さて、今回は現在非公開にしている、食戟のソーマ憑依クロスものの短編です。
本編を読んでいただいた方はご存知かもしれませんが、創真にエミヤが憑依したものになっております、今後本編を更新する予定を完全に排除したため、やりたかった展開や話を、こちらに投稿しました。
己の料理人人生をかけた食戟を控えた夜、創真(エミヤシロウ)の部屋に極星寮メンバーとイサミ・アルディーニ、そして何故か薙切えりなと新戸緋沙子が集まっていた。
彼ら彼女らの言い分は、何も料理人人生まで賭けなくても良かったのではというものだった。はたから見ても、弁慶の百本百本刀伝説のごとく集めた包丁を返すのと、一生の道では割に合わないというのは分からない話でもない。
しかし創真の表情は、彼のその意思を物語っていた。
「すまないが、これは既に決めたことだ。それに、奴について一つ個人的に気にくわないことがあるものでね」
そう言うと創真は立ち上がり、個室の簡易台所で包丁研ぎ始めた。その後ろ姿は、最早語ることはないと無言ながら物語っていた。他の面子もあきらめたのだろう、一人、また一人と彼の部屋を後にしていく。
だが薙切えりなは尚も残り、新戸緋沙子もその付き添いで、部屋に残っていた。
「……どうしたのかね? まだ聞きたいことがあるのか?」
「ええ、少し気になることがあって」
「ふむ。食戟の条件ならば、こちらから話すことはないぞ?」
「いいえ、食戟じゃないわ。私が気になったのは美作昴への態度よ」
えりなは疑問に思っていた。彼は美作の試合中に特に反応を示していなかったが、彼の二つ名を聞いたとたん、険しい表情と雰囲気を隠そうともしなかった。それは最早嫌悪とも呼べる表情であり、いつもニヒルな笑みや少し眉間に皺を寄せたしかめ面を浮かべている彼からは想像できない表情だった。
「貴方、彼の料理には反応なかったのに、なんで彼の『
「すまないが、その名は二度と出さないでくれ」
まただ。彼の二つ名を出した瞬間、創真は強い拒絶を示した。もしかすると、「トレース」という言葉に本能しているのか。
「……はぁ、これだけでは納得するまい。いいだろう、少し話そうか」
いつの間にか用意したのだろう、程よく熱いお茶とそれが入った湯呑が三つちゃぶ台に置かれていた。いつの間にか用意したのか、ふかふかの座布団も人数分用意されている。
「ちょっと待て、さっきまで座布団は何処にもなかったよな? それにこの湯呑、相場三万円もする奴のはずだぞ? 普通の高校生が易々とかえるものじゃあ……」
「どうも何も取り出したとしか言えないな。それにその湯呑は知り合いからの貰い物だ、気にするな」
創真の言葉に違和感を覚えつつも座布団に座り、湯呑に口を付けた。因みにお察しの通り、座布団も湯呑も投影によるバッタもんである。
「私が奴の二つ名に嫌悪を示したのはな、奴の在り方と二つ名が全くあっていないと感じたからだ。あれは、完全な模倣ではない」
「どういうこと? やり方はストーカー紛いだけど、徹底的に相手を調べ上げ、相手と全く同じ方法で調理し、更に一歩先を行く料理が完全な模倣じゃないなんて」
「何も他を模倣することを否定しているわけではない。技術を盗むというのは、技術の模倣と似て非なるものだからな。否定は愚か、寧ろ推奨するまであるよ、私は」
「ならばなぜ?」
「まぁその答えは、否が応でも明日にわかるというものだ。さぁ、もう外も暗くなってきた。迎えをよぶかね? それとも私が送るかね?」
窓から見れば成程、既に日は暮れ、夜の帳が下りている。新戸緋沙子は既に迎えを呼んでおり、えりな共々屋敷へと戻っていった。窓から見送る創真の携帯に一つの着信が入った。
「さぁ秋の選抜も準決勝!! 今回のカードはこれだあ!! 『キング・オブ・ストーカー』の異名でしられ、食戟で相手の包丁を奪っていく美作昴!! 奪った包丁の数はまさに99本!!」
「対するのは編入してから実力を示し続ける幸平創真!! 予選、初戦と着実に歩みを進める彼は、果たして美作昴の『
二人の情報が司会、川島麗によって紹介されているが、観客は彼女の話を聞いていなかった。生徒の視線は美作の図体とそれから発せられる圧力に圧されていた。反対に創真のほうは非常に静かであり、真顔のまま美作のことを真っすぐと見つめていた。
