鬼滅から小鬼殺しへ   作:清流

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あれ?村まで行けなかったぞ……。


01:不運なる死/幸運なる邂逅

 闇人(ダークエルフ)は、やる事なす事全て上手くいくような全能感に酔いしれていた。

 なにせ、秩序側に捕まって絶体絶命の危機だったのにも関わらず、見事逃げ果せたばかりか、古代文明の遺産である特殊な石巨兵(ストーンゴーレム)という凄まじい力まで手に入れたのだから無理もない。

 

 きっかけは、投獄され処刑されるのを待つばかりであった闇人(ダークエルフ)に邪神の託宣が下ったことだ。

 邪神の導きによるいくつかの偶然と幸運により、彼は見事逃げ出すことに成功したのだった。

 そして、託宣の通りに古代遺跡に隠された魔道具を手に入れ、その力でまんまと守護者である特殊な石巨兵(ストーンゴーレム)を手中に収めた。

 捕まった当初は下手を打ったと思ったものだが、この石巨兵(ストーンゴーレム)を手中に収めるためだったのだと思えば必要なことだったと許容出来る。後は邪神の託宣のとおりに、示された場所へいって混沌の軍勢に合流すればいいだけであった。

 

 ――――しかし、その前に一度くらいは、こいつの力を試しておきたい。

 

 守護者として用いるためか、明らかに普通ではない石巨兵(ストーンゴーレム)の威容は、そんじょそこらの冒険者など歯牙にもかけないという確信があるだけに、その力をもって存分に蹂躙したいという欲望には抗いにくいものがあった。石巨兵(ストーンゴーレム)闇人(ダークエルフ)が好き勝手に使えるのは今だけなのだから、尚更だ。

 石巨兵(ストーンゴーレム)に命令出来るのは自分だけである以上、石巨兵(ストーンゴーレム)を取り上げられることはないだろうし、相応の地位も貰えるだろう。だが、その一方で身勝手な動きは出来なくなるのは間違いないのだから。

 

 折角、手に入った力を自由気ままに使えないというのは、秩序に属する者達を嬲ることが好きなその闇人(ダークエルフ)にとって、正直面白くはない。

 

 だが、自身が脱獄した身の上である上に、主戦力である石巨兵(ストーンゴーレム)は隠すことなど不可能だ。間違いなく秩序側に捕捉される。そうなれば、いかな石巨兵(ストーンゴーレム)といえど、多勢も無勢で削り殺されるだろうことは想像に難くない。

 その場合、自分に待っているのは死だけだろう。仮に自分だけ運良く逃げ果せたとしても、元より邪神の導きで手に入った力である石巨兵(ストーンゴーレム)を無為に失って生きていられるわけがないだのから。

 

 結局のところ、混沌の軍勢に合流することは既定路線であり、闇人(ダークエルフ)としてもそれしかないのは理解している。

 それでも尚、己を捕まえた連中に石巨兵(ストーンゴーレム)をけしかけて嬲り殺してやりたいという思いを捨てきれない。

 許容出来るからと言っても、恨みは消えるわけではないのだから。理屈ではないのだ、感情というものは……。

 

 そんなわけで、闇人(ダークエルフ)は自身の衝動の吐き出し口、有り体にいえば、八つ当たり先を無意識に探していたのだった。

 

 人気の全くない荒野を一人で行く見慣れない格好をした只人(ヒューム)の男を発見したのは、そんな時であった。

 その様は、闇人(ダークエルフ)にとって、八つ当たりに持って来いの絶好のカモがうろついているようにしか見えなかった。

 やはり、己は最高についていると彼が思ったのも、無理はないだろう。思わず、自身の欲望を満たしてくれる神の導きに、これ以上ない感謝を捧げた程であったから、その喜び様は筆舌に尽くしがたい。

 

 しかし、闇人(ダークエルフ)は知らなかった。その出会いは、《真実》の大ファンブルによって生まれたものであることを……。

 

 

 

 

 

 

 

 「あの只人(ヒューム)を捻り潰してこい!」

 

 その叫びと共に左手に嵌められた腕輪が輝き、古代言語以外では本来意思疎通ができないはずの特別製の石巨兵(ストーンゴーレム)に命令が伝わる。

 本来の主でない上に、共通語で告げられた命令だと言うのに、石巨兵(ストーンゴーレム)は命令に忠実に動き、その巨体に似合わない俊敏な動きで男を襲う。

 

