妹の友達と同居することになりました。   作:黒樹

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グダグダ試合を描写しても二十代のおっさんが見惚れているだけなのでカットで。


奈緒の秘策

 

 

 

「あー、さすがにこれは予想以上っすね……」

 

相手コートに倒れた瑞樹と奈緒を見て、楓はそう呟いた。

二十五点マッチの一本勝負。終わってみればあっけないもので、勝ったのは俺と楓。それも十点差という大差をつけての圧勝である。

負けた二人は空を仰ぎ見ながら、胸を激しく上下させ荒い息をしている。

熱中症対策に予め買っておいたスポーツドリンクを飲みながら、腰に手を当てて居た堪れない顔で楓は砂浜を爪先で弄っていたのだが、くいと俺に視線を向けた。

 

スポーツドリンクを両手に二人の元へ。一瞬、お腹か胸の上に冷えたペットボトルを当ててみようかと思ったが、頰に当てるだけに留めた。

 

「そんな…嘘です…兄さんがこんなにも運動得意だったなんて…」

「…か、勝てると思ったのに…」

 

その二人といえばぐったりとしており反応を示さない。やはり、胸やお腹に当ててみようかと心の中のセクハラ親父が顔を出したところで悪戯心をぐっと抑えた。

 

「……兄さん本当に未経験ですか?」

 

胡乱な目を向けてくる二人に俺は何食わぬ顔で、

 

「バレーなんて学校の授業でしかやったことないぞ」

「「それでこれって……」」

 

自信喪失気味の二人に若干の哀れみを乗せて、楓が慰めを口にする。

 

「うちの兄貴曰く、運動神経は並以上でどんなスポーツも人並み以上には得意だったらしいですよ」

「……運動がそこそこできることは知っていましたが、いやこれ本当に人並みですか?」

「奈緒には勝算があると思ってたんだけど」

「勝てると思ったんですよ。これでも私達はレギュラーですし」

「青葉さんが予想外すぎたのね……」

 

空が青いと現実逃避し始めた二人、よほどショックだったらしい。少しおとなげなかっただろうか。

 

「因みに青葉兄、目立ちませんが影では結構モテてたらしいですよ」

 

ガバッと二人が起き上がった。お早い復帰である。

 

「それもっと詳しく」

「え〜、どうしましょうかねぇ〜」

 

ニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべて楓は楽しそうに二人を見下ろす。

俺から言わせてみれば、モテるとか初耳なんだが。

学生時代を思い返しているとぐぅぅという音が鳴った。

突然、腹の底から聞こえてくるような音が鳴ればそっちをみてしまうわけで、視線の先には顔を真っ赤にして俯く瑞樹がいた。

 

「そういや腹減ったな。何か食いに行くか」

 

近場には海の家や、海を一望できる喫茶店などがある。

きっと後者は気に入るだろう。

 

 

 

 

 

 

結論から言えば、海の家での昼食は却下されてしまった。折角、キャンピングカーには調理設備があるのだから、使用してみたいらしい。こんなこともあろうかとエプロンを三人分用意していたらしく料理をするという。しかしそれは俺と梓を除いた三人でだ。

 

「手伝うぞ」

「いえ、兄さんは座っていてください」

「だがな……」

「兄さん、食事代は折半にしますよ?」

 

こう脅されては仕方がない。買い物の際、奈緒が素直に受け取ったのはそういう魂胆があったかららしく、時にこうして説得されて食い下がるしかなくなる。よく兄の扱い方を理解した妹である。

ついでに言えば、キャンピングカーは数人で料理するには狭く、四人も調理場に立てば邪魔だろう。特にこの中で一番料理は役に立たないかもしれないのだ。俺が引き下がるのは道理であると共にその分料理には期待させてもらう。

 

そういうわけでスーパーや近くの市場で買った材料を広げ、水着の上にエプロンを装着した奈緒、瑞樹、楓の三人は並んで仲良く料理を始めていた。

 

「ナオ、これどーするっすか?」

「あー、それは下処理が済んだらそちらにおいといてください」

「ねぇ、お酢とお塩はどこ?」

「はいどうぞ」

 

ただまぁ一つ言わせてもらうとすればだが……。

 

なんかエロい。

 

