妹の友達と同居することになりました。   作:黒樹

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引き続き瑞樹視点。


会いたかったのは私だけ?

 

 

縁結びの神社から無事に脱出を果たした私達は観光地として有名な通りを歩いていた。その到達点は有名な建造物であるのだが目もくれず、私達の目的は親しい人に渡すお土産だった。今はその建造物から離れるように通りを歩いていた。本日、最後の集合場所がこの近辺にあるからだ。

 

「ねぇ、ところで……」

 

ふと、足を止める。これは必要な確認だ。きっと皆考えることは同じだろう。だから、先手を打っておくことにする。

 

「楓と梓は誰にお土産を買うの?」

「うちは両親と兄貴、それから青葉兄っすかね」

「私は両親と青葉様に」

 

皆が青葉に土産を渡す予定らしい。

そうなると、懸念すべきはひとつだけ。

 

「何を送るの?」

 

それを決めるために土産屋を覗いているのだが本題はそこではない。私が懸念しているのは、同じ土産を渡してしまうことだ。

 

「青葉様は何が好きですか?」

「あの人、甘い物とかお菓子とかなら大抵好きっすよ」

「できれば青葉様の心に残るものを……」

「そういうのは誕生日とか、特別な贈り物として渡せば?」

「それもそうですね」

 

色々と考えて振り出しに戻る。土産は重くないものを。そう考えれば、食べ物とか手軽なものがいいのだという結論に至った。

 

「どこも試食をやっているようですし、これだというものにしてみては?」

 

どの店でも客引きのために試食等のサービスを提供している。それを見た奈緒が提案したことで、私達はいろんな店に寄ってみることにしたのだった。

 

取り敢えず、ネットで定評のある老舗の土産屋にやって来た。他にも目を惹かれるものがあったがまずは様子見、気にはなるけどお試しといった感覚で立ち寄ってみたのである。

 

「……やっぱり和菓子のいい匂いがしますね」

 

店の敷地に入って数秒、梓の嗅覚が反応する。視覚が働かない分は他の感覚器官が発達してしまったのか、彼女はとても鼻が良く私達では嗅ぎ分けられない匂いなどにも敏感で、聴覚等も並の人より性能が良い。その代わりに視覚がないというのは不便だろうから、羨ましいとは言えないけれど。

 

「はい、アズ試食っすよ」

「これは……抹茶ですか?」

「そうっす。いきますよー」

「……あむっ。……」

 

楓が目敏く試食コーナーを見つけるとそこに梓を引っ張り、視覚のない彼女の代わりに安全性を食べて確認してから彼女の口に運ぶ。もう見慣れた光景だけど、他の客は少し興味深そうに見ていた。それもそのはず彼女のような客は珍しいのだろう。不快な視線も気にしていないところは二人の神経が図太いのか二人きりの世界に入ってしまっているのか定かではないが、身内としては見慣れた光景なのでスルーしておくことにした。

 

匂いだけでどんなお菓子なのかある程度の情報を得てから、口に運ばれた和菓子を咀嚼して梓は少し口角を上げる。しかし、彼女の舌は高性能故かお気に召した様子はない。彼女が本当に気に入ったのなら即決で買うだろう、ということは予想できるからだ。

 

「……美味しいですが、青葉様に贈るものとしては不十分ですね」

「美味しいんっすけどねぇ〜」

 

ご覧の通り店の体裁のためにも美味しいとは言っているが、梓はお気に召さなかったようでお財布の紐が緩むことはない。たとえ視覚がなくても彼女はしっかりしているので悪徳商法等や粗悪品に引っかかることはないだろう。梓に付いている楓も目を光らせているため、彼女を騙そうにも騙せる人間はそうそういないが。

 

こんなに二人の仲が良いのは信頼関係だけでなく、下心ありきで近寄った男子生徒がいたためなのは余談だ。

 

そんな二人を横目に私と奈緒も試食を口にする。絶妙な甘さの餡が詰め込まれた焼き物を口にして、喉が渇いて持参していたお茶を口にして口の中を潤した。

 

「まぁ、当然お茶が欲しくなりますよね」

「同感ね」

 

