あれほど求めていた食事は、何故か味気なかった。
あれほど求めていた外に出ても、微塵も心が動かなかった。
あれほど求めていた暖かいベッドでは、眠れなかった。
どこ、どこにいるの? オー君。
……
私はあの場所から救出された。
でも、私の心は一切晴れなかった。
だって、もうオー君は……私の目の前で。
あれほど憎んでいたはずなのに、あれほどの仕打ちを受けたのに、何故、私はオー君を求め続けるのだろうか?
私はどこか壊れてしまったのかもしれない。
私をあの場所から連れ出した女性は、柔らかいベッドや、暖かい食事を用意してくれて、私に優しくしてくれた。
それと、何かを聞かれたような気がする。
誰に囚われていたのか、とか、確か、ひゃ、ひゃ、がどうのとか。
なのに、私はオー君のことが頭から離れなくて、まともに聞いておらず、受け答えができなかった。
オー君、本当に死んだの? 嘘だよね? 私を置いて死んだりしないよね? オー君は強いんだもの、死ぬはずがない。だってオー君は私をこんなにしたんだから、私を置いていくなんて、オー君、無責任なことなんて、だってオー君は、オー君、オー君を殺すのは私なのに、どこにいるの? あの場所で待っていたらまた来てくれた? オー君、勝手に抜け出して、よかったのかな、ごめんなさいオー君、またあの場所に戻りたい、だってそうすればきっとオー君がまた食料を持ってやって来てくれるから。でも、あの場所がどこにあるのは私は知らない。オー君、どこ? 私はここだよ? あの場所に戻りたい、あの暗くてジメジメした場所に、オー君、オー君。そこでオー君を縛り付けたい。
私が何の返事もしないからか、女性は私への質問をやめて外に出て行った。
でもそんなことはどうでもいいの、どこにいるの? オー君。
探さないと。オー君を探さないと。死んだなんて嘘、絶対にオー君は生きている。生きていないとおかしい。だって私が殺すのに。そんな、オー君がいなければ生きてる意味なんてないのに、なんで? オー君はどこ? 生きてる意味ってなんだろう? オー君だよね、うん。オー君。
どこにいるのかな、いつもはオー君が来てくれた。なら私から探しに行かないとね。
オー君のせいで私は苦しい思いをした。でもオー君は私を飢餓から救ってくれた。
オー君を思うだけで私の心は憎しみと愛情に満たされる。
今度はオー君を私が監禁してあの地獄を味あわせてあげたい。
またオー君に監禁されて、もっとひどい目にあいたい。
オー君の苦しむ顔が見たい、荒縄で縛り上げたい、また縛られたい、歪んだ顔が見たい、笑った顔が見たい、愛したい、憎まれたい、殺したい、殺されたい。
私はオー君の全てが欲しい。
私がオー君の全てを奪って、全てを奪われたい。
オー君だけでいい、オー君だけがいれば。
でも、オー君は、私の目の前で。
うそ、そんなことありえない。オー君は、オー君は。
私が気がつけば、黒鉄宮の石碑の前に来ていた。
ここを見たら終わってしまう。オー君の名前に横線が引かれていたら、多分私はもう生きれない。
こんなにも狂わされてしまったのだから。
確認なんてしたくない。でも確認したい。
……
「Obakahyakkaii……生き、てる」
オー君の名前に横線は、引かれていなかった。
彼と結婚した時に見た名前、間違いない。
生きてる、生きてる生きてる生きてる生きてる生きてる!
探さなきゃ、探して、見つけて、捕らえて、嬲って、愛して、殺して、殺されて、二人で地獄に落ちなきゃ。
「待ってて、オー君、今イクヨ?」
……………………
いやー、今回完璧だな! もう不安要素なんてキリトさんがヒースクリフのシステムのオーバーアシストを見ているかどうかだけですよ!
いや、それが一番大切なことかもしれませんが、他はもう完璧すぎるくらいなんで! きっと見ていますね!
さーて、じゃあこれからどこに行こうかなー。
今現在の自分のレベルはもう109レベルで、この残り時間だとどう頑張ってもあと1レベルしか上げられませんので、少し時間があまりましたね。
さて、なら後は
「ヒー君!」
おや、サツキさんです。どうしたのでしょうか?
