作品置場   作:ゴマ醤油

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世界に染まる透明少女 7 8 9

 さて問題。照りつける太陽の元、私は今何をしているでしょうか?

 

「えー。どこでご飯にします翼さん! 陽炎ちゃんも何食べたい?」

 

 答えは誘拐。まあされている方なのだが。

 というのも、さっきそこで会った立花三人衆と何故か昼食を共にするということになっていた。

 無論、これは本当に偶然だ。そうでなきゃ小日向さんとかもう一人のお歌のお姉さんに似た人もいる。多分本人、なのかな? 

 

「あー、じゃあファミレスで! やっぱ女子高生の寂しいお財布の味方だよねー! 翼さんもここで良いですか?」

「ああ。大丈夫だが……」

 

 見ろあの反応。さっきから少し戸惑ってるぞ。

 やっぱりいきなり共通でない知り合いが遊びに参加とか気まずいとかいうレベルでは済まないだろうに。

 

 店に入り、うっきうきの立花とは対照的に私ら三人は苦笑いとかそういった反応で席に座る。

 立花と小日向が向こう側、ということはもちろん私の隣は青い髪の美少女である。

 

「……」

「……」

 

 案の定話はない。ドリンバーなるものに進んで取りに行った彼女達二人がいないと会話もくそもない。周りもご飯の味が変わるのではないのだろうか。

 

「おっまたせです! ってぇーあれ? なんだかとっても緊迫した雰囲気?」

 

 うるせえぞ立花。お前が蒔いた種だろう。

 せっかく初めて来たファミレスがこんな苦々しい思い出になるとは思わなかったぞ。

 なんだか申し訳なさそうな小日向さんの顔に、こっちが付いて来たこと自体に微妙に済まなさが浮かんできてしまう。

 

「響! 私達陽炎ちゃんのこと全く知らないんだよ! 翼さんだって知らない人といたら無言になるのは当たり前でしょ?」

「あーごめんね未来、翼さんに陽炎ちゃんも」

 

 頭に手を当て謝罪してくる立花。こちらに置かれた緑色の液体をストローで一口。……甘い。

 

「ではでは。翼さんの隣にいるのがとっても可愛い陽炎ちゃん! お好み焼き屋で出会った友達なんだ!」

「……陽炎です。よろしく」

「風鳴翼だ。よろしく頼む」

 

 こっちを向いて挨拶してくる風鳴さん。やっぱりこの前立花が言っていた憧れの人か。ということは何、こいつのコミュ力は自分の憧れまで繋ぐのか。恐ろしいやつ。

 

「陽炎……? 陽炎か……」

「あれ? そういえば陽炎ちゃん着替えたの?」

「さっき買ったんだよ。中々良いだろう?」

 

 小日向がこちらの服の変化に気付いたのか尋ねてくる。よく見ている奴だ。他人の服装なんてよっぽど興味なんてない限り覚えていられる訳はないと思うのだが。

 

「ごめんね。響が急に」

「いいや。別に気にしてはいないよ」

 

 そう言っておかないとまた少し空気が悪くなりそうだ。せっかくのご飯も不味くなるのは勘弁だ。ついこの場を切り刻みたくなる。

 

「お待たせしましたー。チーズハンバーグセット大盛りです」

 

 最初は気まずさ百パーセントだった空間を立花が盛り上げどうにか笑いが増えてきた頃、注文した品々が届き始める。

 とろとろのチーズがかかったハンバーグ。私が頼んだお手頃価格。

 とってもいい匂い。料金分は美味しそう。

 

「いっただーきまーす!」

 

 すぐさま全員分揃ったので食事が開始される。

 適当にナイフとフォークで食べ進める。物を切る物を食べる時に使うのは初めてだがまあ私は器用なのだ。

 

「……ふむ。食べ方が綺麗だな陽炎は。良い両親を持っていると見える」

「……まあいい教育されてましたね」

 

 意外そうに褒めてくる風鳴さん。まあ確かにいい教育をされていた。なんせ私が四つの頃にはもう人を肉を刻むこともやっていたしね。

 

 ……もぐ、もぐっ。もぐぅ……? 

 

「……ふむ。中々」

 

 風鳴さんがこっちを見てなんか言ってる。なんだろう、子供がよくおもちゃ売り場に向ける視線に似ている……?

