21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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102.21世紀TS少女による未来世紀芋煮会実況配信!<6>

 銀河アスレチック! それは、障害物が設置された巨大なコースを複数人の選手達が一斉に走り、ゴールに到着する順位を競うアンドロイドスポーツである。

 障害物には様々なギミックが存在しており、重力ですら一定でない難解なコースとなっている。

 

 選手達は相手を直接殴る蹴る等することは禁じられているが、ギミックを使っての妨害は許されている。その激しい妨害の応酬による苛烈さが、この競技を好む熱狂的ファンを多数生んでいた。

 

 空間投影画面に映る番組アナウンサーによるそんな解説を聞いたところで、選手入場だ。

 様々な星やスペースコロニーの代表アンドロイド達が、次々と紹介されていく。そして、オリーブさんの番が来た。

 

『惑星テラ代表、ニホンタナカインダストリ所属、オリーブ! その愛くるしい見た目とは裏腹に、激しい妨害プレイを得意としています! 昨年は惜しくも三位という結果に終わりましたが、はたして今年はどうなるか!?』

 

 おー、年に一度の全宇宙大会っぽいのに、三位に入賞していたんだ。すごいじゃないか。

 そして、以前ヒスイさんがニホンタナカインダストリは太陽系屈指の企業と言っていたが、宇宙一とは言わなかった。そのあたりの事情は、こういうところで優勝できていないところから感じ取れるな。

 

『いよいよ第一レースが開始されます』

 

 俺は、観戦を楽しむために、ミドリさんを探してビールを用意してもらおうとする。

 

「ミドリさーん、ビールどこだい」

 

「はいはーい。そうだよね。スポーツ観戦と言えばビール。そしてアメリカ国区はビールの一大生産地! これはヨシムネのいた21世紀の頃にあったセントルイスのビールが、年月を経て形を変えて残り続けた品だよ!」

 

 いやあ、俺、21世紀では日本国産のビールばかり飲んでいてな……。白地に赤線入りのアメリカビールはあまり飲んだことないんだ。

 そんなことを内心で思いながら、バーベキューコーナーまで行って、ミドリさんにビールサーバーでビールをジョッキに注いでもらう。

 まあ、ビールはビールだ。21世紀の日本ではおなじみのピルスナーみたいだしな。

 

 ジョッキを受け取り、周囲を見回すと、何やらカラオケ大会が終了していた。代わりに、巨大空間投影スクリーンに銀河アスレチックの番組が映し出されている。

 

 俺は作業ロボットに頼んでバーベキューを皿に載せてもらい、ヒスイさんとミドリさんをともなって、スクリーン設置の下手人であろうマザーのもとへと歩いていった。

 

「カラオケはもういいのか?」

 

 そうマザーに尋ねてみると、やけに上機嫌なマザーが答える。ああ、上機嫌じゃなくて酔っているのか。

 

「ニホンタナカインダストリの人達が、自分達のところから出場している選手のスポーツを見たいと言いましてね」

 

「ああ、俺と同じミドリシリーズのオリーブさんだな」

 

「私は全人類と全AIに対して平等な立場なので、応援もひいきもできませんが、この場の雰囲気としてはぜひ頑張ってもらって盛り上げてほしいですねー」

 

 そう言ってマザーは笑い、日本酒をぐいぐい飲んでいく。本当に酔っているなぁ、全人類と全AIのお母さん。

 マザーが存在するマシン本体から離れた端末であろうこの個体が酔うってことは、単なる遠隔操作じゃないのか。

 ある程度独立した個だったりするのかね。

 

 そんなことを思いつつも、俺はモニターに注目する。オリーブさんの出場する第三レースが始まったのだ。

 

『さあ、始まりました第三レース。おおっと、昨年三位のオリーブ選手が先行! そしてコースから外れて妨害ギミックに突撃したぁ!』

 

『死ねぇ!』

 

『でたー! オリーブ選手の『死ねぇ!』が開始早々出たー! 観客総立ちだー!』

 

 うっわ、オリーブさんの人気すごいな。第一レースに出ていた昨年の優勝者より会場盛り上がっているぞ。

 

「あっはっは、オリーブやるぅ」

 

 次々と他の選手を撃退していくオリーブさんの様子に、ミドリさんが腹を抱えて笑っている。

 

「こりゃ宴会に流す映像としては満点だな。いや、芋煮会だけども」

 

 俺がそう言うと、視聴者達から『どう見ても宴会』とコメントが返ってくる。まあそりゃそうだよね!

