キス、愛しの母   作:尾花

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8話

 5人パーティが3つ、総勢15人で王都へと向かう。馬車も三台だ。とても目立つ。私たちは馬車の中で設定を煮詰める。全員が冒険者で、旅の途中でなんやかんやがあって、波との戦いに力を貸してくれるという設定だ。

 

「と、いうわけでよろしいですか? イーナ殿」

「問題ない」

 

 私のパーティは、いつもの男1人と、何度か一緒に行動したことがある男が2人、そして女が1人だ。

 

「イーナ様ぁ、少しよろしいですかぁ!?」

「……何?」

「物陰に身を収めた後ぉ、襲撃する方法なのですがぁ……」

 

 目をらんらんとさせ、暗殺方法を訪ねてくる。ふわふわとした明るい茶色の髪をしたこのソフィと言う娘は、何度か盗賊の襲撃にも参加していたが、今まではあまり話しかけては来なかった。私の行動をじっとみて、自分に取り入れようとしていただけだった。私はじろりといつもの男を睨む。

 

「いやはや、姪がご迷惑をおかけします……」

「自分の姪をこんな道に引きずり込むだなんて、正気を疑うわ。ダフィール」

 

 そう、私はいつもの男の名前を知ったのだ。とは言っても、別に調べたわけでも無い。仲間として行動するのに、流石に名前も知らないのはおかしいだろう、ということで教えられた。

 

「返す言葉もありません。最初はかくれんぼのコツのようなものを教えていただけなのですが、気づけばこのようなことに…… せめて力の向かう方向性だけでもどうにかしようとしているのですが……」

 

 はっきり言って快楽殺人者にしか見えない。ボエシアやサングイン、シェオゴラスあたりに心酔しているのだろうか。そう思ったところで、愛すべき道化師をはじめとした、虚無に入った家族を思い出す。私たちもそう変わらないな、と苦笑した。

 

「いい? ソフィ。人殺しが悪いことだとも、やめろとも言わない。でも、殺しを楽しむこと、そして殺しに真摯であることだけは忘れてはだめ。私たちは暗殺者であって、殺戮者でも略奪者でもないの。もちろん結果的にそれと変わらない行動になるかもしれないけど、それだけは決して忘れてはだめよ?」

「はぃ! わかりましたぁ!」

「その間延びしたバカみたいなしゃべり方はいいわね。顔も良いし、脳が下半身にあるような男は簡単に騙せそう」

「ありがとうございますぅ!」

「イーナ殿、あまり姪の悪影響になるようなことは……」

 

 ダフィールはそういうが、鼻歌交じりに短剣の手入れをしだすソフィを見るに、手遅れだと思う。

 

 

 

 

 その後、他のパーティメンバーも含めて、こんな仕事をしたことがあるぜ自慢をしていると、王都に着いた。私はダフィールとソフィを連れて龍刻の砂時計へと向かう。他の者は宿屋の手配や情報収集に向かった。

 

「私としたことが、あんな話に夢中になってしまうとは……」

「おじさんも楽しんでたねぇ」

 

 最初は渋っていたダフィールだったが、周りの自慢を聞いていると我慢が出来なくなったのか、話に乗ってきた。ライヒノットの影たちは暗殺が主な仕事と言うわけではないが、あまり大っぴらに出来ない仕事ではある。だからこそ、自慢できる場所では自慢したくなるのだ。

 

「イーナ様の話は最高でしたわぁ」

「ズボンは上げてあげるべきかどうかいつも悩む」

 

 私はこちらの世界に来て初めて殺した路地裏の男の話をした。色仕掛けにひっかかり、ズボンを下ろしたところで股間を蹴り上げたと話したら、ソフィには大うけだったが、他の男たちは顔を引きつらせていた。

 

「ダフィールはどう? ズボンはあげた方がいい?」

「できれば上げてください」

 

 なんとも言えない顔をして、ダフィールは答えた。

 

「イーナか……?」

 

 そんな話をしていると後ろから声をかけられた。振り向くと、緑のマントを着けたナオフミがいた。なんか人相が悪くなっている。

 

「久しぶり」

「ああ……」

「ナオフミも時間の確認?」

「悪いか?」

 

 何か機嫌が悪そうだ。ナオフミの仲間らしい亜人の女もきょとんとしている。

 

「盾の勇者様は、冤罪をかけられた後、大変暮らしづらい思いをしていたので……」

 

 ダフィールが私に聞こえるくらいの小さな声で呟く。なるほど、私が王都を離れた時のことを考えれば、納得できる。

 