 

「食べてる姿もキュートで可愛いよ陽炎ちゃん! いやー、やっぱ美味しいものは歌と同じくらいみんなを笑顔にするねー」

 

 立花の意見もここは賛成である。美味しいものとは時として人の争いを止ませる優れた力。美味しければだが。

 雑談に花を咲かせながら食事が進む。私には正直付いていけない話だらけだが、まあこの人達が楽しそうなら別にいいか。

 

 すぐにお皿の中は空になり、話の方に意識が集中していく。

 みんながとても良い笑顔。自然なその顔は本当に羨ましい。

 

「──そろそろ出ようか」

 

 しばらく経った時、風鳴さんの一言でゆっくりと帰る準備をし始める。

 美味しかった。やはり誰かと食べる食事はなんでか気持ちも安らぐというものだ。なんだろう。

 

 店を出ると既に夕焼け。まあ中から見えていたのだが、それにしても時間が進むのが早い。

 

「じゃあ次は──」

「そろそろ行くよ。……楽しかったよ三人とも。また会おうね」

「そう? ……気を付けて。不意に襲われるやもしれないからな」

 

 三人に心配されながら別れる。

 朝に通った道も、今はなんか違う気持ちで歩いていられる。

 何だこの気持ち。久しぶりに起こるこの胸の何かはどう名称すれば良かったか。すっかりと抜け落ちたそれはいくら考えても浮かばない。

 

「……まあ良いか。別に」

 

 何なのかわからないものには蓋をしてそのまま家に向かう。

 寄り道せずに道を歩き、階段を歩いて登る。

 近場で買ったパンの形を確かめつつ、扉を開けようとする。

 

「……あっ」

「あァ?」

 

 偶然だった。隣のドアが開き、そこから出てきた銀色の髪の少女と目が合ってしまった。

 この人何となく知っている。今日の感はよく冴えてるし。

 

 はあっ。今日はもう少し続きそうだ。

 早く布団で寝たいんだけどなぁ。

 

 

「……なんだよ」

 

 とっても気まずいまま時が流れていく。

 なんでかそうなったかは知らないが、ここは私の部屋だ。

 つまり今、この銀髪を自宅まで招き入れたということだ。

 

 なんで入れたんだろう。っていうかなんで付いてきたんだろうこの人。

 こんな場所に住んでいて、知らない人に付いて行くと良いことないのを理解できないわけじゃああるまいし。

 

 まあなるようになるだろう。

 そう思いペットボトルを相手に差し出す。中身はお茶。みんな大好き緑茶である。

 

「……お前んだろ。 ちみっこのくせして一丁前にしてんじゃねえぞ」

「生憎だが、私は見た目と年齢違うからね。気にせず飲むと良い」

「……ちっ」

 

 嫌々ながらも結局受け取って少しずつ飲み始める銀髪。

 もしかしたら、根は案外素直なのかもしれない。意外にも。

 

「──んで、なんで私を招いたんだ? 人肉趣味に駆け込んでるとかでもねぇだろお前」

「まあね。理由は……お隣さんだからってところかな。朝はごつい人がいたから監禁でもされてんのかもなってさ」

「んなわけあるかよ。あんなおっさん」

 

 なんだか微妙そうな顔で返してくる。

 どうやら一緒に住んでいるわけでもないらしい。となると、借金取りかなんかだろうか。

 

「そうかい。銀髪さんは中々にハードな人生を送っているんだね」

「てめえが言えるような立場かよ。こんなぼろっかすでガキ一人なんてよ」

 

 銀髪の意見ももっともだとは思う。

 人に言われるのは癪だが、今の外観はちびっ子そのもの。立花が子供扱いを止める気がなかったとしてもしょうがないっちゃしょうがないのだ。

 

 しかし、思ったより警戒されていないのが意外だ。

 封を切っていなかったとはいえ人から渡されたペットボトルに口をつけ、他人の部屋で話を聞く。

 根が善性なのだろう。例え私を知らないのだとしても、そうでなければ受け取ることはないだろうに。

 

「……なぁ。お前、いつからここにいんだ?」

 

 何にも話題がないことに痺れを切らしたのかあっちから振ってきた。

 話したくないなら帰ればいいのに。

 もしかして、意外と寂しがり屋? 

