立花と話してから数日。あれから彼女と鉢合わせることはなく、ノイズ狩りも滞りなく行うことができていた。
私を機械で見つけることはできない。だから、今はまだ目視されることで発見されることがあるのだが、大規模な戦闘をしなければ問題はない。
立花なら別にいいのだ。あいつは見た所戦闘に重きを置いていないように感じた。戦うのなんて面倒くさいし、怖いのでやってやらない。
あの甘さはとてもやりやすいのだ。
だが、問題はあの青いお歌のお姉さん。
彼女はだめだ。その瞳に焦りが見えた。彼女は心を強引に殺して戦いの場に臨んでいる。だから、後に後悔しようともそこでは強くあるだろうから。
殺し合っても負けやしないが、一回死ぬのも馬鹿らしい。
「どれにしよっかなー」
そんなこんなで今現在、私はコンビニでスイーツを選んでいた。
右には生クリームの乗ったプリン、左にはカスタードの入ったエクレア。
どちらもが滅多に食べられない貴重品。甘くて美味しい趣向品。
さっきそこで拾えた五百円でどちらを買うか。硬貨を手で適当に回しながら考える。
(どちらも買うと、夕食のおにぎりも買えないしなー)
どうしましょう。ここ最近お金が拾えすぎてつい悩んでしまう。
……いっそ、全部盗んでいこうかとも思ったが美味しいものへの対価は私の数少ない意志の一つ。
これが残飯生ゴミなら気にすることなく持っていけるのだけど。
……うん、やっぱりプリンかな。生クリーム付いているし──。
そう決めた瞬間、突如窓から鉄の塊が吹き飛んできた。
感覚でそれを飛び上がり、その何かを避ける。それは壁に衝突し店中のものと人が四方八方に飛び散る。
「なんだ、あ……?」
さっきまで何もなかったこの空間は見るも無惨な光景に成り代わっていた。
ほぼ半壊。棚は倒れ、商品は散乱。突然のことで一瞬周囲は固まるもののすぐに溢れかえる叫び声。
だが、そんなものはどうでもいい。それよりも、今の私にとって重要な問題がある。
「プリンが……」
当然デザートの棚も無くなってしまった。手の中にあった五百円硬貨も何処かに行っていた。
床には私の食べたかった物の残骸が溢れ散っている。店員もいつのまにか避難をしており、この店が活動できるような状況ではない。
「何処のどいつだっ……!!」
つまり今日の食事はデザートなし。いや、おにぎりもぐちゃぐちゃになったので夕食も当然ナッシング。
「──ふざけるなぁ!!」
激情のままに、仮面と刀を呼び出し店から出る。
許さない。何処のどいつだ。私の楽しみを奪った愚か者風情は誰だ──!!
街を駆け出す。道には何故か車は殆どなく、仰向けになったり煙を出しながら横に倒れる黒い車が僅かに視認できる程度。
──どうでもいい、何処だ。私の、私のぉ!!
……見つけた。遠くに煙。ここをまっすぐ走れば着く。
最速で最短でそちらに向かう。ぶち殺す、絶対に許しはしない──!
最高速で走ってすぐに少し街から外れ、何やら工場めいたものが増え出す地域でノイズと戦っている少女が目視出来た。
──あいつか。
「──しゃらぁあ!」
刀を振るい斬撃を飛ばす。
血塗られた赤い斬撃。それが当たるノイズを全て切り裂き、消失させていく。
「そらそらそらそらっ!!!」
他に人がいるようだが構うまい! どうせ、歌を歌う連中は生き残れるだろうしこんな場所にいるのだからまともではない筈だ!
