キス、愛しの母   作:尾花

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12話

 王都には十分余裕をもってたどり着けた。王都にはすでにダフィールが来ており、次の波にも参加すると伝えられた。私とソフィも入れて総勢20人になるらしい。

 

「前より多い。なんで?」

「回を重ねるほど、波は強力になるそうです。なので人員の増加は妥当かと」

「次は他の勇者も城の兵士とか連れて行くんじゃない?」

「それはそれで、政治的にあれこれあるんです。ライヒノット様は、王とは亜人の関係で敵対している派閥ですし」

 

 ダフィールはそういうと、軽くこめかみを揉んだ。私には政治はわからないけど、色々と大変らしい。

 

「イーナ殿は波に備えて何か必要な物とかありますか?」

「……特にない」

 

 腰に着けているポーチを軽く漁ってみるが、これと言って補給が必要とは思えなかった。

 

「王都では何か問題がありましたかぁ?」

「槍の勇者様が起こした問題を盾の勇者様が解決したと言う話を聞いた」

「何をなさっているのですかぁ?」

 

 なんでもモトヤスはドラゴン退治したり飢餓に襲われた村を救ったりしていたそうだが、その後それ以上の問題が起き、ナオフミが解決したそうだ。

 イツキは隠れて動いているのか、あまり情報が入ってこないらしい。それでも私よりマシだそうだが。

 

「あと気になることがあります」

「なに?」

「王都の兵が波に向けて準備しているのですが、馬車も相当数準備されているのです」

「帰りの足なのでわぁ?」

「それならいいのだが…… そもそも、馬車も一緒に転移出来るものなのですか?」

「知らない。出来たとして、波の間馬車も守るの?」

「でもぉ、また波がどこかの村の近くで起きてぇ、軍が帰るまでその村に留まると大迷惑になるのでわぁ?」

 

 どこで起きるのかわからないのだから、村も準備の仕様がないだろう。多少兵や冒険者を増やすぐらいはどこの村もしているかもしれないが、100人規模で来られでもすれば、各々の村では対応しきれないだろう。なら、予め王都の方で準備しておく必要はある。

 なんにしろ、私が考えることではないな、と思ったが。ダフィールはどうにも気になっているらしい。ふと遠くの方にナオフミが見えた。そういえば、他の勇者たちとは前回の宴以来関わってない。何かデイドラの王が関わっている物に遭遇してないか情報を集めるのも良いだろう。そのついでに、王都の兵の動向について聞いてみるのもいいかもしれない。そうダフィールに告げ、私たちはナオフミが入って行った建物に向かった。

 

 

 

 

 ナオフミが入って行ったのは食堂らしく、ちらほらと食事をしている人がいた。少し見渡すと、隅の方でナオフミとイツキとモトヤスがいた。何やら言い争いをしているが、全員いるのは都合が良い。私は三人の下へと足を進めた。

 

「聞きたいことがある」

「イーナさん! イーナさんも尚文さんに言ってやってくださいよ!」

「イーナちゃんも尚文に何かされたのか!? てめえ尚文い!」

 

 何やら激昂している二人と、うんざりしているナオフミとその仲間たち。何やら羽の生えた少女が増えている。

 

「その羽、本物?」

「ん-? 本物だよ?」

 

 ほら、と少女は大きな鳥の魔物に姿を変えた。私はとっさに短剣を構え、距離を取った。少し遅れてソフィが、ダフィールが同じく距離を取る。

 

「こら、フィーロ! お店の中で変身しないって約束したでしょ!」

「はーい」

 

 フィーロと呼ばれた鳥の魔物は、元の少女の姿に戻った。

 

「驚かせて悪いな、イーナ。フィーロはこういう生き物だ」

「……一つ聞きたい。お前は、ハーシーンの加護を受けたのか?」

 

 フィーロに向かって問いかける。デイドラの王の一柱ハーシーンが作り出した病、人狼病。狼や熊の姿に変異し戦闘能力が向上する祝福であり、人によっては理性まで獣に落ちる呪いでもある。

 

「んー? ハーシーンって誰?」

 

 もし、この少女がハーシーンの加護を受けたのであれば、それはデイドラの王が関与している証拠になる。そう思って聞いたが、嘘をついているようにも、理性を失っているようにも見えない。だが、理性があるからと言って、ハーシーンの加護を受けていない証拠にはならない。

 

「それで、イーナの聞きたい事ってそれか?」

 

 フィーロを観察していると、ナオフミが口を挟んできた。正直、脱線しかけていたので助かった。

 

「違う。デイドラの王と波の話」

「は?」

 

 私がナオフミと同じテーブルに着くと、ソフィが私の後ろに立ち、ダフィールがイツキとモトヤスとの間に割って入れる位置に落ち着いた。どうやら他の勇者たちから私を守れる位置取りを選んでいるようだ。

 私はナオフミたちにこの一月考えていた事を話した。デイドラの王の話。タムリエルで200年前に起こったオブリビオンの動乱のこと。波と呼ばれている現象がオブリビオンの動乱に似ていること。前回の波で現れたアトロナックのこと。

 

「それで、デイドラの王が関与してそうな物を見なかった?」

「それってどんな物だよ」

「人智が及ばないような物や、頭のイカれた信者たちが集まっている祠とか」

「俺からすればこの世界は全部そんなのだよ…… お前らはどうだ?」

 

 ナオフミは渋々話を聞いていたイツキとモトヤスに問いかける。モトヤスが嫌そうに眉をひそめた。

 

