「やっと、やっと見つけたぞ! 茅場晶彦!」
勿論最初から分かっていましたがね。
でもあくまで今見つけた感を出しておきましょう。
「な、何を言ってやがる! 茅場はお前じゃ……え?」「システム的不死、ど、どういうことだよ?」「なんだよ、あれ?」「茅場が、団長を茅場って」「どういうことですか……団長……?」
みんな、困惑していますね。
斬られなくてよかったです。
ここで後ろからバッサリ斬られて自分が死んだら、この場の空気やばいことになりそうですよね。
うわ、見たい! でも死んだらリセットだから見れない、悲しい。
「……」
ヒースクリフさん、無言です。
あまりの急展開に戸惑いを隠せないのか、それとも驚いてるのか、言い訳を探しているのか。
ここで、もし、
「いや、私にも何が何だか、まさか、私にシステム的不死を付与して、私を茅場と見たてようとしているのか?」
的なことを言われるとお終いですが、まさかそんな、ラスボスたるヒースクリフさんが見苦しい言い訳なんてするはずありませんからね。
自分じゃないんですからー。
「不死属性を持つ可能性があるのは、NPCでもなければシステム管理者以外あり得ない、つまりそういうことだ」
ヒースクリフさん、ボス戦後、油断してポーション飲まないからこんなことになるんですよ。
まあ、ボス戦後にいきなり攻撃されるなんて思いませんから、仕方ありませんね。
「ずっと、ずっと探していた、他人のやってるRPGを傍から眺めるほどつまらないものはないだろう? だからこそ、必ずプレイヤーに、攻略組に紛れ込んでいると思っていた、やっと尻尾を見せたな? 茅場晶彦!」
因みに自分、他人のRPG見てるの普通に好きです。
自分が操作しないで済むっていうことは労力の削減ですし。
サクサク進むなら見てて面白いし、グダグダならザッコ、苦労してんな、はっ、てなるし、単調なレベル上げしてるなら、大変そうだなー、ドンマイ! ってなるし、大体なんでも楽しめますよ?
敵が強くて、死んだ仲間をおいて逃げ出す様を見て、あーあ、あのあと捨て置かれた仲間はきっと……とか。
考えてるだけで楽しくなりません?
何事においても楽しみ方さえ分かっていれば大概のものは楽しめますよ?
え? 自分は他人のゲームを見ているのが一番楽しいのか? ですって? 何言ってるんですかー。
自分がゲームしている瞬間が一番楽しいに決まってるじゃないですかー!
他人のやってるゲームを見る? 時間のムダだねぇ!
……でも楽しい。
「……なぜ気付いたのか参考までに教えてもらえるかな……?」
きたっ、問答タイム!
ここで何でもいいんで、ひたすらにヒースクリフが茅場だと言うことを証明していきます。
「俺が何のために、アストグリフを両手剣ではなく、片手剣だと偽っていたと思う?」
「……やはり、か」
「俺がアストグリフを手に入れたのは、キリトの言う通りレアモンスターのレアドロップからだった、そして、アストグリフは両手剣にしては短かった、その時、俺はアストグリフを片手剣と偽ることを思いついたんだ」
こーじっつけー! むーりやーりむーりやーりこーじっつけー!
「アストグリフは入手難易度的に情報を伏せれば、誰も入手できないはずと考えた、だからこの武器のことを知っているのは、この世界では自分と、開発者たる茅場だけになる、つまり! 俺以外でこの武器が両手剣だと知っている奴が限りなく怪しくなる、そしてこの武器を両手剣だと言ったのは、ヒースクリフ、お前だけだった」
まるで最初からこれを狙っていたかのように言っておりますが、
全て偶然です。
単なる自己保身を考えての行動が、何故か茅場を追い詰める材料になっていたでござる!
ラッキー!
「俺は聞いたよな? 誰かがこの武器を両手剣だとでも言っていたのか? と、その時お前は誰かに聞いたわけじゃない、と答えていた、つまり! お前はアストグリフを両手剣だと知っていたから、ボロが出たんだ! 勿論、これだけなら偶然と言う可能性もあるさ、だがな、これだけじゃないぜ?」
まだ俺の問答フェイズは終了してないぜ!
