SAOメインメニュー縛りRTA   作:アルシャ

25 / 47
第25話 74層

「ん? ヒャッカ君、武器を両手剣に変えたのかい?」

 

「は? いや変えていないが?」

 

「だがその武器は両手剣だろう?」

 

「何言ってるんだ? ヒースクリフ、これは片手剣だぞ?」

 

「……そう、なのか?」

 

「ああ、そうだが? 誰かがこの武器を両手剣だとでも言っていたのか?」

 

「……いや、そうじゃない、すまなかった、君が今まで持っていた武器よりも長く見えたのでね、てっきり両手剣かと」

 

 ヒースクリフさんはアストグリフが両手剣だと知っていますからね。

 でも、しっかりしらを切り通しましょう。

 自分が片手剣だといえば、ヒースクリフさんはそれ以上何も言って来ませんからね。

 だって現にアストグリフを入手しているプレイヤーは自分だけ、その自分がアストグリフを片手剣だといえば、他のプレイヤーは片手剣だと思いますから。

 

 はい73層突破ぁ! やった! 勝ったぁ! ここまできたらもうほぼ勝ちだ! 

 これはいける! 今回クリアできる! キバオウさんにさえ負けなければ、キリトさんがヒースクリフ倒してくれる! 間違いない! 

 

 キバオウさんなのですが、もう対人特化型キバオウさん完全形態にまで進化しました。

 でも、まだギリギリ勝てています。

 基本的に自分のHPが6割以下まで削られはしますが、アストグリフの強化がだいぶ上手く行ったお陰でギリギリ勝てています。

 

 でもこれ、ちょっとおかしいんですよね。

 キバオウさんが対人戦特化キバオウさん完全形態になるのは、今までは最速でもゲーム開始から1年半が過ぎてからだったんですよ。

 

 で、今は4月で、ゲーム開始からまだ1年と5ヶ月未満しか経過していません。

 1ヶ月分キバオウさんの成長が早いんですよね。流石にそれは早すぎます。

 

 で、目標タイムはゲーム開始から1年半以内なので、遊びプレイ以外でキバオウさんが完全形態になることはないはずだったんですけどねぇ。

 

 まるで自分にクリアして欲しくないかのような意思を、運命を感じます。

 マジで死んでくれ。

 

 いや、まあきっと自分が把握できていない何かが起こっているだけなんでしょうけどね。

 でも、あと数回キバオウさんに負けなければいいだけの話ですから、大丈夫大丈夫。

 

 さて、で、74層なのですが、ここで自分が何もしていなければ、74層のフロアボスはキリトさんではなく、攻略組が倒してしまいます。

 そうなるとマズイです。

 

 自分が最初から何もしていなければ、フロアボスに軍が勝手に突っ込んでくれて、キリトさん達が彼らを助けるためにボスに挑んで、キリトさんが二刀流を解禁するのですが、今回はそう言った無茶なことをしてくれる人がいないため、このままですとキリトさんの二刀流バレが起こらず、アスナさんを賭けたキリトvsヒースクリフの決闘イベントで、キリトさんは二刀流ではなく片手剣を使ってしまいます。

 

 そうなると、キリトさんはその決闘でヒースクリフを追い詰めることができず、追い詰められたヒースクリフがシステムのオーバーアシストをついつい使ってしまった、というイベントがなくなり、キリトさんの中でヒースクリフ=茅場という方程式が成り立たなくなります。

 

 そうなってしまうと75層のボス戦後、キリトさんがヒースクリフに斬りかかることがなくなるのでリセットとなります。

 

 と、言うわけで、今回は中層プレイヤーを焚きつけましょう。

 

 どうやるかと言いますと、たらたらったらー、回廊結晶ー。

 恒例のやつですね。

 回廊結晶は、低階層ではかなり出にくくはありますが、ここまで階層が上がっていると比較的容易に手に入るようになります。

 それでも貴重品であることは変わりありませんが。

 

 さて、今回のターゲットは、とある小規模の情報屋のギルドマスターです。

 アルゴさんではありません。アルゴさんとは別の情報屋ギルドのギルドマスターです。

 

 アルゴさんに手を出すと、本当に後悔することになるので、やめましょう。

 

 で、その情報屋のギルマスはフットワークがとても軽く、自分の目で見たもの以外は決して売り出さないというスタンスで活動している為、ギルドホームにこもっているということはほぼありません。

 

 彼は基本的に宿止まりです。

 自分、彼のお気に入りの宿は全て知っています。

 ですが、彼の活動範囲は全域で、どこにいるかはほぼランダムな為、このままでは彼の泊まる宿を特定できません。

 

 なので、情報で釣ります。

 その情報屋さんのギルドに、ギルマスが食いつく情報をタレコミ、ギルマスが71層のとある街に来るように誘導します。

 

 そこまでいったら、彼のお気に入りの宿に回廊結晶の転移地点を登録しておくだけで、大丈夫です。

 彼はその宿に吸い込まれるように泊まってくれますから。

 

 はい、宿屋の一室に転移してきました。

 現在早朝です。

 

 どーもー、おはようございまーす、寝起きドッキリのお時間でーす。

 

 おやおやー、ぐーっすり眠っていますねー、きっと夜遅くまで、情報収集を頑張っていたのでしょうねー。

 

 では、ドッキリの前に、下準備とまいりましょう。

 

 まず、ギルマスの彼が寝入っている間に指を勝手に動かし、彼のフレンド欄の中から、中層プレイヤーの中の攻略組予備軍の方たちにチョロチョロっと情報をリークします。

 彼は情報屋なので顔が広いですからね。彼のフレンド人数は千人を超えています。

 自分は0人。

 

 ……俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇ! 

