パーティを組んでみてくれ、でパーティが組める奴はコミュ力の塊だけだ!
コミュ障やソロ、ぼっちプレイヤー達には不可能だ!
ま、まあ、別に? 自分、作ろうと思えば友達10000人作るとか余裕だし?
でも、あえて、そう、あえて友達作らないだけだし?
……負け惜しみじゃ、ないよ?
「ヒー君、一緒にパーティを組みませんか?」
あ、珍しい。
ここでサツキさんがすぐに声をかけてくることは稀です。
「……」
サツキさんは現状、攻略組唯一の女性プレイヤーだと周りからは思われています。
なので、当然男どもが放っておくはずも無く、いつもは沢山の男達に囲まれていました。
今、アスナさんはフードを被っていて女性と気づかれていませんからね。
なので、すぐに声をかけられることは稀なのですが、少しすればサツキさんの周りに人が集まるので、ここは無視しておきましょう。
「ヒー君?」
「……」
……あれ?
「大丈夫ですか?」
「……ああ、大丈夫だ」
サツキさんの周りに人が集まってきません。
んん? なぜ皆さん、遠巻きにこちらを眺めているのでしょう?
……ま、いっか、別に大した影響は無いでしょう。
「パーティか……」
今回の第1層フロアボス戦のパーティは、他の方々が1分足らずで6人7チームを作ります。
レイドは8パーティまでなので、あと1チーム、余った5人がパーティを組むことになります。
つまり、自分とサツキさん、コミュ障、そして、キリトさんと、アスナさんの5人で1パーティです。
なので、全員揃ってからパーティを組みましょう。
さて、もう他の人達はパーティを作ったので、あぶれた5人で固まりましょう。
「分かった、だが」
「本当ですか!? 申請送りました!」
はや!? パーティ申請送ってくるの早!
まあいいか、先にサツキさんとパーティを組みましょう。
その前に。
「……名前、名前は、その、気にしないでくれ、頼む」
「はい?」
では、OKボタンを押してパーティを組みましょう。
パーティを組むと、視界の左側にパーティメンバーのHPと名前が表示されます。
つまり今、サツキさんの視界左端には、Obakahyakkaiiという文字が浮かんでいるはずです。
「え? おばかひゃむぐっ」
「や、やめろ! 口に出すな!」
ここで、サツキさんの口を右手のひらで塞ぎます。
この行いはハラスメント防止コードに引っかかるため、今、サツキさんの視界にはコード発動を促すシステムメッセージが表示されており、彼女がOKボタンに触れれば、自分は一瞬で黒鉄宮の監獄エリアに転送されます。
ですが、ここでサツキさんがそのボタンを押すことはありません。
「あ、ごめんなさ! ……すまなかった」
「い、いいえ、その、私も悪かったですし……あ、だからヒャッカなのですね!」
「……笑いたければ、笑えばいいじゃないか……」
「笑いませんよ、いい名前ですね」
皮肉かな?
いや、気を使ってくれているのでしょう。
ええ人やで。
「そ、そうか? そうだよな! ……あ、いや、うん」
因みに、今回の名前の由来は、某VRMMOゲームの最終日に主人公のギルドが丸ごと異世界に転移する超過剰労働の、魔法が元ネタです。
その超過剰労働には、第何々階位魔法というのが、1から10まであるのですが、自分は100という数字が好きなので、自分のバカさ加減は、百階位級だ!
ということで、お馬鹿百階位という名前にしました。
「ふふっ」
「だ、誰にも言わないでくれよ!」
「分かりましたわ、ヒー君」
はい、では5人でパーティを組みましょう。
組みました。
「よろしく頼む、名前は、その、気にしないでくれ、俺のことはヒャッカと呼んでほしい」
「よろしくお願いしますね」
「よろしく」
「……」
「……」
あれ? コミュ障が黙っているのはいつものことだけど、なんでキリトさんも黙ってるの?
