SAOメインメニュー縛りRTA   作:アルシャ

4 / 47
第4話 人助け

 はい、では今からとある作業を行なっていきたいと思います。

 何をやるかって? 

 

 それはですね、沢山の引き篭もりを製造する作業です。その数約500人以上。

 

 SAOで、最初にどれだけの人間が死ぬか分かりますか? 

 自分が何もしなければ、3週間で1800人、第一層攻略までの1ヶ月間で2000人死にます。

 

 多いですねぇ、全体の5分の1が死んでしまうわけですから。

 いやー、悲しいですねぇ。

 この1ヶ月で2000人もの人間が望まぬデスゲームに巻き込まれて死んでしまう、実に理不尽です。

 

 そんな理不尽に巻き込まれた人間は、救いたくなりますよね? 

 

 自分の場合はまぁ、半分、ほんの少し、いや、指先一つ程度は自業自得のところもなきにしもあらずな可能性があるかもしれませんが、この2000人は完全に無罪ですからね。

 

 と言うわけで、この1ヶ月間で死ぬ予定だった2000人の内、何割かを自分の超絶テクニックで引き篭もりに変えながら救って行きましょう。

 

 ただし、チュートリアルまでに剣を手に入れられなかった関係上、救いたかった人間が既に死んでおります。

 

 現在、既にチュートリアルから3時間半経過してしまっています。

 胚珠の確定入手イベントはチュートリアルから3時間後の午後9時に発生します。

 そしてそれとほぼ同時にこのSAOでのはじめての死者が出ます。

 

 そのはじめての死者は、モンスターや人間に殺されたわけではありません。

 自殺です。

 

 アインクラッドの外縁部から身投げして、死んでしまいます。

 

 その人間は正直どうでもいいどころか、死んでいないとまずいので無理やりに止めることはしませんが、その後、その人間を追うように自殺する人間が散発的に存在してしまいます。

 

 その中に、自殺を止めるとかなり攻略に役立つ、攻略組の中でもトップ10の実力を将来持つことになる人間、有能がいます。

 しかもその有能、声が大きく、その有能に気に入られているだけでかなり攻略組内の自分に対する評判が良くなるという、とても役に立つ有能です。

 出来れば助けてください。

 

 ちなみにこの有能が死ぬ時間はチュートリアルから3時間15分後です。

 

 現在3時間半以上経過しています。

 

 ……あれ? 

 

 と言うわけで、胚珠の確定入手イベントを行なった場合この有能は確実に救えません。

 先に助けてから、胚珠を拾いに来るのも不可能です。

 

 まず、その自殺をする有能を助けるのは、とても時間がかかります。

 最低でも説得に3時間はかかってしまいます。

 なので、例え拾われていなくとも、時間的に胚珠は耐久度が無くなって消えてしまっています。

 

 そして、確定入手イベントの胚珠はチュートリアルから3時間後、午後9時少し前から9時半までしか拾えません。

 

 何故なら9時半に、キリト達の後からやってきた他のβテスターがその胚珠を見つけて持ち去ってしまうからです。

 

 泥棒だ! 墓場泥棒だ! 人としての尊厳はないのか! やっぱりβテスターは最低だな! このビーターどもが! 

 

 ……え? その人達はそれがコペルの墓だと知らない? 

 むしろ知ってて泥棒をした、いや、助けられるのに見殺しにして泥棒をした俺に言われたくない? 

 

 記憶にございません。

 

 はい、皆さんも疑問に思っていますよね。

 そんな重要な有能が死んでしまっていいのか? リセット案件では? 

