キス、愛しの母   作:尾花

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13話

 後数分で波が始まる。私たちは前回のように、龍刻の砂時計のある広場に行ったが、他の勇者の姿はなかった。兵士の姿もなく、ちらほらと冒険者らしき人がいるだけだ。

 

「他の人がいませんねぇ」

「集合場所が違うのでは? イーナ殿は何か聞いてますか?」

「知らない。最終的に同じ場所に転移するのなら、どこにいてもいいんじゃない?」

「えぇー? ちょっと協調性がなさすぎませんかぁ? 私たちみたいのが一番周りの事考えてるって正直どうなんですかぁ?」

「もともと話し合っていたわけでもないし、仕方ない」

 

 できれば軽く打ち合わせみたいな事をしておきたくて、早い時間からここで待っていたのだが、来ないのなら仕方ない。前に会った時にしておけば良かった、と軽くため息を吐く。

 

「昨日のうちにでも、どうにか連絡を取っておけば良かったですね。申し訳ありません」

「前回もこんな感じだったし、この国の危機対応がこの程度ってことでしょう? 私たちだけやきもきしても仕方ない」

「少なくとも頭数はいるでしょうしぃ、私たちは波に向かえばいいのではないですかぁ?」

「そうだな。準備していた兵の数からして、近くの村や町の防備は任せても良いと私も思う。ただ、他の者たちの動きを見てからの判断も必要だが…… イーナ殿はどう思いますか?」

「それでいいと思う。ちゃんと兵が来ればだけれど」

「……次回からは、ちゃんと波の前に打ち合わせをしましょう」

 

 スカイリムにいたころは、基本的に単独で任務に当たっていたし、他の兄弟たちが私に合わせてくれていた。本来なら殺しの仕事に当たらない聞こえし者が、こういった細かい事をするべきだったのかもしれないが、ナジルたちに任せっきりだった弊害だろうか。いまいちしゃっきりしないまま大きなため息を吐くと、ビキン!と大きな音が鳴り、私たちは転移した。

 

 

 

 

 前回同様、すぐさま武器を構え周囲を見渡すと、他の勇者たちと多くの兵がいた。ちゃんと人数がいることに少しほっとすると、やはり前回同様にモトヤスとイツキが波に向かって走り出した。

 

「槍の勇者様と弓の勇者様に続けえ!!」

 

 おおー!と鬨の声を上げ、全体の6割ほどの兵が波の亀裂へと向かっていった。残りは周辺の村の防備につくようだ。

 

「ダフィール、近くに村はある? 防備の手は足りそう? 波の方に向かった人数のほうが多いけど」

「村はあります。足りるかどうかは魔物の数と質次第かと」

 

 なら一度、村の防備を確認してから亀裂に向かった方が良いかもしれない。そう考えたが、ナオフミに声をかけられた。

 

「イーナ! 俺が村の方に行くから、お前は波を止めに行ってくれ!」

 

 そう叫ぶや否や、ナオフミは真っすぐ走って行った。どこに村があるのかちゃんと把握しているらしい。

 

「ナオフミに任せよう。ナオフミより他の二人の方が信用できない」

「……まぁ、亀裂の方に向かいましょう」

 

 亀裂の方に向かって走っていると、先に向かっていた兵たちがごちゃごちゃと戦っていた。はっきり言って、前に出るのに邪魔である。

 

「剣の勇者のお通りだぁ、とか叫んでみますかぁ?」

「絶対にやめて」

 

 軽口を叩きながら大きく迂回する。兵が戦っている魔物を見ると、炎の精霊だけでなく、氷の精霊まで出現していた。やはりアトロナックが混じっている。亀裂の向こうはオブリビオンなのか。そう思い空を見上げると、大きな船が飛んでいた。

 

「あれが親玉とかじゃぁないですよねぇ?」

「弓の勇者様が攻撃しているな」

 

 ダフィールの視線の先を見ると、イツキが船に向かって弓を引いていた。モトヤスはどこにいるのだろうか。

 

「とりあえず、イツキの所に行って情報を聞く」

 

 高台から攻撃しているイツキの下に着くと、数名で矢を射かけていた。空を飛んでる船に矢を射かけて効果があるのだろうか。

 