美味しかった。そう思うのだが、土産に選ぶには何か足りない気がする。青葉が甘い物を好きなのは重々承知だがあの人は美味しいものであればなんでも喜ぶので正直な話なんでもいいのだが、こういった普通の甘味はきっと経験上口にしているだろう。奈緒の話では中学生の頃に修学旅行で訪れたらしいし。

 

結局、その店では物色しただけで購入には至らず店を出る。

万人受けする定番の品を探す。

店によって味は違う。

量産品と比べて、であるけど。

買うならやはり専門店か老舗しかない。

せっかく此処まで来たのだし。

 

それにしても土産屋の多いこと。十メートル進むのでも一苦労だ。老舗や専門店以外の土産屋を無視してものろのろと進む足の遅さに次第に疲れが見え始める。あの二人は性懲りもなく試食を繰り返す。言いたくはないけど、甘い美味しいと食べ続ければかなりの栄養分になるわけで、乙女としては看過できない事態だ。

 

「今思ったんだけど、梓が食べたものって全部……」

「あの巨乳の栄養になってるわけですね」

 

胸がないというわけではないけど、太らない体質というのは凄く羨ましいものだ。

 

 

悩んでいる間に時間は進んでいく。時間制限は当然あって残り三十分ほど、というのに私は青葉に渡す土産を決められずちょっとだけ焦り始める。その間にも三人は既に必要な分の土産を購入していて、残りは私だけとなった。

 

「悩んでますねぇ〜」

 

ちゃかすように楓が言った。背負っているリュックは最初より少し膨らむ程度、右手は梓と繋がれていてこの自由時間一時間と離していないのだろう。口調からは考えられない面倒見の良さが彼女にはある。だからこそ、梓の御両親も梓の修学旅行を許した上で、教師も梓の面倒を全て楓に丸投げしている。

 

「そういう楓と梓は何を買ったの?」

「うちの両親には人気の抹茶大福、兄貴には激辛煎餅、青葉兄には湯呑みと急須」

「私は青葉様に良いと思ったお茶と和菓子を」

 

二人は示し合わせたのだろう。梓が和菓子とお茶を選んだのならハズレはないだろうし、そのお茶を飲むための湯呑みを楓が用意するというのは自然なことだ。この前来た時に湯呑みがないのも確認したのだろう。

 

「で、奈緒は何を?」

「私は皆の写真と適当な御茶菓子を」

「……そんなものいつの間に撮ったのよ」

「許可を先に取ったら自然体で撮影できないじゃないですか」

「事後承諾なのね……」

 

学校側でも集団行動中に撮影したものがあるけどあくまでそれは学校行事としての体裁があり、プライベートな面はない。何より限られているし流石に奈緒も変なものは撮ってないだろうが。

 

「それに奈緒は写っているの?」

「それはぬかりないっすよ」

「あ、あれ、楓ちゃん?」

「こんなこともあろうかと私も撮ってます」

 

一枚上手だったのは楓の方でベストショットとして楓が提示したのは、奈緒の寝顔の写真だった。完璧な義妹を演じる奈緒のあられもない姿である。無防備な姿ともいう。

 

「ま、待ってください。流石にそれは……」

 

今更な気もするが奈緒は見られたくないのだろう。ワナワナと手を震わせて彷徨わせているが、やがて同罪だと諦めたのか自分のスマホにも楓の寝顔の写真を表示した。

 

「これを消しますから、その写真を消してください」

「青葉兄次第っすね」

「そんなぁ……なら、これでどうですか!」

「私のえっちぃ写真なら青葉兄に送ってもらっていいっすよ」

 

何故か敵に塩を送り合っているような状況に見えるのは気のせいだろうか。

 

「……って、あまり時間もないわね」

 

あの三人に付き合っていたら時間がなくなる。

私は慌てて土産屋を覗くのだった。

 

 

 

 

 

 

無事に修学旅行が終了した帰りのバス。

大多数が興奮冷めやらぬまま、車に揺られていた。

 

「もうすぐ学校ね……」

 

やっと……。青葉に会える。

そんな気持ちから独白した。

心待ちにしていたから口から漏れ出てしまった。

やっぱり心の何処かで私は修学旅行を楽しめなかった。

今度は青葉と行きたい。

二人きりでなくても良いから、また皆で。

 

「はーい。着いたから寝てる人は起こしてー」

 

