魔王と救世の絆   作:インク切れ

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イザヨイシティ編――実力
第96話 囚われたイザヨイシティ


「なに……? イザヨイシティが、占拠されただと?」

ハルとラルドがイザヨイシティに向けて出発しようとした、まさにその時の出来事であった。

怪訝な表情を浮かべて、クリュウはその情報を知らせた男からフォンを受け取る。

「えっ、嘘でしょ……!?」

「イザヨイシティが、乗っ取られたってことか!?」

ハルは自分のアルス・フォンを取り出し、ラルドは慌ててクリュウの持つ画面を覗き込む。

テレビアプリに接続すると、ニュースはこう告げていた。

『臨時ニュースをお伝えします。つい先程、ゴエティアと名乗る組織に、イザヨイシティが占拠された模様です。現在、イザヨイシティの管理システムは全て遮断され、連絡が取れない状態となっており――』

どうやらガセネタではないようだ。TVニュースにされるまで大ごとになっているとなると、どうやらゴエティアは本当にイザヨイシティを乗っ取ってしまったらしい。

そこへ、唐突にクリュウのアルス・フォンからけたたましいアラームが響く。

「これは……救援申請か」

アラームを止めたクリュウは、顔をしかめて小さく舌打ちする。

「クリュウさん、今のは?」

「イザヨイシティからの救援申請だ」

ハルが尋ねると、クリュウは曇ったままの表情でそう返す。

「イザヨイのジムリーダー――マキノってやつなんだが、数少ないノワキタウンの理解者の一人でな。マキノとかカタカゲのワダンは、この町の大人たちに働き口を用意してくれたり、子供達のために寄付をしてくれてる。その代わりに、向こうの街にもしものことがあった場合に、俺たちが手を貸す約束になってるんだ。まぁ滅多なことじゃ呼ばれないはずなんだが……その救援申請が、たった今鳴ったってところだな」

なんてったって、とクリュウは言葉を続け、

「イザヨイシティはマデル地方で一番の大都市にして、科学技術の最先端を走るハイテク都市。セキュリティシステムも充実しているはずだ。どんな手段を使ったのかは知らねえが、さっきのニュースも言ってた通り、イザヨイシティは管理システムごとやられちまってるみたいだな」

そこまで言うと、ふぅ、とクリュウは息を吐き、

「ゼンタ、力自慢の若い衆を数人連れて来い」

後ろを振り向き、ゼンタに指示を出す。

ゼンタは頷き、街の方へと走っていった。

「どうするんですか」

ハルの代わりに尋ねたのは、ラルドだ。

「イザヨイに侵入する。少人数であっちの様子を探りつつ、隙があれば下っ端構成員を攫ってきてこっちで情報を吐かせる。この町にイザヨイへの抜け道がいくつかあるのは知ってるだろ。そこを使って、俺とゼンタ、あと若い衆何人かで忍び込む。動くのは情報を得た後だ。ハルとラルドはひとまずノワキで待ってろ」

クリュウがここまで説明したところで、

「クリュウ、待たせた。このくらいでいいか」

ゼンタがガタイのいい男を四人連れてきた。

「そうだな。俺たち含めて六人いりゃ充分か。残りのやつらはこの町で待機してろ。イロー、もしものことがあったら、その時は指揮を頼む」

「あいよ。任せといて」

イローが頷き、笑顔でウィンクしたのを確認し、

「よし、それじゃちょっくら言ってくるぜ」

ノワキの猛者たちを引き連れ、クリュウが行動を開始する。

 

 

 

待つこと一時間ほど。

「あっ、クリュウさん!」

広場で待機していた住民たちのうち、真っ先に気づいたアンが叫ぶ。

「いやはや、すっげえことになってるぜ」

アンの目線の先には、意気揚々と歩いてくるクリュウたち六人。

その六人に、簀巻きにされて身動きできなくなった三人の黒装束が担がれていた。

「イザヨイのシステムが完全に止まってる。電光掲示板も動く歩道も、何一つ機能しちゃいねえ。救援申請が来るのも納得の惨状だったぜ」

しかし、最初の作戦は上手くいったらしい。

担いできた黒装束の男たちを無造作に地面に投げ捨てる。果たしてこいつらから、どれくらいの情報を聞き出せるか。

「イロー、女子供たちをちょっくらポケモンセンターに避難させときな。今からちょっと刺激が強いことをするからよ」

「あいあい。あんまり派手にやっちゃダメよん?」

「ハッ、それは保証できねえな。さ、女子供たち、イローに着いてってポケモンセンターに戻んな。俺たちゃここでちょっと仕事があるからよ」

 

 

 

