キス、愛しの母   作:尾花

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4話

 翌日、朝食を終えてしばらくすると、王からの呼び出しを受けた。

 謁見の間には、様々な服装の男女が12人並んでいる。これらが私たちの仲間になるらしい。

 仲間。私にとって仲間とは、虚無に入った家族のことだ。闇の兄弟たちのことだ。決してこのように与えられた人材の事ではない。それに、この国も昨日召喚されたばかりの私たちのことを信用してはいないだろう。なら、こいつらは私たちの監視の役割もあるだろう。

 

「さあ、未来の英雄たちよ、仕えたい勇者と供に旅立つのだ」

 

 王がそういうと、12人がバラバラに分かれて、私たちの元に集まってきた。私の前には5人、モトヤスのところに4人、イツキのところに3人、そしてナオフミのところには誰もいなかった。

 

「ちょっと王様!」

「う、うぬ。流石にワシもこのような事態が起こるとは思いもせんかった」

「人望がありませんな」

 

 嘲るように男は言う。昨日むりやり召喚されて、人望も何もないだろう。セーアエットが言っていた通り、盾の勇者は蔑まれるものらしい。でも、監視をつけないのだろうか? 私の考えすぎで、そもそも監視なんかではないのか? ただのサポート役?

 

「イーナ、お前5人もいるならわけてくれよ!」

「いいよ。いらないから全部あげる」

 

 あれこれ考えていたら、突然話を振られ、思わず本音が零れた。わけてくれと言われたナオフミも、他の者も、ポカンと口を開けている。

 

「いや、わけてくれって言った俺が言うのもなんだけど、全員っていうのはさすがに…… 均等に3人ずつとか……」

「そうだよイーナちゃん。全員だとイーナちゃんが1人になっちゃうじゃん」

「ですが尚文さん1人だけというのも…… 無理やりでは士気に関わりそうですが」

「……信用していない人に近くに居られても落ち着かない。それならいない方が良い」

 

 本音を口に出してしまった以上、さらに本音を重ねてみる。間違いなく通らないだろうが、何をするにもいない方が絶対に動きやすい。

 

「えっと、私、盾の勇者様の下へ行っても良いですよ」

 

 モトヤスのところにいた赤毛の女が片手をあげながら発言する。

 

「他にナオフミ殿の下に行っても良いというものは…… いないようだな。しょうがあるまい。ナオフミ殿はこれから自身で気に入った仲間をスカウトして人員を補充せよ。月々の援助金を配布するが、代価として他の勇者よりも今回の援助金を増やすとしよう。イーナ殿もそれでよいな?」

「は、はい!」

 

 そう答えるナオフミに続いて、私は軽くうなずいた。

 

 

 

 

 支度金として銀貨600枚を受け取り、謁見の間を出ると、先頭にいた鎧の男が自己紹介してきた。

 

「はじめまして、イーナ様。私はマルドと言います。これからよろしくお願いします」

 

 マルドに続き、他の者も次々と自己紹介する。

 

「イーナ。よろしく」

 

 簡単に挨拶すると、私はそのまま城から出る。歩きながら、なぜか私の一番近くを譲ろうとしないマルドに声をかける。

 

「銀貨600枚ってどの程度の価値? この国では宿一泊いくら?」

「宿にもよりますが、一泊一人銅貨30枚程度です。銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨一枚になります」

 

 むりやりつけられた仲間の分の宿代も払うのなら、バカにならない出費だ。どうにか一人で行動出来ないものか。

 

「……とりあえず武器が欲しい。武器屋? 鍛冶屋?はどこ?」

「ではご案内します」

 

 マルドはさっと前に出て先導する。私はそれに従いながら街並みを見渡す。スカイリムでいうなら、ソリチュードやホワイトランのように整った街並みだ。ふと大きな建物が目に留まる。おそらく、この町で城の次に大きな建物だろう。

 

「あの建物は何?」

「あれは教会です」

 

 なるほど、教会ならば大きいのも納得である。

 

「どんな神をあがめているの?」

「……そのような些末事、勇者様が気になさる必要はございません」

 

 それ以上は尋ねるな、とばかりに私の問いは跳ねのけられた。聞かれるとまずいのだろうか。何か不都合があるのだろうか。セーアエットに尋ねることが増えた。

 

 

 

 

 しばらく歩くと、おすすめらしい武器屋についた。ひと際大きな剣の看板を掲げた店だった。

 

「いらっしゃい」

 

 山賊の群れに紛れていても違和感のなさそうな店主が元気に挨拶してきた。

 

「短剣が欲しい」

「欲しいって、嬢ちゃんが使うのか?」

「そう」

 

 店主は訝しげに訪ねてきた。

 

「おい、店主。この方をどなただと思っている。剣の勇者様であらせられるイーナ様だぞ」

「剣の勇者? 嬢ちゃんがか?」

「そうらしい」

「らしいって…… あんまり勇者っぽく見えねえな」

「私もそう思う」

 

 マルドが何やら騒いでいるが、私も店主もシカトする。

 

「まあなんにしろ客っていうならいいんだけどよ。短剣でいいのか? どんなのがいい? 予算は?」

 

 そういえば、仲間とやらの装備も私がまかなうのだろうか。

 

「あなたたちの装備は?」

「私たちは自前の装備があるので今は必要ありません」

 

 マルドではない誰かが答えた。私はそれに軽くうなずく。今はという事は、そのうち必要になるのだろうか。それを私が払うのだろうか。

 

「じゃあ…… 高くても銀貨100枚程度の短剣を見せて」

「そうだなあ。じゃあこういうのはどうだ?」

 

