今度は勝とうぜ」
それぞれのポケモンを労い、ボールに戻し、ハルとラルドは互いに歩み寄る。
「いいバトルだったなー!」
「リザードンもルカリオも、カッコよかったぞ!」
周囲からはノワキの住民の拍手と歓声が飛び交い、ハルとラルドの二人を讃えていた。
「ありがとうな、ハル。俺とのバトルを受け入れてくれて。ノワキのために戦ってくれたお前と、あの勘違いした戦いのままでお別れなのが我慢ならなくてさ」
「こちらこそ、いいバトルだったよ。あの件についてなら全く気にしてないから、安心して。またバトルしようね、ラルド」
「ああ。それともう一つ。ハルとのバトルのおかげで決心がついた」
「ん? 決心?」
ハルが首を傾げると、ラルドは小さく頷き、バトルを見物していたクリュウの元へ駆け寄る。
「お? どうした、ラルド。バトルが終わり我に返って、急に恥ずかしくなったか?」
「っ……やめてくださいよ! そんなこと言われると本当に恥ずかしくなるじゃないですか!」
顔を真っ赤にするラルドに対して、クリュウは悪戯っぽく笑い、
「冗談だよ。で、どうしたんだ?」
「えっと……あの、お願いがあるんです」
頬を赤らめたままそう告げたラルドの目は、クリュウから見ていつになく真剣なものに見えた。
「なんだ? 言ってみろ」
「ハルとクリュウさんのジム戦、あんなに熱いバトルは初めて見ました。あんまり上手く言い表せないけど、本当にすごいっていうか、かっこいいっていうか……俺も、あれくらいすごいバトルがしたかったんです。今のバトルはとてもいいバトルだったけど、俺的にはまだまだあのジム戦には届いていない。だから」
ラルドはそこで一呼吸置き、
「俺も、旅に出たい。マデル地方を回って、ハルみたいに、いやハルを超えられるくらいに強くなりたい。このノワキタウンを出て、旅に出させてください」
真剣な眼差しで、はっきりとそう言った。
「……………………」
しばらく呆然としていたクリュウだったが、やがて静かに息を吐く。
「フッ……マジか。まさかラルド、お前の口からそんな言葉が出てくるとは予想だにしてなかったよ。いつのまにか、成長したじゃねえか」
微かに笑いながら、クリュウは言葉を続ける。
「お前が自分の強い意志でそう願うなら、俺にはその夢を邪魔する権利はねえ。分かった。ラルド、この町を出て、この広いマデルの地を見てこい」
「……! クリュウさん……ありがとうございます!」
満面の笑みを浮かべるラルドを見て満足そうにクリュウは頷き、
「それなら」
首にかけたネックレスを指で叩き、開いた翼の形のネックレスの中からキーストーンを取り出し、ラルドへと差し出した。
「えっ……!?」
「この町を代表して、俺からの餞別だ。受け取りな」
「いや、でもこれはクリュウさんのメガシンカに……」
「言っただろ。俺にとっては、メガシンカよりも仲間の方が大切なんだ。その仲間が旅立とうってんだから、俺たちは全力で応援するぜ。このキーストーンは、離れていても仲間だというその証だ。受け取りな」
それでもラルドは少し迷っていたが、
「……ありがとうございます。これを使えるトレーナーになれるように、頑張ります」
やがて一歩進み出て、クリュウからキーストーンを受け取った。
「ま、それでも俺がメガシンカを使えなくなるのを気にするってんなら、お前に旅の中で新しいキーストーンを見つけてきてもらおうかな」
冗談めかしてクリュウは笑うと、
「とりあえず、旅の始まりはハルと一緒にイザヨイシティだな。そのキーストーンを持ってマキノに俺の名前を出せば、ポケモン図鑑やらアルス・フォンやら、トレーナーとして必要なもんは貰えるはずだ。そこから先は、お前次第ってところだな」
そこまで話すと、さて、とクリュウはノワキの住民の方へ振り向く。
「そんじゃお前ら! ラルドの旅立ちを記念して、今日は盛大に祝ってやらねえとな! 送別会ってやつだ!」
クリュウが叫ぶと、ノワキの住民たちが町を揺るがすほどの大歓声を上げる。
特殊な町だとはいえ、ノワキタウンの住民はまるで全員が家族であるかのようだ。ノワキの人々は本当に結びつきが強いのだろう。お祭り騒ぎな町の様子を見てハルがそんなふうに考えていたところで、
