……ん? ここはどこでしょうか?
確か、茅場を倒して、ゲームクリアしたはずだったのですが……
この世界にやってきて恐らく数万年くらいは経っているとおもいますが、この場所は見覚えないですね。
透明な床、赤く染まった雲、そして、遠くに見えるアインクラッドの外観。
自分の体を見てみると、最終装備のままの姿ですが、体がわずかに透き通っています。
……あれ? これ、何だったか、確か、ゲームクリア後にキリトさんとアスナさんがきた場所、でしたっけ?
やっぱりクリアしてるのか。
……やったぁぁぁぁぁぁ!!!! ついにクリアしたぞー!!!
「ヒー君!」
あ、サツキシールドさ……サツキさんだ。
サツキさんの体もわずかに透き通っています。
幽霊かな?
「……ヒー君も、死んでしまったのですか?」
「いや、違う、俺は茅場を倒した、サツキのおかげで、ゲームをクリアできた」
「そう、なのですね、良かった」
「……なんで、なんで俺を庇った? ……俺は」
「例え私が死んでも、ヒー君を守れたのなら、私はそれだけで満足です」
あ、そう? じゃあ成仏してね。
とは言っても、アスナさんはここにきて生きていたわけですから、サツキさんもきっと生きているんでしょうね。
「なかなかに絶景だな」
サツキさんをとある部分を見ての発言だったら、なかなかに危ない発言ですよ、茅場さん。
いや、別にサツキさんは際どい格好をしているわけではありませんが。
茅場さんは、ヒースクリフのアバターではなく、リアルの茅場の姿です。彼の体も透き通っています。
他所から見たら半透明の三人、幽霊の集会に見えなくもないかもしれませんね。
遠くに見えるアインクラッドは、現在崩壊し続けています。
アインクラッドの崩壊を見ていると、やっと終わったんだなって思えますよね。
達成感が半端ないです。
でも、正直なところ、かなり寂しいです。
現実よりも長い間SAOで生活していましたからね、言ってしまえばもう自分の故郷といっても過言ではありませんから。
……あれだけ遊んだのにも関わらず、ほんの少しだけ、まだ遊びたかったという思いもあります。
まあでも、十分遊んだので、いいですがね。
まだ、やりたい?
……………………
いつのまにか辺り一面、真っ白な景色が広がっていました。
この、景色は……この、場所は……
「やぁ!」
「神ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」
「やだなぁー、そんなに褒めないでよ」
「褒めてねぇよ! 今の神は褒め言葉の神じゃねぇよ! ゴッみ!」
「照れなくてもいいんだよ?」
「照れ隠しじゃねぇ! ゴッみが! 死ね!」
「酷いなぁ、僕は君の願いを叶えて上げて、特典までつけて上げたじゃないか、最強の肉体に、超絶イケメン、二刀流の強化に、リセット能力、こんなにもサービスしてあげたんだから、感謝してくれていてもいいのに、何が不満なの?」
「全部だ全部! 何もかもだよ! まずリアルの体を最強にしてんじゃねぇ! いくら最強の肉体があってもゲームじゃなんの意味もないんだよ!」
「でも、そのおかげで記憶力も良くなったし、眠らなくても大丈夫だったんだよ? 普通の体だったら、眠らないと死んじゃうからね、それに、君は手鏡の効果でアバターがリアルの体型になるって勘違いしていたけど、あれは茅場の強制措置だから、あの手鏡にはなんの効果もないんだよ? 僕がそこに割り込んで、君だけはアバターが変化しないようにしてあげていたんじゃないか」
「知るか! それに俺が使えねぇ二刀流スキルを強化してんじゃねぇ! なんだよジ・イクリプスが48連撃って! ジ・イクリプスは27連撃だろうがよ! 難易度あげてんじゃねぇよ!」
「それは自業自得だよね?」
「なにより任意リセットと、メインメニューを開く動作を被らせてんじゃねぇ! わざとか!? わざとなのか!?」
「うん! 勿論!」
「ざっけんなぁぁぁぁぁあ──!!!」
左手でメインメニューを開けたらリセットにならなかったのに、とか思ってたけど、ゴッみが被らせてきてたんならどうせ無理じゃん!
「SAOでメインメニューが使えないとか鬼かよ! しかもそんな簡単な動作をリセットにするんじゃねぇ! もっと複雑にしろよ! 誤って使っちまうだろうがよぉぉぉ!!」
「え? 右手の人差し指と中指を突き出して、合わせながら縦に振るなんてよっぽどしないよね? ……君みたいにカッコつけたりしなければ、ね」
「……は? ……っ!? てめ! あれ見てたのかよ!?」
「うん! お腹を抱えて笑ったよ! じゃあな、あばよ、でリセットだもん!」
「そんな昔の話を掘り返してくるんじゃねぇぇぇ!!! 死ねぇぇぇ!!!」
って、剣がない!? なんでぇ!?