「あれが親玉?」

「イーナさん…… いえ、あの幽霊船の船首にある像を壊すと、ソウルイーターが出現します。それがボスです。なのに元康さんは船に勝手に乗り込むし…… イーナさんも像に攻撃してください」

「ここから剣でどうしろと?」

「スキルとか魔法とかあるでしょう」

「そんなのは武器で戦えない卑怯者の使う物。私は嫌」

「何バカな事を言ってるんですか……」

 

 なんにしろ、私はここからじゃ像に攻撃が届かない。なら、届く所まで近づくしかない。

 

「私たちも乗り込む」

「それは構いませんがぁ、どうやってですかぁ? ジャンプしても届きませんよ?」

「イツキ、あの船からうじゃうじゃ生えてる蛇みたいのはここまで首を伸ばしてくる?」

「元康さんがタゲ取っているので頻繁にではないですが、伸ばしてきますけど……」

「イーナ殿、まさかとは思いますが、伸びてきた首を伝って乗り込むとか仰らないですよね?」

 

 ダフィールが嫌そうな顔をして訪ねてくる。

 

「それが嫌なら、飛んでいる魔物に飛び乗って、ぴょんぴょんと船まで行く」

「そっちの方が無理ですよぉ」

 

 そう言いながらも、ソフィは軽く手首と足首を伸ばしている。ライヒノットからつけられた人員の多くは不安を顔に浮かべていた。

 

「落ちても助けられないし、少しでも自信がないならやめておいた方がいい。幸い、地上にも倒す敵は一杯いる」

 

 結局挑戦するのは私たちを含めて5名になった。地上に残って戦う者にダフィールが指示を出している。

 

「イーナさん、本当にやるつもりですか? 正直無茶だと思いますが……」

「結構太いし、何とかなると思う」

「……イーナさんたちが渡っている間は、何とか援護してみます」

「お願い」

 

 私も軽く体をほぐしていると、蛇の部分に動きがあった。明らかにこちらに狙いを定めている。一度ぐっと溜めるような動作をした後、口を開けながら突っ込んでくる。何匹か襲ってきたが、私は一番手近な蛇の鼻先に手をかけ、そのまま頭を飛び越え、胴体部分に着地する。幸い体表がぬるぬるしていることもなく、何とか渡り切れそうだ。

 

「イーナ様ぁ! この子凄く動きますぅ!」

「耐えて」

 

 当然と言えば当然だが、上に乗った私たちを振り落とそうと蛇は動き回る。試しとばかりに剣を刺して、それを支えに耐えれないかと思ったが、痛みでさらに激しく動き回るだけだった。仕方なく近くの蛇に飛び移ると、すぐそばにいたダフィールが何をしているんだと言う目で見てきた。

 

「落とされる前に渡った方がよさそう」

「当たり前です! 変な事しないでください!」

 

 何とか渡り切り、船底に空いていた大きな穴に飛び込む。少し遅れて他の人もやって来た。欠員はいないようだ。

 

「……こんな事、二度としたくありません」

「一度できたことは次も出来る」

「出来るからってぇ、したくはないですよぅ」

 

 ついてきた者の不満を聞き流していると、上の方から剣戟が聞こえてきた。どうやらモトヤスは甲板で戦っているらしい。ちらほらと船内にいるアンデッドを倒しながら上に向かっていると、見覚えのある姿が目に入った。黒い外骨殻に覆われた、人の身長程もある細長い体に大きな顎。尾の先が鋏のように分かれている。

 

「気持ち悪い虫ですねぇ」

「……シャウラス」

 

 間違いない。オブリビオンでもエセリウスでもない、スカイリムの生き物だ。なぜシャウラスがここにいる? 亀裂の向こうはオブリビオンではなくスカイリムなのか? それとも、この世界にもシャウラスはいるのか? 似ているだけで、まったく別の生き物なのか?

