スイッチを切り替えたようにはっきりと目覚める。空は既に暗く、もう既に夜に変化していた。
「ああ、何してんだ俺……」
ふと呟いてから違和感を感じた。何故だか分からないがどうにももやもやする。これはそう、かつて高校で経験した──。
(──えっ?)
何を言っている。僕はまだ小学生。高校なんてまだ縁もないはずなのに。
だけど知っている。受験、高校、大学、仕事、結婚。今の自分には全く関係ないはずなのに何故だか覚えている。
「えっ……えっ……?」
何だこれは。どうなっている。さっぱり理解できない。
知らないこれもそうなのだが、もっとわけがわからないことがある。
だって僕の小学校とは他に違う小学校にも通っている。その記憶が確かに存在する。
すぐに部屋にある小さな鏡を見る。そこに写っていたのは頭と変わらない僕の姿。あの知らない何かとは違い、いつもの僕の容姿。
「僕は、僕の名前は白山純也」
鏡前で確認する。口は音の通りに動く。偽物じゃない僕。
そうだ。僕は俺じゃない。
僕は白山純也。年は九。誕生日は七月九日。嫌いな食べ物は赤の野菜。
……うん。大丈夫。僕は僕。ようやく落ち着いてきた。
不思議と記憶がはっきりしてくる。先程の知らない出来事は湧いてこなくなる。なんていうかこう、整理されているような感じ。
段々と落ち着いてきた。
正直何が起こったのかはわからない。さっきまでの頭痛は何だったのか。さっぱりである。
「じゅんー。ご飯よー」
僕を呼ぶ大声が聞こえる。時計は既に七時を過ぎていた。
すぐに返事をしてリビングに向かう。テーブルに着き、食べ始める時にはもう、さっきまでの出来事は抜け落ちていた。
「なぁー。今日の課題なんだっけー?」
「何って数学だよ。前回の範囲」
それは誰かの会話。
「何でそんな風に言うの?」
「お前が悪いんだろぉ!?」
それはしたことのない思い出。
「……好きです」
「ふーん」
それは何もかもが不明な世界。
どこにも僕は関係のないその映像。何故見ているのかも分からない。
けれども、何故だかその一つ一つが不思議な程に。
妙にはっきりと見ることが出来た。
「ふわぁあ」
眼が覚める。時計を見ると六時三十分。
随分と早く目覚めてしまった。だがどうしてだろう、これが当たり前のような──。
……あれ? 何か夢を見た気がするが思い出せない。なんか凄い濃さの夢だった気がするのだが……。まあいいや。覚えていないものは仕方がない。
下の部屋からは何やら物音がする。お母さんかな多分。お父さんはまだ寝てると思うし。
なんだか喉が渇いた。下行って水でも飲もうかな。
布団を畳み、そのままリビングに向かう。……学校やだなぁ。
珍しく早く起きたのを母親に驚かれながらも朝食を食べ、学校に向かう。いつもは走って行かなきゃ遅刻するかもなので、なんだか新鮮な気分だ。
通学バスを使うのも手だが僕は歩きたいのだ。気分的に。
いつもより余裕があるせいか八時前には既に学校に到着していた。
門前に立っている教師に少し意外そうに見ていたので挨拶をして通る。
教室には案の定、まだ誰もいない。入学してから始めて最初の一人になれた気がする。そこまで嬉しくもないが。
「そういや宿題やったっけ?」
ふと思い出し、鞄から取り出して確認してみる。
ノートを開くとやはりというべきか途中までしか書いてなかった。そういえば昨日あのままやらずにいたんだっけ。
とりあえず終わらせなきゃと鉛筆を走らせる。終わるかな。
昨日割と時間をかけて半分終わらせたので、正直終わる気はしないのだが──あれ?
「……終わった」
どうしてだろうか。なんか適当にやってたら解き終わっていた。
いやまじで意味がわからない。何故こんな短時間で。
「いっちばーん! ってあれ? 純也君?」
自分が驚愕に囚われていると、教室に入って来た生徒がこちらを見てびっくりしている。まあしょうがない。何せこんなに速く登校したのは初めてだし。
「おはよう。なのは」
「おはよっ! 純也君!」
その綺麗な茶色の髪の少女──高町なのはが驚きながらも笑顔で挨拶をしてきた。