キス、愛しの母   作:尾花

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2話

 謁見の間に移動すると、この国の王という男が事情を説明し始める。

 世界を破滅に導く波が訪れている。その災厄を阻止する為に勇者を召喚した。それが私たち四人だそうだ。

 

 世界を救ったドラゴンボーンに殺された私に、世界を救えというのはなんという皮肉だろう。そんなことを考えているうちに、報奨がどうのと言う話は終わり、各々の自己紹介が始まった。

 

「俺の名前は北村元康、年齢は21歳、大学生だ」

 

 槍の勇者らしい男は、長い金髪をポニーテールにしている。なんとなく、簡単に色仕掛けにかかりそうだなと思った。

 

「次は僕ですね。僕の名前は川澄樹。年齢は17歳、高校生ですね」

 

 弓の勇者らしい男は、軽くうねっている短髪だ。簡単に財布をすられそうだなと思った。

 

 黒い髪をした、盾の勇者らしい男がこちらを見るが、私は軽く顎をしゃくり、先にしろと訴える。男はやや苦笑しながらも自己紹介を始めた。

 

「俺の名前は岩谷尚文。年齢は20歳、大学生だ」

 

 人のよさそうな笑みを浮かべる男に、長生きできなさそうだと思った。

 

 私以外の自己紹介が全員終わり、私に視線が集まる。仕方なく口を開こうとしたとき、王のそばにいる男が先に話し出した。

 

「先ほどから思っていましたが、王の前で顔を隠すなど、いくら勇者様とはいえいささか無礼では?」

 

 そう言われ、私はマスクとフードをしたままだと気づいた。素顔を晒すのはすこし抵抗があったが、ここで頑なに嫌がるのもどうかと思い、私はフードを脱ぎ、マスクを下げる。

 一瞬周りがざわつくが、私は特に気にせず口を開いた。

 

「イーナ。年齢は知らない」

 

 他の三人の自己紹介から、この程度でいいだろう。流石に暗殺者してますとは言えないし、言わない方がいいだろう。

 

「イーナ殿、年齢を知らないとはどういうことだ? それにその火傷は……?」

「どうも何も、そのままの意味。私は私がいつ生まれたのか知らない。気づいた時には奴隷で、それがどれくらいの期間だったのか知らない。だから自分の年はわからない。左頬の火傷は、以前住居を焼き払われたことがあって、その時に負った物」

 

 私にとって一番古い記憶は、とある死霊術死の奴隷だった時だ。何らかの方法で洗脳されていて、当時の記憶はあやふやだ。だから自分の年なんて知らないし、そもそも興味もない。

 左頬の火傷はファルクリースの聖域が焼き払われた時に負った物だ。バベットはどうにか消せないか頑張っていたが、それは叶わなかった。

 

「ふ、ふむ、そうか。フードもマスクも付けていいぞ。イーナにモトヤスにイツキだな」

「王様、俺を忘れてる」

「おおすまんな。ナオフミ殿」

「いや、まあ、しょうがないとも思うけど……」

 

 そう言って頬を掻くナオフミを横目に、私はフードとマスクを付けなおす。仕事柄、あまり素顔は見られたくない。

 

 その後話は進み、言われたとおりにステータスを確認する。

 

 イーナ

 職業 剣の勇者 Lv1

 装備 スモールソード(伝説武器)

    太古の暗殺者装備

 スキル 弓術上昇(中) 毒耐性(極大) 不意打ちダメージ2倍 消音(極大)

 魔法  無し

 

 さらっと目を通すが、よくわからない。スキルとは符呪の事だろうか。他の人が話しているのを聞くと、戦ってレベルを上げて、伝説の武器を鍛えて強くなっていくらしい。ヘルプと出ているので、そこに意識を向けてみると、何やら色々説明が出てきた。すべてに目を通すのには時間がかかりそうだ。

 

「となると仲間を募集した方が良いのかな?」

「ワシが仲間を用意しておくとしよう。なにぶん、今日は日も傾いておる。勇者殿、今日はゆっくりと休み、明日旅立つのが良いであろう。明日までに仲間になりそうな逸材を集めて置く」

 

 そう言われ、私たちは来客室へと案内され、そこで休むことになった。

 

 

 

 

 来客室の豪華なベッドに腰かけながら、私はヘルプを読み進める。しかし、読み進めてもいまいち理解できない。スキルだのウェポンブックだのわからない単語が出てくるたびに、新しいヘルプが出てくる。いつか読み終えることができるのだろうか。

 とりあえずわかるとこは、ここはタムリエルではないだろうという事だ。下手すればムンダスですらない。メルロマルク王国なんて聞いたことが無いし、こんな不可思議な武器もステータス魔法とやらも聞いたことが無い。

 そこでふと、ドーンスターの聖域で読んでいた本を思い出した。『四聖勇者の波との戦い』という本だ。今の状況と似ている。ここは本の中の世界? とすれば、あの本はデイドラの王がもたらしたアーティファクトなのだろうか。そしてオブリビオンのどこかにあるこの地に呼び出された? 仮にデイドラの王が関わっているのなら、訳が分からないのも理解できる。あれらは私たち定命の者が理解できるものではない。

 

「ねえ、イーナちゃんはこの世界はなんて名前のゲームだと思う?」

 

 答えの出ない疑問に頭を捻っていると、モトヤスが話しかけてきた。

 

「そもそも、ゲームってなに?」

「え? ゲーム知らないの?」

 