 と。

 大丈夫です、その有能は替えが利きますので。

 

 勿論、助けられるのなら助けるべき価値がある人ではあるのですが、その有能の説得にかかる3時間の内に、当然他にもたくさんの人が死んでしまっています。

 

 その中に、生きていれば攻略組の中でもトップ7には確実に入る実力を持つ人がいるんですよね。

 でもこの人、声が大きいどころか引っ込み思案なせいで、有能とは違って自分の評判を良くしてはくれないです。

 

 だから評判的に、いつもは有能の自殺を止めていました。

 評判はタイムを縮めるのに必須ですから。

 でも今回は別のチャートで行きます。

 

 当然、その有能以外の自殺も止められるだけは止めますが、どうしても自殺を止めるには説得に時間がかかってしまうので、死ぬ時間が被っている場合は主にモンスターに殺される人間を助けます。

 

 ここで気をつけなければならないのが、必要な人間以外の攻略組になり得る人間を助ける際はしっかりトラウマが残るように助けることです。

 攻略組になってもらっては困るので。

 

 何故かって? 効率のためです。

 

 ボスに挑める人数の上限は、6人パーティ×8の48人です。

 これがフルレイド。ボスを死者0で確実に倒したいなら2つ交代制の96人攻略組がいた方がいいのですが、これだと経験値やボス攻略によるスキル熟練度ブーストがかなり分散されてしまい、攻略組の育ちが悪くなるせいで攻略ペースがかなり落ちてしまいます。

 

 昔、出来るだけ死ぬ人を助けて、数の力で素早くボスを突破してやるぜ! 

 って考えて、ただひたすらに人を助け続けたことがあったんですよ。

 人が増えれば当然攻略速度も上がるよな! という単純な理論です。

 

 しかし、逆に速度がかなり落ちてとても効率が悪かったです。

 

 ボスの経験値もそうですが、狩り場のポップにも限りがあります。

 その限りある経験値がかなり分散されてしまい、攻略組の皆が適正レベルになるのがとても遅く、そのせいで攻略が遅れに遅れ、2年で75層どころか、50層にも到達しませんでした。

 まあ、その時は25層の双頭の巨人相手でも死者0人で行けましたが。

 

 しかし、自分が行わなければならないのは死者を減らすことではありません。

 タイムを縮めることです。

 目標タイム以内にクリア出来るのなら、例え何人死のうが、最後に9900人くらい死んでいようがもう今更どうだっていいのです。

 

 攻略組の数は殆ど増やしません。

 

 攻略組になり得る可能性のある人間は、後一撃で死ぬまでは絶対に助けません。

 

 大体の人間は最初に一度死にかけると、もう心が折れてモンスターがトラウマになって街から出なくなる、所謂引き籠もりになりますから。

 

 しかし、それでもまだ攻略組を目指そうとしている人間はいます。

 

 しかし大丈夫です。

 そういった人達は、未だに死がうまく認識出来ていない人間がほとんどなので首にアニールブレードをあてがって、しっかりと自分の死を認識させてあげましょう。

 

 モンスターに殺される、では皆さんも現実感を抱けないようですが、剣が首元にあてがって、ゆっくりと分かりやすくおはなし(・・・・)をすると皆さんわかっていただけるようで、引き篭もりになっていただけます。

 

 まあ、この方法を取ると一部の人間からの評判は落ちますが、全体的には上がるのであまり気にしなくてもいいです。

 

 引き籠もりを増やすメリットは沢山あります。

 

 第一に、もうその人間を助けずに済むようになります。

 引き篭もりにしなかった場合、一度助けるだけで、もうそれ以降その人が死ななくなるかと言われれば、違いますよね。

 

 でも引き篭もりにすればたった一度助けるだけでいいのです。

 

 第二に、先ほども説明しましたが、引き篭もりに持って行かれる経験値が無くなって、攻略組のレベルアップが早まります。

 

 第三に、当然評判が高まります。

 一部の人間には悪いように解釈されたりしますが、大体はいいように解釈してくれます。

 見た目が子供なのも手伝ってね。

 

 第四に、引き篭もりにするとはいえ、ニートにするわけではありません。

 これがまた攻略速度の上昇につながってきたりします。

 

 加減間違えると、というより自分の評判が足りていないと、みんな堕落して速度落ちるのですが。

 

 他にもありますが、とりあえずはこんなところで。

 

 ふっ、自分ほど他人を引き篭もりにするのが上手い人間はいないな。

 

 あ、あと、この2000人の中にも、当然女性プレイヤーはいます。

 しかし女性を助ける気はありません。

 

 なんで数少ない女性を救わないんだ! と思われるでしょう? 自分だってヒーローになりたいですよ。

 

 でも、ここで救った女性、いつのまにかキリトの彼女になってたりするんですよね……

 

 は? 自分容姿いいじゃないですか! 

