妹の友達と同居することになりました。   作:黒樹

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甘い罠

 

 

 

診断結果。

 

『風邪。疲労と軽いストレスが原因ですね』

 

医者は瑞樹の病状をそう診断した。

極度の緊張から解放され、微熱が出た原因を明確に言い当てる。

薄々はいつかそうなることも想定していたが、ついに来てしまったことに俺は納得と共に仕方のないことだと思うしかなかった。

それは必然であり、避けられない事態である。

本当の意味で瑞樹の緊張が溶けた、その瞬間でもあるのだから。

 

あの後、麻奈さん–––義母に車で迎えに来てもらい、病院へ行き薬を貰って帰ってきたところ。実家の自室に瑞樹を寝かせたところで俺はというと–––

 

 

「もうだから心配してたのに青葉くんは!」

 

 

–––義母に説教されていた。

 

正座する俺の前には瑞樹とそう変わらない、いやむしろ抵身長の女性。もはや小学生と見間違う童顔に断崖絶壁は容姿を幼女たらしめる原因の一つだろう。ロリ巨乳なんて都合の良い設定は存在しなかった。

まるで保育士が園児に話しかけるような口調で本人の精神年齢もさることながら、見た目も加速的要因となり幼女である。まず俺が親父のロリコン疑惑を浮上させたほどだ。前妻も合法ロリだったからな。

 

「ちゃんと女の子の変化には気をつけなきゃメーッだよ?女の子は繊細なんだから。大切にしてあげなくちゃメッ!」

 

それにしてもこれは酷い。実の娘が目を逸らしてるんだぞ?実際、姉妹に見られたらしいし。しかも奈緒が姉という特別オプション付きで。

 

「これは流石に二人きりの同棲は本格的に考え直さないといけないかしら……?」

 

ふと義母の口をついて出た言葉に真っ先に反論しかけたのは、黙認して説教を甘受していた俺だった。

 

「そ、それは……」

 

口を開いたはいいものの何を言えばいいのかわからない。

今、俺は何を考えた?

頭で考えるより先に反応してしまった口は、パクパクと金魚のように開閉するだけで紡ぐ言葉を思いつかない。

反射的に出たのだ。続くわけがない。

 

「まぁまぁ。兄さんだって頑張ってますし……兄さんが全て悪いというわけではないんですから」

 

俺の代わりに奈緒が諫めてくれるが、思案顔で義母は腕を組んでいる。

 

「うーん。でも〜」

「ストレスっていうのもきっと学校でのことでしょうし」

「あら、奈緒ちゃんは心当たりがあるの?」

「度重なる告白とか鬱陶しいみたいで。本人は、ね?」

「確かにね〜。もうね、意中の人がいたら他の人なんて眼中にないわよね〜」

 

女同士で結託したと思ったら、急に惚気始める義母がちらちらと此方を見てくる。母娘揃ってにやにやと似たような顔をされれば居た堪れなさも二倍だ。恋話になると年齢は関係ないのだろうか。後で瑞樹の件には言及をするとして。

 

しかし、責任問題を押し付けるわけにはいかず、俺は如何なる処罰も覚悟していた。瑞樹と離されることになろうとも仕方ないことは理解している。元々、俺には手に余る案件だったのだ。

 

「青葉くん、わかってる?」

「今回の責任の所在ですか」

「硬い。も〜家族だからそういう態度とってるとメッだよ」

 

温度差が激しい。

でも、均衡は取れているだろう。

それはともかくと議題は瑞樹のことへ。

 

「ママ決めたから」

 

何処か決意した様子の義母に俺は判決を待ち、引き離されることを覚悟して放たれた罰は–––。

 

「二人とも家で住んでもらいます」

 

……少し、予想の斜め上だった。

 

「……え?」

 

瑞樹と離されると思っていた俺は拍子抜け、一人暮らしに戻ることを憂鬱に思っていれば、ポカンと呆けて次第に言葉の意味を理解して訊き返す。

 

「あら、引き離されると思っちゃった?」

「え、なんで?」

「んー。瑞樹ちゃんの気持ちは理解しているつもりだし、引き離すと可哀想でしょ?それにママも思ってたんだけど、青葉くんが家を出て行って寂しいなぁって」

「いや、でも……」

 

その決定に反論しかけた。別に悪い条件ではない。

瑞樹にとって良い話。

だけど、俺は自分の感情を優先する。

覚悟を決めた故に、こんな終わりを納得できなかった。

それは義務感でもない。……僅かに瑞樹に向けられた、名前をつけられない感情故に。

 

でも、言葉を紡げない。

喉まで出掛かった言葉が詰まる。

 

「もちろん、今まで通り二人で同棲してもらってもいいけど。その場合、条件をつけさせてもらうね」

 

どっちがいい?と満面の笑み。

揶揄われてるのは百も承知。

俺に言葉を出させずとも、反応だけで心の内を覗かれる。

母娘揃って性質が悪い。

 

「俺は–––」

「んふふ〜。青葉くんは瑞樹ちゃんのこと大切にしてるんだね」

 

掌で転がされるとはこういうことを言うのだろう。

 

 

 

 

 

 

