なのはが登校してきたので机に置いていたノートを閉じ片付ける。予想が正しければ直ぐに他の連中もきてうるさくなる。
「おはよう白山君」
「うっそ。白山が早いなんて熱でもあるんじゃないの?」
案の定入り口から二人──アリサ・バニングスと月村すずかが挨拶しながら入ってきた。
バニングスは相変わらずの物言いだがまあ誰にでもこんな感じなので気にすることではない。
「おはよう二人とも」
特に捻る気もなかったので直球で返す。すると、なんだかバニングスに意外そうな顔をされた。なんだろう。
「あんたが普通に挨拶するなんて珍しい。いつもは捩じくれた返ししかしないのに」
成る程。確かにいつもはもっとこう、面倒くさい返事をしていた気もする。
けど、何故だか今日はそんなことを言う気にはなれなかった。起床時間といいなんだか変わっているのは何だろうか。
「まあまあ。純也も珍しく素直なのは良いことじゃないか」
「あっ、おはよう天野」
「おはよう。今日は遅刻しないなんてびっくりだよ」
後ろからバニングスを優しく諭しながらこっちに挨拶をしてくる茶髪の爽やか少年──天野春馬はこちらを見て嬉しそうに驚いている。
「春馬は少し甘いと思うわ。こいつがたまたま来ただけで褒めるなんて」
「そんなことはないと思うけどなぁ」
バニングスの指摘にあははと苦笑いしながら返す天野。正直遅刻の回数は少なくはないのでバニングスの言い分の方が正しいのだが。
「アリサちゃんの言う通りだよ。純也くんがもう少し早く来れば良いだけだと思うな」
「……返す言葉もない」
「あ、はははぁ」
全くだよといった感じでこちらに言ってくるなのはに対してなんとも言えなさそうな表情の月村には本当に申し訳ない。
普段ギリギリ登校を続けている僕が悪いから言い返せないのだ。別になのはに言い返そうなんて気はそこまでないので気にすることもないのだが、月村からすればバニングスも言ってることもあり一方的に感じたか。
そんな感じで雑談を続けているといつの間にか教室の来る人の数も増えてきていた。
その誰もがこっちを見て凄く意外そうな目を向けてきたのがわりかし心に来る。……今度から遅刻は減らしていこう。
とりあえず話も一段落し、それぞれが自分の机に向かうとすぐに授業が始まる。
退屈な算数の授業。正直計算がそこまで好きではないからやりたくない。
「では宿題を集めます」
一人一人名前を呼ばれノートを提出していく。相変わらず忘れている人がいないこのクラスはどうしてこう真面目なのか。いや宿題は出すものだけど。
「次は白山くん。今日こそは持ってきてくれたかなー?」
「はい。どうぞ」
「……え、持ってきたの?」
僕が宿題を出すと思わず目を点にしてノートと僕の顔を何度も交互に見てくる。
なのは達も含め教室の皆の視線が集まってくるのがわかる。そんなに意外か。
「大丈夫? 体調良くない?」
「……先生は僕を何だと思ってるんですか」
「ああごめんなさい! そうよね白山くんだっていつも出さない訳じゃないもんね!」
この先生失礼にも程があるんじゃないんだろうか。出す回数の方が少ない僕が悪いのだろうが。
まあ宿題は面倒くさくてあんまやりたくない。友達と外で遊んでいた方が楽しいし。
「で、では次高峰さん」
気を取り直して次の人の名前を呼んだので席に戻る。席までの道のりでこっちを見て驚いているなのはやバニングスが目に入るがもう反応するのも疲れるのでスルー。
席でぼーっとしているとようやく全員が提出し終わり、ようやく授業が始まる。
昨日から続く数字の羅列。なのは曰く簡単な公式らしいのだが、見たくもないぐらいにはよくわからなかったその問題達。
「??」
しかしどうしたことか。今日はいろんな意味で疑問が止まらない。
その式を見た瞬間、不思議と答えが脳に駆け巡ってくる。必死に計算するわけでもなくそれが当たり前の様に。
「では次の問題を……白山くんできるー?」
「482です」
「……えっ!? せ、正解です。よくできましたね」
思いついたその答えが先生に寄って正解だと知らさせるとクラス内の注目が一気に押し寄せてくる。
当たったことは嬉しいがどうにも違和感の方が大きい。昨日まであんなに苦戦したそれらがまるでバターのように溶けてしまうのだ。
自分で解いたはずなのに自分の答えな気がしない。自信を持って良いはずなのに不安しか巡ってこない。
これならできない方がまだ僕らしさがある。でもできるのが当たり前の様な感覚もある。
……朝からずっとこんな感じだ。ああ、一体何なんだろう。どうしてしまったんだろうか。