正反対な様相の二人、しかし一部教師や審査員、総帥とえりなは気づいてしまった。美作がキャンプファイヤーのような業火だとしたら、創真は紅く、ひたすら静かに燃え光る石炭のよう。
「今回の食戟でお互いにかけるのは、美作昴は今まで接収した包丁を全て持ち主に返す!! 対する幸平創真は、己の包丁と自身の料理人人生!!」
司会の発表に会場はどよめいた。当然だ、まさか包丁の返却のために、己の将来を賭けるなんて正気の沙汰ではない。そんなことするのは、余程のバカか余程勝つことに自信を持っているのか。
「お題はビーフシチュー!! それでは双方調理開始!!」
司会の宣言と共に、二人が己の調理を開始する。しかしここで皆が気づく。創真がやろうとすることをわかっている様に、一歩先を行くような速さで食材を捌いていく。
「くははは……幸平創真、お前がこの一週間誰と会い、話し、食材を買い、試作したか。俺は全部知っている!!」
そう豪語する美作の調理台には、創真と同じ牛テール肉とマティニョン、スパイスがすでに下拵えが済んだ状態で置かれていた。
「そんな……」
「幸平創真も……」
その光景に、会場の空気が少しづつ沈み込む。今回直接観覧に来たものの中には、美作に包丁を取られた者が全員いた。彼ら彼女らは、幸平ならばと若干の希望を持っていたが、目の前の光景に、その希望も儚く散ったと考えたのだ。
そんな中でも調理は進んでいく。美作は幸平の調理に自分のアレンジを加えるため、シチューの
しかしそんな状態でも、創真は自分のペースを崩すことなく、己の料理を作っていく。そして未だに、「付け合わせ」を取り出す気配がない。
「ビーフシチューにおいてガルニチュールは極めて重要な者なのによぉ。ありゃダメだな、奴は絶対に勝てない」
審査員の一人、遠月の卒業生でもある角崎タキが、幸平を見てそう判断する。会場の皆も、それを察したのか、更に空気が沈む。
「……角崎タキ先輩でしたかな? 何やら私について色々と評価しているようだが、それらは全て、食した後に聞くとしよう」
しかしあくまで冷静に、堂々と、そして会場に来て初めて口を開き。創真はタキに対して言葉を紡いだ。そして初めて手を止め、美作のほうを振り向いた。
先に完成した美作の料理が運ばれ、審査員が舌鼓を打ち、批評をしている。やり方は外道と思われるかもしれないが、腐っても料理人、その腕は高く、実力もある。そのためか、審査員も比較的良好な評価を下している。
「このベーコンはな、熟成までに手間と時間を惜しみなくかけている。それだけを行ってこの美味さが実現するんだ!!」
「浅はかだったな、幸平!! お前は細心の注意を払って情報漏れを防ぎ、大会直前まで秘匿していたようだが、そんなものは俺には通用しない!! ましてや今までのお前から考えれば、お前はその場での即興は行わない!!」
「わかったか幸平!! いかに意外性を持つお前でも、この『
勝ちを確信した美作の笑いが、会場に響き渡る。観客たちは、創真に大蛇が巻き付き、今にも喉首に毒牙を突き立てんとする姿を幻視した。そして肝心の創真に目を向けると、口元に微笑を浮かべているのに気が付く。
「『
創真はそこで言葉を切った。口を開かぬ創真に、美作は言い知れぬ緊張を感じる。当然だ、今までの対戦者は一様に恐怖か焦燥の表情を浮かべていたが、創真この状況でも笑っていたのだから。そんな創真は、徐に机の上にある食材を取り出した。それはなんと……。
「っ!?」
「幸平もベーコンを取り出した!?」
「あの色味といい香りと言い、美作のベーコンとそっくりだ!!」
「いいえ、寧ろ全く同じ!?」
間近で見ている審査員が、目をこぼれんばかりに見開いた。それを気にも留めず、創真はベーコンを適当な大きさに切り分けていく。
「そう、ベーコンだ。しかも、お前と同じ工程と材料で作られた、な」
創真の発言で、会場内に一際どよめきが広がった。トレースし、アレンジしたのは美作の方。それは先ほど美作が宣言した通り、彼のオリジナルアレンジのはずである。しかし、なんと創真はその展開を更に先読みし、美作をトレースしたのだ。
この事態に観客も審査員も、美作自身も動揺を隠せていない。
「なぜ……俺の
「逆に聞く。何故自分が読まれることを想定していない?」
