妹の友達と同居することになりました。   作:黒樹

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瑞樹のご奉仕

 

 

 

帰宅すると笑顔で瑞樹が出迎えてくれる。するといつものように夕食が先かお風呂が先か、心此処に在らずだった俺も一瞬思考を傾けて答えた。

 

「んー。そうだな、飯食って風呂入って寝る」

 

疲れ切った身体は動くことを拒否している。二人きりの数少ない時間を心掛けているが、今日はさすがに限界だった。定時より遅れ残業が二時間も続いたのだ。肉体的にはまだ余力があるが精神的に疲れた。

 

瑞樹はすぐに食事を用意してくれた。

雑穀米、ニラ玉、豚肉の生姜焼き、うなぎの蒲焼き、玉ねぎとニラの豚汁、というちょっと豪勢な料理に食欲が掻き立てられる。

そして極めつけは蜂蜜酒、家にはなかったはずである。

酒精は未成年では買えないはずだ。

 

「どうしたんだこれ?」

「最近、青葉さん疲れてみるみたいだから。ちょっと頑張ってみたの。お酒はね、奈緒のお母さんに買って来て貰ったの」

 

短い言葉で意図を察した瑞樹だが、義母が買って来たという事実になんとなく年齢確認すらされず門前払いを受ける姿が脳裏に浮かぶ。年齢確認時に店員はさぞ困惑しただろう。

 

店員を哀れに思いながら、いただきますと口にして瑞樹の手料理に手を伸ばす。

 

「はぁ、美味いな……」

「ふふ、ありがと」

 

ありがとうはこちらのセリフだ。食欲のなかったはずの胃が瑞樹の料理を求めている。箸の進む気がしなかった先程までとは違い、箸が止まらない。

 

ほどなくして幸せな時間も終わり、ほろ酔い気分でご馳走様と口にして、酔いのまま眠るべくさっさと風呂場に移動する。

 

 

 

「んん?」

 

違和感に気づいたのはすぐだった。浴室への扉を開けると鼻腔を慣れない匂いが満たした。湯船も透明感のあるそれではなく桜色で入浴剤を入れた事が分かる。匂いからして薔薇か何かだと思うが花の種類はそれほど知らないので言い切ることはできない。

 

しばらくぼーっと突っ立っていると、ガラッと戸が引かれた音がして振り返れば瑞樹がいた。

いつかのように服を着ておらず、裸体を心ばかりに腕で隠して入ってくる。

顔を赤らめ恥ずかしそうに俯いて、消え入りそうな声で言った。

 

「……背中を流すから、座って」

「ん、あぁ……」

 

ほろ酔い気分だからか、疲れているからか、はたまた別の理由か抵抗する気は皆無で素直に椅子に座ると瑞樹は背後に陣取りお湯を一度被せてきた。次いでシャンプーを手につけ髪を梳くように洗い始める。されるがままの俺の背中に発展途上の胸部が当たり、その柔らかさに思わず胸が一際大きく唸った。瑞樹のおっぱいは並以上にあるのだ。下半身が元気になるのは自重してほしいところだ。

 

頭が終われば一度流し、次は背中へ。

 

ふと訊ねてみたくなった。

 

「今日はどうしたんだ?」

 

瑞樹は何かしら理由がなければ一緒にお風呂に入るなどしない。それこそ梅雨の終わりのあの日以降、混浴をすることなど起こり得ることもなかった。

 

「疲れてるみたいだったし、そのままお風呂で寝そうだったから……危ないでしょ?」

 

まぁ確かに気を緩めれば浴槽で眠ってしまうかもしれない。浴槽に浸かれば考え事をしてそのまま……というのもあったかもしれないが。お酒で緩んだ理性が決壊寸前だ。

 

その間もゴシゴシと背中を洗ってくれ、腕や足にも手を伸ばし始める。

 

「あの瑞樹さんや」

「なに青葉さん?」

「あとは自分でやるから」

「全部、するわよ?」

「いやもう擽ったいんだって!」

 

脇やお腹に触れられて身が捩れそうになり、笑い転げる前に瑞樹の腕を掴んで辞めさせる。悪気はないんだろうが脇は流石に耐えきれなかった。このままいけば本当に全部洗われそうでもある。それを少し残念とも思うが触れられるとまずいところもある。これ以上は理性を保つ自信がない。

 

追撃を躱しさっさと洗い終える。背中を流すことを提案しようかと思ったがそれだけでは済まなくなりそうなので自重する。湯船に浸かりチラリと瑞樹に視線を向けた。

 