「どうした?」
「いえ、たまたま見かけましたので、声をかけさせていただきました、ご迷惑でしたか?」
「いや、そんなことはない、少し時間が余ってな、何をしようか考えていたところだ」
「でしたら、私と一緒に食事でもいかがですか?」
食事、ねぇ、まあ、75層のボス戦のために英気を養う的な意味では、この余った時間で食事と睡眠を取るのは悪くないですね。
そうしますか。
あー、いや、起床時間をセット等が出来ないので、一度眠ったら誰かに起こされなければ数ヶ月くらい眠っている自信があります。
人がいる場所で眠ると睡眠PKが怖いですし、眠るのはいいか。
食事だけ取りましょうか。
「わかった」
「……え? ほ、本当ですか!? やった!」
めっちゃ驚かれてる。
まあ、今までこういった誘いはほぼ全て断って来ましたからね。
「あぁ、すみません、あまりの嬉しさについはしたない真似を」
「気にするな」
「はい、じゃあ何を食べますか?」
「任せる」
別に今は好き嫌いありませんからね。
「分かりました、ヒー君は嫌いなものとかありますか?」
嫌いなもの? えっと、この世界を作った茅場と、自分と、神ですね。
茅場は完全に八つ当たりですが。
「特にない」
「そうですか、分かりました、お任せください!」
……
「美味しかったな」
「そういってもらえて、嬉しいです」
久しぶりに食べる食事は、ほんと何でも美味しく感じられますから。
昔は野菜とか甲殻類とか苦手でしたが、誰でも暫く絶食した後に食べる食事は大概美味しく感じられるでしょうから。
「……ヒー君、私の話を、聞いてくださらないでしょうか?」
ん?
「何だ?」
「私が元々このゲーム、ソードアート・オンラインをやろうと思ったキッカケは、私の弟、サツキ ヒギリ君、ひーちゃんがSAOに興味を示していることを知ったからです」
何か始まりましたね、長そう。
「でもひーちゃんはまだ11歳で、レーティングの関係上このゲームができませんでした」
ってか、ヒギリ君? サツキさんの弟の名前は初めて聞きました。
へぇー、なんかレアイベントっぽい。
「だから私がそのゲームをプレイして、ひーちゃんにSAOの話をしてあげればひーちゃんが喜んでくれると思い、ゲームを購入していた方に数百万程積んで譲っていただいたのです」
ん? 数百万積んで? なんかおかしな言葉が聞こえてきたような?
「しかし、その時の私は、まさかこのゲームがデスゲーム化して、ひーちゃんと長い間離れ離れになってしまう事になるとは微塵も思っていませんでした」
遊び回だとこういうイベント収集って楽しいですよね。
まあ、今は時間に余裕があるのでいいのですが。
「私はチュートリアルで人々が嘆き悲しむ姿を見て、この方々を救うのは名家に生まれた私の責務であるという責任感と、早くまたリアルに帰り、ひーちゃんに会いたいという思いから、ゲームを攻略する為に街を出ました。
しかし、私はヒー君も知っての通り器用ではありません。
他の方々が容易に避けられるような敵の攻撃も、私には避けることが叶わず、視界の端のHPを減らしながら敵を倒し、HPが減ったら街に戻りHPを回復して、また街を出てHPを減らしながら敵を倒して、ということをひたすら繰り返していました。
そのせいで、私は数日が経過してもはじまりの街周辺から次の場所に進むことすら出来ませんでした。
そして私は、遅々として進めない焦りから引き際を見誤ってしまい、もうすでにHPも少なく、ポーションも使い切り目の前には数体のモンスターという、まさに絶体絶命の危機を迎えてしまいました。
そんな時に私の目の前に颯爽と現れ、助けてくれたのが、ひーちゃんによく似た男の子、ヒー君でした」
ん? 待って、ひーちゃんによく似た?
「その時の私は、まるで夢でも見ているかのようでした。
だって、私の大切な、大好きなひーちゃんが私を助ける為にゲームの中に飛び込んできて、まるで白馬に乗った王子様が如く私を救い出してくれたようでしたから。
勿論、そうでないことはすぐに分かりました、ひーちゃんがこのゲーム内にあることなんてありえませんし、何より、ヒー君とひーちゃんは似ているだけで、別人です。
それでも、たくさん重なるところがあって、初め、私はヒー君とひーちゃんを重ねていました」
えっと、このアバターは、ランダム生成されたものを少しいじっただけなので、それがたまたまサツキさんの弟に似ていた、と?