 

「イーナ様ぁ? どうされましたかぁ?」

 

 ふと気が付くと、すでにシャウラスは倒されていた。シャウラスが飛ばしてくる毒液は強力だが、負傷した者はいないようだ。

 

「スカイリムの生き物だった」

「今の虫がですかぁ?」

「そう」

「イーナ殿、色々お考えになるのもわかりますが、今は戦闘に集中してください」

 

 ダフィールの言うとおりである。私は軽く頭を振って、思考を切り替えた。

 

 甲板に出ると、予想通りモトヤスたちが戦っていた。ざっと見渡してみると、誰も船首の像を攻撃していないようだ。

 

「イーナちゃん! よく来てくれた! まずはこのクラーケンから倒すんだ! そうすればボスのソウルイーターが出てくる!」

 

 どうしたものかと思案していると、モトヤスから声をかけられた。私たちが渡ってきた蛇を先に倒すのだと言っている。

 

「イツキは船首の像を先に壊せと言っていた」

「はあ!? あいつ適当言いやがって! クラーケン倒してからのソウルイーターが正解なのに!」

 

 手近な敵を倒しながら会話をするが、イツキの話とどうも違う。確か二人は、この世界の情報をあらかじめ持っていたはずだ。なぜその二人で攻略方が違うのだろうか。

 

「どちらかが間違っているのでしょうか?」

「どちらも違うというのもぉ、ありそうですねぇ」

 

 近くで話を聞いていたダフィールたちも首を傾げる。

 

「考えたってわからない。だから、どっちもやる。こっちは私とソフィが残る。ダフィールたちは像の方お願い」

「像の方ですか…… どうやって攻撃しましょう……」

「船内に戻って、壁を壊せば届くんじゃない?」

「びっくりするくらい力技ですねぇ」

「はあ、まぁやってみます。では、イーナ殿、ソフィを頼みます」

「ん。そっちも気を付けて」

 

 少し呆れた様子のダフィールを送り出し、私とソフィは蛇に対峙する。

 

「え? イーナちゃんの仲間どこ行ったの?」

「イツキとモトヤスで言ってることが違ったから、イツキの言う事をやって貰いに行った」

「イツキのデマ情報に流されないでよ! 俺より樹の方を信じるのか!?」

「どちらが正しいかなんて考えてもわからない。強いて言うならどちらも信じてないから、どちらの言い分も試すだけ」

「な!?」

 

 何やらモトヤスの仲間も憤慨しだしたが、それほど変な事を言っただろうか。不敬だのなんだのと騒いでいるが、特に返事をする必要を感じなかったため、黙々と蛇を切り続ける。

 しばらく蛇を切っていると、船内からバキバキと破壊音が聞こえてきた。

 

「うわぁ、おじさんたちぃ、本当に穴開けたんですねぇ」

「これで像を壊してくれれば助かる。こいつ死ぬ気がしない」

「キリがないですよねぇ。これは違うんじゃないですかぁ?」

「いや、これであってるんだ! 俺を信じて!」

 

 実際、何頭も頭をつぶしたが、次から次へと新しい頭が湧いて出てくる。合間に近寄ってくる船長みたいなアンデッドも倒しているが、そいつもすぐに復活する。こうなるとイツキの情報が正しいのだろうか。それとも、他に何か仕掛けがあるのだろうか。

 

「イーナ様ぁ、もう船を壊しちゃいませんかぁ? おじさんたちが壁を壊せたのならぁ、船その物も壊せると思うんですよねぇ」

「ああ、いいかも」

「え? それ真面目な話?」

「この不毛な作業を続けても仕様がない。この船に何かあるのは確かだろうから、全部壊しすのもあり。ソフィ、ダフィールたちを呼んできて」

「いぇ、どうやら戻ってきたみたいですぅ」

 

 そう言われ視線を向けると、確かにダフィールたちが戻ってきた。何とも微妙そうな顔をしている。恐らく駄目だったのだろう。

 

「どうだった?」

「攻撃しても意味がない感じでした。ダメージは通っているのですが、すぐに修復されます。どうにもなりそうに無かったので戻ってきたのですが…… こちらはどうですか?」

 

 ダフィールはちらりと蛇に視線を向けて訪ねてくる。私は軽く肩をすくめた。

 

「こっちも同じ。埒が明かないから、船自体を壊そうかと思ったところ」

「酷い力技ですね……」

「他に意見があれば前向きに考える」

「もう面倒ですしぃ、片っ端から壊してみましょうよぉ」

「いやいやいや、いくら何でもそんな攻略は無いでしょ! クラーケンを倒せばソウルイーターが出るんだって!」

「そう言ってもう1時間は経ってる。どれだけ頭を潰しても減っている気がしない」

 