バスは学校の敷地内に停車した。教師が生徒の降車を促し、寝ている生徒がいれば隣の人に叩き起こさせる。生徒達は修学旅行の疲れからか気怠げにバスから降りていった。私達もバスから降りて、最後に生徒が残っていないこと、忘れ物がないことを確認した教師が降りてくる。そうして生徒達は最後に校舎前に集合させられた。

 

「えー、これで修学旅行は終了しますが–––」

 

そして始まる教師の長い話。

一同は辟易としながらも上の空で話を聞き流す。

休日はしっかりと休息を取るようにとか。気をつけて帰れとか。注意事項ばかりが続く。

十分くらいで長い話が終わり、生徒達はやっと帰れると解散した。

 

「……この重い荷物を持って帰るのね」

 

しかし、現実問題に数日分の着替え等が入った旅行バックや土産等で膨れ上がった鞄を見ると解放感も落胆へと変わった。

 

「兄さんはこれ抱えて歩いて帰ったみたいですが」

「……」

 

それは青葉が男性だからと言いたいけど、きっと青葉は別の理由で一人で帰ったのだろうとは想像に難くなかった。

 

「こういう時の兄さんです」

「でも、青葉さんもまだ会社じゃ……」

 

私の静止も無視して奈緒はスマホで連絡を取り始める。電話を鳴らすと数秒で相手は出た。猫撫で声で奈緒は電話向こうの青葉に頼み込んでいるようだけど、その声はスピーカーにしていないにも関わらず私にもしっかりと聞こえたのだ。それも背後から。

 

「もう迎えに来てるっての」

「……え、青葉さん?」

 

振り返ればその先には私服姿の青葉がいた。ジーンズにパーカー姿のあの人が気怠そうに此方を見下げている。予想外の早さに奈緒も面食らっているようだった。

 

「な、なんで此処に?」

「そりゃ迎えに来るためで……終わる時間は大体知ってたし」

 

照れ臭そうに応える青葉に私は少し嬉しくなってしまう。

ほら、と手を出してきたからその手に自分の手を重ねた。

 

「……荷物寄越せって意味なんだけど」

「–––!?ち、違うの、間違えたのよ!」

 

そう、これは疲れてるからで決して手を握ってくれるとか考えたわけでない。多分、私は疲れているのだ。そんな私の勘違いに奈緒はニヤニヤしているし。

荷物を二人分、全部渡したところで青葉は微動だにせず聞いてきた。

 

「あの二人は?」

「マジでやった大好き愛してます!」

 

何処から聞いていたのか楓が青葉に飛びついた。これ見よがしに胸を押し付けて青葉を誘惑する。抱き着かれた彼も満更じゃなさそうで、鼻の下を伸ばしている。抵抗がないのは両手に荷物を抱えてることだけが理由じゃないだろう。

 

「寄越すのは荷物だけにしてくれ」

「またまた〜嬉しいくせに〜」

 

そんなやりとりをしている二人の間に手を差し入れて、間を引き裂くように離した。

 

「梓は?」

「御両親が迎えに来れないみたいっすよ」

「あの……お願いしてもよろしいでしょうか?」

 

一人だけ除け者という選択肢はないわけで、青葉は軽く了承すると梓の手から荷物を奪った。私達なら根をあげる重量を一人で軽々と持ち上げる様に「おぉ」と奈緒の口から感嘆の息が漏れる。

 

「じゃ、帰るぞ」

 

車に向かって歩き出す三人の背中を見ながら私は青葉の横に並ぶ。彼の腕を掴む。本当は抱き着きたいところだけど荷物の重装備で抱き着く隙がない。だから、今はこれで我慢する。

 

「……あの瑞樹さん?歩きづらいんですが」

「嫌なの?」

「帰ったら好きにしていいから今は遠慮していただけると」

「……」

 

塩対応に拗ねた私は彼を追い越す。荷物で手が塞がっている青葉の代わりに車のキーを開けた奈緒達が続々と車に乗り込んでいて、私も意趣返しとばかりに無言で助手席に。それから数分後に荷物を載せ終えた青葉が機嫌を窺うように運転席に乗り込む。

 

「……何を怒ってるんだ?」

「知らない」

 

彼の困った顔を見ていたくて小一時間ほど拗ねたフリをした。

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