はい、現在自分死んだ目状態です。
死んだ目状態はそれほど長くは続けません。少しずつ元に戻していく予定です。
あまり長くやりすぎると攻略組から追い出されるのでね。
勿論短すぎればキリトさんに疑われることになるので、適度な長さで元に戻ります。
さて、こんな時でもキバオウさんとの週に一度の決闘からは逃れられません。
もう結構キバオウさんと敏捷筋力共に差を付けられていますが、キバオウさんの攻撃の癖や思考回路、とっさの行動等は完全に理解できているので、まだまだ対応は余裕です。
これがさらに後半になってくると、敏捷筋力がもっと離されて、完全に動きを先読みしなければ対応できなくなります。
そしてその頃にはもう対人戦特化型キバオウさんはほぼ完成しているのでね、ヤバイです。
基本的に、対人戦を行うときは、敵の全身を見ていますが、特に足と表情を意識して確認しています。
上下で離れてはいますが、もう慣れました。
敵との距離が近すぎたり、体勢的にそのままでは足か顔の片方しか見えない場合は左目を上に、右目を下に向けて無理やり全身を見ています。
人間が動くときには必ず足に力を込めなければならないため、足の向き、力の入り方等で、相手が実際に動き出す前に、どこにどう動くのかは予測できます。
これをしないと敏捷で劣っているので攻撃を避けるとか、追撃を仕掛けるとか夢のまた夢です。
そして、人間は感情や考えが顔に浮かぶものです。
焦り、驚き、恐怖などなど。
で、それらを心に抱いた場合の咄嗟の行動というのは思考しての動きではなく反射的な動きになるので、その人物のデータさえ揃っていればそこから相手がどのように行動するかの先読みが可能となります。
キバオウさんとは戦いすぎているほど戦っているので、頭の中にデータは完璧にそろっています。
さて、今回は死んだ目状態なので、いつもとは違った戦い方をします。
「今日こそわいが勝つで!」
いつもは攻撃を避けたり、武器で攻撃を受け流したりして、ダメージをできるだけ貰わないようにしながら、隙をついて攻撃をしていました。
因みに、相手の攻撃を武器で受け止めることはしません。
筋力が足りていないというのもあるのですが、何より武器防御のスキルが無いため、武器で防御してもダメージがかなり入ってしまいます。
なので、真っ向から剣をぶつけることはしません。できません。
「ん? どないしたんや? いつもと雰囲気ちゃうで?」
で、今回はスタイルを変えます。
作戦、ガンガンいこうぜ!
自分死んだ目してますが。
「えーっと、ではでは! 今週もやって参りました! キバオウ選手vsヒャッカ選手のデュエル賭博! さあ、今日の試合時間は一体何分間かかることになるのでしょうか!?」
賭博の内容はどちらが勝つかではなく、自分がキバオウさんに勝つまで何分かかるか、というものです。
あらかじめ自分が今日の対戦時間の予想を告げ、その時間より早く終わるか、遅く終わるかを賭ける単純なものです。
あ、あと一応キバオウさん勝利にかけることもできます。
これは、八百長し放題です。
しかしキバオウさんは八百長等を好まないので、自分が全力で戦っているように見せかけながら時間を稼いだり、早く終わらせたりとバレないように調節して儲けさせていただいております。
儲ける、とは言っても、ここで稼いだお金は自分の懐には一切入ってきません。
全額全て、自分が作らせた職人プレイヤーへの支援ギルドに寄付されています。
これ、このギルドにお金を振り込めば振り込むほど、職人プレイヤーの成長が早くなって、攻略組の士気向上や武器防具が強くなるので、積極的に時間調節して稼いでいます。
自分の懐にコルは入らないので、よっぽどあからさまでない限り、観客から八百長は疑われません。
賭ける人たちも、勝ったら大儲け、負けても職人プレイヤーたちへ支援したという事になるため、皆さん結構大金を落としてくれます。
職人プレイヤーの支援は、美味しい食事が食べれるようになったり、いい服が着れるようになったりと、賭けに負けても結果的に巡り巡ってその人の利益にはなったりしますからね。
自分の評判も高まりますし、どうせ敵対ルートでは決闘は避けられませんから、積極的に活用していきましょう。
これ、一石何鳥でしょうか?