「私が王都を離れた時に、一緒に連れ出せばよかったね」

 

 いや、セーアエットがいたからそれも難しかったか。少なくともあの時の私は更にナオフミを連れて行こうとは思わなかっただろう。

 

「は? イーナは、俺がやってないと思っているのか……?」

「うん。そう思えるだけの情報を集めて、信用できないから王につけられた仲間を撒いて、ここから離れた。それ以上を話すなら、時間を確認してから、場所を変えて話さない?」

 

 暗に人目を避けようとナオフミに告げる。ダフィールたちも周囲を警戒しているが、ここは人通りが多い。ナオフミは少し考えた後、一つ頷いた。

 

「そうだな」

「じゃあ、砂時計?を見に行こう」

 

 そう言って、ナオフミたちと合流し、広場へと向かった。

 

 広場にある時計台に近づくと、受付のような女に案内され、龍刻の砂時計にたどり着いた。大きな砂時計を眺めていると、剣から音が聞こえ、何やら一本の光が出てきて砂時計の真ん中にある宝石を照らす。ナオフミを見ると、私と同じように盾から光が出ていた。

 すると、私の視界の隅に数字が現れた。どうやらあと20時間ほどで波が起こるらしい。

 

「ん? そこにいるのは尚文じゃねえか? お前も波に備えてきたのか?」

 

 モトヤスの声が奥から聞こえてきた。ぞろぞろと連れている仲間は全員女らしい。最初からそうだったか思い出そうとしたが、モトヤスの最初の仲間とかまったく思い出せなかった。

 

「……て、横にいるのはイーナちゃんじゃないか!? 仲間とはぐれて行方不明になったって聞いてたけど、無事だったんだ! よかった! ケガはない!?」

 

 そう言ってモトヤスは私の肩を掴んで軽く揺さぶった後、体をペタペタと触ってくる。女日照りと言うわけでもなさそうだが、どことなくいやらしさを感じる。

 

「なんで尚文なんかと一緒に…… まさか尚文! お前イーナちゃんにまで酷い事を……!」

「うるさい、モトヤス。離して」

 

 モトヤスの手を払いのけると、モトヤスはそのままナオフミを睨みつけた。

 

「ナオフミ様? こちらの方は……?」

 

 すると、今まで黙っていたナオフミの仲間が、モトヤスたちを指さす。モトヤスはじっとナオフミの仲間を見つめる。

 

「あの……」

「誰だその子。すっごく可愛いな」

 

 モトヤスはキザったらしく自己紹介をする。ラフタリアというらしいナオフミの仲間もどうすればいいのか困惑しながらも、名前を告げた。ナオフミがどんどん不機嫌になっていく。私はちらりとソフィに目を向けると、ソフィは小さく頷き、モトヤスの下に向かう。

 

「殺しちゃだめよ?」

「わかってますぅ」

 

 ソフィが私の横を通る時、小さくやり取りをする。そのままソフィはニコニコと笑いながらモトヤスの腕に絡みつく。

 

「わぁ、槍の勇者様なんですかぁ? すごいですぅ。ぜひお話を聞かせてくださぃ!」

「うわ、この子も可愛いな…… はじめまして、お嬢さん。ぜひお名前を教えてくれないかな?」

「ソフィって言いますぅ。イーナ様と共に旅をしていますぅ」

 

 モトヤスはあっさりとソフィの色仕掛けに引っかかった。自分の姪が男にくっついているのを見て、ダフィールは苦々しい顔をしている。

 

「ナオフミ、今のうちに出よう」

「は? あれお前の仲間だろ? いいのか?」

「問題ない」

 

 モトヤスやその仲間の振る舞いからしても、たとえ戦闘になったとしてもソフィなら十分逃げ切れるだろう。

 広場から出る時にイツキのパーティとすれ違ったが、軽く挨拶をするだけにとどめた。イツキの仲間が私に何やら言っていたが、これ以上時間を取られるのも嫌だったので、シカトした。

 

 

 

 

 行き先をナオフミに任せて歩いていると、召喚された次の日に利用した武器屋に着いた。

 

「ここでいいの?」

「他に思いつかなかったんだよ……」

 

 苦々しそうに呟きながら、ナオフミは店に入って行った。

 

「なんだ、アンちゃん。また来たのか…… って剣の嬢ちゃんじゃねえか! 久しぶりだな!」

「久しぶり。イツキとモトヤスはお金払いに来た?」

「いや、来ねえな。勇者の窃盗は国に言えばいいのかねぇ」

 