でもそんなのかんけぇねぇ!
剣がないなら拳で殴ればいいじゃない!
「いいよ、僕を殴りたいなら君の気がすむまで殴ってもね、だって、それだけ君に想われているって証明になるから!」
「ならお望み通り殴り散らかしてやるよぉぉぉ!!!」
ボコッ、バキッ、グチャッ、グチャグチャ。
ふぅ、原型も残らないほどの肉の塊にしてやったぜ! スッキリ!
というか今の体、ゲーム内アバターじゃなくてリアルの最強の体になっていますね。
ゲーム内アバターじゃ流石にここまでの力は出ませんからね。
「酷いなぁ、こんないたいけな美少女を容赦なく殴るなんて、人間としてどうなの?」
うっわ、再生しやがった。
「こんないたいけな好青年を無限ループに閉じ込めるなんて、神としてどうなの?」
「無限じゃないよ? たった数万年、正確には3万1415年9ヶ月26日5時間35分8秒9だけじゃないか」
「おっπ! おっπ! おっπ! おっπ!」
「ん? 急にどうしたの??」
「あ、いや、なんでも……って! 神の感覚で計ってんじゃねぇよ! 人間には十分長いんだよ!」
「あはは、まあいいじゃないか、無事にクリアしたんだから、ゲームクリアおめでとう! 君が現状唯一のゲーム攻略者だ!」
「ん? 他の走者は?」
「みーんな廃人になっちゃった」
「は?」
「魂の保護はしてあげたけど、精神を保護しているわけじゃないからね、色々あって精神が壊れちゃった、だからもう消しちゃった」
「おおぅ」
「君以外の人たちも、頑張ってはいたんだよ? 例えば、SAOをやらずに、ゲーム開始前の6ヶ月前の猶予期間をループし続けて、ハッキングの勉強をずっとし続けていた人がいたんだ、でね? 彼は数千年の時をかけて超一流のハッカーになったんだ、そして彼はSAOの正式サービス開始からチュートリアルが行われるまでの間にSAOを外からハッキングで強制的にクリアにしようとしたんだよ」
「……え? そんなのアリ?」
「勿論、でもね、僕がハッキングによる強制クリアに対して、なんの対策も施してないと思う? 言ったでしょ? 僕はRTAが見たいんだって、でも彼がやろうとしていることは、ゲームを書き換えてクリアするようなことでしょ? これって僕の見たいRTAじゃないんだよね、だからシステムの保護を僕の力でやってたんだ」
「そんなの突破とか無理ゲーやん」
「うん、でも彼は諦めずに、なんとかシステムの改変までは行うことができたんだ! ゲームのクリアはならなかったけど、デスゲーム化を阻止して、それによって、SAOのチュートリアルを無くしたんだよ! 君は僕が伝えたリセット条件を覚えてる?」
「任意発動の他に、チュートリアルまでにSAOをプレイしないこと、RTAの目標タイムまでにクリアできず、SAO開始から2年半が経過すること、目標タイムを過ぎてからゲームをクリアすること、そして死ぬことだったよな?」
「うん! で、チュートリアルまでにSAOをプレイしないことがリセット条件だから、チュートリアルがなくなったらSAOをプレイしなくていいんだよね、だから彼はその後リアルで、恋人を作って結婚して、幸せな時間を2年半過ごしたんだ」
「2年半?」
「そう、2年半、だって彼はゲームクリアしてないからね、RTAの目標タイムまでにクリアできずSAO開始から2年半が経過することもリセットの条件なんだから! 終わったと思ったループが実は終わってなかったことを知って、そして何よりリセットしたことにより恋人を失った彼の絶望の表情は、 ……ああ、最高だったね! わざわざチュートリアル関連のセキュリティを緩くしてあげた甲斐があったよ!」
「……最低だな、人の絶望する様を見て喜ぶなんて、人格腐ってんじゃねえのか?」
自分も見たかったなぁ。
「他にも、茅場を殺してSAO自体をなくせばいいって考えて実行した人はいたんだけどね? たとえリアルで茅場を殺しても、SAO自体は必ず開始されるような運命にしてるから、無駄なんだよねー、彼らの無駄な努力は、見てて本当に楽しかったよ! これが見たかったからわざわざ6ヶ月前までリセットできるようにしたようなものだからね!」
「本当、性根がねじ曲がってんな」
ずるい、自分も見たかったなぁ。
「まあ、何はともあれ、とりあえず現状は走者が残っていないから、タイムを抜きつ抜かれつとなって無限ループしてくれることはなさそうなんだよね、残念、ちょっと難易度高かったかな?」
「高すぎだ!」
「あ、そうだ! ゲームをクリアした特典として、君の願いをなんでも一つ叶えてあげるよ!」
「マジで!?」
「うん! 何がいい? 元の世界に帰りたい? 君の知らない君の家族がいる、元の世界に、それとももっとSAOで遊びたい? それとも友達や恋人が欲しい? 僕がなって上げてもいいよ? さあ! なんでも言って!」
「じゃあ死ね」
「うん、いいよ」
「っ! やったぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!」
「僕の死にそこまで喜んでくれるなんて、僕は君にとても想われているね!」
「さあ死ね! とっとと死ね! 今すぐ死ね!」
「うん!」
スパーン!