 

「ここにはそんなにはいないさ。前の家がノイズに壊されてね。数日前に転がり込んだのさ」

「──っ、そうかよ……」

 

 何だかとっても苦しそうな顔になる銀髪。

 どうしたのか。お茶でお腹でも痛くなったのか。

 

「どうしたん?」

「──いや、なんでもねぇよ」

 

 話す気はなさそうなのでこれ以上は聞かないことにする。

 まあ何かやらかしたのだろうが、私が気にすることではない。

 

「悪りぃ。もう帰るわ」

 

 ふらふらっと立ち上がりそのままの歩調で部屋から出て行く。

 別に止める気は無かった。だって知り合いというわけでもないし、どうせ部屋も隣だし。

 

「……はあっ」

 

 どうして話したいと思ったのか。

 今まで面と向かって誰かと話すことなどほとんどなかったのに。そんな機会すら作ろうとしなかったのに。

 思い当たる点があるとすれば、あの友達だと言ってきた元気少女に影響されたか。あいつを見ていると何故だか誰かと話したくなる。

 

 情けない。今まで人というものに触れようともしてこなかった私がいきなりこんなことを思うなんて。

 

(……馬鹿らしい)

 

 本当に馬鹿らしい。それがどれだけ愚かしいことか。

 私は所詮人もどき。この身を妖刀に犯され一度命を捨てた時に、生物としては人ではなくなっているのに。

 己の意志で人を殺め呪いの糧とした時から、人の道からも逸れているとわかっているはずなのに。

 

 ──それなのに。また誰かと話したいなんて、馬鹿らしい。

 

「……寝よ寝よっ。くだらない」

 

 まだ空は暗くなったばかりだが、適当に布団を敷きその上に転がり目を瞑る。

 眠気はないが、このくだらない悩みをどうにかするためには寝るくらいしか思いつかない。

 

(……でも懐かしい)

 

 意識が落ちるまでに残っていたのは僅かな感傷。

 誰かと話し、他者のことで悩む。

 それは久しく経験していなかったこと。

 

 ──ああ、懐かしい。本当に。

 

 

 

 

──かつて、その刃は普通の刀であった。

 とある鍛治師によって打たれた一振り。それは特別性を持たないありふれた物でしかなかった。

 

 いつからだろう。妖刀と呼ばれることになったのか。

 いつからであろう。所有者を呪う道具に成り果てたのか。

 

 残念ながらそれは知る者は最早この世には居ない。

 何故なら、それは単純なこと。

 

 ──とある少女によって、その組織ごと壊滅させられたのだから。

 

 

 

 

 

 己が疼く。五体全てに衝動を訴えかけてくる。

 殺せ。人を殺せ何かを殺せ生き物を殺せ。

 対象は関係なく、ただ何かを殺せと心を縛り付ける。

 

「──っ」

 

 抗うことは不可能。一旦は可能でもその吹き出る殺意に呑まれないのは無理。

 人もどきとして生きるためには何かから生を奪うしかない。それはこの妖刀を手にした日から何度も何度も味合わされている。

 

 人が一人、隣を横切る。

 そう、殺すのは簡単。刀を軽く当てるだけ──。

 

「──ちぃっ」

 

 何を考えていた。何をしようとした。

 関係のない、殺してもいい奴かも分からない人を殺そうとしたなんて。

 理由のない殺しほど意味はない。死んでいい奴以外が死ぬことなど実に意味がない。それなのに──。

 

 お金を拾うために外に出たがこれはまずい。

 

 とにかく、人の来ない所に行こう。

 隠れ家に帰るには少し遠い。人もそれなりに多いこの辺りではうっかり大量殺人とかしてしまいそうで怖い。

 そう思いこの場から離れようとしたその時、最近よく聞く警報音が周囲が鳴り響く。

 

 ノイズ警報。丁度良いタイミング。

 

「──ハハッ」

 

 戦うための姿に変わる。

 周りの目など知ったことではない。気にする余裕もない。

 

 殺す。その場に向かい、全速力で駆ける私の心にはもうそれ以外の感情は抜けていた。

 

 

 

 

 

 私立リディアン音楽院高等科。

 立花響や風鳴翼にとって日常の一つであるその学校は今、平和とは程遠い状態になってしまっていた。

 逃げ惑う生徒。何とか対処しようとする部隊。誰もが等しくノイズと言う脅威に怯え行動する。

 

 ノイズとは動く災害。人が死ぬには十分過ぎる理由になる。

 

「──ひっ」

 

 足がもつれ体勢を崩してしまう生徒。

 迫り来るノイズ。周りに助けてくれる人はいない。

 先程銃を持った人が壊されるのを見た。すぐそばで灰になる隣のクラスの子も見てしまった。

 

 私もそうなる。その恐怖が、生の終わりが余りにも呆気無く襲い掛かってくる。

 緑色のノイズの腕が伸びる。それが届く時が私の最期。

 

 ──そうなるはずだったのだ。

 