 どこから壊そうかと周囲を見渡すと、丁度ナオフミとイツキが船に飛び乗ってきた。

 

「遅いぞ! 何をやっている!」

「元康さん、イーナさん! なぜ船首の像を攻撃しないんですか! あれを壊さなきゃボスが出てこないのに!」

「何言ってるんだよ! クラーケンが先だろう!」

「どちらも試したけど効果が無い。きっと他の手段がある。けどそれが何かわからないから、この船を壊そうとしてる」

「はあ!?」

 

 言い争いを始めた二人を尻目に、ナオフミに状況を説明する。人手が増えれば船を壊すのも楽になるだろう。

 

「足場がなくなると不便だから、上から下へと壊していくか、下から上に壊していくか。どっちがいい?」

「降りる事を考えれば、下を残した方が降りやすそうですが……」

「おじさん、この高さなら大差ないと思いますぅ」

「いやいやいや! まだ打つべき手はあるだろう! 樹! 元康! お前らも言い争ってないで少しは連携しろ! 負ければお前たちも村人もみんな死ぬんだぞ! いい加減ゲーム感覚は捨てろ!」

「お前に言われなくてもわかってるんだよ! だからクラーケンを倒して!」

「像が先だって言ってるじゃないですか!」

「こいつら……」

 

 言い争いを続ける二人に、ナオフミは苛立ちを見せる。私は近くに寄って来ていた船長みたいはアンデッドの首を刎ねるが、やはりすぐに復活する。それを指さしながらナオフミに視線を向ける。

 

「こんな感じで、倒しても意味がない。何かあるとは思うけど、それが何かわからないから、全部壊した方が早いと思う」

「いや、今何か影が…… ラフタリア! 光の魔法だ!」

「え、あ! はい!」

 

 ナオフミの指示に従って、ラフタリアが光の魔法で辺りを照らすと、周囲のアンデッドの影がゆらりと動き、形を変えた。

 

「足元の影を攻撃しろ!」

 

 言われるがままに手近の影を攻撃すると、紫色の靄のような物が出てきた。他の影からも出ているようで、その靄が一か所に集まると、一匹のモンスターになった。

 

「やっと出てきたか! ライトニング……スピアー!」

「サンダーアロー!」

 

 モトヤスとイツキは、何やらスキルを使って攻撃しているが、これは困った。

 

「イーナ! どうした! お前も攻撃しろ!」

「届かない」

「は?」

 

 現れたソウルイーターは、上空に漂っている。私の短剣では届くはずも無かった。

 

「剣じゃ届かない。せめて弓が欲しい」

「いや、スキルとか魔法とかあるだろう!」

「そんなのは武器で戦えない卑怯者の使う技術」

「そんなこと言っている場合じゃないだろう!」

 

 確かに、モトヤスとイツキの攻撃はあまり効いている気はしなく、このまま眺めていても時間がかかるだけだ。私は少し逡巡した後、静索を駆け上り、マストの上部に登った。

 

「イーナ殿! 無茶です!」

 

 ダフィールの声を無視して、私はソウルイーターに向かって飛び降りた。落ちていく勢いそのまま、ソウルイーターの背中に短剣を突き刺す。悲鳴を上げながらのたうつソウルイーターから振り落とされまいと、さらに短剣をねじ込んでいくが、見た目ほどダメージが入っている様子がない。剣は効きにくいのだろうか。

 

「急げ! 早くしないと強力なスキルを使うぞ!」

 

 モトヤスが叫ぶと同時に、他の人もソウルイーターに攻撃を加える。ソウルイーターは更に激しく動き回り、流石に乗ったままいるのは難しくなってきた。

 

「ファスト・トルネード!」

 

 フィーロが風の魔法を使ったらしく、下から突風が吹きあがってきた。私はこれ幸いと、ソウルイーターからその魔法に向かって飛び降りる。魔法によるダメージはあるが、あの高さから落ちるよりはマシだろう。

 

「イーナ様ぁ! ご無事ですかぁ!」

「問題ない」

「あまり無茶をなさらないでくださぃ!」

「とりあえず、ナオフミの後ろに移動する」

 

 ソウルイーターの口に何やら光が集まっている。恐らくその光を飛ばしてくるのだろう。どれだけの威力かはわからないが、馬鹿正直に食らう必要もないだろう。

 私たちがナオフミの後ろに隠れると同時に、ソウルイーターが光を飛ばしてきた。それなりの威力ではあったらしく、モトヤスたちが吹き飛ばされている。

 