 当然ながら、いくら見かけよりも俊敏であるといっても、5メートル近い巨体の接近を男が見逃すはずもなく、背後から近づく石巨兵(ストーンゴーレム)へと向き直る。

 というか、むしろ、男、いや、その侍は、闇人(ダークエルフ)よりも遙かに早くその存在を察知していた。無論、闇人(ダークエルフ)の存在をも把握済みである。

 

 「<これはまさかゴーレムというやつか?随分、ファンタジーな世界に来てしまったようだな……。>」

 

 石巨兵(ストーンゴーレム)という尋常ならざる脅威が迫っているというのに、侍にはそんなことを言う余裕すらあった。

 確かに見た目よりは素早いし、その頑丈な巨体と重量は脅威ではある。

 

 「<鬼よりは遙かに遅いし、お前以上に大きい奴ともやり合ったことはある>」

 

 しかし、侍にはなんの脅威にもならず、振り降ろされた超重量の拳を難なく躱してみせた。

 それも当然、鬼殺の剣士たる侍がこれまで斬り殺してきた化物である<鬼>は、それ以上のスピードと膂力を誇るものは珍しくなかったし、肉体を巨大化させるなんていうものは当然の如く備えている基本能力でしかないのだから。

 

 「<ちょうどいい、お前には試しに付き合ってもらおうか>」

 

 それどころか、侍は自身の動作確認に石巨兵(ストーンゴーレム)を使う気であった。

 それはけして大言壮語などではない。実際に、一分間疲れ知らずの石巨兵(ストーンゴーレム)の攻撃を回避しつづけ、しまいにはその頭の上にさえ昇ってみせたのだから。

 

 当然ながら、これに苛立ったのは、この攻防の唯一の観客であり仕掛け人である闇人(ダークエルフ)

 あっさり殺せると思っていたのに、結果は彼の想像の真逆。しかも、腕輪の効果で、侍の日本語の内容すら理解してしまったので、彼は怒り心頭であった。

 

 「なにをしている、さっさと殺せ!」

 

 命令者である闇人(ダークエルフ)の怒りが伝わったのか、はたまた石巨兵(ストーンゴーレム)にまだ余力があったのか定かではないが、ゴーレムの動きが苛烈になる。

 しかし、それはどうしようもなく侍にあることを教えていた。

 

 「<ああ、やっぱりアレが操ってるのか?いや、操るというよりは命令しているだけか。血鬼術――――いや、魔法かな?>」

 

 侍も別に遊んでいたわけではない。自分の肉体の現状を把握する為に動作確認は絶対に必要なことであったし、この世界において戦闘能力の変化しているかも把握する必要があった。

 そして、何より重要なのは襲撃者の意図の把握だ。己が誰かの領域に入り込んだ結果、石巨兵(ストーンゴーレム)をけしかけられていたというなら、非は己にあるのだから。

 まあ、それでもいきなり殺しにくるのはどうかと思うが、武装した不審人物への対処としては、そう責められたものではない。

 故に、あえて抜かずに回避に徹して、相手の様子をうかがっていたのだ。

 

 「<警告も勧告も未だなしに加えあの表情、今の叫びの内容。どう考えても、善人とかじゃないな>」

 

 本来なら、闇人(ダークエルフ)の言葉は侍にとって異界の言語であり、理解出来ないはずなのだが、侍には不思議と理解出来ていた。改めて説明するまでもなく、闇人(ダークエルフ)の腕輪の効果なのだが、侍は知るよしもない。

 

 「<石だから斬れないとでも思っているのか?岩切など最終選別をくぐり抜けた一般隊士なら誰でも出来る>」

 

 そう言うや否や、一息深く息を吸い込んだ侍は、神速とも言うべきスピードで石巨兵(ストーンゴーレム)をすり抜け、闇人(ダークエルフ)の前へと現れた。

 基本的に、人相手に呼吸は御法度というのが侍の認識であるが、相手が人間ではなく魔法を使うともなれば遠慮は無用である。

 

《雲の呼吸 壱ノ型 驟雨》

 驟雨は、《雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃》の構えが必要といった部分を侍なりに改良したもので、水の呼吸の特徴である歩法をヒントに、独自の歩法を組み合わせることで、構えをとることなく神速の抜刀を可能にするというものだ。その分、助走距離を必要とする型になってしまったが、構えなくて良いという長所に加え、重ねた踏み込みと歩法による加速は霹靂一閃を凌ぐ。