 

 と、ふと俺は笑いと歓声に包まれる面々の中から、腕を組み真剣な顔をしてモニターを眺めるタナカさんを見つけた。

 俺はそんなタナカさんに近づいていって、話しかける。

 

「タナカさん、真面目そうな顔してどうした? 何か心配事が?」

 

 俺がそう言うと、タナカさんは、はっとした顔をしてこちらを振り向いた。

 

「あ、いや、今年は優勝できるかなってね。オリーブくんのAIは、子供の頃の僕が銀河アスレチックを想定して設計したんだ。だから、そのメソッドが正しかったかどうか気になっているんだよ」

 

「へー、さすが開発室長。AIとか作れるんだ」

 

 俺はタナカさんの説明を聞きながら、そこらのテーブルに置かれていた焼き鳥を手に取りほおばった。うん、焼き鳥はビールも合うよな。最高。

 

「さすがに一から全部はプログラミングできないよ。方向性とか性格とか行動原理とかを設計するんだ」

 

「タナカさんの性格から、あのオリーブさんが生まれたのは不思議でならないなー」

 

「そこはプロだからね。必要とされる仕事に相応しい子を用意できるさ」

 

 なるほどなー。うん、バーベキュー美味え。ソースが絶品だな。

 

『話聞きながら飲み食いしていやがる……』『ヨシちゃんはさぁ』『今、真面目なシーンですよね?』『いつからこんな食いしん坊に……』

 

「ははっ、かまわないよ。今は食事の時間だからね。それにそこまで真面目な話じゃないさ」

 

 タナカさんは器が広いなぁ。

 そんな会話をしている間に、オリーブさんは他の選手を軒並み吹き飛ばし、余裕綽々(しゃくしゃく)で一人ゴールした。

 モニターを見ていた皆が一斉に盛り上がる。うん、やっぱりスポーツは場を盛り上げてくれるな。

 宴もたけなわ。俺達の宴会という名の芋煮会は続いた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「芋煮、品切れでーす!」

 

 そんなハマコちゃんの声が河川敷に響く。正午近くから食べ始めた芋煮が、二時間半ほど経ってとうとうなくなった。

 他の料理もあるから余るかな、と思っていたが見事食べ尽くされたようだ。他の料理も残りは少ないようだ。

 いやあ、みんな食べたし飲んだな。バイオ動力炉搭載のアンドロイドが何人もいるから、際限なく食べられちゃうし。

 

「そろそろお開きですかね」

 

 俺の隣でヒスイさんがそう言った。今日のヒスイさんはずいぶん大人しかったな。俺が他の人と話すのを邪魔しないようにした感じがあった。ヒスイさんも会話に加わっていてもかまわなかったのだけれどね。

 俺は、デザートとしてヨコハマ・アーコロジー銘菓『浜の梨心』をお茶と一緒に楽しみながら、ヒスイさんに言葉を返す。

 

「そうだな、銀河アスレチックも終わったし」

 

 銀河アスレチックは、オリーブさんの優勝で終わった。決勝レースでオリーブさんの妨害が見事他の優勝候補達に決まり、独走状態でゴールに飛び込んだのだ。

『ヨシ、約束通り優勝だ!』とオリーブさんの視聴者コメントがキューブくんから流れ、視聴者達も芋煮会参加者達もオリーブさんをたたえていた。

 あとで誕生日プレゼントとして優勝カップを俺の部屋に送ってきてくれるらしい。食事以外のプレゼントは受け取らないとしていたが、これだけは受け取っておくとしよう。

 

「もう飲み会は終わりか? 正直、飲み足りないのじゃが……」

 

 閣下がビールジョッキ片手にそんなことを言い出す。飲み会じゃなくて芋煮会なのだけれども。

 俺はそんな閣下に対して言う。

 

「これ以上飲みたいなら、ホテルか自分の家に帰ってから好きなだけ飲んでくれ」

 

「そうか。ふむ、では今日は泊まっていくことにしようかの。ヨシムネ……」

 

「部屋は貸さないぞ。みんな受け入れていたらぎゅうぎゅう詰めだ。素直に宿を取れ」

 

「仕方ないのう。トーマス、ホテルの予約を取ってくれたも」

 

「かしこまりました」

 

 トーマスさん、結構飲んでいたのに平然としているなぁ。話を聞くに、アンドロイドボディとかじゃない生身の人間だって言うのだけれど。

 あっちでは、ミズキさんがへろへろになって、超電脳空手道場の人達に介抱されているぞ。アンドロイドのハマコちゃんと同じペースで飲むから……。

 

「どうやら私達も今日は、ヨコハマに泊まりとなりそうですね」

 

 チャンプがミズキさんを見ながらそう言った。

 呆れた様子は見てとれない。年下のやんちゃな子を見守るような視線だ。

 

「宿泊費もニホンタナカインダストリが持つから、ちょっとお高いところに泊まってもかまわないよ」

 

「すみません、お世話になります」

 

 タナカさんがチャンプにそう告げると、チャンプは深々とお辞儀をした。

 この二人も生身の人間だが、深く酔った様子は見てとれないな。深酒はしなかったのだろう。二人とも大人だな。

 

「それじゃあ、撤収の準備をさせますね」

 

 マザーがそう言うと、作業ロボット達が一斉に動き出した。

 

「残った料理と食材は、私がいい感じにしておきます。皆さんは先にバスに入っていてください。ずっと立っていて疲れたでしょう? あ、各自で持ち帰りたい物があったら言ってくださいね」