 その腕が私に触れることはなかった。

 バラバラになり、一瞬で喪失する緑の怪物。世界が逃げることが最善と言うこの怪物がこんなにも簡単に。

 

「早く、逃げた方が良い」

 

 そして、それをしたと思われる人物。

 狐の仮面を被り全身を何かの布で覆っているその人。血のように赤い刀身を持つ刀を片手に持ちながら逃げろと言ってくる。

 

「あ、あの……」

「二度はない。生きたいのなら、自分で動きなよ」

 

 仮面越しでもわかるぐらいに少し苦しそうな声色でこちらに言い、一瞬でこの場を離れるその人。

 

 ──逃げなきゃ。そう思った時には足は走り始めていた。

 あの人がどうとか関係ない。どこに逃げれば良いかもよく分からない。

 死にたくない。ならば、まだ立ち止まれない。

 だって私は生きている。生きているのなら歩かなきゃ。

 

 ──絶対に生き残ってやる。

 

 

 

 

 

 

 辺りに蔓延るノイズを斬りとばす。

 既に半壊しているこの建物。学校らしいのだが、行ったことはないのでそれが正しいのかは分からない。

 

 人の死体は当然ながらない。あの怪物は、殺した者を灰にするから何も残らないのだ。

 一体どれだけ死んだんだろうか。この崩壊具合だと割と死人が多そうだが、生憎私には数える手段も道理も持ち得ない。

 

 ノイズはもういない。目に入るやつは全部切り捨てた。

 殺傷衝動も大分収まった。これなら頑張れば一ヶ月程度は持つだろうか。

 全く嫌になる。強制された感情に支配されるというのは。

 ここ数年はノイズで誤魔化せているが、出てくる頻度が多い今が異常なのであってその内これがなくなるのは予想出来てしまう。

 

 その時はまたどうするか。山奥に戻り、適当に獣を殺して生きていくか。あるいはまた人を殺すか。

 どちらを取っても希望なんて見えない。どうせ私はそろそろ終わる。

 あと何回か死ねば呪いに耐えられなくなる。それまでの辛抱か。

 

「……まあ、人もどきにはお似合いか」

 

 そろそろ帰ろう。

 ここにいるとお歌のお姉さんや立花に会ってしまう気がする。

 何故だか今は会いたくない。特に立花だが、あの私なんかにも手を差し伸べるお人好しを相手にする気分ではない。

 

「……ほう。何だと思えば陽炎とやらか」

 

 何処からか声がした。

 その方向に目を向ける。崩れた校舎の屋上。そこに声の主はいた。

 金色の鎧を纏った金髪の女。自分以外を下に見ているかのような目。

 

「何者だい? んな物騒な服着ちゃってさ」

「貴様に名乗ることに価値などなさそうだが、まあ良い。我が名はフィーネ。終わりを意味する者」

 

 フィーネと名乗ったその女。

 今まで生きてきた中で三指に入るであろう迫力。鎧がそうさせているのか、それとも本人の気質故か。

 刀を持つ手に力が入る。全力で戦闘して、果たして殺せるのか。

 

「……その刀。前に見た時にもしやと思っていたが、やはり妖刀か。まさか今の時代まで本物が残っていたとはな」

「分かるんだ。これが」

「我が計画において、聖遺物以外のエネルギー供給源として研究したことがある。結果は散々。余りの不自由さにすぐさま興味もなくなったがな」

 

 どうでも良さそうに語るフィーネ。

 計画がについてはどうでも良いが、言葉の通りこの妖刀の厄介さは知っているようだ。

 それにしても、この現代でよく妖刀について知っていたものだ。

 

「して、何故この場を訪れた? よもや私の計画を邪魔する為に来たわけではあるまい?」

「まあね。ちょいとこいつの野暮用さ」

「……成る程。付加された殺傷衝動か。やはりそれは三振りの一つか」

 

 ……本当に、よく知っている。

 妖刀の殺傷衝動について。そして、本物の妖刀三本についても。

 よほど博識なのだろう。三振りの内、二つは百年近く確認されていないと昔聞いた。

 残りのこいつだって、私が外に持ち出さなければあの連中の理想が叶うまで出てこなかったのだろうから。

 

「……ふむ。時間稼ぎの駒程度には使えるか」

 

 こっちを見て悩む素振りをする彼女。

 どうするか。今すぐ切りかかった方が良いか。

 

「……おい陽炎。取引をしないか」「……」さて問題。照りつける太陽の元、私は今何をしているでしょうか? 




 ここで終わり。理由は納得できなくなったとか様灯の設定がややこしいとか色々。
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