「は? なんで尚文に答えなきゃいけないんだよ」

「そういうのはいい。後でやって。二人は見てない?」

「まあまあ、元康さん。元々はイーナさんの質問ですし、ここは大目に見てあげましょう。僕は当然ですが、ディメンションウェーブであったこと以外は見ていませんね。ちなみに信者というのはどういったことをする人たちですか?」

「どのデイドラの王を信仰しているかで変わる。わかりやすいのは食人を行うナミラの信徒や、モラグ・バルの信徒である吸血鬼。後は獣の姿に変わるハーシーンの加護を受けた信徒」

 

 そう言って私はフィーロをちらりと見やる。

 

「……それでフィーロを警戒しているのか。フィーロは獣になる人じゃなくて、人になる獣だ。卵から孵したし間違いない。ハーシーンとやらの信者じゃない」

「……わかった。ひとまず信じる。それで、二人は何か見てない?」

「俺も知らないなあ。エメラルドオンラインにもなかった設定だし、関係ないんじゃない?」

「僕も同じ意見です…… 食人って、人が人を食べるんですか?」

「食べる」

 

 イツキは顔を青くして口元を抑えた。ナオフミとモトヤスもぎょっとした顔でこちらを見てくる。

 

「食人って、噂とかじゃなくてマジで食べるのかよ!?」

「イーナのいた世界はどうなってるんだよ!?」

「そんなの、絶対に正義じゃありません……!」

「私に言われても困る」

 

 唖然としている三人を軽くなだめてると、王都に来た時にダフィールに言われた情報を思い出した。

 

「そういえば、モトヤスはドラゴンを倒したって聞いた」

「ん? ああ、倒したぞ! イーナちゃんにも俺の雄姿を見せたかったな…… て、そうだ、尚文! お前俺の依頼横取りしやがって!」

「だから、それは私の話が終わってから、話し合いでも殺し合いでもして」

 

 私は少しイライラしながらモトヤスの言葉を遮り、話を続ける。

 

「タムリエルでは、ドラゴンはアカトシュが生み出した存在。言葉を力に変える魔法、ドラゴンシャウトを操り、魂を滅ぼさない限りは何度でも復活する存在。こちらではどうだった?」

「ドラゴンシャウトっていうのはわからないけど、ドラゴンは間違いなく退治したから安心してくれ! それに、もしイーナちゃんやソフィちゃんが襲われたら俺が助けに行くよ!」

 

 何を考えているのか、モトヤスはこちらにウインクをしてきた。ソフィが小さく「うわぁ……」と呟いたのが聞こえた。

 

「死骸を処理せず疫病をばらまいて、死人を何人も出しておいてよく言えるな。そのうえ死骸はドラゴンゾンビなんてものになってたし」

「はあ? 何わけわかんねー事言ってんだ?」

「そうですよ、尚文さん。さては適当な事を言って、僕たちの依頼を横取りした件を煙に巻こうとしてますね?」

 

 三人はまたギャーギャー騒ぎだした。私はそれを尻目に、ナオフミの話について考える。

 モトヤスが倒したドラゴンはゾンビになったらしい。ドラゴンがアンデッドになるのだろうか。アンデッド自体はスカイリムにも多くいた。スケルトン、ドラウグル、ゴースト。だが、ドラゴンのアンデッドは聞いたことがない。

確かにドラゴンは不死の存在である。だが、復活するにはドラゴンの王であるアルドゥインの力が必要だ。死霊術などの手段で、ドラゴンをアンデッド化させることができるのだろうか。恐らく無理だろう。もし可能なら、スカイリムでもそれらが見られたはずだ。

 

 なら、アルドゥインがこの世界にいて、そのモトヤスが倒したドラゴンを復活させたのだろうか。いや、それはないだろう。アルドゥインはあの忌々しいドラゴンボーンが殺したはずだ。ドラゴンボーンはドラゴンの魂を吸収する。魂が無いなら復活出来ないはずだ。

ドラゴンの王であるアルドゥインの魂はドラゴンボーンに吸収されず、この世界にやって来たというのはどうだろうか。そして、モトヤスが倒したドラゴンをアンデッドとして復活させた。いや、仮定に仮定を重ねすぎだ。そんなのまで考慮していられない。

 

「とりあえずこの件は保留にしておきますね」

「そうしておけ、俺は犯人じゃない」

 

 私があれこれ思考を飛ばしているうちに、解散する流れになったようだ。私も席を立つと、コホンとダフィールが咳払いをした。

 

「……ああ、そうだ。王都の兵だけど、誰が波に連れて行くの? 馬車とか持っていけるの?」

「え? 何の話ですか?」

「それは騎士団とかが考える事じゃないのか?」

「……そういえば、前の波の時、イーナは結構な人数連れていたよな」

「編成っていうのがヘルプにあった。それを使ったんだけど、誰も知らないの?」

「ゲームの時はそんなの無かったな」

 

 そう言ってモトヤスたちはヘルプに目を通しだしたようだ。モトヤスとイツキは興味深そうにしているが、ナオフミは興味なさげだ。

 

「それで、大人数を波に連れていける。モトヤスとイツキで手分けして連れて行って」

「それは構いませんが、イーナさんと尚文さんはどうするんですか?」

「私は自前の人員がいる」

「尚文は無理だろ。なんて言ったって犯罪者だからな!」

 

 またもや騒ぎ出した三人に、私はため息を吐く。

 

「じゃあ、後はよろしく」

 

 そう言い残して、私は食堂を後にした。

 

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