「まず第一に、ユニークスキルなんて持ってるやつは怪しいんだよ、人っていうのはな、特別を求めるものなんだ、誰かの特別になりたい、自分だけの特別を持ちたい、そう言った願望を捨てきれない、だからこそ、この世界の全てを自由に出来る茅場は、何かしら目立つ存在だと考えていた」
ずっと自分のターン!
「ヒースクリフは特別な力を持って、人々を救う攻略組の希望の星として君臨していた、まさに、人の願望って感じだろう? ま、その点で言えば、キリトも怪しくなるが、キリトとお前では、気迫が違ったんだよ、キリトは真剣に、命をかけてボスを攻略していた、仲間を助けるときも、命をかけて! だがヒースクリフ、お前は、その冷静な仮面の裏側で、どこか楽しんでいるようだった、当然だよな? お前が願っていた願望が、叶い続けているんだからな」
え? 無理やりが過ぎるって?
いいんですよ! なんかそれっぽいこと言っておけば!
「だが、それでも決定的な証拠だけは見つけられなかった、だからこそ、ここで賭けに出ることにしたんだ」
すぅ、
「俺が、茅場を名乗るという、賭けに」
キリッ! と!
決まった。
勿論賭けてなんていません。
自分が茅場を名乗ったのは、完全に遊ぶつもりででした。
それがまさかこんなことになるとは、人生わからないものですね。
「勿論、俺の推理が外れていて攻略組に茅場がいなければ、全ての責任を取って死ぬつもりだった」
「……それは、君の残り命が少ないから、かい?」
……ん? 今の発言、おかしくありませんでしたか?
……あれ?
ま、いっか。
「……もう、限界なんだ、分かるんだよ、俺のリアルの体がどうなっているか、後何日生きられるのかがな、俺は、あと持って数日の命だ、だからこそ、ここで茅場を引きずり出すか、茅場を名乗って死ぬつもりだった、茅場を名乗った俺が死んだところで、ゲームクリアはされないだろうが、誰かが俺の死を悲しむ、なんてことは無くなるからな」
自分のアバターは130センチでとても細く、虐待を受けていた設定ですからね、1年半近くも生きられたこと自体が奇跡なんですよ。
という設定……あ、
……あ! やっば! これまずった! やらかした! ここにきて痛恨のやらかし! ああああ!!!
茅場は自分のアバターがリアルのアバターじゃないことを把握してるじゃん! 嘘ついてるのバレたじゃん!
やっべぇぇぇぇぇ!!
うっはぁぁぁあ!!?!?
あーあ、なんかせっかく流れが来てたのに。
いったいミスだなぁー。
これリカバリー効くか? 無理じゃね?
「それに関しては、申し訳ないとは思っているよ、SAOを販売時、体の弱い人はゲームを行なってはいけないという文言を付け加えておくべきだった、途中退場というのは、悲しいからね」
……ん? あれ? 思ってたのと違う。
おや? ゲームマスターである茅場さんは、自分のアバターがリアルの体じゃないってことは把握してます、よね?
してないの? え? 嘘でしょ?
じ、自分を騙そうとしているんだな!? そうなんだろう!? 分かってるんだからな!
……本当にわかってないの?
……やったー! ラッキー!
「ああ、だからこそ、攻略組に紛れ込んでいる茅場を炙り出すために、俺は茅場を名乗ったんだ、勿論、ただ茅場を名乗るだけなら信憑性が薄いが、キリトが協力してくれたからな」
キリトさんあざっす!
いや、元々キリトさんが茅場を倒してくれればそれで終わってたんで、あざっすじゃないのか?
まあいいや、協力感謝っす!
「もともと、キリトは俺の協力者だ、俺が茅場を名乗ることの信憑性を上げるために、2人で演技してたんだ、お前を炙り出すためにな!」
「……演技だと?」
つまり! 先ほどキリトさんに問い詰められたことや、自分が茅場を名乗ってからの発言は、全て演技! 事実無根!
キリトさんと共同の演劇というわけだったのさぁ!
ということにします。
キリトさんは今麻痺しています。つまり囁き声しか出せません。
レベル5麻痺なら、ポーションを飲んでもすぐに回復するわけじゃないので、この問答の間くらいは麻痺していてくれることでしょう。
つまり! 今は何を言ってもキリトさんに反論されない!
