いや無理でしょ。
……いや……無理でしょ。
無理でしょ。
あ〜無理無理〜無理だよ〜。
遊ぶよ〜。
まあ、遊ぶついでに、出来たら儲けもの程度で。
「元々、第百層のボス部屋で正体を明かし、私がこのゲームのラスボスとして君臨する予定だったのだが、まさかこんなにも早く正体を見破られるとはね」
ヒースクリフさんは95層で正体を明かして、100層で待つ予定だったそうです。
「何言うとるんや! ヒャッカが茅場やと!? ……嘘や! ありえへん! 確かに名前は茅場かも知れへん、怪しいところもあったんかもしらん、けどな! ヒャッカが茅場な訳ないっちゅうことは、ずっと戦い続けたワイが一番ようわかっとるんや! ヒャッカ! 悪ふざけもええ加減にせぇや!」
おお、まさかキバオウさんからこんな発言が飛び出してくるとは。
「キバオウ君、君には感謝しているよ、君のお陰で、私は強くなれた、ラスボスの強化、今までお疲れ様」
「……何、ゆうとるんや」
「ゲームクリアはさらに難しくなったと言っているのだよ。君のお陰で、対人戦闘のデータがたくさん集まったからね、私の掌の上で踊っていてくれて、ありがとう、キバオウ君」
「……嘘です、嘘、何かの間違いです、だってヒー君は、ヒー君が茅場のはず、そんな、ありえません、嘘、嘘! ウソ! ヒー君は、ヒー君は! ……ヒー君、冗談、ですよね?」
サツキさん、その顔、いいですねぇ。
多分他の人に何を言われようとも、サツキさんは自分のことを信じたかもしれませんが、その信じている自分が茅場晶彦を名乗りましたからね。かわいそうに。
信じているものに裏切られて、それでもいまだに信じたがっているような、今にも涙がこぼれ落ちそうな顔、素晴らしい!
そんな顔されると、実にそそりませんか? もっと追い詰めてあげたくなりませんか?
自分はなります。
と、言うわけで、今からやることは完全に自分の趣味です。
先ほど考えたリカバリー策とはなんの関係もございません。
ま、どうせ今回無理だし、何やってもいいよね!
「サツキ君」
「っ!」
「君は実にいい働きをしてくれた、とても感謝しているよ」
「……え?」
「私はね、ゲーム開始から1ヶ月も過ぎ去ってなお、第一層すら攻略できなかった皆に失望していたのだよ」
本当のところあの時茅場さんはどう思ってたのでしょうね?
「だから少々テコ入れをすることにしたのだ、それがサツキくんのおかげで上手くハマってね、第2層からの攻略速度が一気に早まっただろう? そのおかげで、実にスリルあふれる攻略になった、安全マージンを十分にとった攻略、それも悪くはないが、人が死んでこそのデスゲーム、そうは思わないかい?」
「ふざけるな!」
キリトさんに怒られました。
「ふざけてなどいないとも、サツキくんが攻略速度を上げてくれたこと、私は実に感謝しているんだよ、サツキ君がいなければ、もっと攻略ペースは下がっていて、安全で確実な攻略になり、沢山の命が助かっていただろうからね」
つまり。
「サツキ君のおかげで、沢山の命が潰えたんだ、デスゲームの製作者としては、実にありがたかったとも」
「……わ、わたくし、は、そ、そんな」
「お前は! 人の命をなんだと思ってやがる!」
「単なるデータ、これで満足かい?」
「きっ! ……貴様ぁぁぁ!!! よくも! よくもおおおお!!」
あ、血盟騎士団の一人が雄叫びを上げて襲いかかってきました。
「お、おい! 落ち着けって!」
「はなせ! はなせよ! あああ!! 茅場ぁぁぁ!!」
「私を殺したいかい? 構わないとも、ただ自分の欲を満たす為だけに」
血盟騎士団の一人は、抑えを振り払って自分めがけて走って来ました。
「ゲームクリアのチャンスを、逃すというのなら、な、さあ! やるがいい」
では、手を広げて無抵抗で迎えて上げましょう。
おやぁ? 直前で剣を止めてしまいましたねぇ?
「どうした? やらないのか? 私が憎いのだろう? ここで私を殺せば、ゲームクリアのチャンスは失われるが、いっときの激情に身を任せるのもいいんじゃないか?」
「ぐっ、ぅ、ぁ、ぁぁ! ああああ! っぐぐ」
めっちゃ必死にこらえてるぅー!
「お、お前を、ここで殺さなければ! ……ゲームは、クリア、されるんだな!!」
「言っただろう? チャンスを与えると、キリトくん」
「……何だ」
「私の正体を看破した君には、リワードを与えよう、私とここで、1対1のデュエルをする権利を、勿論、完全決着モードだ、私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウトできる……どうかな? 嫌ならそれでも構わない、私は第100層にて、君達を待ち構えることにするさ」
いやー、我ながら、いい悪役っぷりですねぇ!
楽しィィィ!!!
