あの時俺は死んだ。そのはずだった。
「中々に錆びついた魂を持っているな。どれ、此奴にするか」
真っ白で無機質な空間。生きてきた中でこれほどの白は見たことがない。いや、見えているのすら可笑しいのだが。
「望みを言え。次の生にて叶えてやろう」
何処から聞こえるのかも分からぬその声。最後に聞いた社内の放送ぐらいには平坦なトーン。とても気に障ってくる。
「どうした。何もないならそれでもいいが」
「あるさ。次があるってんなら──」
不思議と声が出た。口は無いのに──否、自身を模るものなど何もなかったというのに。不思議とはっきりと発音できた気がする。
くれるというならならもらってやる。
「ならば、そのように。次なる生のために、我が愉しみのために」
世界が見えなくなる。再び意識は無に帰ろうとしている。
俺はどうなるのか。このままこの夢の中で消えるのか。ああっ、別にそれでいい。
だが、もし叶うなら。どうしようもない後悔をどうにかできるとするならば。
その時は、必ず守ってみせる。例え何があろうとも。
茜色の空。とある公園に小さな子が二人。もう子供は帰ったほうがいい時間だというのに共にブランコで遊んでいた。
一人は男の子。黒色の髪をしたごく普通の男の子。
もう一人は少女。栗色の髪をした可愛らしい少女。
両者共に笑顔で遊ぶその様子は、仲の良い子供が時間を忘れて楽しんでいる微笑ましい光景に見える。
だが、この二人は今日会ったばかりである。わずか数時間のうちに共に笑いあえる関係にまでなったのだ。子供とはすごいものである。
だが、それも終わりが近づいている。どこまでいっても所詮は子供。まだ生まれてから数年しか生きていない彼らはそろそろ家に帰らなければならない。
「そろそろかえらないと!」
「う、うん」
少年とは対照的に少女は少し寂しそうに頷く。それもそのはず、この少女はただいま家に居づらい心境なのだ。まだ小さいというのに良くそんなふうに思考できるものだ。
「?? どうしたの?」
「……じつはね」
少女は話し始める。今は家が少し慌ただしく、帰っては迷惑になる。だからこの公園でどうすることもなくブランコを漕いでいた所で君が来たのだと。
「……そっか」
当たり前だが少年に難しいことはわからない。ただ目の前の少女が悲しそうに、少し寂しそうな表情をしている。それしか理解はできなかった。
「じゃあ、あしたもあそぼう!」
「──えっ?」
「きょうはもうだめだけど、あしたもここでぼくとあそぼう! きみがげんきになるまでずっと!」
何て適当な言葉。所詮は子供の戯言。何かあれば簡単に果たされなくなるであろうその約束。
「──うん!」
けれど、その少女にとってそれは何よりも嬉しい言葉であった。
何故ならその何気ない言葉は同世代の子供から初めて言われた次の約束。
さよならではなくまた会おう。それはこの少女に一つの喜びを感じさせた。
こうして巡り会い、そして共にいた二人。この二人が友達となり数年が経過した。
何人かの友達もでき、小学校も楽しく過ごしていたのだ。
だがしかし、そんな平穏などいずれ終わる。運命は少女達を振り回す。本来ならそこにいないはずのこの少年。
だが、なんの因果だが知らないがそこに例外は存在してしまう。
神の遊戯か、あるいは奇跡の現象か。まあどちらでも構うまい。
肝心なのはそう。幻想のような現実に彼も巻き込まれるということ。
それだけなのである。
「────がぁぁあぁ!!」
頭が痛い。この十年ぐらいで感じたことのないぐらいの痛みに思わず地面を転がってしまう。
痛い、痛い痛い痛いいたいいたいいたい──!
意識がなくなればそこまで楽になれる。しかし、体は何故か意識を手放すことを許さない。
僕がなんかしたのか。何か変なものを食べてしまったのか。周りに悪いことでもしちゃったのか。
ただ宿題をやっていただけなのに。どうして、こんな。
先程までのことなんてすっかり抜け落ちた頭に何かが入ってくる。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!
どうしょうもなく不快。まるで大嫌いな野菜をずっと食べさせられた時よりも遥かに苦しい。
しばらくしてようやく収まり始める。
部屋は乱れ、そこらに物が散乱している。他人が見れば何か危ないものでも吸ってしまったかのような暴れ模様。
だが、それと似たようなものかもしれない。何せ普通の人間には起こりえない非常識が彼に降り注いだからだ。
「はあっ……はあっ……」
息が乱れる。体が落ち着き、自分に何が起きたのか考えようとした。
そこで今更意識が遠のいてくる。さっきまでの反動がそのまま襲ってきたかのように全身がふらついてくる。
(……僕、俺?)
何かを考える前に眠りに落ちてしまう。
その刹那。最後に残ったその思考は何故か、意識もしたことがなかった一人称についてであった。