長い説教を受けた後、俺は瑞樹の眠る元自室へと足を運んだ。

部屋の主がいない間も奈緒が定期的に掃除していたらしく、その部屋は埃一つなく清潔で生活感に溢れていた。

それこそ毎日部屋に誰かが訪れていると言わんばかりに。

部屋でベッドに身を預けるは今回の主役であったはずの娘、今や布団に絡まり此方の姿を見た瞬間、布団の中へと顔を引っ込めてしまった。

 

ご機嫌斜めな瑞樹のベッドの横に凭れるように座り、置いて行った私物を見つめつつ姫のご機嫌を窺う。

 

「具合はどうだ?」

「別になんともないもの」

 

元々、微熱があるだけで倒れた以外には心配することはないらしい。

拗ねて不貞腐れる、昔も見た瑞樹が新鮮で思わず俺の頰も緩む。

 

「良かった。……いや、まぁ良くはないか」

 

現状、問題があるとしたらご機嫌麗しくないことだ。

 

「瑞樹が楽しみにしてくれていたのは……まぁ、身を持って知れたし。そう思ってくれたのは純粋に嬉しいけど。でも、やっぱりお互いに楽しめなきゃこういうのって意味ないだろ?」

「……」

 

上手く言葉にできない。纏まらない思考に俺も何を言っているのかわからなくなる。

 

それから数十分、奮闘した。

 

やめた。

これは俺らしくない。

頭をガリガリと掻いて、首をベッドに預ける。

天井を見上げて、嘆息を一つ。

 

「……瑞樹さんそろそろ機嫌直してくれませんかね」

 

誠意もへったくれもないド直球なお願いである。

奈緒にもよく使う手だ。

余程、相手が悪く無い限り奈緒にはよく使う。禁じ手である。

禁じ手とはよく言ったもので、使い方を誤れば使われた相手の性格が歪んでしまいかねないからだ。甘やかすとろくなことがない。その点二人はしっかりしているので使える手でもある。

 

「デートは後日改めてすれば良い。二人で行きたいところはまだあるし。それとは別で願い事の一つくらいなら訊くか–––」

 

そして、俺も必死だった。仲が険悪になって食事が質素になるのはどうしても避けたかったのだ。もはや俺の胃袋は瑞樹がいないとダメと言ってもいい。

 

ふと言葉を止めてもぞもぞと動く音に反応して振り返ると、毛布から顔を出した瑞樹がいた。

 

「……なんでも一つ?」

「まぁ、不可能な事以外なら」

「じゃあ、身体を拭いて」

「……はい?」

 

赤面しながら懇願してくる瑞樹は口元まで毛布で隠れている。

やがて意を決したのか、布団から這い出るとパジャマのボタンに手を掛けた。

 

「いや、それは流石に異性に頼むのは……」

 

義母と義妹がいる。二人に任せればいい。常識的にはそうかもしれない。微熱のせいで瑞樹までおかしくなってしまったのかとそう勧めてみても、ゆっくりとボタンを外していく瑞樹から目を離せない。

一つ、二つ、三つ–––そして、全て外し終わり、前開き露わになった肌から俺は目を離せなかった。

服の隙間から覗く肌に下着はつけていない。発展途上ながらも大きな胸が自己主張し、パジャマを押し除ける。

 

「いや、なの……?」

「拭くタオルや水の準備をしてくる」

 

それを言い訳に誰か止めてくれないかと願った。

本能的にはやりたいものの、理性的にはダメだと告げている。

準備に逃げようとしたところで、扉が開く。

妹が立っていた。それも手には洗面器とタオル。

 

「はい、兄さん」

「お、おう……ありがとう?」

「ではごゆっくり」

 

一式を押し付けるとそれだけ言葉を残して去って行った。退路は絶たれた。

 

「あー、その……本当にいいんだな?」

「恥ずかしいから早くして欲しいのだけど」

 

最後の一線、パジャマを取り払うことはなく急かしてくる。

背中を向けて待ちの体勢。

瑞樹の肌に傷をつけないよう、俺は慎重に服に手を掛けた。剥がすように脱がす。

上半身裸となってしまった瑞樹の肌。胸を隠すように腕を回した瑞樹の背後で洗面器のぬるま湯にタオルを浸して絞り、背中に優しく当てるとまずは一撫で。

 

「ひゃ、んっ」

 

可愛らしい嬌声に背徳感が増す。

もう既に、その熱がどちらの体温かなど知る由もない。

努めて平常心で背中を拭いていく。背中からでも手で感じる心臓の鼓動が余計に俺の理性を揺らす。

肩越しに見える瑞樹の頰は赤く染まっており、その表情にも胸の内が叩かれるようだった。

 

「終わったぞ?」

 

背中は。背中だけだ。瑞樹はぐったりと上半身裸のままベッドに身体を預けている。

 

「あとは自分でできるな」

 

じゃないと俺の理性が死ぬ。

 

「無理。動けないわ」

 

コロン、と仰向けに転がって……片手を伸ばしてくる。

 

「拭いて」

 

微熱のせいだろうか。瑞樹がおかしい。

 

「あーもう拭いたら寝ろよ」

「添い寝。して」

「……」

「一生恨むわ」

「わかった。わかったから」

 

滅多に言わないわがままを出来るだけ叶えるべく、俺は行動に移した。

 

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