そう問いかける創真に対し、美作は声を上げることは出来ない。彼が固まっている間にも、審査員は配膳された創真のシチューを口に運び、口々に感想を言う。
「全く同じ素材、全く同じ工程で作られている。だというのに……!!」
「どうして? 彼のシチューのほうがおいしく感じるの?」
「食べる前に舌をしっかりリセットしているのに……なのになんで!?」
「簡単だ。火の通し方、素材の切り方、熟成のさせ方。それらの徹底度。どんなに模倣をしても、本人や他人の気づかぬところで、料理者の癖が出てしまうものだ。そしてその癖が、味に微妙な差を生じさせてしまうことも、ままあることだ」
いとも簡単に答えを言ってのける創真に、会場の全ての人間が耳を側立てる。これからの彼の言葉を、一言一句聞き漏らすまいとするかのように。
「模倣とは、単純に真似するのではなく、実に深い過程が必要となる。創造の理念を鑑定、基本となる骨子を想定、構成された材質を複製、制作に及ぶ技術を模倣、成長に至る経験に共感、蓄積された年月を再現し、あらゆる工程を凌駕し尽くし、ここで幻想を結び、モノと為す。これだけの工程をふんで、初めて贋作となり得るのだ」
「美作昴。貴様は相手の素性を徹底的に調べ上げ、それを限定的に模倣し、そしてその一歩先をいくアレンジをすると言ったな。ならば聞くが、美作昴よ。貴様のその模倣に創造理念、経験共感、蓄積年月が含まれているか? そしてそれを食材や使う道具、テーマの料理にまで考えを至らせているか?」
最早何を言っているか、会場の殆どが理解をできていない。そして理解したとしても、余りにも非現実的な規模の話で、理解することを辞めようとしてしまう。
それも仕方がないだろう。創真の言葉は、彼が「エミヤシロウ」だったからこその境地なのだから。
「貴様のそれは模倣ではない。貴様の作るそれは、贋作にも至らない。ただかすめ取り、一歩だけ先をいく力しか持たぬ貴様に、『
「俺の『
「ならば一つ問おう。今回私は
創真の問いに、答える者はいない。何故なら、その答えを、たった今、幸平創真が証明したのだから。
「他者を模倣するのことは否定せん。しかし、その全てを己の糧としなければ、身に付けた技量、受け取った経験、信念、時間。それら全てが宝の持ち腐れだ。料理に限らず、開拓者とはそういうものだ。常に取り込み、試行錯誤し、遥かな道、遠い残響を頼りに、荒野を進むのだ」
その言葉を最後に、創真は頭のハチマキをほどき、機材の後片付けを始めた。美作昴よりも小柄、だが遥かに大きく感じられるその背中に、彼の夥しい足跡の一部が感じられた。
余りにも膨大な知識、高い技量、それをもってしても、彼は己を開拓者、求道者だという。美作の完敗は明白だった。模倣者としてのキャリアも、料理人としての研磨も、美作よりも格段に上だったのだ。
美作の敗北により、99本もの包丁が持ち主へと戻っていく。それに目もくれず作業を進める創真に、堂島銀が近寄る。
「幸平創真。君は自らを贋作者と呼んでいたが、何故かきいてもいいか?」
「……私は真作を作るのに向いていないのだよ」
「新作?」
「『真作』だ。私は自分で『本物』を作り出せない。私にできるのは、己の心を形にすることだけ。贋作を作るのは、常に過去に自分とそのイメージ戦いだ。私の戦いに外敵はいらない。ゆえに私にとって戦う相手とは、常に自身のイメージに他ならない」
そう言葉を紡いだ創真は、それ以上は語る素振りを見せず、片づけを終わらせて会場を後にした。その後ろ姿を見ていた堂島銀は、一瞬だけ彼が荒野に立ってるような、そんな幻を見た気がした。
草も生えない地面には無限の剣が並び立ち、火の粉が舞い、無数の巨大な歯車と分厚い雲に覆われた、黄昏時の荒野を。
はい、ここまでです。
美作編は、贋作者、模倣者同士の戦いということで、キャリアの違いを見せつける展開にしたかったのです。
しかし色々とおおもとの設定に齟齬や欠落が多数存在し、ご都合主義とはいえあまりにもガバガバが過ぎたので、本編を非公開、更新停止にしました。
食戟のソーマ編は、選抜決勝、叡山戦、反逆者最終戦の内、どれか二つを上げて終わりにする予定です。
その後、「ゼロノスinこのすば」、「エミヤinインフィニット・ストラトス」、「三枝ルートFate」の蔵出し(?)話を上げていく予定です。
それでは次回はいずれかの本編でお会いしましょう。