 確かに、自分休憩時間なんてかけらもないんで、デートとかそう言ったことできませんよ? 

 常に最前線に籠っているんで、会える機会もほぼないですし。

 

 でも! こんなにいい容姿をしているんですよ! カッコいいんですよ! 顔だけは! 

 ……身長130センチですが。

 

 あ、これ子供に思われていて恋愛対象になってないやつや。

 

 別にアバターの身長とか変えられるんですが、アスナを攻略してやるぜ! と意気込んでいた時以外は感覚を変えないためにずっと身長130センチでやってるんですよね。

 

 ……はい。

 

 あと、攻略組にならない人間も出来るだけ命の危機に助けます。

 評判のために。

 これはおまけではありません、むしろ本命といっても過言ではありません。

 

 このRTAにおいて最重要なのは当然スピードです。

 そして、スピードを上げる鍵となってくるのが評判というわけです。

 

 その説明はまた後ほど。

 

 では、どんどん助けて、どんどん引き篭もりにして行きましょう。

 

 自分、いつ誰がどこで死ぬかは、少なくとも最初の1回目は全て確認済みです。

 伊達に長生きしてないってね。

 

 はい、早速遠くに1人目が見えます。

 そして、その一人目を囲むように3体のモンスターの姿も。

 彼はβテスターですが攻略組にはなりませんので、評判稼ぎを優先します。

 

 アバターネームはカーノレ、リアルネームはかのうれいじさん32歳です。妻と子供が2人いるそうです。

 因みに寝取られ好きの変態です。

 

 よく、

 

「きっと今頃妻は俺のことを忘れて、いや、俺の体の上で別の男に無理やり……はぁ、はぁ」

 

 と聞かされました。

 ドン引きです。

 

 さて、丁度自分が着いたところでカーノレさんが死にそうになっています。

 調整完璧ですね。

 

 自分は隠蔽や索敵のスキルが取れないので、完璧なタイミングを近くで隠れながら測る事ができないんですよね。

 

 その為、いつ死ぬかを暗記して、その時間のギリギリ少し前に到着するように調節する必要があるのですが、これがなかなかに難しいです。

 早すぎると単なる獲物泥棒、遅すぎると死んでしまいますからね。

 

 序盤のリセットの大半は人助けの失敗による評判不足ですから、頑張りましょう。

 

 因みにこの人、自殺する有能を助けるなら死にます。

 

「ひ、ヒィィィ!」

 

「……シッ」

 

 一匹、二匹、はい三匹。

 モンスター撃破と。やっぱりレベルが高いといいですね。

 もともとカーノレさんがだいぶHPを減らしていたのでしょうが。

 

 さて、評判稼ぎのお時間です。キャラクターは崩さないように気をつけましょう。

 

「大丈夫か」

 

「……え、あれ、いき、てる?」

 

「しっかりしろ」

 

「っ、こ、子供?」

 

「……子供かなんて関係ないだろ」

 

 子供というのを気にしてますよアピール。

 

「あ、いや、すまなかった、助かったよ、もうダメだと、ははっ、おじさん、今更になって体が震えてきちゃった」

 

「……それでいいんだよ」

 

「……え?」

 

「体が震えるってことは、キチンと死を見詰める事ができているってことだ、死ぬのは誰だって怖い、でもその死から目を逸らしてると、死を避けられなくなる」

 

「……」

 

「もう、これはただのゲームじゃないんだ」

 

「……そう、だね」

 

「自分の命を、大切にな」

 

 カーノレさんは一人で無事に街までつけるので、ここで立ち去って構いません。

 さて、次の場所に行きましょう。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。