 因みに、自分が悪くないのは本当のことです。

 

 で、攻略組予備軍の方々にどんな情報を流すかと言いますと、

 

 74層のフロアボスは今までのボスとは比べ物にならないほど、かなり弱いボスだった。

 見かけは怖いが、攻撃力、防御力共に低く、まさしく見掛け倒しなボスだ。

 中層プレイヤー達でも束になれば誰一人として死ぬことなく余裕で倒せるだろう。

 

 だが、攻略組は明日にはこのボスに挑むようだ。

 だからチャンスは今日しかない。

 中層プレイヤーの皆が、このボス戦を通して、新たな攻略組の一員になってくれることを願っている。

 

 というような情報です。

 

 他の方がこんなことを言っても眉唾な噂だと流されますが、この情報屋のギルマスの彼がいうと少し説得力が増します。

 

 彼は、先程も言いましたが、自分の目で見た真実以外は決して売り出さないというスタンスで活動しているため、少し情報は遅くなりがちなのですが、情報の精度に関してはプレイヤー達からの信頼が厚い方です。

 なので、それを利用させていただきます。

 

 でも、普通ならこんな情報、いくら信頼が厚い情報屋さんの情報でも信じられませんよね? 

 

 しかし、大丈夫です。

 

 この情報を伝える方々は、全力で攻略組を目指していながらも、実力が後一歩攻略組に追いついていない攻略組予備軍の方々ですから。

 

 彼らはみんな、とても攻略組を羨んでいます。

 攻略組はみんなからもてはやされて、様々な優先権が与えられていますからね。

 

 で、攻略組予備軍の方々は後一歩で攻略組にまで届くのに、その一歩がどうしても届かない、そのせいで自分達は攻略組ではなく、中層プレイヤーとして一括りにされてしまっている、そんなことは我慢ならない! 俺は攻略組に絶対になってやる! という状況です。

 

 そんな彼らだからこそ、この偽物のチャンスを掴みとってしまいます。

 彼らの攻略組への羨望、渇望などの思いはとても強いですからね。

 

 一時期攻略組のメンバーがよくお亡くなりになっていた時期があったのですが、その時、巷にこんな噂が流れました。

 攻略組予備軍の人が攻略組に入りたいがために攻略組のメンバーを暗殺しているんじゃないか、というね。

 要するに、そんな噂を立てられるくらい彼らは攻略組になりたがっているということです。

 

 ああ、もちろん単なる噂ですよ。攻略組予備軍の方々はそんなことはしていません。

 でも、いいスケープゴートだったので、攻略組予備軍のとある一人に責任を全て押し付けて処分したりしましたが。

 

 話を戻しましょうか。

 当然ですが、74層のボスが弱いなんてことはありません。

 むしろ今までよりも難易度が桁違いに高くなります。

 

 つまり、攻略組予備軍の彼らが何の偵察もなく、対策も積まずに挑めば余裕で壊滅します。

 

 74層のボス部屋は結晶無効化空間という、転移結晶や回復結晶などの、一瞬で効果を及ぼすクリスタルが使えない空間という鬼畜仕様となっています。

 

 HPは、ポーションでゆっくり回復していくしかなく、転移結晶による緊急離脱も出来ないため、彼らが勝つのは不可能ですし、ボスから逃げることもままなりません。

 でもなんの問題もありません。

 

 今までは攻略組で欠員が出た時の予備として、攻略組予備軍の方々を取っておきましたが、74層までくればもう必要ないので、攻略組予備軍の方はここで使い捨てて構いません。

 

 で、彼らは情報の違いや、結晶無効化空間などにより大ピンチに陥ります。

 

 そこに颯爽と現れるキリトさんとアスナさん! そしてクラインさんのギルド風林火山! 

 彼らは攻略組予備軍達を助けるため、ボスに挑みます! 

 そして、みんなを助けるために、キリトさんは二刀流を解禁してくれます! 

 いやー素晴らしい! さすがキリトさん! 

 

 そのキリトさんのお陰で、攻略組予備軍の方々は大体約4分の1程度生き残るはずです。

 まあ、もう使い道はないので、何人生き残ろうが、何人死のうがどうでもいいことですがね。

 

 はい、情報を攻略組予備軍の方々に送信っと。

 

 ではもう一つ、彼の指を操作して、デュエル申請を自分に対して送りましょう。

 

 モードは完全決着モードです。

 

 はい、ではー、いまからー、寝起きドッキリをー、行いたいと思いまーす。

 

 では、せぇーの! 

 

 おやすみなさい。

 

 はい。

 

 74層のボス戦はキリトさんに任せておけば問題ありません。

 攻略組予備軍は壊滅するとは言っても、それなりには強いので、ある程度ボスのHPを減らしてくれます。

 そのお陰で、たとえ少しキリトさんのレベルが低くとも、ギリギリ倒してくれます。

 

 はい、75層解放、っキタァぁぁぁぁぁぁ!!! 

 ああ、久しぶりの75層! 遊びプレイ以外でここまでくるのは何年振りでしょうか? 千? 万は行ってないと思いますが、あー! やっと! やっと! 今回クリア行ける! 間違いない! 

 

 勝ったな。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。