瑞樹達は水着の上にエプロンを着ている。それはすなわち露出度の高いままであるということに他ならず、しかもエプロンを着けたからか妙な背徳感があるのである。水着とは何か違ったエロさ、思わず露出した背中やお尻をまじまじと見てしまう。これ幸いな事に三人は気付いていないみたいだが、興奮は隠せないので興奮しないようにしなければならない。

 

楓は楓でホットパンツを穿いているから、上だけ下着みたいな感じで妙にエロい。もちろんこんな事を思っていたと楓の兄にバレでもしたら、ゴミ虫を見るような目で見られる事になるのだろうが。

 

「……なるほど、料理中の恋人や妻に男が悪戯したくなるわけだ」

 

一人勝手に悟りを開く。

その横で梓は聴覚と嗅覚で料理を楽しんでいた。

視覚で楽しめない上、料理はさせてもらえたことがないらしく、梓もまた俺と同じく見学組にされ、こうして二人して料理する姿を眺めていたのだ。

 

最初の数分はそうだった。が、彼女は飽きっぽい性格らしい。

 

「青葉様、少しよろしいですか?」

 

さっきまで料理する三人に興味を示していたが、俺の手と手がぶつかってから何か考え込むようになり、ふとそんな風に窺いを立ててきた。

 

「あぁ、なんだ?」

 

俺は三人の後ろ姿を眺めていた視線を戻して訊く。

 

「青葉様にご相談がありまして」

「まぁ、何が出来るかわからないが相談くらいなら」

 

暇だし、梓の相手をしているのもいいだろうと二つ返事。

すると彼女は満面の天使の笑みを浮かべる。

 

「では、相談なのですが……青葉様の身体に触れさせてください」

「ん?」

「もちろんただとは言いません。青葉様も私の身体を好きに触ってくださって構いません」

 

顔を見て、メロンを見て、下半身を見て……ごくりと唾を飲む。

いやダメだろう。触られるのはいいが、触るのは。

 

「なんで急にそんな提案を?」

 

真意を図るべく、俺は震える声を出来るだけ抑えて訊き返した。

何か理由があるのではと。

恥ずかしげに頰を染めているあたり、自分の提案の意味はわかっているのだろう。

だが、梓は凄く真剣な様子だった。

 

「……さ、先程、助けていただいた時に気付いたんですが。男性と女性って身体の構造が違うじゃないですか。だからもう少し触ってみたいなぁ、と」

 

理由に共感できないわけじゃない。さらに一押しと梓は付け足す。

 

「私も誰でもいいというわけではありません。危険を承知な上で、青葉様になら、その……何をされてもいいので」

 

俺が注意するであろう事を先回りして封じる。全ては断りづらい空気を作るために。さすがは奈緒の友達といったところか。

 

「いや、別に構わないが……」

「ほ、本当ですか?」

 

梓のお願いは健全である。おじさんの変な誤解が入るだけで如何わしいものになるが、要点をかいつまむと『雄の生態構造を知りたい』という事だ。さらに細かく言えば『筋肉に触りたい』如何わしいのは交換条件だけだ。

 

「ただ、誰にでもそういうことは言わない方がいいぞ」

「はい!……では、失礼します」

 

ペタペタと胸板に触れてくる。二の腕や腹筋に触れながら「おぉ」と楽しげな声を漏らし、時に抱きついてきたりして感触を楽しんでいる。俺もあっちから当たる柔らかい感触にたじたじである。

 

「鍛えてるんですか?」

「まぁ、それなりにはな」

 

美少女に腹筋や背筋、大胸筋を褒められベタベタと触られるのは悪い気分ではない。

「硬い」「大きい」「すごい」などの褒め言葉が続き、飽きず触れてくる梓と戯れながら料理風景を眺める。

一方、調理場が戦場になっていた。

 

「ねぇ、楓、それ取って」

「あ、はい」

 

ズドン、という音が聞こえた。

包丁で南瓜でも切っているような豪快な音だ。

 

「奈緒、胡瓜」

「瑞樹ちゃん、怒るのはわかりますが胡瓜を手で折るのはやめてください」

 

手折られる胡瓜の音が響く。その音を聞いている間に梓は満足したようで、少し赤らめた顔で見つめてきた。

 