えぇ、何その確率。
あぁ、だからか。
だからなんか今までとサツキさんの行動が違っていたのか!
いやいや、こんなの気づけるかい!
知らんわ! サツキさんの弟の容姿なんて!
「でも、それなのに、いいえ、だからこそ私は、いつしか貴方に惹かれていました」
だからこそって何? どういう意味? 弟と似てるから惹かれた? ん?
あれ、なんかこれ、雲行きがあやしいような?
「そしていつの間にか、私の頭からヒー君の存在が離れなくなってしまっていたのです、食事をしていても、眠っていても、戦闘中でも、レベリング中でも、ボス戦でも、入浴中でも、何をしていても、常にヒー君のことが頭の中にありました」
……え?
「昔はヒー君のことを思うだけで胸が高鳴り、ヒー君が今何をしているのかを考えるだけで退屈な時間でも楽しく感じられ、ヒー君と共にボスと戦った日の夜は体が火照って眠れなくなり、ヒー君と少し話すだけで、もう私はとても幸福な気持ちになりました」
……ん?
「でも、私はもうそれだけでは満足できなくなってしまったのです、今の関係のままでは、もう、だから、ヒー君!」
あれ? あれれ? おやぁ?
こんなの知らない。
「私と、けっこ」
「待て!」
待って! ねぇ待ってよ! 何!? 急展開すぎて色々ついていけないって!
ちょっと落ち着かせて、ねぇ、何? よく理解できなかったんですけど?
自分にはサツキさんの思考回路が理解できなかったんですけど?
あれ? 自分ってサツキさんの弟に似ていたそうですよね?
それなのに? いや、だから好きになった? ん? どういうこと?
えっと、何?
と、とりあえず断りましょう。
「俺は、もう長くはない」
「私が、必ず救ってみせます!」
「無理だ、自分の体のことは、自分が一番よくわかっている、もう、時間がない」
「……そんな」
「もうすぐ一年半だ、本当自分でもよくここまで持ってくれたと思っている、だが、もう限界だ」
「……でも、それでも私は!」
「ダメだ、その好意は受け取れない、その思いは、死にゆく人に捧げるものじゃない、胸の内にしまって、時間と共に風化させていけ」
じゃあ、立ち去りましょうか。
ふぅ、危ない危ない、サツキさんと付き合ったらタイムが……あれ? もう攻略速度上げる必要ないですよね?
じゃあ、付き合っても良かったんじゃ……?
いや、なんかこう、付き合ったら変な不確定要素が増えそうですので、いっか。
でも覚えておかないといけませんね、次回とかの遊び回のために、今回の自分のアバターを。
あ、でも今回クリア行けるからな!
このセリフ何回目だろうか?
ま、いいや。
………………
「死なせない、ヒー君は私が必ず守ってみせます、どんなことがあっても、何があっても、必ず」
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皆さんあけましておめでとうございます。
久しぶりの更新です。
皆さんは年末年始どのように過ごされたのでしょうか?
こたつでテレビを見ていましたか? 友達と遊んでいましたか? 親戚で集まったりしましたか? 寝正月ですか? 初詣には行きましたか?
自分は仕事です。
……仕事です。
うわぁぁぁぁ!!! 仕事だぁぁぁぁぁぁ!!
皆さんは毎日が楽しいでしょうか? 明日が来るのを楽しみに、ワクワクしてますか?
自分はワークワークしています。
はぁ。すみません、こんな愚痴ってしまって、許して欲しいです。
まあでも、楽しみがないわけじゃないんですよ?
この作品とは全く関係ない別の作品の話になってしまうのですが、最近自分○AOにはまっています。
そのS○Oは、とあるデスゲームの中に1万人の人間が捕らえられて、ゲームクリアを目指すという物語なのですが、とっても面白いです。
SA○、もし読んでいない方がいらっしゃったら、ぜひ読んでみてください。
最近、仕事から帰った後とか、小説を更新後とか、少し時間があるときはもうずっと読んでいます。
いいですよね、だってSA○に囚われたら、仕事を2年間も休めるんですよ!?
まあ、リアルに帰ったらどうせクビになっているでしょうし、本当に命の危険があるかもしれませんが、それでも仕事を休めるのが本当に羨ましいです。
……え? この作品とは何の関係もない別作品を読んでいる暇があったら、早く続きを書け? ですか?
……まさにその通りですね。頑張ります。
…………
「はぁ、いいよなぁ、SAO」