「すげえ自然に俺を盾にしたな」

「むしろ、避けも防ぎもしないで攻撃受けた他の人がわからない。強力なスキル使うって言ってたのモトヤスだよね?」

「馬鹿が何考えてるのか何て知らねえよ…… フィーロ!」

「うん! はいくいっくー!」

 

 ナオフミはさしてダメージを負ったようには見えず、フィーロに指示を出す。飛び上がったフィーロは、ソウルイーターを翻弄しながら攻撃を与えているが、火力が足りず、倒しきるには時間がかかりそうだ。

 

「イーナ、何か良い手段は無いか?」

「地面に降りてくれれば、殺せない道理はない。時間はかかるけど」

「そうか…… ラフタリア! 憤怒の盾を使う!」

 

 何やらパーティー内で話し合った後、ナオフミの盾が変わった。炎を纏った黒い盾だ。

 

「ああー! うああー!」

 

 目が赤く染まったナオフミは、何かに抗うかのように叫び出した。フィーロも何かに取りつかれた様にソウルイーターに攻撃をしかける。

 

「うああ! うう! ぬわあー!」

 

 まるで人が変わったかのように、ナオフミはソウルイーターに向かっていった。二人が攻撃しているのを見る限り、近寄っても出来ることが無さそうなので、回復薬を飲みながら思考を巡らす。

 二人はシェオゴラスの狂気にでも飲まれたのだろうか。いや、ナオフミは憤怒の盾と言っていた。ナオフミが怒りを覚えたものは何か。考えるまでもなく、この国と人々だろう。騙され、拒絶され、排除された。ならマラキャスに目を付けられたのかもしれない。

 

「まるでケダモノ…… あんなの勇者の戦い方ではありませんわ」

 

 赤髪の王女がナオフミに文句を言ったところで、丁度ソウルイーターが甲板に落とされたので、私も攻撃に向かう。ナオフミが抑えてくれているので楽に攻撃できるが、やはりあまりダメージが通っている気はしない。大剣を振り回した方がいいかな、と思ったタイミングで、モトヤスたちも攻撃に参加してきて、そんなスペースもなくなった。

 

「シールドプリズン!」

 

 他に手段も思い当たらなかったので、仕方なく短剣で切り刻んでいると、正気に戻ったナオフミのスキルで、ソウルイーターが鎖のついた球体に囚われた。

 

「その愚かなる罪人への我が決めたる罰の名は鉄の処女の抱擁による全身を貫かれる一撃也。叫びすらも抱かれ、苦痛に悶絶するがいい! アイアンメイデン!」

 

 ナオフミがそう詠唱すると、内側に棘の付いた棺が現れ、ソウルイーターを覆う球体ごと飲み込み、消えて行った。

 

「終わった……か……」

 

 力を使い果たしたのか、ナオフミは膝をついた。

 

「盾の力が…… あんなものだなんて……」

「次はこうはいかないぞ!」

「それってぇ、負け惜しみー?」

 

 戦闘が終わって気が抜けたのか、また軽口が始まる。いや、戦闘中もしていたか。

 

「イーナ様ぁ。とりあえず今回も終わりましたねぇ」

 

 ソフィが寄ってきたが、何か嫌な予感がしたので、軽く手で制す。

 

「どうされましたかぁ…… え?」

 

 じっと甲板を睨んでいると、そこから二体目のソウルイーターが湧いて出てきた。

 

「二体目だと!? こんなのゲームになかったぞ!」

 

 ソウルイーターの再度の出現に、私はうんざりしながらため息を吐いた。これもまた何か仕掛けがあるのだろうか。

 仕方ないので取り合えず攻撃しようと思った時、上空から落ちてくる人陰が見えた。その姿が見えた時、私は一瞬呼吸することさえ忘れた。

 

「フッ!」

 

 まるで着地する片手間のように、その手に握ったドラゴンの骨で出来た片手剣で、ソウルイーターを一太刀で屠る姿を、愕然と見つめた。

 

「星霜の書に示された通りに来たが…… ここはどこだ?」

 

 私を殺したドラゴンボーンが、そこにいた。

 


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