21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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101.21世紀TS少女による未来世紀芋煮会実況配信!<5>

 突発的に始まったカラオケ大会。今はタナカさんが俺の知らない歌を歌っている最中だ。

 上手くもなければ下手でもないが、なかなか熱の入った歌いようだ。

 

「『Galaxy Opera with Dandy』のエンディング曲だそうです」

 

 そうヒスイさんが小声で説明してくれる。

 確か、インケットでミドリさんがコスプレをしていたRPGだ。

 

「タナカさん、ゲームとかやる人なんだ」

 

「むしろゲームをしない人を探す方が、大変なくらいです」

 

 おおう、未来の人類、ゲーム好きすぎる。一級市民でもそうなのか。

 

『ギャラダンはキャシーがいいよね』『は? ギャラダン? GODだろ』『英語を知っているとGODはすげー略称』『私はエンディング曲よりオープニング曲の方が好きかな』『通常戦闘曲だろ。ボーカル入りの戦闘曲っていいよね』

 

「くっ、こいつら、俺の知らないゲームで盛り上がってやがる……」

 

 コメント抽出機能は総意に近いコメントを抽出するというが、こんなところで一体感を出さなくてもよくない?

 そう悔しがっていると、タナカさんの歌が終わる。次は超電脳空手道場の師範代が歌うようだ。

 

「さて、歌を聞いてばっかりなのもあれだし、料理を食いに戻ろう。ミズキさんの初めてのお料理を確認しに行くぞ」

 

「失敗していても責めたりからかったりしないようにしてくださいね」

 

「俺はしないけど、視聴者がなぁ」

 

 ヒスイさんの注意に俺がそう返すと、視聴者達は『自分達でもできないことを責めたりしない』と言ってくれた。

 まあ、そりゃそうだな。プロ気取りのエアプ勢とか出現しても、コメント抽出機能さんが弾いてくれるだろう。信じてるよ?

 

「ミズキさーん、チーズフォンデュできた?」

 

「ヨシムネですか。なんとかできましたが……」

 

 チーズフォンデュの周囲には、ハマコちゃんとミドリさんがいて料理を楽しんでいる最中だった。

 

「火は大丈夫でしたか? 初めてですと、料理は怖かったのでは」

 

 ヒスイさんがそうミズキさんに尋ねると、彼女は苦笑して答える。

 

「火が出ず熱くなりすぎない、適温に温めてくれるコンロを使いましたので、火傷の恐ろしさはあれど、炎上の恐怖はさほどありませんでした。しかし、下ごしらえが……」

 

 ふむ。具材を見ると、ちゃんと一口大にカットされて、下茹でがしっかりされているようだが。

 

「包丁が怖くて使えません。屈辱です」

 

「包丁駄目だったかー」

 

 俺がそう言うと、チーズフォンデュを食べる手を止めたハマコちゃんが横から口を挟んだ。

 

「そこで、私が包丁ではなく調理バサミを使ってはどうかと言ったんです。ハサミなら、安全なエナジーハサミを普段使いして慣れていると思いまして」

 

「しかし、ハサミもハサミで、指を切り落としてしまうのではと思ってしまい、無理でした……」

 

 悔しそうにミズキさんが言う。それに対し、俺はフォローの言葉を入れた。

 

「まあ、仕方ないさ。ここは葉野菜を手で千切ったり、子供用包丁で野菜を切ったりするところから始めるべきだったかもしれない」

 

『ミズキさんでも無理なのか』『この恐怖克服して料理している人はなんなの? 超人なの?』『慣れれば楽しい。指程度なら病院行けば再生するし』『子供用包丁って何それ聞いたことない』

 

 カラオケから離れて、視聴者コメントは音声読み上げに戻っていた。

 

「子供用包丁は、刃のついていないプラスチックとかセラミックの包丁だな。相当力を入れない限り指は落ちないぞ。主に野菜を切ることに使う」

 

「そのようなものがあるのですか……! ヨシムネ、持ってきなさい」

 

「えー、用意してあるかなぁ」

 

「持ち込み荷物のリストには記載されていませんので、ここにはないでしょうね」

 

 ミズキさんの要求に困ったところ、ヒスイさんが横からそう説明してくれた。さすがに用意していないらしい。

 

「でも、ミズキさんが包丁もハサミも無理だったとなると、食材を切るのは空手道場の人が?」

 

 俺がそう尋ねたところ、答えが返ってきたのはハマコちゃんだった。

 

「私が切りました! 芋煮は手伝いが十分そうだったので、こちらのお手伝いをと」

 

 芋煮作りの途中で姿を見せなくなったと思ったら、こちらを手伝っていたらしい。

 となると、そこでチーズフォンデュをぱくついているミドリさんも手伝ったのか?