 挨拶ついでに気になったことを話すが、結局払っていないようだ。

 

「それで、なんのようだ? 武器の新調か?」

「いや、少し込み入った話がしたくてな。親父、場所貸してくれ」

「ああん? 何言ってんだアンちゃん?」

 

 しばらくナオフミと店主が言い合うが、結局店主が折れた。ラフタリアは申し訳なさそうにしており、ダフィールも居心地が悪そうだ。

 

「それで、説明してくれるんだろ? イーナ」

 

 私は頷いて、ナオフミに説明する。召喚された日の夜に聞いた王の会話、三勇教のこと、この国のこと。セーアエットの脱獄については言わなかった。

 

「あんなに偉そうなのに、あの王は入り婿なのかよ!?」

「じゃあ、俺は政治的にも宗教的にもこの国の敵だってことか!?」

 

 私の話に、ナオフミはいちいち憤慨した。店主は聞きたくない話だったのだろう、頭を抱えている。

 ある程度怒りを吐き出して落ち着いたのか、ナオフミは頭をガシガシと掻いた。

 

「俺はこの国を出た方がよさそうだな」

「女王が戻ってくれば、王の独裁も終わるらしい」

「いつだよ、それ」

「知らない」

 

 私の言葉に、ナオフミは大きくため息を吐いた。

 

「樹たちは今の話知っているのか?」

「私は話してないけど、頭の中に脳があるのなら多少は調べてるんじゃない?」

「期待できねえな」

 

 ナオフミが天を仰ぎ見ると同時に店の扉が開き、ソフィが戻ってきた。

 

「ただいま戻りましたぁ。なんでこんなところにいるんですかぁ?」

「こんなところで悪かったな」

 

 ソフィの言葉に店主が悪態を吐く。ラフタリアは更に申し訳なさそうにし、ダフィールはそっと目を反らした。

 

「おかえり。どうだった?」

「疲れましたぁ。1を聞けば10返ってくるのに、そのうちの8から9はただの自慢でしたしぃ、すぐに何でもかんでも買い与えようとしてくるしぃ、体触ろうとしてくるしぃ、あれ本当に勇者様ですかぁ?」

 

 ろくな情報も持ってなさそうでしたぁ、と疲れ切った声を上げた。ナオフミは何か気に入らないのか、しかめ面をしながらソフィを見ている。

 

「あ、でもぉ、一つだけぇ。そばにいた赤髪の女の人はマルティ第一王女ですぅ。間違いありません」

「やはりそうか」

「はあ!?」

 

 ソフィがもたらした情報にダフィールは頷き、ナオフミは驚愕の声を上げた。

 

「モトヤスは王に取り込まれたと考えて問題なさそう。イツキは?」

「弓の勇者様に関しては目下調査中ですぅ。仲間の鎧の男がうるさくて近づきにくいとぼやいてましたぁ」

「樹のところにいた鎧って、確かイーナの仲間じゃなかったか?」

「ああ、あのうるさいの」

「ああ、あいつか」

 

 私が思い出すのと同時に、店主も思い出したらしい。うんざりした顔をしている。

 

「親父も知ってるのか?」

「剣の嬢ちゃんが買い物に来た時にな。うるさかったぞ」

「うるさかった」

 

 私も同意する。ラフタリアだけはわからないのか、所在なさげに縮こまっていた。

 

「しかし、この国を出るにしてもどこの国に行くかだな」

「他の国は私もあまり知らない。ただ、盾の勇者を崇める盾教を国教としている国はあるらしい」

「なんだよそれ、最高じゃねえか」

「一概にそうとは言い切れません」

 

 ダフィールが口をはさむ。

 

「周辺国で盾教を国教としているのは、シルトヴェルトとシルトフリーデンです。シルトフリーデンはその浅い歴史がすべて血で塗られています。シルトヴェルトはこの国の亜人と人間の立場がそっくり入れ替わったような国で、盾の勇者様を神聖視しています。最近王都では、ナオフミ様に対して明確な危害を加えた者が殺されていますが、シルトヴェルトの者によるのではと考えられていると耳に入ってきています」

「まともな国はねえのかよ……」

 

 頬杖を突き、うんざりしたように尚文は吐き出した。

 

「いずれにせよ、この波が終わった後の話。ナオフミも自分で調べてみるといい」

「そうする」

 

 その後少し互いの行動を報告しあい、解散した。

 

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