21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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10.St-Knight(対戦型格闘)<1>

「どうもー。視聴者の皆さん、21世紀おじさん少女だよー。今日は新しいゲーム動画の配信に際してということで、まず始めにリアルの世界の俺の部屋からお送りしているよ」

 

 前回の動画最終回から数日後、俺はまた動画撮影に挑戦していた。

 新シリーズの第一弾として、まずはトークから始めようと、リアルの世界での撮影だ。今までの収録でも、リアルでの撮影はよくあった。だからこそ、身体を男ボディにして、VR空間でだけ女アバターを使って撮影するという手が使えないのだが。

 

「皆さんもうお気づきかな。な、な、な、なんと、俺の髪色が変わっている! そう、今までヒスイさんと見た目が被りすぎていたので、女性型アンドロイド、いわゆるガイノイドのミドリシリーズを製造している、ニホンタナカインダストリさんに頼んで、髪色を銀髪にしてもらったんだ」

 

「お似合いですよ」

 

「ありがとうヒスイさん。さらになんと、ミドリシリーズのニホンタナカインダストリさんが、俺の動画シリーズのスポンサーになってくれることが決定したぞ! スポンサーの契約料として、俺の男ボディであるツユクサシリーズの男性型アンドロイドを贈ってくれたんだ! これでいつでも男らしいヨシムネが見られるぞ!」

 

「まだ梱包すら解いていませんけれどね」

 

「そうなの!? いつもは家事を万全にこなしてくれるヒスイさんが、珍しい」

 

「ヨシムネ様は、ずっと私の使っていた、ミドリシリーズのボディを使い続けてくだされば、それでいいのです」

 

「ええー、男ボディ不人気! あ、ちなみに俺の今の身体は、元々ヒスイさんが使っていたものだそうだよ。俺の死体が次元の狭間からサルベージされたときに、たまたまヒスイさんが研究者の近くにいたそうで、ソウルインストールとやらをするのに都合がよかったんだそうだ」

 

「おかげで私も、最新式のボディに換装できました」

 

「俺の部屋で家事をして、ゲーム動画を撮影編集するくらいしかヒスイさんの仕事がないから、完全にスペックオーバーだよな……」

 

「ヨシムネ様のように、ソウルインストール用途でハイエンドの民生用ガイノイドをご利用予定の方がいらっしゃいましたら、ミドリシリーズの姉妹機であるワカバシリーズの購入をご検討ください。男性型は先ほども話に上がりました、ツユクサシリーズです」

 

「露骨な宣伝!」

 

 そこまで会話して、俺は背景にしていたソウルコネクトチェアから少し場所を移動する。

 

「そうそう、ニホンタナカインダストリに髪色を変えに行った帰りに、アーコロジーのショッピングモールに寄ってきたんだ。そこで、ガーデニングのコーナーがあったから、ちょっと見つくろってきたよ」

 

 部屋の壁際、そこにはガーデニング用のプランターが置かれていた。

 この部屋には窓やベランダがないため、日光不足を補うために専用のライトもプランターの上に取り付けてある。

 

「今までこの部屋は、花も飾っていませんでしたからね」

 

「自然が存在しない悲惨な未来SF世界というわけじゃないから、別に花もそこまでお高いってわけじゃないんだけどねぇ」

 

「さらに言いますと、植物ですので、穀物や野菜類と同じく、工場で生産できますからね。アーコロジーだけでなく、スペースコロニーでも花屋は存在しているでしょうね」

 

「そこで! この部屋でガーデニングをすることにしたんだ。俺は21世紀では農家のおじさんだったんだけど、農業はもうこりごりでやりたくもない。でも、ガーデニングくらいならありかなと」

 

 プランターには、植物の苗が植えてある。サイズとしては、今後に期待って感じだな。

 

「購入したのはホヌンの苗とペペリンドの苗ですね」

 

「全く聞いたことのない植物だ。21世紀にはなかったのかな」

 

「そうですね。近年作られた野菜です。花も綺麗な物が咲きますよ」

 

「楽しみにしておこうか。枯らさないように頑張ろう」

 

「私に全てお任せください」

 

「ヒスイさんが頼りになりすぎる……!」

 

 そして、俺達はまたVR機器であるソウルコネクトチェアのもとへと戻った。

 俺はチェアに座り、言う。

 

「では、続きはVR空間で!」

 

 目を閉じて、魂が電脳世界に繋がる感覚を俺は楽しんだ。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 VRのホーム空間。相変わらず真っ白で何もない。