 

「ミドリさんも手伝い? バーベキューは?」

 

「バーベキューは飽きたから作業ロボットに引き継いでもらったよ。それと、手伝ってもいないよ。ここにいるのは、ヨシムネの『Stella』配信の味覚共有で美味しかった料理だから、生で食べてみたかったってだけ」

 

「飽きたのかよ! アメリカ在住の芸能人による本格バーベキューの光景が楽しめると思ったのに……」

 

「アメリカ人はもうバーベキューは作ってないよ? 料理店はあるけどね。単に21世紀のアメリカ合衆国はバーベキューが盛んだって聞いて、やってみたかっただけー」

 

 くっ、こんなところでも人類が料理をしなくなった弊害が! 芋煮と共に消える運命なのか……!

 

 まあいい。俺達もチーズフォンデュをいただこう。

 

「それじゃあ、フォークを一つお借りしてと……」

 

「頑張って下茹でしたので、味わって食べなさい」

 

 言葉に何気なく命令口調が混じるミズキさん。今日も当たりが強いなぁ。まあそんなところが面白い人なんだけど。

 

「……チーズで煮る料理とばかり思っていたので、レシピを見て驚きました」

 

 と、ミズキさんがそんなことを言い出す。

 野菜と肉のチーズ煮。それはそれで美味しい料理ができそうだ。

 

「いただきます、と」

 

 ん、普通に美味い。タレだのソースだのといった料理が多いから、このチーズの暴力は新鮮でいいな。

 

「美味しいよ」

 

「ありがとうございます」

 

 俺の言葉に、はにかむミズキさん。うーん、レアな表情いただきました。

 

『ミズキさんかわええ!』『いいショットもらいました』『初めての料理で喜ぶ美女』『何百年前が舞台のギャルゲーだって感じ』

 

 コメントのギャルゲー発言に、ミズキさんは顔を赤くした。

 いや、このでかすぎる巨乳はギャルゲーじゃなくてエロゲでしょ。そう思ったが口に出すのは止めておいた。圧倒的セクハラ……!

 

「ヨシムネ様」

 

「うひい!」

 

 と、邪な考えを巡らせているところで突然背後から声がかけられて、俺はその場で飛び退いた。

 振り向くと、そこにいたのはグリーンウッド家の家令トーマスさんだった。

 

「おや、これは失礼。……チーズ料理をお召し上がりなら、ブリタニアワインはいかがですかな?」

 

「あー、もらおうか」

 

 俺がそう言うと、トーマスさんは他のメンバーにもワインを飲むかどうかの確認を取り、ワイングラスをこの場にいる作業ロボットに用意させた。そして、手ずからワインを優雅にグラスに注いでいく。

 ワインの色は白。チーズフォンデュの材料には白ワインが使われているから、合わせてきたのだろう。

 

 俺はグラスを受け取り、一口飲み込む。スッキリとした口当たりだ。

 

「うん、美味しい……美味しいというか、めっちゃ美味しいな! なにこれこんな美味いワイン初めて飲んだ。もしかして、お高い物じゃない?」

 

 俺は、あまりの驚きにそんな語彙の貧弱なコメントをしてしまう。

 その言葉に、トーマスさんは微笑を浮かべて答えた。

 

「アミューズメント施設の一般客に提供される、お求めになりやすい価格のワインです。おそらく、21世紀から見て600年もの長きにわたるワイナリー達のたゆまぬ努力と研鑽が、そう感じさせたのかと」

 

「はー、なるほど」

 

 日本酒に関しては、21世紀でも普段からお高い品を飲んでいたから、チャンプの酒で驚きはしなかった。だが、ワインは安ワインばっかり飲んでいたからな。思わぬ初体験にびびったぜ。

 

『ヨシちゃん今日、結構飲んでいるな』『そのうち酔ってぐだぐだになりそう』『主賓爆睡!』『アンドロイドってその辺どうなんだろう』

 

「あー、今までは仕事中ってことで、配信中に酒を飲んだことはなかったが、実は俺、結構酒好きなんだよね。たまにヒスイさんと二人で晩酌したりもしているし」

 

「私は、お酒は好きでもなく嫌いでもなく、といったところですね。ちなみにアンドロイドは酔えますが、意識が混濁するほど泥酔することはありません。機体設定で全く酔わなくすることもできます」

 

 視聴者に対して言った俺の言葉に、ヒスイさんがそう言葉を引き継いで説明した。

 