 雲の呼吸において最速を誇るこの技は、相手に何もさせずに首を刎ねることを主眼とする奇襲に特化させた技だ。

 

 侍は魔法使いとおぼしき人外である闇人(ダークエルフ)に、これ以上何もさせる気はなかったのだ。

 

 故に、その結果は当然だった。

 突然、目の前に現れた侍に驚愕の言葉をあげることすらも許されず、闇人(ダークエルフ)の首は宙を舞った。

 

 何が起こったのか、闇人(ダークエルフ)には理解出来なかった。

 いつの間にか、石巨兵(ストーンゴーレム)が達磨にされていることも、自分がなぜ死んだのかも、彼は永遠に理解することなく、消失する意識の中で刀を納める鍔なりの音を聞いたのだった。

 

 

 

 

 侍が己の計算違いに気づいたのは、闇人(ダークエルフ)の身包みを剥ごうとした時であった。

 背後から近づいてくる気配に目をやれば、そこには達磨にしたはずの石巨兵(ストーンゴーレム)が近づいてくるのが見えたからだ。

 

 ――――確かに四肢を切り落としたはず……。まさか再生したのか?

 

 そう思って、石巨兵(ストーンゴーレム)の四肢を確認するが、確かにそれは侍が切り落としたはずのものであった。造形的にも質量的にも変化は見られず、再生したというよりは、単純にくっついたと言う方が正しいようであった。

 

 「<確かめてみるか>」

 

 石巨兵(ストーンゴーレム)を再び達磨にすることもできた侍だったが、あえて両腕を切断するだけに留める。鬼殺の剣士の最高位にいた侍にとって、それは容易い所業であった。

 

 侍が観察に徹する中で、双腕を失った石巨兵(ストーンゴーレム)は動きを止めていた。

 すると、なんということだろう、完全に切断したはずの左腕が浮き上がり、切断面に嵌まったではないか。わざと切り落とさなかった右腕などは、自重に負けて落ちることもなくあっさりと切断面が結合した。

 

 「<少し面倒ではあるな。まあ、いつものことか>」

 

 通常ならば、脅威であろう自らの肉体を回復させる能力を持つ敵というのも、侍にとっては馴染み深いものでしかない。

 鬼と違って、明確な弱点は分かってはいないが、急所である首を守るために小細工する鬼は珍しくない。

 故に、やることはいつもと何らかわりはない。石巨兵(ストーンゴーレム)を結合させる小細工を破ればいいだけだ。

 

 《雲の呼吸 弐ノ型 宇迦之御魂》

 五連撃である《雷の呼吸 弐ノ型 稲魂》を、独自の歩法と併せて九連撃へと昇華させた技。

 

 神速の九連撃は、たちまちに石巨兵(ストーンゴーレム)を十分割した。

 即ち、頭、首、左腕、右腕、左足、右足、左上半身、右上半身、左下半身、右下半身と言う風にだ。

 そして、侍はまた観察する。どこを核に再生するのか、それともしないのかを……。

 

 果たして、十分割されて尚、石巨兵(ストーンゴーレム)は元通りに結合してみせた。

 多少の時間はかかったとはいえ、驚くべき現象であった。

 

 しかし、完全にその種は割れていた。侍の目には、ハッキリと右上半身を中心に結合していく様が映っていたからだ。

 故に、結合するや否や、結合の核となる右上半身を再び切り離し、中空に浮いたそれに間髪入れずに技を放つ。

 

 《雷の呼吸 肆ノ型 遠雷》

 本来、使い手が見えなくなる程の高密度の斬撃を周囲に飛ばす中距離用の技だが、対象と接近した状態で使えば――――。

 

 その答えは、石巨兵(ストーンゴーレム)が体現していた。

 結合の核があったと思しき右上半身は粉微塵になっていた。

 

 「<斬滅完了>」

 

 その呟きともに響いた納刀の音が滅びを告げたかのように、石巨兵(ストーンゴーレム)の残っていた五体もその威容が嘘のように崩れ去ったのだった。




鬼鬼コソコソ話
作中の<>がついているのは、日本語で喋っているということを表しています。
雲の呼吸は、雷の呼吸をベースに、水の呼吸の変幻自在さ、特に歩法に着想をえて編み出された呼吸です。

原作者さんのWeb公開シナリオやTRPGのシナリオ使ってもいいかな?

  • OKOK、好きにやれ
  • Web公開だけならOK
  • TRPGシナリオだけならOK
  • 甘えんな!ネタバレとか許されざるよ
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