彼女が髪を洗い、身体を洗うその姿でさえ扇情的に映る。

大きな双丘、しなやかな肢体、嫋やかな指先、陶器のような白い肌、整った顔立ち、濡れた金髪に思わず見惚れる。

疲れ切った身体は理性を保ってくれている。

むしろ逆に元気だと危なかったかもしれない。

 

時間を掛けて洗ったあと、泡を流して瑞樹はまた足の間に入ってきた。瑞樹は浴槽の中で背後から抱きしめられる形で背中を預けて満足そうに吐息を漏らした。

 

……。

 

静寂。時折混じる水面を跳ねる水音だけが浴室を満たしていた。

楽な体勢を探すこと数分、おそるおそる首に腕を回して軽く抱きしめてみる。お湯の感触に混じって柔らかな果実が腕に当たり、一度艶やかな声を漏らしたものの、咎められることはなかった。

 

本音を言えばこのまま押し倒してしまいたい。……だが、そうさせないのはやはり今の関係が心地良すぎるからだろうか。前にも思ったがこれは少し歪な関係ではないだろうか。

 

「先上がるわ。のぼせないうちに上がれよ」

 

理性が崩壊しないうちに熱を覚ますべく浴室を後にした。

 

 

 

歯を磨き自室へ。早めに就寝しようと扉を開けたらベッドの上に瑞樹が女の子座りで待っていた。普段の可愛らしいパジャマではなくネグリジェ姿、露出した腕や太ももが輝いて見える。透けそうで透けないネグリジェは瑞樹の美しさ、女性らしさを自然に引き出していた。

 

「……奈緒か」

 

一連の黒幕に愚妹の存在を嗅ぎつけ頭を抱える。

 

「ね、寝巻きを探したら、全部消えてて……代わりにこれと手紙が入ってて」

 

いやらしさはないが艶やかな美を纏うネグリジェに身を包んだ瑞樹は困惑しながらもそう告白した。素直に着るところが妹に弄ばれているというかなんというか……。

 

「……それで瑞樹はなんで部屋に?」

「青葉さんが寝るまでの間だけでいいから、お話したいなって……迷惑だった?」

 

その聞き方はずるい。迷惑とは言えず、否定しておく。

 

「じゃあ青葉さんここに寝て」

 

と、瑞樹が指定したのはベッドの上、さらに正確に言うならば彼女は膝をポンポンと叩いて寝るように促した。

俺は瑞樹の膝の前に寝転んだ、頭は膝の前である。すると無視されたのが嫌だったのか強引に頭を持ち上げられ膝の上に乗せられた。

 

「今わざと避けたでしょ」

「素直に膝枕されるのも恥ずかしいんだよ」

 

瑞樹の膝枕は柔らかく良い匂いがする。運動でついた筋肉と程よくついた脂肪が健康的で張りがあり、市販の枕とどちらが極上品か比べるまでもない。

毎日でも膝枕して欲しいくらいだ。

 

しかし、今日は妙に瑞樹の様子が違って見える。じぃっと慈愛の眼差しで見下ろし髪を梳くように撫でてくる彼女と顔を合わせているが、双丘が目に入って集中できない。

 

寂しかったのかと邪推してみるが、そんな子供っぽいことを瑞樹が考えるとも思えない。かと言って一番無さそうな可能性、そこから考えてみることにした。

 

「何か欲しいものでもあるのか?」

 

奈緒はお願いがある時は窺いを立てるのでそう訊いてみるも、瑞樹は首を横に振った。

 

「んーん。青葉さんが疲れてるみたいだったから労いたいなって。……寂しかったのもちょっとあるけど」

「悪いな。仕事が長引いて」

 

ただ、と瑞樹は付け足す。

 

「一緒に海とか、夏祭りに行って欲しいなって。それがダメなら、もう少し一緒にいるとか……ダメ?」

「いや、いいぞ」

 

二つ返事で可愛いお願いを了承した。深く考えずスケジュールも全く見てないが会社はホワイトだし時間がなくても無理やり作るつもりである。

 

「ほ、本当に?」

「こんなことで嘘なんて言っても意味ないだろ」

 

約束一つで無邪気に喜ぶ顔を見るに打算的ではなかった事がわかる。

うちの奈緒とはえらい違いだ。

 

その後は終始無言で髪を梳く瑞樹に見蕩れていると、次第に眠気が襲う。

 

目蓋を閉じたが最後、意識は闇の中へと消えていった。

 

不意に目覚めたのが深夜、早く寝過ぎたからか微睡みの中から意識を少しだけ起こす。月明かりが差し込むだけの部屋の中で静かな寝息が音を立てていた。腕の中で寄り添う少女の姿に一瞬驚いたものの、深く考えることもせず少女の頭を撫でてから人肌の温もりを求めるように手を伸ばし、ほぅと一息ついてまた眠りに就くのだった。


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