 三人にテレビだのネットだの説明されるが、さっぱりわからない。少なくともスカイリムにそんなものはなかった。

 

「そもそもイーナさんはどこの国の方ですか? 金の髪に青い目ですし、ヨーロッパあたりかと思いますが……」

「タムリエル大陸のスカイリム」

「どこだよそれ……」

 

 イツキの質問に答えると、尚文が唖然とした顔で呟いた。

 

「……聞いたことが無い大陸ですし、少なくとも地球ではなさそうですね」

「地球?」

「僕たちの住む世界……えっと、惑星の事です」

「タムリエル大陸は惑星ニルンにある」

「惑星ニルンも知らねえな……」

「私も地球なんて知らない。それはムンダスにあるの?」

「ムンダスってなんだよ……」

「ムンダスは私たち人間やエルフが住む次元のこと。ニルンはムンダスに浮かぶ惑星」

「え!? イーナちゃんのところにはエルフっ娘がいるの!? もしかしてイーナちゃんもエルフだったりする!?」

 

 突然モトヤスが叫びだした。イツキとナオフミも目を輝かせてこちらを見ている。なんなんだろうか。

 

「……私はノルド。エルフではないわ」

「エルフじゃないのか…… ノルドってどんな種族?」

「どんなと言われても……」

「元康、それくらいにしておけ。イーナが困ってる」

 

 ナオフミがそうやってモトヤスを諫める。ナオフミ自身も気になっていそうだが、一先ず収めてくれるらしい。

 

「とりあえず、少なくともイーナは異世界の人間らしい。こうなると俺たちも同じ地球じゃないんじゃないのか?」

「そんなまさか……」

「試しに常識をすり合わせてみますか? 今の首相の名前とかで」

「そうだな。せーの、で一斉に言うぞ? せーの!」

 

 三人の口から出たのは、別の名前だった。その後いろいろ話し合っていたが、同じ地球でも別の地球から来たらしい。よくわからないがそうなのだろう。

 

 その後、情報の共有は必要だとナオフミが言い、この世界に来た理由を話すことになった。

 モトヤスは男女の縺れで刺殺され、イツキはダンプカーとやらに轢かれて死んだらしい。

 

「イーナはどうなんだ?」

 

 何やら焦った様子のナオフミに話を振られる。

 

「……戦って、負けて、死んだ。それだけ」

 

 一から説明するのはどうかと思い、簡潔に告げる。

 

「……えっと、戦ったって、通り魔みたいな人に襲われたってことですか?」

 

 なぜか部屋の中が静まり返り、変な空気になったが、イツキが何とか言葉を紡いだ。

 

「おい、樹。何聞いてるんだよ」

「そ、そうですよね。すみません、イーナさん。忘れてください」

「別に構わない。スカイリムではよくあること」

「襲われて殺されるのがよくあるってどんな世界だよ……」

 

 そんなにおかしなことだろうか。私のような暗殺者や山賊、吸血鬼にドラゴン。殺し合いなんてそこかしこで起きていた。

 

「それで、尚文はどうなんだ? この流れだと聞くのもあれかもしれないが……」

「あー、うん。俺は図書館で見覚えのない本を読んでいて、気が付いたらって感じだ…… なんか、ごめん」

 

 なぜかイツキとモトヤスがナオフミに冷たい視線を送る。

 

「ナオフミは死んでないの?」

「うん、ごめん。死んでない」

「なんで謝るの?」

「なんか俺だけ不幸な身の上になっていないから後ろめたくって……」

「そんなことで? 別に、いい事じゃない」

 

 みんな死んでいたのなら、ここはソブンガルデとかの死後の世界と言うのもありえたが、ナオフミが生きているのなら違うだろう。もっとも、生者が本当に行けないのかどうかもわからないが。

 

「本を読んでたって言ったけど、この世界について書かれた本? それなら私も読んでた。まだ途中だったけど、『四聖勇者の波との戦い』って本」

「え? 本当? 俺もこの世界の本を読んでた。俺は『四聖武器書』ってタイトルだった」

 

 タイトルは違うが、同じような本を読んでいたようだ。やはりデイドラの王のような何かが関わっているのだろうか。

 

「じゃあ、樹と元康はこの世界のルールっていうかシステムは割と熟知しているのか?」

「やりこんでたぜ」

「それなりにですが」

「な、なあ。これからこの世界で戦うために色々教えてくれないか? 俺の世界には似たゲームは無かったんだよ。イーナもそうみたいだし」

「よし、元康お兄さんがある程度、常識の範囲内で教えてあげよう」

 

 そういうと、三人があれやこれや話しだした。私はそれを聞きながら、扉の外に人の気配があるのを感じる。部屋に入ってくるのでもなく、立ち去るのでもなく、ただじっとしている。まるで部屋の中の様子を伺うように。

 私は少し悩んだが、この距離で、扉を挟んでいるのに気配を読みとれる程度の相手だ、と判断し、放置することにした。

 

 少し経つと、外の気配が一人増え、最初にいた気配が遠ざかる。

 

「勇者様、お食事の用意が出来ました」

 

 扉の外からそう声をかけられ、私たちは食堂に案内された。一瞬毒物の危険性も考えたが、防具の符呪効果で毒無効だと思い、そのまま食べた。仮に毒が盛られていれば、他の誰かが倒れるだろう。それから逃げ出せばいい。

 そんな心配はよそに、何事もなく食事は終わった。

 

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