 ごとり、と一本の短剣がカウンターに置かれる。少し黄色がかった緑色の刀身。柄の先端が刃の方向に少し湾曲している。

 

「月長石の短剣だ。あまり市場に出回らない鉱石だが、切れ味も良い」

「……エルフのダガー?」

 

 間違いない。スカイリムでは普通に流通していたエルフのダガーだ。手に取ってみると、ビリッと軽い振動のようなものが走り、思わず手から放してしまった。エルフのダガーがカウンターの上に転がる。

 

「うお、嬢ちゃん、取り扱いには気をつけてくれ」

 

 突然武器を手放した私に軽く文句をつける店主を無視する。

 ウェポンコピーが発動しました、という文章が視界に浮かぶ。ヘルプによると、ウェポンコピーした武器に伝説の武器は変形させることができるらしい。試してみると、確かに私の手にはエルフのダガーが握られていた。

 

「あん? なんで嬢ちゃんの手に月長石の短剣があるんだ?」

 

 カウンターの上にある短剣と、私の手にある短剣を交互に見ながら、困惑する店主にウェポンコピーの説明をする。

 

「はあー、伝説の武器ってのはすげえな…… ん? 手に取るだけでコピーてのが出来るって事か?」

「私も初めてだけど、多分」

「……嬢ちゃん、ちょっとこれ持ってくれねえか?」

 

 店主が差し出してきた鉄の短剣を手に取ると、問題なくコピ-できた。鉄の短剣に変化させて見せる。

 

「おいおい、まじかよ。そうか、それで槍と弓のあんちゃんは触るだけ触って帰って行ったのか…… あんにゃろうめ……」

「モトヤスとイツキ? ナオフミは?」

「ナオフミ? 盾のあんちゃんか?」

「そう」

「盾のあんちゃんは武器を持てなかったし、防具だけ買っていったな。盾には触ってもいないはずだ」

「なら知らないのかも。次来たら教えてあげて」

「構わねえけど、嬢ちゃんは月長石の短剣の代金払ってくれるんだろうな?」

 

 ぎろりと睨んでくる店主に私は軽くうなずく。商品がなくなったわけでは無いのだし、別にいいのでは?とも思ったが、変にもめて衛兵を呼ばれるのも都合が悪い。ただでさえ動きにくいのに、これ以上人の目はいらない。私は銀貨をじゃらりとカウンターに出す。

 

「……嬢ちゃん、払ってくれるのはありがたいが、こういう時は多少交渉ってのをするもんだぞ」

「交渉は苦手。それでいい」

 

 そう言い切る私に、店主は頭を抱えてため息を吐いた。

 

「3、いや、4割引きでいい。商品が実際なくなったわけじゃないしな」

「……商人としてそれでいいの?」

「言うな、俺もそう思ってんだから…… それで、防具はどうすんだ? 見たところ嬢ちゃんの防具はサイズがあってねえけど」

 

 私の防具、太古の暗殺者装備は、過去の偉人のおさがりだ。成人した男だったその暗殺者と比べ、小柄な女である私には当然ぶかぶかである。装備の符呪が壊れない程度に多少手直ししたが、それでもやはり大きい。

 

「必要ない」

「つってもよう。せめて手直しぐらいはしないか?」

「そうです、イーナ様。せめてそのお顔を隠されているフードくらいは……」

 

 唐突に会話に入ってきたマルドを当然のようにシカトし、私は手袋を外し、店主に見てみろと差し出す。

 

「ん……? なんだこれ、どうなってんだ? 下手にいじると手袋についてるスキルが壊れそうだな…… 嬢ちゃんの装備全部こうなってんのか?」

「そう」

「サイズ合わせるだけでも難しいな。わりい、嬢ちゃん」

「構わない」

 

 やはり店主にも難しいようだ。返してもらった手袋をはめなおし、私は店の外へと向かう。

 

「邪魔をした」

「おう、気をつけてな。また来い」

 

 

 

 

 街の外に出てモンスターと戦った。驚くほど弱いモンスター相手に、適度に手を抜きながら戦うも、マルドたちがやんややんやと煩い。肉体よりも精神的に疲労したままその日は街に戻った。

 

 宿でもマルドがなんやかんやと主人に文句をつけているのにうんざりしながら、宿の食堂に行くと、ナオフミが食事していた。こちらに気づいたナオフミは、軽く手を挙げて合図を送ってきた。

 

「よ、イーナ。武器屋のおっちゃんから聞いたよ。ありがとう」

「そう。お金は払った?」

「払ったよ。それと、樹と元康に渡せって請求書も持たされた」

「イーナ様! お席の準備が出来ました! どうぞこちらに!」

 

 ナオフミと話していると、マルドが少し焦りながら声を上げた。

 

「あー、イーナの仲間だよね?」

「うるさくてうざい」

「その評価はあんまりじゃ……」

 

 マルドが用意した席に向かう前に、ナオフミの耳元で一言だけ呟く。

 

「あまりこの国を信用しない方がいいかも」

「え?」

 

 ぽかんとしているナオフミを置いて、私も食事を取りに行った。

 

 

 

 

 宿の部屋は一人部屋だった。私はベッドに横になると。周囲の気配を探る。繁盛している宿なだけあって、人が多い。セーアエットのところに行くのは控えた方がよさそうだ。

 おそらく見張りの役目もあるだろうマルドたちをどうにかしなければ、なかなかどうして動きづらい。

 いっそ殺してしまおうか。いや、さすがに目立ちすぎるだろう。夜母に言われたのならそれでもいいのだが、夜母は私に声を届けてくれない。

私はエルフのダガーを抱きしめるように、丸くなって眠った。

 

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