何を言っても許される! ひゃっほぉーい!
「茅場を名乗れば、絶対に一人だけ反応が違う奴が現れる、何故ならたった一人、そいつだけは本物の茅場が誰かを知っているんだからな!」
実際はちょっとよくわかりませんでしたが、こう自信満々に言い切れば、少しでもボロが出た自覚があったら、否定しきれませんからね。
言ったもん勝ち!
「勿論、キリトとのデュエルは互いに全力でやった、どちらが死んでも恨みっこなしの、遊びでも演技でもない、本当の命をかけた全力のデュエルをな、茅場を炙り出すにはそれくらいしなければ無理だろうとキリトと二人で結論づけた、だからこそ、最後の最後で化けの皮が剥がれたな、茅場!」
言ったもん勝ち!
何度でもいうぜ! 言ったもん勝ち!
世の中声がでかい奴が勝つんだよぉー!
「デュエルの最後、何故キリトを助けに動かなかった? おかしいよな? お前は、お前だけは必ず動かなければならなかった」
何故なら。
「お前は言っていたよな? 「仲間の命が助かる確率が1パーセントでもあるなら全力でその可能性を追え、それが出来ないものにパーティを組む資格はない」ってな、だからあの場面で、ヒースクリフが動かないはずがないんだよ……だが、お前は動かなかった! ……それが答えだ!」
先ほど茅場は、演技だと? と驚いていましたよね? つまりあの反応が演技だと見破れていなかった証明なので、演技だと見破ったから動かなかった、という言い訳は無効です。
まあ、キリトさんは演技なんてしてませんでしたからね。
さあ! どうだ!?
「……なるほど、君の策にまんまとハマってしまったというわけ、か」
認めましたね。
「そうだとも、私が真の、茅場晶彦だ」
さあ、ここからどうなるか!
「貴様……貴様が……俺たちの忠誠──希望を……よくも……よくも……」
お!? 動いてくれるの!? 結構周りはまだ混乱してますが、彼は巨大なハルバードを握りしめ、
「よくも────ッ!!」
茅場に襲いかかってくれました!
ナイッスー! いいね!
ここで茅場さんは左手を振り、出現したウインドウを素早く操作して、いつもはキリトさん以外の全員を麻痺状態にします。
でも今回は、自分以外を麻痺状態にしました。
……いーなー、チートずるい、自分もやりたい。
……自分も左手だったらなー。
というか、この流れ、もしかして来たのでは?
「……全員、口封じでもするつもりか?」
「いいや、そんな理不尽な真似はしないさ、元々の予定では攻略が95層に達するまでは正体を明かさないつもりだったが、こうなってしまっては致し方ない、予定を早めて、私は最上層の紅玉宮にて君たちの訪れを待つことにするよ、90層以上の強力なモンスター軍に対抗し得る力として育てて来た血盟騎士団、そして攻略組プレイヤーの諸君を途中で放り出すのは不本意だが、何、君たちの力ならきっとたどり着けるさ、だが……その前に……」
き、き、き、
「ヒャッカ君、君には私の正体を看破したリワードを与えなくてはな、チャンスを与えよう、今この場で私と一対一で戦うチャンスを、君がキリト君に言っていたのと同じようにね」
キタァァァァァァァァァァ!!!!!
「無論、不死属性は解除する、私に勝てば本当にゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウトできる……どうかな?」
やりますやりますやりますやります!
「いいだろう、決着をつけよう」
っしゃぁぁぁ!! 第4関門突破ぁぁ!
ここで勝てばクリア! ここで勝てばクリア!
見えて来た! ついに目の前にクリアが見えて来た!
でも、相手はゲームマスターの茅場。
これは……
余裕っしょ! もうクリア行ったな!
だって? 自分超本気モード対人戦特化型キリトさん倒してますから?
ヒースクリフを倒したキリトさんを倒した自分、つまり既に自分、ヒースクリフを倒したことになってるわけだから? ま、結果は見えてますよね!
自分最強! 自分最強!
茅場? 余裕ー! 楽勝楽勝!
戦えさえすれば余裕なんすわ!
勝ったな。