目だけ左を見ているから、誰かの名前を見ているっぽいけど。
「あれ? アスナさん? もしかして……」
「どうした?」
「あ、いいえ、なんでもありません」
サツキさんはリアルのアスナさんを知っているようです。
とは言っても、それほど関わりがあるわけではなく、一応名前と顔を知っているくらいだそうです。
会話も特にしたことがないとか。
それはアスナさんも同様で、顔と名前がわかれば、あれ? もしかして? 程度にはサツキさんを知っているそうです。
ただ、この時のアスナさんは、視界の左端にパーティメンバーの名前が表示されることにすら気がついていないので、サツキさんには気がついていないです。
そして、コミュ障、彼はネット弁慶です。
フレンド登録すると、メッセージにとてつもない超長文が、多数送られてきます。
本名は知りません、リアルネームを知ることができるほど仲良くなるには、コミュ障の場合、フレンド登録は必須なのでしょう。
元々はそのコミュ障を治したくてこのゲームを始めたそうです。
まあ、リアルの体と顔になっているんでね、いくらネット弁慶であろうともコミュ障はコミュ障ですから。
で、コミュ障の名前はクリンプさんです。
では、パーティが定まったので、ディアベルさんがパーティを検分して、最小限の人数を入れ替えて、7つを目的別の部隊へと編成します。
重装甲のタンク部隊が2つ、高機動高火力のアタッカー部隊が3つ、長モノ装備のサポート部隊が2つ。
そして、最後に我らが寄せ集め部隊。
キリトとアスナは高機動高火力アタッカーで、サツキさんは筋力ガン振りの盾を持たせればタンクができる女性、コミュ障は敏捷ガン振りでナイフを使う暗殺者といった感じです。
自分? 低機動低火力サクリファイスですね。
サツキさんは現時点ではまだソロでやっているようです。
でも、サツキさんがソロでいるのは1層までです。
基本的には1層の途中から1層のボス戦前まで、遅くともボス攻略後にはだいたい他のパーティに入っています。
サツキさんの戦い方は、自分が何もしなければ、外見からは想像もつきませんが、攻撃全振りか、防御全振りしかしないバーサーカーです。
敵の攻撃は、一切避けません。
自分のHPが0になれば本当に死んでしまうかもしれないというのに、敵の攻撃を一切怖がる様子もなく、ヒールポーションを常時飲み続けながら、ただひたすらに敵を攻撃し続けます。
とても胆力がありますよね。
なので、自分が教えたのは、相手の攻撃の出を潰す方法です。
下手に避ける方法を教えても、サツキさんはうまく敵の攻撃を避けられません。
攻撃を避けるというのは、自己防衛本能が、恐怖心が無ければ単なる付け焼き刃にしかなりませんから。
なので、相手の動きを見て、敵の攻撃を出来るだけ潰すように行動する方法を教えました。
それによって、かなり強くなります。
ですが、ヒールポーションの消費がとても早いですし、今後麻痺とかの状態異常を引き起こす相手と戦う場合、サツキさんの戦い方ではすぐに死ぬので、ボス戦と、少なくとも第2層からはどこかのパーティでメイン盾をやっていてもらいます。
サツキさんの装備は、今はまだ両手剣ですが、後々は巨大な盾のみか、巨大なハンマーを振るうようになります。
そして、コミュ障は当然ソロプレイヤーです。
コミュ障がパーティを組むのは、自分が無理やり組む以外では基本的にボス戦だけです。
それ以外はずっとソロです。
で、ボス戦での役割なのですが、基本的にはキバオウたちパーティのサポート、つまり取り巻きコボルドの殲滅、そして、何か不測の事態があった時の予備部隊といった役割です。
その後はAからGまでナンバリングされた部隊のリーダーの挨拶とコルの分配方針を確認して終わりです。
コルはレイドの47人で自動均等割、アイテムはゲットした人の物という、縛りプレイが露見する危険性がない、とてもありがたいものです。
「頑張ろうぜ!」
「おー!」
はい解散です。
では、早速迷宮区に戻りましょう、と言いたいところではあるのですが、もうパーティを組まされているので、迷宮区には行きません。
この時点でレベルが足りなければ、もうボス戦での評判上昇は諦めて、迷宮区に行ってもいいのですが、もうレベルはギリギリ足りているので、大丈夫です。
あとは防具を新調すれば、準備は完璧に整うので、この時間で防具を新調しに行きます。
その防具は、今回のボス戦専用防具です。
それ以外では使いません、というより使えません。
今装備している防具は、防御力も耐久力も第1層にしてはそれなりの防具です。
そして、今から買いに行く防具は防御力は第1層で手に入る皮系防具の中では最大防御力を誇り、敏捷もほんの少し上昇します。
ただし、耐久値は紙です。
ボスの攻撃1コンボで消し飛びます。
防具の耐久値が消えれば、当然それ以降は服のみという、危険度MAXな状態になってしまうため、普段から使うことはオススメできません。
そして、その防具はこのトールバーナの街には売っておらず、ここからかなり離れた場所に売っています。
なので、今夜はマラソンです。
明日の集合時間までには間に合うので、大丈夫です。
では、さようなら。
っと、その前に、周囲に誰もいなくなったのを確認したら、右手のひらを舐め回しましょう。
とても気分が高揚しますから。
はい、出発。
はい、戻りました。
今現在の時刻は12月4日、午後10時くらいです。
今日、ボス戦を行います。
なので、今はトールバーナの広場にいます、集合時間ですね。
とりあえず、今はパーティメンバー5人で固まっています。
「おい」
あ、キバオウさん! キバオウさんが話しかけてきてくれました!
これは、もしかして敵対ルートを回避できるのでは?
「ええか、今日はずっと後ろに引っ込んどれよ、ジブンらは、わいのパーティのサポ役なんやからな」
つまり、危ないからお前達はわいが守ったる! ってことですか!?
「大人しく、わいらが狩り漏らした雑魚コボルドの相手だけしとれや」
え? やだなー、キバオウさんが雑魚コボルドを狩り漏らすことなんてあるわけないじゃないですかー。
つまり、自分達が暇にならないように、安全な数だけをこっちに回してくれるってことですか!?
優しい! これはキバオウ敵対ルートじゃありませんね!
気遣いが出来るキバオウさん、流石です! ヒューヒュー!
……はい。
では、ディアベルさんの前口上は適当に聞き流して、47人で迷宮区に向かいましょう。