「はい死んだよ」
「……は?」
「あーあ、残機が一つ減っちゃった、あと数億回しか死ねないや」
「……ちげーよ! 一回死ねってことじゃなくて! 存在自体を跡形もなく消滅させろってことだよ!」
「残念、それならそうと先に言わないと、もう君の願いは叶えたから、その願いは無効ね、じゃあ、バイバイ」
「ざっけんなぁぁぁぁ!!!!」
………………
「ヒー君!」
ぐえっ、サツキさんの筋力高すぎ!
「良かった! 本当に良かったです!」
「な、なんだいきなり?」
「あっ! すみません! ヒー君が急にいなくなってしまわれたので、その、もしかしたら、と……ヒー君が無事で本当に良かったです!」
辺りを見回すと、あの白い空間ではなくなっています。
元の場所に戻されたようですね。
……あれ? 茅場さんが地面に伏していますね、どうしたのでしょうか?
あ、立ち上がりました。
「やれやれ、恋する女性は怖いものだな、しかし、まさかこの空間に干渉してくる存在がいるとは……もしかしたら本当に、君の言っていた神というものが存在するのかもしれないな……ふっ、何はともあれ、ゲームクリアおめでとう、ヒャッカ君、サツキ君」
やったぁぁぁぁぁあ!!
「では、僕はもう行くとするよ」
さよならー、じゃーねー!
もう一生会わないことを願っておきましょう。
このあと茅場さん、自分の脳を高出力マイクロウェーブか何かで焼くんでしたっけ?
それで電脳世界の住人になる、みたいな感じだったような?
でも、確か成功確率もかなり低いみたいですし、そのまま死んでくれないかなぁ。
「……お別れ、ですね」
「ああ」
サツキさんとも、もう会うことはなさそうですね。
だってリアルの体とこのアバターの容姿は別物ですから。
偶然会ったとしても、サツキさんは自分には気がつかないでしょう。
「ヒー君、私は、あなたの事が大好きです」
「俺は、b」
サツキさんに口を塞がれました。
「……それ以上は言わないでください、私は、もうヒー君とは会えませんから、だから、私の気持ちだけ、受け取ってください」
「……ああ」
サツキさんはこのあと、自分が死ぬと勘違いしてますね。
「では、ヒー君、お元気で」
サツキさん、いい笑顔ですねぇ。
さっき、俺は別に、とか言わなくて良かったですね。
まあ、言ったら言ったで面白いことになったでしょうが。
そして、あたりは暗闇に包まれました。
……
長かったSAOも終わりですね。
これから何をしようかなぁ。
ずっとSAOで生活してましたので、というか、まだループを抜け出せる気がしていなかったので、特にこれから何がやりたいとか、思い浮かばないんですよねぇ。
あー、でも、時間が進むということは、小説とかアニメとかも新しいものがあるってことですよね。
それは楽しみですね!
……しかし、いつになったらリアルに戻るのでしょうか? ロード長すぎでは?
あたり一面真っ黒で、何にもないですし、体とかも動かせる様子もありません。
というより、体の感覚がありません。
ロード長すぎんよー。
……ん? なに、か、へん、な、……あ、あた、ま、ががががががががががががががががガガガがががががががガガガががががががが
………………
彼の物語はこれにて完結!
みんなもリアルに疲れていないかい? 仕事、学校、人間関係、現実に、嫌気がさしていないかい? 大丈夫! 安心して、僕がゲームだけしていればいい夢の世界に連れて行ってあげるよ!
次は、君が走者だ
今回、本編の話は本文にしか書いていません。
30、31、32、34話にある後書きのように見えるものや、第0話の前書きのように見えるものは、本文に横線を引いただけで、あれも本文の中に書いてあります。
確認方法は、ドラッグや、線の太さ、あとPCなどの大きな画面で見ている人は線の長さも違うと思います。
それと、誤字報告画面でも、確認できます。
後書きや前書きは誤字報告ができませんからね。
時系列は、後書きに偽装した、30、31、32、34話の後に、第0話が来ます。
ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。
彼の物語は
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これにて完結!(終わり)
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ツヅキカラハジメル (ALO編)
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再走(慈悲はない)
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NG集(書く気はない)
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別視点(書く気はない)