無数に放つ斬撃の雨。それはもはや、その場のもの全てを巻き込み咲く赤の嵐。
ノイズは全て切り刻まれ、その場には人が三人だけ残った状況になっていた。
「えっ、陽炎さん!?」
「……お前か。立花」
驚いたようにこっちを見る立花。こいつが犯人か。
「おい、こいつは一体なんの冗談だァ?」
「……いや、お前だな。お前が原因だな!?」
頭上にて驚く鎧の少女。政府側であろう立花と戦っているのがこいつだとすれば、対象はこいつ。細切れにしたいのはこのくそアマの方。
「あァ?」
「ぶち殺す。手足が残ると思うなよっ!」
全力で飛びかかり首を掻っ切るために刀を横に振るう。
それは後ろに落ちる形で回避し、勢いよく鞭状の武器でこちらに攻撃してくる。
刀で弾き、先程の場所に着地しようとするがもう一つ同じような武器がこちらに迫るが、それを片手で地を跳ね躱しながら着地する。
「身軽な野郎だなァ。歌ってもねぇし一体どんなカラクリで動いてやがんだ?」
「さあね。私からしたら、歌いながら戦えるのがおかしいと思うのさ」
刀を向けながら相手に意識を集中する。
さっきの鞭的な何かを弾いてみて分かった。
あいつは強い。あの派手な鎧は見せかけではないのが分かるぐらいに威力が込められていた。あれが牽制だとすれば、まだまだ威力も速度も上がるのだろう。
何より、私の刀と打ち合える強度というだけで警戒に値するというものだ。
さてどうするか。久々に手加減が出来そうにない戦いだ。
殺すためにはあの攻撃の波を潜り抜けなければならない。別にくらっても良いのだが、流石に腕が千切れたりしたらこの場では不利になる。
「ちょっと待ってよ! 陽炎さんも一旦落ち着いてよ!」
取るべき戦法を思考していると、立花が私とあの鎧女に戦闘を止めるように訴えてくる。
随分と悠長なことだ。そもそもお前が襲われていたのではないのか?
「相っ変わらず甘ぇ奴だなてめぇは。脳まで砂糖に漬けてんのか?」
鎧女が馬鹿にしたように笑っている。
実際その反応は間違いではないと思う。殺し合う場でしかない空間でそんなとち狂ったことを抜かすなど冗談にしてもたちが悪い。
鎧女の前にもこんなことを言われたことがあるような言葉。立花という少女が如何に戦場に向かないかがよくわかる。
「やる気がねぇならとっととすっこんで寝ていやが──。っぶねぇなァおい!」
一瞬立花の方に視線が移ったので斬撃を飛ばすがあっさりと素手で消し飛ばし、杖のような物で何かを射出する。
それは地面に落ち、ノイズという形になってこちらに襲いかかってくる。
……流石に無理か。ならもうしょうがない──。
「せぇやあぁ!」
技を使おうと切り替えようとしていたら、立花が旋律を奏でながらノイズを殴り蹴散らす。
どうやらあっちは敵対はしないらしい。ノイズはこっちに来るの以外あいつに任せればいい。
さて、なら私が向かい合うべきはあの鎧女一人。あちらさんが私より立花に目を向けているのも非常に運が良い。
……いや、あいつではない。剣だ。浮いている剣を見ているのか。
「こいつがデュランダルか……。いただき──」
隙を見せた鎧女に力を込めた一撃をお見舞いし吹っ飛ばす。
目的らしいあれを掻っ払ってやろうと回収しようとしたが、それを立花が空中でキャッチしているのが確認できた。
まあいい。あんな物よりもこいつにとどめを刺さなければ──。
直後、信じられないほどの光が天に昇る。
本能が警告する。その元凶は紛れもなくあの剣。先程までの古臭い外見から黄金の剣に変化している。
何だあれは。それに、立花の様子も何処かおかしい?
「──そんな力を、見せびらかしてんじゃねぇぞ!」
鎧女が立花に先ほどの杖を向けノイズを襲わせるが、もはや手遅れ。
その剣が振り下ろされ、莫大な光量がこちら諸共焼き払おうとしてくる。
「──ちぃ!」
迎撃しても意味はない。
斜線から外れ光を躱し、次の瞬間に巻き起こった爆風を切って衝撃を殺す。
……ここらが潮時か。
爆発の煙に乗じて離脱する。ここで歌のお姉さんまで来たら流石に面倒くさい。
自分よりもあっつい熱量で怒りも冷めた。あの鎧女も逃げたのが見えたのでとっととずらかった方が良いだろう。
だけど疑問だ。あそこにいた白衣の女。見るからに戦う成りをしていなかったあいつはどうしてあんな余裕そうにその場にいることができたのだろう。
黄金の剣と同レベルには疑問に感じたが、まああの爆発なら生きてることもあるまい。
建物を飛び移り隠れ家に向かう。完全に離脱する頃にはもう、後者に関しては関心も失せていた。