誰もが憧れる青春の象徴。それはどこを指すものか。
裏山の大きな木の下か。誰もいない空き教室か。それとも夕焼けの海か。
──まあそれは間違いではないのだろう。思い浮かべるそれは誰もが違うのが常というものだ。
無限の可能性と方向性を持つ未知の奇跡。誰にだってある憧れと追憶。それが青春の正体であろうから。
無論、この俺南雲恋也にもそれはある。あるといえば微妙ではあるのだが確かになくはない。
例えば今俺が寝ているこの場所。学校の屋上。
表情を隠す夕焼けの光。次の一言を聞き漏らすまいとする人の吐息。フィクションなら甘酸っぱくも尊いと言われるその一場面。
「……あの!」
「はい!」
勇気を出したのかこの空気に耐え切れなくなったのか。クラスで一番可愛いとされるその少女が口を開き言葉を繋ぎ始める。
「好きです! 付き合って下さい!」
どれだけ勇気を振り絞った言葉なのか。例えそれが一時の感情だったとしても、その行いは否定できる物ではない。
「……はい! よろしくお願いします!」
それに対して笑顔でゆっくりと返事を返す男。
恋人関係成立の一場面。どれだけ微笑ましく、輝かしい光景であろう。
そうして仲良く初々しく手を繋ぎながら屋上を去る一組のカップル。きっと彼らのこれからは眩しいものになるのだろう!
「……ばっからしい」
だからこそ、その場にいた俺はそう呟いてしまえる悲しい始末。
さぞ緊張していたのか俺の存在には全く気付いていなかったらしい。まあ死角に入りやすい場所にいたのでしょうがないといえば終わってしまう話ではあるのだが。
馬鹿らしい。その言葉は決して負け惜しみとかそういう意味ではない。
確かに俺は俗に言う陰キャ。負け組。教室の埃。その程度の人間ではある。
自覚もある。違和感もない。それが正しいとさえ己自身が何よりも感じているのだから。
──それでも俺には人には違う点がある。それこそ抜けきっていない厨二病とさえ他人からはそしりを受けるだろう異端ではあるのだが。
それでも存在する。してしまう。どうしてかそれは明確にはっきりとあるのだ。
ゆっくりと立ち上がり夕暮れの校庭をを見下ろす。
陸上部が走り、サッカー部がボールを追い掛け、テニス部がひたすらに球を打ち返すありふれたもの。
放課後ここに来れば大体は広がっているその日常。学生なら何か突き動かされそうなほどに煌めく一つの青春。
先程の告白だってそうだ。一年間ここで暇を潰していて五件ぐらいは遭遇している。普通なら何か思うところの一つでも出てくるのだろう。
けれど、俺にはそうは見えない。これがそんな美しいものであるなんて口が裂けても言いたくない。
なぜなら俺の瞳に映るのは全くの別物。細く、太く、無数且つぐちゃぐちゃとした人の繋がり。例えるならそう、絡まった糸みたいな。
「……はあ」
これ対してため息がこぼれるのは人生で何度目になるか。
成長するにつれてより感じてしまう見える事へのタブー。初めて見えたときから変わらない気持ち悪さ。
「……帰ろ」
近くに転がしてあった鞄を手に取り屋上を後にする。
今日はもう眠い。帰ろう。眠っていれば目を閉じていられるのだから。
……あ、でも確信していることもある。とてつもなくつまらないことで思考を割くことすら無駄であると断言できることではあるが。
(あのカップルは一ヶ月だろうなぁ)
先程の二人の糸の細さからいつものくせで推測を出してしまう。
それはつまらないことであるとわかっているのだが性分故仕方が無い。そして、残念ながら間違うことも無い。
強引に考えを夕ご飯のことに切り替える。それが身近で一番気分が滅入らなくて済む。
──ああ辛い。こんなもの、見えなければ良いのに。
なんか恋愛っぽい何かを書きたい時期がありました。