フェイト・T・ハラウオン。昔から知っている人にとってはフェイト・テスタロッサという名前の方が馴染み深いその女性。
その美しい金色の髪を特徴とした整った容姿。凛とした佇まい。そのどれもが、男であれば魅力的に映るであろうと断言出来る。実際、思春期溢れる中学時代において彼女はダントツの人気を誇っていた……気がする。
まあ公私をうまく切り替えられる人間の代表格みたいなやつなので、誰かと一緒に暮らしていなければ、さぞ自室が残念なことになるかは大いに予想がつく。いると過保護でいないと大雑把──それがこの金髪の正体でもある。
「……失礼なこと考えてない?」
「何故に?」
「なんかそんな顔してたよ。……考えてないならいいけど」
危なっ。なんて勘の鋭いやつ。
なのはやアリサ、セリンもそうだが、どうして俺の周りの女はこう日常においても直感がよく働くのか。
シグナムみたいに働くときだけ働いてくれればいいものを。いつぞやの友人が本を置いてあった時もすっごいあれだったし。
……まあそれはいい。男には当分理解できないであろうその問題は、そんなに気にしなくても大丈夫だろう。
「それでどうしたの? 聞きたい事があるって言ってたけど」
そうだ。今日は世間話が目的ではなかった。
いけないな。友達と話すとつい気が緩んで仕方がない。気を引き締めねば。
「三年前、俺が執務官として初めて当たった事件。覚えてるか?」
「……忘れないよ。あの事件は」
当時を思い出したのか、フェイトの表情も険しさを見せる。
三年前。まだセリンが補佐におらず、自分一人で呪具系のロストロギアを闇雲に追っていた時の話だ。
当時搜索していたロストロギアを所持していた犯罪組織──グルサードを捕らえるためにフェイトともう一人の執務官が連携した事があった。
結果は幹部三名の捕縛と第二級ロストロギア四品の回収に成功した事件ではあったが、肝心のボスは逃亡。幹部の内二名に局員の隙を突かれ自害され、職員の二名が重症。組織の情報に関しては殆ど入手できなかった苦々しい事件。
後味の悪い事件であったが、その捕縛の際に幹部の一人が死ぬ前に呟いた言葉で俺の運命ははっきりと定まったのだ。
『いずれ棺は開かれる。その時こそ!! 我等の悲願と共に!! 高町なのはを呪うのだ!!』
その言葉は、側にいた俺にしか聞こえてなかったと思う。
ただの負け惜しみと切って捨てる事も出来たのだろう。事実、その後の護送中に自殺したのだから。
だが俺は確信した。これが俺が向き合うべき予言だということを。
どうしてあの場にいなかった彼女の名前が出たのか、悲願とはなんなのか。そんなことは知ったことではない。
──理由なんてどうでもいいのだ。そんなことは気にする必要すらない。
高町なのはに──いつも無茶するあの大馬鹿娘に対して理不尽が牙を向こうとしている。動く理由なんてそれで十分なのだ。
馬鹿だと思う。お節介にもほどがあると自分でも分かる。
けど、それを知っていて見過ごすのはダメだ。だってそれは──。
「ゆーき!」
「──っ。どうした?」
「大丈夫? ぼーっしてるけど」
しまった。また思考が逸れてしまった。
折角時間を作ってくれたフェイトに対して失礼だろう。昔から、迷惑をかけてばっかりだ。……話を戻そう。
「問題ない。それで確認したい事なんだが──」
少し心配そうなフェイトに、若干申し訳なさを感じるがとっとと進めたほうがお互いのためだろう。
「あの時お前が聞いたって言葉なんだが、神の棺って単語は本当にあったのか?」
「あったよ。確認すれば分かるけどちゃんと報告書にもそう書いたから。……それがどうかした?」
「いや? 一応の確認。……うん、ありがとう」
冷静に、なんてことないように返した言葉は果たしてそう伝わっただろうか。今の自分にはその自信はなかった。
セリンやユーノの集めてくれた資料。フェイトの証言。これらを交えて考察すれば、目的の場所がはっきりしてくる。
──ようやくだ。ようやく終わる。
このくそったれな運命も。長い間付き合ってきた忌々しい全てをようやく振り払える。
後は覚悟を決めるだけ──望むべく先を掴むために前に進むだけだ。
「……そういえば、最近どう? みんな元気?」
「うん。忙しいけど充実してるよ。むしろ、ゆーきが一番心配だよ?」
心配? 俺が?
「全然会ってなかったし、連絡だってくれないんだもん。特に私はセリンちゃんから残業ばっかだって相談されたんだからね?」
……そういえば、セリンとこいつは知り合いだったな。
そんなに仕事をしていたつもりはないのだが。むしろ、セリンが来てからは頼りっぱなしで逆に申し訳ないぐらいだったのだが。
あいつに俺はどう見えているのだろうか。もしかしたら、なんかこう随分と好意的な捉え方をしてくれているのか。……違う気がする。そうならもうちょっと優しいとはずだし。
「心配ねーよ。今追ってるのが終りゃ一段落するしなぁ」
「そう? でも何か困ったらすぐ言ってね?」
俺の手を取りながら真剣にそう言ってくれるフェイト。
その言葉に頷けたらどれだけ楽だろうか、彼女たちが協力してくれればどれだけ心強いかなんてのはとっくに理解している。
けどダメだ。少なくとも
予言の問題もあるが、比較的有名な彼女達ではあのロストロギアの良い的になってしまう恐れがある。捕縛の際、何かの間違いで起動されちゃ意味がない。
「あぁ。……困ったらな」
「うん。待ってるから。……あ、後なのはにも連絡して入れること! 最近全然連絡ないって怒ってるよ?」
そりゃ怖い。あの頑固娘のご機嫌取りは慣れっこだが、それでも怒らせること自体が面倒だ。
そういうのはあのぼんくら優フェレットにでも任せとけばいいのさ。
「今から顔出す? 喜ぶと思うけど?」
「……辞めとく。そっちも忙しいだろ」
だから、適当な言い訳をつけて断っておくことにする。
……まあ、この件が終わって、それでいて────たら久し振りに会いに行くかね。
「……そろそろ行くよ。サンキューな」
「もう行っちゃうの?」
「ああ。お前らも無理すんじゃねーぞ」
座っていた椅子から腰を上げ、フェイトに背を向けながらゆっくりと歩き出す。
準備は整った。後はもう、ギンドルに行き目的を果たすだけ。
それだけ。それだけで終わりだ。
「……眩しいなぁ」
空に浮かぶあのお日様がなんとも目に刺さる。
ギンドルは太陽のない世界。空に浮かぶ天体が見えることのない灰雲の星。
あの少女を思い出させる太陽の光──暖かく、決して荒々しいというわけではないその輝きに似通ったものでさえあの世界には存在しないだろう。
「……これで終わる、か」
恐怖はある。けど後悔などない。
心残りがあるとすれば、あの才女──セリンの大成する姿が見れないこと。後、なのはとユーノの結婚式とか随分と会ってない両親とか──。
……意外といっぱいあって驚きがすごい。
「……頑張ろうか」
そう決意したのは何度目だろうか。
そんなの数えたことはない。俺は数より質派なのだが、こればかりは不安で不安でしょうがない。
そんな後ろ向きさを振り払うように通信用デバイスのけたたましい着信音が鳴る。
「……セリンか。どうした?」
歩きながら着信に応える。
気持ちはもう切り替わっていた。あの娘に不安も未練──何もかもを感じさせないように意識することが精一杯だった。