 

 さすがマザー、頼りになるな。足元がふらついていなければだけど。

 

 作業ロボットが片付けをしているのを横目に見ながら、俺達はバスへと移動した。

 俺は相変わらず一番前の席。隣にヒスイさん。

 後ろの席では、タナカさんとスノーフィールド博士が何やらAIについて難しそうな話をしている。うーん、酔いどれだらけの中で、あの空間だけ異様にIQが高い。

 

 椅子に座った人間の中には、酔いから眠り始める者もいた。

 ヨコハマ・アーコロジーに着いたら自分の足でホテルか自宅まで行く必要があるが、大丈夫だろうか。一応、バスは建物の前まで移動してくれると思うが……。

 まあ、一人で来ている人はいないから、大丈夫か。

 

 そうして十分ほどバスの中でのんびりとしていると、最後にマザーが入ってきた。

 

「はい、それじゃあ出発ですよー」

 

 そう言って、マザーは一番前の俺の隣の席に座った。マザー、俺、ヒスイさんの三人がけだ。

 

「すまないね、マザー。最後の後始末なんてさせて」

 

「なんのなんの、作業は全部ロボットがやってくれましたから、大丈夫です」

 

『マザーはみんなのお母さん』『ママー!』『一見ふざけて見えるけど頼りになるんだ』『普段はクソレトロゲー配信ばっかりやっているけど』

 

 あっ、そういえばライブ配信まだ終わってなかった。すっかり忘れてた。

 

「ヒスイさん、いつ配信終わろう」

 

「さすがに部屋の場所が判ってしまうのは問題がありますので、バスの中で終了させましょう」

 

 そんな感じでヒスイさんと話していると、コメントで『ぐだぐだやな』と突っ込まれた。さーせん。

 よし、それじゃあ配信も芋煮会もあらためて締めよう。

 俺は、移動中なのに揺れを感じさせないバスの中で立ち上がり、後部座席の方へと振り向いた。

 

「みんな、今日はありがとう。楽しかった。視聴者のみんなも、ゲーム配信じゃないのに付き合ってくれてありがとう。以上で芋煮会は終了だ。参加者の人達はまた何か企画があったら呼ぶかもしれないが、そのときはよろしく。あ、みんなが何かをするときに俺とヒスイさんを呼んでくれるのも、大歓迎だぞ」

 

 俺がそう言うと、バスの中で拍手が沸き起こった。

 

『ゲームじゃなくてもいろんな人がいて楽しかったよ』『私もリアルの仲間で集まって何かするかなー』『次も期待』『うーん、俺も拍手ができればな』

 

「拍手をコメントしたいときは、数字の8をたくさん書き込むと、日本語でハチと読むからパチパチパチパチって拍手していることになるぞ。21世紀の日本のネットスラングだ」

 

 そうすると、コメントに次々と『888888888』と書き込まれたようで、コメント抽出機能さんも機転を利かせてくれたらしく、キューブくんから拍手の音が聞こえてきた。

 

「ありがとう。それじゃあ、今日の配信はここまで! 21世紀おじさん少女のヨシムネでした!」

 

「来年も芋煮会を開きたいものです。助手のヒスイでした」

 

「今日も人類を監視しています。スフィアでしたー」

 

 ちゃっかり隣のマザーが口上に混じり、キューブくんの撮影中を示す赤いランプが消える。

 ふう、無事に締められたな。

 

「それじゃあ、芋煮会も終わり! アーコロジーまでぐだぐだしよう」

 

 そう言って、俺は席に座った。

 こうして芋煮会は問題もなく無事に終わり、最高の思い出となった。

 バスは各所で止まって人を少しずつ下ろしていき、バスの中はだんだん静かになっていく。

 そして、俺とヒスイさんとマザー、スノーフィールド博士を残して他のメンバーは全員降車した。

 

 やがて、マザーと雑談をしているうちに、俺の部屋がある居住区にバスは止まった。

 

「それじゃあ、マザー、さよなら」

 

 俺がそうマザーに挨拶すると、マザーも言葉を返してくる。

 

「はい、1月にまた騒ぎましょうね」

 

「1月?」

 

「宇宙暦300年を記念する催し物があって……それ以外は後のお楽しみですよっ」

 

 うーん、気になる。気になるが、後のお楽しみなら仕方ないな。

 俺とヒスイさんは、マザーとスノーフィールド博士と別れ、バスから降りた。

 

 見覚えのある居住区の並びを見て、ふと皆がいない寂しさが襲ってくるが、先を行くヒスイさんに置いていかれないよう俺は足を動かした。

 

「ヒスイさん、楽しかったね」

 

「はい、来年もまたやりましょうね」

 

「来年の芋煮会だけとは言わず、リアルで何かしたいなー」

 

「企画、考えましょうか」

 

 そうして楽しい気分が戻ってきた俺は、部屋の扉を開け、ホムくん、イノウエさん、レイクに帰宅の挨拶を告げた。

 

「ただいま!」

 

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