さらに数十分後。

「終わったぜ」

ハルやラルドたちが待機するポケモンセンターへ、クリュウたちが戻ってきた。

「おかえりー。なんかいい情報吐かせた?」

「ああ、収穫は充分だ。まず……」

六人を出迎えたイローたちに笑顔で応え、クリュウは説明を始める。

「イザヨイシティを占拠した理由だが、明確な理由はまだ不明。下っ端構成員には目的は伝えられず、ただ魔神卿とかいうやつらからの実行指示に従っていただけのようだな。ただ、推察することはできる」

なぜなら、と続け、

「現在イザヨイシティにいる魔神卿は三人だそうだ。そのうち一人は街中の見張り、残る二人はある建物の中に入っていったらしい。その建物とはずばり、アルスエンタープライズ本社」

アルスエンタープライズ。

カントー地方のシルフカンパニーやホウエン地方のデボンコーポレーションといった他地方の有名企業に肩を並べる、マデル地方きっての大企業。ハルたちが持つアルス・フォンを開発したのもここだ。

「なるほど……狙いはアルスエンタープライズの何らかの技術ってわけだな」

ハルの隣にいるラルドが呟く。

「おそらくな。そこでだ」

ラルドの言葉に頷いたクリュウは、ハルの方を向き、

「ハル。お前は多分、少なくとも俺たちよりはゴエティアに詳しいだろイザヨイシティに動員されている魔神卿の名前だが、パイモン、ロノウェ、アスタロトというそうだ。こいつらのこと、分かるか」

「三人とも分かりますよ。その三人、この目で見てます」

実際は三人どころではなく、魔神卿七人を全員知っているのだが。

今は魔神卿の人数は関係ないので、ハルはそこには触れず、

「アスタロトの実力は分かりませんが、ロノウェとパイモンはかなりの実力者です。特にパイモンに関しては、シュンインシティのジムリーダー、イチイさんをも軽くあしらえる難敵です。ただ……」

「ただ?」

「パイモンと何度か遭遇してるんですけど……理由は分からないんですが、パイモンは“ハルくんはぼくのお気に入りだから”とか何とかで、今のところ僕に対しては攻撃を仕掛けてきません。だからクリュウさん、僕もイザヨイシティに連れていってもらえませんか。パイモンがいるなら都合がいい。アルスエンタープライズには、僕が乗り込みます」

ハルの申し出に、クリュウは少し考え込む。

「お前の言いたいことは分かった。だが簡単には首を縦には振れねえな。この救援申請はノワキタウンに向けてきたものだ。お前はそれに巻き込まれる覚悟はあるのか?」

「勿論です。実はノワキに来る前から、ゴエティアにやられたい放題なんですよ。そろそろ、あいつらに一矢報いたいんです。力を貸してもらえませんか、クリュウさん」

ハルの眼差しに、クリュウは小さく息を吐いた。

「やれやれ……困ったことがあったら頼れって、さっき言ったばっかだったしな。一対一とはいえゼンタを倒したお前なら、戦力にはなるだろう。ハル、お前の言葉を信じて、パイモンはお前に任せよう」

「……! ありがとうございます!」

パイモンが相手なら好都合だ。

攻撃してこないのを逆手に取って、こちらから出向いてやる。

「だがもう一人、アスタロトってやつもいるんだろ。お前一人じゃ心配だし……そうだな、ラルド、ゼンタ。お前たち二人はハルと一緒にアルスエンタープライズに行け。元々これはノワキタウンで解決すべき案件だ。ハルに余計な負担をかけるな」

「了解です」

「いいだろう」

ラルドとゼンタが答える。クリュウは次に、

「他の戦える者たちは俺と来い。街中で派手に暴れ散らして、見張りのロノウェってやつを引きつける。その間にゼンタたち三人がアルスエンタープライズに突入、パイモン及びアスタロトと交戦、そして、その隙に」

クリュウが目を向けた先は、

「最後はイロー、お前の出番だ。ゴエティアの連中が俺たちから目を離せなくなったところで、マキノを助け出せ。そうすれば、後はあいつが勝手に何とかするはずだ」

「ん、りょーかい。突入のタイミングは?」

「俺が通知を送るから、最初はノワキで待機してろ。一回目のワンコールでイザヨイに潜入、二回目のワンコールを合図に、イザヨイジムへと向かい、マキノを救出。頼むぜ」

「あいあい。任せとき」

準備は整った。

その後、クリュウは出撃メンバーと待機メンバーを分け、イザヨイシティ救出作戦がいよいよ始まる。

「たまには慈善活動も悪くねえな。それじゃ、行こうぜ。クソ野郎共の魔の手からイザヨイシティを解放して、奴らに吠え面かかせてやろうじゃねえか」

クリュウを先頭に、ハルたちは抜け道を通り、ゴエティアの待つイザヨイシティへと向かう。

どうやらノワキとイザヨイは目と鼻の先だったようで、三十分もしないうちに通路の先へとたどり着いた。

「ここはイザヨイシティの外れ、誰も使っていない大きな廃屋だ。いくらゴエティアでも、まさかここが別の街に繋がってるとは考えもしなかったようだな」

抜け道から出ると、そこはゼンタの説明通り、おんぼろでガラクタだらけの倉庫内だった。

廃屋の隙間からひっそりと外の様子を窺う。近未来的な建築物がいくつか並んでおり、街中の道路は噂に聞いた通り水平式エスカレーターのように動く歩道となっているが、現在は動いていない。