「他にもワインがご所望なら、生ハムのコーナーで赤やスパークリングなども提供できますよ」

 

「おっ、行ってみるか。じゃあミズキさん、美味しかったよ。また後で来るかも」

 

「なくなる前に来るように」

 

 そう言って俺達はチーズフォンデュのコーナーから離れ、生ハムの原木が置かれているテーブルへと移動した。

 ……いやあ、存在感すごいな、原木。

 

「ワインはどれをお持ちしましょうか」

 

 トーマスさんがそう尋ねてきたので、とりあえず赤ワインを頼んだ。

 

「あ、生ハムは食べてもいいんだよな?」

 

「もちろんでございます」

 

「おっけ。……というわけで、サナエ、そのナイフ貸してくれ」

 

 実は俺が来る前に生ハムの前で待機していたサナエ。その手には、原木から生ハムを削ぎ取るためのナイフが握られていた。となりに作業ロボットがいるから、そいつから奪ったのだろう。

 

「そんな! お姉様のために削ぎ削ぎしたくて、ここで待ち構えていましたのに!」

 

 ショックを受けたように表情を歪めるサナエ。だが、しかしな。

 

「俺だって削ぎ削ぎしたい……! 滅多に見ることのない生ハムの原木だぞ!」

 

「いえいえ、ここは私が削ぎ削ぎを」

 

「いいや、俺だね!」

 

 くっ、こいつ、俺のためと言いつつ、ただ単に自分が削ぎたいだけだな!

 

『なんやこの姉妹』『ミドリシリーズの中でもこいつは特にキャラ濃いな……』『ヨシちゃんの扱いが割とぞんざいなのが新鮮』『サナエちゃんきゃわわ』

 

 視聴者も、たまには俺の味方してくれよな!

 

「三人分ですし、二人で適量切り分ければいいのでは?」

 

 ヒスイさんが呆れた声でそう言った。

 言われてみれば、そうだな。

 

「じゃあサナエからどうぞ」

 

「はい、お任せをー」

 

 削ぎ削ぎ。うーん、少し分厚いけど、綺麗にスライスされているな。

 次は俺だ。ナイフを受け取り、削ぎ……削ぎ……。

 

「なんだこれ、めっちゃむずくね!?」

 

 市販の生ハムスライスみたいな、透きとおる薄さに全然ならないぞ!

 

「それが原木の面白さですよ、ヨシムネ様」

 

 いつの間にか人数分の赤ワインを用意したトーマスさんがそんなことを言った。

 いやまあ、面白いけどな、削ぎ削ぎ。

 

 そうして俺は、生ハムと一緒に赤ワインを一杯いただいた。

 

「赤も美味いなー。イギリスってワインのイメージなかったけど、今のブリタニアはすごいんだな」

 

「恐縮です」

 

 俺のコメントに、トーマスさんがうやうやしく礼をした。

 うーん、できる執事って感じ。実際には家令だが。そして、トーマスさんの手にはワイングラスが握られている。こういう場でも職務に邁進(まいしん)とかじゃなくて、ちゃんと宴会を楽しんでくれているようだ。いや、宴会じゃなくて芋煮会だけどな!

 

「それでは私、芋煮のおかわりをいただいてまいります。ワインのおかわりがご所望ならば、そちらのロボットにお申しつけください」

 

 そう言ってグラスを空にしたトーマスさんが、芋煮の器を片手に芋煮の寸胴に向かっていった。

 西洋貴族の家令が芋煮とは、なんというミスマッチ感。

 

 そんなまたもや口に出したら怒られそうなことを考えていると、視聴者コメントで俺を呼ぶ声がした。

 

『ヨシ、銀河アスレチック始まるぞー!』『ん?』『銀河アスレチック?』『なんぞ?』『スポーツイベントが配信に何か関係が?』

 

 視聴者達の頭は疑問でいっぱいのようだが、抽出機能さんがコメント拾ってくれて助かった。

 オリーブさんのスポーツの試合が始まるようだ。

 

 俺は空間投影画面を開き、カメラ役のキューブくんから見えるような位置に表示させた。

 

「今日はオリーブさんの試合だから、配信でも流していくぞー」

 

『ヨシちゃんやることが自由すぎる』『食事会の最中にスポーツ中継』『俺は何を見せられているんだ……』『そもそもここゲーム配信チャンネルなんですよねぇ』

 

 細かいことは言いっこなしだ!

 俺はワインを喉の奥に流しこみながら、ちゃっかりカラオケに参加しているトーマスさんの歌声を背景に、ルールも知らぬスポーツを観戦するのであった。

 

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