「司会進行は、私リズベットと!」
「アルゴがお送りするヨ」
ん? リズベットさん何やってるの?
「えー、シリカさんは諸事情で来れなくなったとのことで、急遽私が代役で司会することになりました、よろしくお願いします!」
はぁ、そうなんですか?
まあいいか。
「そして! 今回の解説役は攻略組の、このお方! クリンプさんです!」
「……」
え? なんで解説にコミュ障呼ばれてるの? 人選ミスすぎない?
コミュ障がこんな場所で話せるわけないじゃないですか! 鬼ですか!
「クリンプさんは今回の試合時間はどれくらいぐらいかかると予想しますか?」
「……」
やっぱり話さないですよね。
「えー、はい! では、ヒャッカ選手に本日の時間を決めてもらいましょう! どうぞ!」
コミュ障、流されましたね、かわいそうに。
さて、最近は大体3、4分、長い場合は5分くらい試合時間がかかっています。
基本的にヒットアンドアウェイ戦法で確実に勝つために、HPを少しずつ削っているのでね。
ですが今回はそれほど時間はかからないので、手を上げて指を2本立てましょう。
「指が2本、ということは2分で」
「20秒」
「……へ?」
「20秒だ」
「な、な、なんやと? ……ジブンふざけとるんか!!」
「おお! なんとー! ヒャッカ選手大胆にもキバオウ選手を20秒で倒すと宣言! これにはキバオウ選手も怒りをあらわにしております!」
「わいを20秒で倒すやと!? 舐めんのも大概にしろや!」
キバオウさん、怒りが爆発しかけてますね。
爆発したらあの頭のトゲトゲが飛んできたりするのでしょうか?
「その慢心、絶対後悔させたるで! わいは今までのわいとは違う! 今日勝つのはわいや!」
スーパーわいや人キバオウ。
なぜか今この単語が頭の中に浮かんできました。
強そう、いや弱そう?
頭もトゲトゲとしてるし、あの茶髪が金髪になってくれれば、スーパーわいや人になるかもしれない。
今度遊びプレイの時に金髪の髪染めアイテムをキバオウさんにプレゼントしようかな?
アイテムストレージは使えませんので面倒ではありますが、遊びプレイの時は時間が有り余っていますのでね。
「さあさあ! 皆さん! 試合時間が20秒未満だと思う方はこちらに! 20秒以上だと思う方はあちらに賭けてください!」
「大穴も大穴、ブラックホール、キバオウさんに賭けたい方はこちらにどうぞ!」
いやー、皆さん20秒以上に賭けますね。
ま、当然ですね。
だって皆さんは毎週キバオウさんの成長を、強さを見てきていますから。
流石に20秒以内は不可能だと思ってしまいますよね。
これは20秒以内の倍率やばいことになりそうですね。
いーなー、自分20秒以内に賭けたいなー。
もし賭けることが出来たらコルが山のように手に入るのに。
ま、それは縛り的にも不可能ですし、八百長案件になりかねないのでやれませんが。
因みに、ブラックホールキバオウさんにかける方は、まだ1人か2人くらいいます。
倍率がかなり高いですからね、夢がありますよね。
でも、ブラックホールキバオウさんに賭けた彼らが、賭けに勝っても、自分負けたら即リセットするので、そのお金は使えませんがね。
どんまい。
さて、ではキバオウさんがデュエルを申し込んできたので受けましょう。
決着方法は変わらずに半減決着モード。
HPが半分減るか、もしくは制限時間の超過で終了するデュエルです。
さて、デュエル開始前には、60秒の猶予時間があります。
この時間帯は、まだデュエルが始まっていない判定なので、圏内では相手に攻撃してもダメージは入らず、圏外ではダメージは入りますが、グリーンカーソルのプレイヤーを攻撃したと言うことで自身のカーソルがオレンジに変わってしまいます。
そして、今ここは圏内、犯罪防止コード圏内です。
つまり今ここ攻撃しても障壁に阻まれてキバオウさんにダメージを与えることはできません。
なので攻撃します。
残り猶予時間は10秒です。
突撃ー!