近くに黒装束の人間は見えない。ゼンタが言っていたように、街の外れだからだろうか。

「よし、俺たちは先に出るぜ。囮になって見張りの連中を引き付けておくから、その隙にアルスエンタープライズに忍び込め。気をつけろよ」

「分かりました」

「クリュウさんも、お気を付けて」

ゼンタが静かに頷き、ハルとラルドも小声でそう返す。

クリュウはニヤリと笑うと、ハルたち三人を倉庫に残し、引き連れた十数人と共に密かなイザヨイシティ奪還作戦を開始する。

 

 

 

 

 

背中にエレキギターを背負い、奇抜なメイクに単眼の描かれたバンダナという恐怖を煽る風貌の男、魔神卿ロノウェは、いかにも気の抜けた表情で何をするわけでもなくイザヨイシティの街中を歩き回っていた。

同僚のアスタロトから『あんたバトルは強いのに頭が良くないからなぁ』などと煽られ、頭使わなくてもできる仕事として街中の見張りを任されているのだが、

「……暇だ」

ぼそりと呟く。

やることがない。見張りと言えば聞こえはいいが、やることはパイモンかアスタロトからの連絡が来るまで街中を適当に巡回することだけ。

「……そもそも、こんな状況で外部からの侵入なんてあり得るのかね。中の状況がわからないんじゃ、警察部隊もうかつに入ってこれねえだろ」

ぶつぶつと独り言を呟くロノウェだが、実際その通りではある。

現在、イザヨイシティは全ての機能が停止状態にあり、外部との連絡は全て遮断された状態だ。それに加え、ゴエティアは外から見れば正体不明の謎の組織。外の人間からすれば、慎重にならざるを得ないはずだ。

塔のような大きな建物の前でロノウェは大欠伸をし、見張りは下っ端に任せて昼寝でもしようかと考えた、その時。

 

ドォォン!!! と。

イザヨイシティの一角に、爆音が響き渡る。

 

「!?」

今まさに一眠りしようとしていたロノウェの眠気が、吹き飛んだ。

慌てて音がした方を向けば、何やら黒煙が上がっている。

「何だ何だ……?」

明らかに異常事態。爆発となれば、何者かがイザヨイシティへ侵入、もしくは戦闘が始まっている可能性が高い。

急いでロノウェが駆けつけると、既に下っ端構成員たちも何人か集まってきていた。

そして。

爆心地には、銀髪の極道風の男を中心に、十数名の人間が立っている。

「お前ら……侵入者だな?」

ロノウェの口元が片方へ釣り上がる。

下っ端を押しのけ、愚かな侵入者たちの前へ進み出る。

「お前は」

「俺様か? 俺様はゴエティア魔神卿が一人……破壊と破滅の申し子、魔神卿ロノウェ。お前らの名に興味はねえ。哀れな侵入者共へ、阿鼻叫喚のパンクロックを聞かせてやるぜ」

背中に担いだギターを掴み、ロノウェは引き裂くような笑みを浮かべるが、

「なるほど、お前がロノウェか。ならばちょうどいい」

それを見ても、目の前の銀髪の男は顔色ひとつ変えない。

「アン、手を貸してくれ。俺とお前の二人で、こいつを相手取る。残りのメンバーは取り巻きの黒装束を片付けろ」

「了解です、クリュウさん」

クリュウと呼ばれた銀髪の男は的確に指示を出し、周りのメンバーも指示通りに動き出す。

ロノウェの前には、クリュウと呼ばれたその男と、眼鏡をかけたおかっぱ青髪のアンと呼ばれた少女が対峙する。

「ほぉ、二対一を望むか。上等だ、面白くなってきやがった。なかなか美味え仕事じゃねえか! せいぜい俺様を楽しませてくれよなぁ!?」

ギュイイイイイン!!! とギターを掻き鳴らし、ロノウェは雄叫びを上げ、モンスターボールを取り出す。

「GO! Shout! バクオング!」

ボールの中からは、騒音ポケモンのバクオングが姿を現わす。

「アン、気をつけろよ。無理に攻めようとするな、作戦通りにだ」

「ええ、分かっています」

クリュウとアンも、同時にボールを取り出す。

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