「おい、ハル」
「えっ? あ、はい」
急にクリュウに呼ばれ、ハルは慌てて返事を返す。
「ラルドはお前に憧れて旅に出たいって言ってるんだ。送別会、当然お前も参加するよなぁ?」
「ぼ、僕なんかでよければ、是非……」
「何を縮こまってんだ。お前はこの町のために共闘してくれた上、ラルドたちに勇気を与えてくれた。お前はとっくに、この町の奴らから認められてるんだぜ」
そんなこんなで。
ノワキタウンの少年、ラルドが旅立つことになり、その日の夜はノワキタウンの住人全員で派手にパーティーが行われた。
そして次の日の朝。
「いよいよだな、ラルド」
「はい、クリュウさん」
町の玄関であるマデルトンネル入り口の前にハルとラルドが立ち、クリュウを先頭としたノワキの住民たちが大勢で見送りに来た。
「ま、派手に送別会をやったとはいえ、ここはいつでもお前のホームだ。辛いことや困ったことがあったら、いつでも連絡寄越せよ。あと、たまには顔見せに帰って来るんだぞ」
「そうとも。離れていても、我々はノワキの絆で結ばれた仲間だということに変わりはない」
「大変なことも多いと思うけど、頑張ってね。応援してるよ、ラルド君」
クリュウに続いてゼンタやアンもラルドを激励し、他の者たちも応援の言葉を掛ける。
「んじゃ、あーしからは……これをあげよっかな」
最後に進み出てきたイローの手には、赤い星の形をしたペンダントが乗せられていた。星形の真ん中には穴が開けられている。
「これは……?」
「あーしが丹精込めて作ったお守りよん。真ん中に穴空いてるっしょ? ちょうどキーストーンが填まるくらいの大きさにしといたから。メガシンカが使えるようになったら、それを使うがよいぞ」
にっこりとイローは笑い、ラルドにペンダントを差し出す。
「イローさん……ありがとうございます! それに、他のみんなも! 俺、次に帰ってくるときには、今よりずっと成長した姿を見せるんで! 楽しみに待っててくださいね!」
ラルドの目尻には、僅かに涙が溢れていた。
「おいおい、旅に出る前から泣き出してどうすんだ? これから送り出すってのに、そんなんじゃ送り出す側も不安になっちまうぜ?」
そんな様子のラルドを見てクリュウは微笑むと、次にハルの方を向き、頭を下げた。
「そんで、ハル。お前にはここで色々と迷惑をかけたな。済まなかった」
「いえいえ、気にしてませんから。むしろ色々あったお陰で、皆さんと仲良くなれましたし」
「そう言ってくれるなら、嬉しいぜ。お前も何か困ったことがあったら俺たちを頼ってくれてもいいんだぞ。お前ならいつでも大歓迎だ」
「はい。クリュウさんも、ジム戦ありがとうございました!」
ハルがそう言うと、クリュウは満足そうに頷き、
「さて、昨日も言ったが、とりあえずまずは二人でイザヨイシティに行きな。あそこはマデル地方の最先端を行く大都市だし、ジムリーダーもノワキタウンという文化に対して理解のあるやつだ。そこで情報を色々得て、そこからはそれぞれの好きなように進むといい」
そこでクリュウは少し、ほんの少しだけ俯き、しかしすぐに顔を上げる。
「それじゃ、暫くさよならだ。さあ、行ってきな!」
「はい! 皆さんも、お元気で!」
クリュウたちに見送られ、ハルとラルドは次なる街、イザヨイシティに向けて歩き出す……
……その、直前。
ノワキの群衆の後ろの方から、声が響く。
「クリュウさん! ラルド君! ちょっと待ってください!」
人混みをかき分け、アルス・フォンを手にしたノワキの住民であろう背の高い男性が進み出てくる。
「あぁ? なんだなんだ、このいい雰囲気の時によ」
「す、すいません。ですが、今ネットニュースが流れてきまして……これを見てください」
そう言いながら、男はフォンの画面をクリュウに見せる。
そして、こう言った。
「イザヨイシティが、ゴエティアと名乗る組織に占拠されてしまったそうなんです……!」
いえ……決して投稿が遅れた理由がモンス◯ーハンターライズに熱中していたからだなどと……そのようなことがあろうはずがございません
ささ、本編へお戻りを……