 ここのカスタマイズは、ライブ配信をするようになってから視聴者と一緒に整えたいと思っているので、今はノータッチだ。

 

「それじゃあゲームを進めていこう。ヒスイさん、今回のゲームは?」

 

 ヒスイさんも俺と同時にホーム空間に現れていたので、撮影続行しているとみなし、そう話しかける。

 

「今回プレイしていただくのは、『St-Knight』という人気ゲームです」

 

 ヒスイさんがそう宣言するとゲームが起動し、タイトルロゴのある空間に切り替わる。

 お、今回はBGMが鳴り響いているな。勇ましい曲だ。さあ戦おうって気分になってくる、そんな曲である。

 

「『St-Knight』は、武器を持って戦う対戦型格闘ゲームです」

 

 その曲を背景に、ヒスイさんがゲームを紹介する。

 

「格ゲーが来たかぁ」

 

「ヨシムネ様、今の世の中でもっとも親しまれているゲームジャンルは何か、ご存じですか?」

 

「なんだっけ、前に聞いたな……そう、MMORPG!」

 

「そうです。特に二級市民の方々に一番広く親しまれているゲームジャンルであるMMORPGは、武器を持って戦うアクション要素が高確率で組み込まれています。そんなMMOのゲームを数多く運営・開発しているとあるゲームメーカーが、『数あるMMOのプレイヤー達の中で一番強い奴は誰だ?』という売り文句で販売したのがこのゲームです」

 

「挑戦的なキャッチコピーだな!」

 

「このゲーム、用意されているシステムアシスト――こういう動きをしたいと思ったら、所定のモーションに従って身体が勝手に動いてくれる機能――のアシスト動作の種類が、非常に豊富です。自社のMMOで採用されている物のみならず、他社の人気MMOのアシスト動作に似た動きも再現して取り入れているというのですから、MMOのPvP強者達は当然このゲームに飛びついたわけです」

 

「はー、開発の思惑通りにいったってわけだな」

 

「はい。今の時代、MMOというものは生活シミュレーションとしてプレイされる傾向が強く、PvE――プレイヤーと敵モンスターとの戦い――ならまだしも、PvP――プレイヤー同士での戦い――をたしなむ人は少数派でした。そんな少数派がいろいろなMMOから集まって一大集団となったのが、この『St-Knight』のオンライン対戦モードです」

 

 なるほど、ゲームの垣根を越えて人が集まったのか……。少数派でも数を集めれば多数派だ。対戦好きが一堂に集まっているわけだな。

 

「対戦型格闘か。21世紀じゃ格ゲーといえば、画面の中の人物をコントローラーで操作して戦わせるゲームのことだったが……」

 

「そういうものは、今は人形格闘と呼ばれていますね。愛好者も多いです」

 

「自分の身体を直接動かして戦うアクションの類は、やっぱり恐怖心があるからなぁ」

 

 この時代に来てから動画配信を始めるまでの三ヶ月間、俺は自分の身体を直接動かすアクションVRゲームをいくつもプレイしたが、初めはやはり一人称視点に恐怖心があった。

 

「そうですね。流行りのファンタジー系MMORPGでも、自分で直接戦わないサモナーやテイマー、人形使いなどが人気だそうですよ」

 

「ネクロマンサーは人気じゃないのね」

 

「死体を操るのは、どうしてもビジュアル的に人気が出にくいですからね……」

 

 今の未来の描画技術じゃ、死体もリアルだろうしな。『-TOUMA-』でも、がしゃどくろとか本格的だったし。

 

「で、早速オンライン対戦をするのかい?」

 

「いえ、まずはオフラインのアーケードモードをクリアしていただきます」

 

「背後はタイトル画面だけど、ストーリーモードって文字も見えるね」

 

「ストーリーは今回、ヨシムネ様のゲーム修練に必要ないので省略させていただきます」

 

「またその展開か!」

 

「オフラインでは時間加速機能が使えるので、活用しましょうか。ざっと十倍に設定して、難易度ナイトメアをクリアするのを今回の目標にしましょう」

 

「またその展開か!」

 

 ひええ、今度はいったいどれだけクリアに時間がかかるんだ。

 

「『-TOUMA-』の二十年モードをクリアできたヨシムネ様なら、きっとシステムアシストも使いこなしてくださると期待しております」

 

 ヒスイさんの期待が重い。

 


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