「な!?」
体全体を使って、全力で剣を振ります。
この攻撃にキバオウさんは対応しません。
なぜならまだデュエルは始まっていませんから。
デュエル開始前に襲いかかられるなんて、キバオウさんは初体験でしょうし、それに今攻撃されてもHPは減らないと言う思考があるからか、キバオウさんはこの時棒立ちしています。
いい的ですね。
デュエル開始前に攻撃したところで、圏内なら障壁に阻まれてダメージは与えられません。
でも、武器が障壁にぶつかった時の閃光や軽い衝撃はキバオウさんに届きます。
そして、今の自分のステータスで、全力の攻撃なら、軽くノックバックさせることも可能です。
ばしーんっと。
はいデュエル開始。
驚きと、衝撃によりノックバックしている隙だらけなキバオウさんに、1撃2撃、はい3撃っと。
ここまで攻撃を加えると、キバオウさんは反撃をしてきます。
しかし、この反撃は咄嗟に、反射的に行ったことです。
予想外の事が多すぎて、この時のキバオウさんは思考がうまく回っていないのでしょう。
つまり、一番使い慣れたソードスキルを反射的に使ってくると言う事です。
ソードスキルの名は、サベージ・フルクラム、この時期のキバオウさんが好んで使っている3連撃技です。
で、ここで距離をとって避けてもいいのですが、そうなると20秒以内が達成できないため、距離を取らず、1、2撃目は体さばきと剣での受け流しで対応します。
そして3撃目は、あえて受けます。
サベージ・フルクラムの3撃目は突きです。
その突きをまっすぐ受け止めます。
この時、吹き飛ばされないように全体重を前に乗せ、両足でしっかり踏ん張りましょう。
これをすると、自分は金属鎧などではなく、皮防具なので、キバオウさんの剣に突き飛ばされる事なく、そのまま貫かれます。
これにより、大ダメージは入りますが、この1撃だけではHP半減までは行きません。
当然大ダメージを受けたためノックバックはしますが、キバオウさんの技後硬直時間の方が長いため、問題ないです。
で、キバオウさんの技後硬直時間が解ける前に攻撃をします。
攻撃攻撃ー!
これでもまだHPは半分まで削りきれませんが、大丈夫です。
いま、キバオウさんの片手剣は、自分の体に埋まってますから。
剣が体に埋まった状態で普通に剣を振っても、勢いが乗らないため、大したダメージは入りません。
なのでキバオウさんはここで剣を手放して下がるか、剣を抜く必要があります。
当然、剣を手放せば、キバオウさんは丸腰になってしまうので、剣を抜こうと引っ張ります。
で、素直に剣を自分の体から抜かせる必要はないので、キバオウさんが剣を引っ張った瞬間、右手の剣を引きながらキバオウさんに近づきます。
そして、その勢いのまま隙だらけなキバオウさんの顔に剣を突き刺せば、終了です。
はい勝利。20秒以内なんて余裕ですね。
あ! キバオウさんの頭にもう一つトゲが生えた!
頭に剣が刺さっても生きているって、軽くホラーですよね。
「な! なんとなんと!? ヒャッカ選手! 宣言通りの20秒以内達成!!! 早い! 早すぎる決着だぁぁぁぁ!!!」
因みに、完成した対人戦特化型キバオウさんの突きを体で受け止めるのはやめましょう。
その状態からでも発動出来るソードスキルのモーションを起こして攻撃してきますから。
普通に剣を振るだけなら勢いは乗りませんが、ソードスキルはシステムアシストと言うブーストがありますのでね。大ダメージをくらいます。
昔負けました。
この戦法が通用するのは対人戦特化型キバオウさんに成長しきる前までです。
成長前でも、2回目からは対応してくるので、やれるのは一度きりです。
あと、この戦法は、自分の体を犠牲にして攻撃をしていますから、死んだ目状態の時に行うのが自然です。
「強くならなきゃ、強く、もっと、もっと、誰も死ななくていいように、みんなを助けられるように、強く、ならなきゃ」
と言う心無い言葉を言って立ち去りましょう。
死んだ目アピールしておかなきゃね。