「ああ、そうだ、キリト君に伝えようと思っていたことがあったんだ、その二刀流はね、私の前に立つ、勇者に与えられるスキルなんだ」
「……勇者?」
「私はね、初めから、いや、βテストでキリト君を見たときから、君が、君こそが、二刀流スキルを獲得し、勇者になってくれると思っていた、だが君は一度、攻略組から逃げ出そうとしただろう?」
「……」
「確か、月夜の黒猫団、だったかな? ただの弱小ギルド、到底君がいるべき場所じゃなかった」
「……何が、言いたい?」
「しばらくは見守ったさ、君はいつか必ず、攻略組に帰ってきてくれると信じていたからね、だが、君は一向にそのギルドから抜け出そうとはしなかった……だからね、少々手を加えさせてもらったよ」
「……ま、さか」
「そう、君のギルド員が死んだ原因は、そして、そのギルド唯一の女性を攫ったのは……私さ」
「っ!?」
「このままじゃ、キリト君が最前線に戻ってきてくれないと思ってね、キリト君が悪いんだよ? いつか私と対峙する勇者になってくれると期待させておきながら、逃げ出そうとするんだから、やっぱり、あの時弱小ギルドを壊滅させておいて正解だったよ」
「か、茅場ぁぁぁ!!」
茅場さんに対する熱い風評被害。
たーのしぃぃぃ!!
せっきにーんてーんかー! たっのしーいなー!
「もし君が最前線に戻らなかった時のことを考えて、念のため女性を一人攫っておいたんだが、君は無事攻略組に戻ってきてくれた、無用な心配だったね、だが彼女をただで返すと、またキリト君が攻略組を抜けるかもしれないと思ってね? 少々遊んであげていたんだが……彼女は実にいい悲鳴を聞かせてくれたよ、ああそうだ、この記録結晶に、その時の映像が残っているんだ、確認してくれたまえ」
キリトさんに親切な女性が映っている記録結晶を投げ渡しました。
別に悲鳴はあげてなかったですがね。
うっはー、キリトさん、鬼の形相でこちらを睨みつけています。
威圧感マックスですよ。怖いですねぇー。
「おっと、ここは結晶無効化空間だったね、すまなかった、また後で確認を、とはいかないか、まあいい、さあどうする? 私と1対1のデュエルをするかい? デュエルをするなら私に申請を送ってきたまえ」
「……いいだろう、決着をつけよう」
「キリト君っ……!」
「なら、他の人たちは下がっていたまえ、もしデュエルの邪魔をするようなら、勝負は無効だ、私は第百層で君たちを待つことにするよ」
「みんな、頼む! 俺に決着をつけさせてくれ! こいつを、こいつだけは絶対に許すわけにはいかない! だから、ここで逃げるわけにはいかないんだ!」
「死ぬつもりじゃ……ないんだよね……?」
「ああ、必ず勝つ! 勝ってこの世界を終わらせる!」
「解った、信じてる」
「アスナさん! いいのかよ!?」
「……いいの、キリト君なら……きっと!」
「……アスナさんが、そう言ってんのに、俺たちが邪魔できるわけ! ねぇじゃねぇか! おいキリト! 負けたら許さねぇぞ! 絶対許さねえからな!」
「クライン……いや、次は、向こう側で会おうぜ」
「っ、ぜってぇ勝ってこいよ!」
「ああ!」
うわぁ、キリトさんめっちゃ主人公してるー、主人公相手に勝てるわけないだろ! いい加減にしてくださいお願いします!
はい、今キリトさんからデュエル申請が送られてきました。
当然了承です。
はい、とりあえず第一条件クリアですね。
ここからですよ、本番は。
あと60秒でデュエルが始まります。
このキリトさん、デュエルでヒースクリフを打ち破った訳のわからない超強化キリトさんです。
この謎に強化されたキリトさんを、自分は条件付きで倒さなければなりません。
いや、なんとなくは強化の理由は察しがついているんですよ?
キリトさん、多分早々にラスボスは自分、プレイヤーに紛れ込んだ茅場だと仮定していたと思うんですよ。
だから、通常レベルアップに費やしていた時間を少し、対人戦闘訓練に当てていたんじゃないかなーと。
で、自分以外で、誰が一番デュエルしているか、といえば、キバオウさんですよね。
つまり、キリトさんは、キバオウさんとともに対人戦闘訓練を行っていたのではないかと思うんです。
だからキリトさんは今回レベルが低めですし、キバオウさんは強くなるのが早かったんじゃないかなーと。
これ、なんとなく繋がってそうじゃありませんか?
キバオウさんはかつてヒースクリフを打ち破った伝説を持ってますからね。
そのキバオウさんとの特訓の成果で、キリトさんはヒースクリフを倒したんじゃないかと。
だから目の前のキリトさんはおそらく、超本気モードプラス対人戦特化型キリトさんと言うことになります。
はい絶望。
……頑張ろ。
「キリト君、私が何故、たった一度たりともソードスキルを使ってこなかったのか、わかるかい?」
「……」
無視された、悲しい。
「それはね、SAO内最強の、ユニークスキルの発現条件だからだよ」
「……なに?」
「君がユニークスキルを持っていて、私が持っていないとでも思っていたのかい? では、見せてあげよう、ラスボスの圧倒的な力というものを、絶望的な、絶対的な力の差を、ね」
当然、そんな都合のいいスキルはありません。
あったとしても、メインメニューを開けないのでスキルスロットにセットできません。
ユニークスキルとかいうチート、自分も使いたいなぁ。
さあ、頑張りますか。