お盆休みを利用して真由子と賢治は旅行に来ていた。

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燃える。

 お盆休みを利用して真由子と賢治は旅行に来ていた。

 行き先はとある大きな都市。一面に輝く眠らぬ街が、ホテルから見下ろす真由子の目の前に広がっていた。

「こういうの見ると、わくわくするよね。だってこれ全部、私達と同じ人が作ったんだよ。今度はどんな物を作るんだろって考えると、すごく楽しい」

「ああ、そうだね…。すごいと思うけど、僕は少し、怖いとも思うな」 

 彼女の後ろからそう告げる賢治の耳に、戸を叩く音が届いた。返事をすると入り口の戸が開いて、ホテルの支配人が入ってきた。

「なにか御用ですか?」

 その支配人は恭しくお辞儀をしてから言う。

「はい、実は本日、当館のすぐ近くにある広場でとある葬儀が執り行われます。葬儀と申しましても、それはとても楽しむ事のできる場でございますので、どうぞお二人様もご参加いただければと存じます」

 それでは、と支配人はまた恭しく頭を下げて部屋から出ていき、その背中を見送った真由子と賢治は顔を見合わせた。

「楽しい葬儀だって、なんだろうね。初めて聞いた」

 そういう真由子の目はキラキラしていて、興味津々といった感じだ。

「支配人が直々に僕らを誘ってくるなんて、逆に怪しくないかな?」

 そういう賢治は眉をひそめて怪訝な顔。

 それでも、真由子の興奮が冷める様子はなかった。

 

 ホテルを出た二人は並んで広場へと向かう。夜の空気はじめっとしていて、大きく息を吸えば肺の中に水ができそうなほど湿度が高い。二人の周りには紫色の煙が漂っていた。

 広場に入ると、そこには老若男女問わず多くの人間たちが大きく組まれた火柱を囲って楽しそうに踊っていた。

 そしてみんなは笑いながら火の中に古くなったものを棄てていく。古いファックスや、着物を。

 賢治は踊り狂う人々の間に黒い亡霊が見えた。よく目を凝らして見えるそれらは、生気のない目をしていて、燃える火柱をぼうっと眺めながら漂っている。

 二人から少し離れたところにいる支配人がマイクを手に持って高らかに叫んだ。

「さあみなさん。今日は古ぼけた伝統の葬儀、そして新しい世界を祝福する日です。どうぞ遠慮なさらず、くそったれな古臭い物を燃やしてしまいましょう!」

 彼の言葉を受けて、数人の男たちが炎の前にやってきて『宗教』を捨てていった。それが燃えるさまを見て、亡霊たちが頭を抱えて嘆く。対照的に、踊り狂っている人々は歓声を上げた。

「さあ彼らに続いて、どんどん捨てていきましょう!」

 続いて老人たちがおもむろに火に近づいてきて『文化』を捨てた。巻き起こるシュプレヒコールの中で、亡霊の一部は苦しそうにうずくまり泥のように崩れた。

「…真由子はいつも新しいものを歓迎するけど…」

 大きく燃える炎の熱を感じながら賢治は言った。

「君はこういう新世界を迎え入れるって言うのかい?」

「……」

 いつも笑顔の彼女は、珍しく笑っていなかった。

 二人の目の前で『個性』が燃やされていく。

 踊り狂う人々はいよいよ狂乱状態になり、絶望する亡霊たちの腕をつかんでは炎の中に放り込み、灰にしていった。

 炎が燃える。新世界を迎える為の旧世界の葬儀は狂的な笑い声の中で繰り広げられていて、炎から立ち込める紫の煙が一層深く深く世界を包み込んでいった。

「逃げよう」

 二人のうちのどちらかが言った。そんな二人の頭の中に支配人の声が響く。

「あなたたちはいつだってこの世界からチェックアウトできるでしょう。けれども決して、この世界から逃れることは出来ない」

 紫の煙が世界に広がって、もう何も見えない。

「さあ、あなた達ももう燃やしてしまいましょうよ。あなた達の繋いだ手の中にある『愛』を。


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