「……で、では、どうぞ」

 

どうぞ、と言われても。感情的にはこの巨乳を揉みしだきたいが。揉んだら最後、料理をしている三人からの株価は急激に暴落してしまうだろう。

 

「大丈夫です。二人だけの秘密です」

 

心を読んだような甘い誘惑を梓はしてくる。

 

「殿方はこれに興味があるんでしょう?」と、胸を強調する。

俺は悩んだ。揉むか、揉まないか。

本人は良いと言っているのだ。遠慮する理由はない。だが気にするべきは梓の御両親にバレれば人生が終わる可能性がある。そうなれば社会的に俺は死ぬであろう。

 

そうでなくとも、目の前の三人に話は聞こえていたらしくじとっと粘着質な目が向けられている。

少なくとも瑞樹は同じようなことは一度やっているだろうに。

 

瑞樹が怒る理由から顔を背けたいが、堂々たる宣戦布告を前にして知りませんでしたとなるはずもなく、考えざるを得ない状況に思考を放棄したくなってくる。

 

「あら、青葉様の心臓の音、早くなっていますよ。ドキドキしているんですね」

 

葛藤している間に新しい楽しみ方を得たのか、梓が俺の胸に抱きついて頭を押し付け、心拍数を測られる。

ついでに瑞樹の不機嫌さは加速気味に上昇していく。

 

「あー、青葉兄ご飯できましたよ」

 

俺の理性は迷い抜いた。

 

 

 

所狭しと料理が並べられる。蛸の唐揚げ、海藻と胡瓜を和えた酢物、鰻の蒲焼、鯵の塩焼など、海の幸を使った料理にソーセージと菜花の炒め物を和えたパスタなど。数種類の料理を短時間で彼女達は作り上げてしまった。

 

「どれも美味そうだな」

 

因みにだが、美少女四人を連れ歩き買い物に行けば買う予定のなかった鰻をサービスされたり、色々とあったのだがそこは割愛しよう。誰も魚屋の夫婦喧嘩など見たくないだろう。

 

「ん、これは奈緒が作ったのか?」

「え?はい」

 

卵焼きを指していう。どうやら当たりだったみたいだ。

 

「このパスタは楓か」

「お気に召したっすか?」

「どれも美味い」

 

世辞などではなく、どれも相当美味い。

海の家など相手にならないだろう。

 

「じゃあ、このタコ系統は全部、瑞樹か」

「……うん、そうよ。悪い?」

「いや、やっぱり瑞樹は料理が上手いな」

 

ご機嫌斜め、麗しゅう姫君が不貞腐れている。

 

「別に見てたならわかるじゃない」

 

そんなこと言っても機嫌は治りません、と言わんばかりに冷たい態度を取る瑞樹。だが残念、とある理由でほとんど料理そっちのけだった。ほぼ味で誰が作ったか当てているのだ。

まさか水着エプロンに見惚れていた挙句、梓に翻弄されていたとは言うまい。

 

「いえ、兄さんはずっと水着エプロンのエッチな姿を凝視した挙句、梓ちゃんと戯れていましたから」

 

しかし、全て奈緒にはお見通しらしい。

瑞樹が顔を真っ赤にしてじろっと睨む。ただその瞳に怒気はなく、羞恥が籠っておりまったく怖くない。

何を言うわけでもない、しばらく見つめ合った後で瑞樹の方から顔を逸らした。

本来、逸らすべきは俺の方なのだが、それよりも早く瑞樹は逃げるように視線を逸らし、微妙に気まずい空気になる。

 

「青葉兄〜、そんな目で見てたんっすか〜?」

 

ニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべ、科を作る楓。エプロンを外し水着の上にパーカーを羽織っているだけの格好、当人の愛らしさもあって妙に様になっているのが腹立たしい。

 

「間違ってもお前はそんな目で見ない」

 

–––親友の妹だからな。

そう言外に伝えると、箸を咥えたまま楓は固まった。

 

「……さすがにそれはあたしも泣きます」

 

この後、意外にも脆い目の端に涙を溜めた楓のご機嫌を直すべく、海の家でかき氷を奢ることを約束させられるのだった。




奈緒の秘策(水着エプロン)

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