21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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104.マーズマシーナリー・シミュレーター(シミュレーター)<2>

 チュートリアルが終わり、ステージ選択画面が現れる。

 ステージは上から難易度順に並んでいるため、一番上にある山ステージのステージ情報を確認した。

 

『山:石材を切り出す 難易度☆』

 

 簡素なステージ情報だ。俺はこれでいいかと山を選択し、ステージを開始させる。

 すると、背景が切り替わり、先ほどまでいた倉庫とは別の小さな建物の中に、俺とヒスイさんは放り出された。

 

 なんだか少し息苦しい。

 隣のヒスイさんを見てみると、どうやら服装が作業服から宇宙服に替わったようだった。

 宇宙服とは言っても21世紀の宇宙飛行士が船外作業で着るようなごついものではない。スタイリッシュなライダースーツ風の服に、フルフェイスのヘルメットをしている。

 密閉されたヘルメットだから呼吸が少ししづらいのか。

 

「ふーむ、建物の外は荒野か」

 

 小さな建物は扉が開いており、外に赤茶けた荒野が見える。

 

「火星だから、生身じゃ呼吸ができないんだな。うーん、いかにも開発前の火星って感じだ!」

 

 俺はヘルメットを右手で触りながら、そう感想を述べた。

 

『テラフォーミング前かぁ』『惑星入植初期はコロニーみたいな閉じた空間を作って、人が生きられる場所を確保していたはず』『鉱物資源を掘るだけなら、わざわざテラフォーミングする必要もないからな』『ただの植民惑星だからねぇ』

 

 なるほどなー。

 プレイヤーの役割は、火星入植第一世代ってわけね。

 

 とりあえず、俺は建物から出ることにした。すると、建物の外には二機のマーズマシーナリーが体育座りのポーズで待機していた。

 あれは、格納庫とかに置けない場合のマーズマシーナリーの待機ポーズだな。二足歩行のロボットを直立した状態で立たせるのは、安定感がない。エンジンを切っているとオートバランサーも働かない。なので、座らせるのが安全な停止方法だ。

 

 とりあえず俺はそんなマーズマシーナリーに乗り込むことにした。

 爪先の操作パネルで胸のコックピットを開き、自動で昇降するロープを使って乗り込む。

 座席に座り核融合エンジンを起動させ、パネルを操作してまずは直立させる。すると、コックピットのモニターに、何やら赤いラインが表示された。AR表示の説明によると、次の作業場への道順だ。

 

「ヒスイさん、行けるかな?」

 

 通信機のスイッチを入れ、俺はヒスイさんに語りかける。

 

『準備万端です。行きましょう』

 

「んじゃ、仕事開始だ」

 

 フットペダルを踏み込み、機体を歩かせる。戦闘用と違い、空を飛ぶスラスターなんてオプションパーツは付いていないから、機体は駆け足だ。

 順路を進む俺の機体。その後ろをヒスイさんの機体がついてくる。

 

 BGMはない。これはゲームじゃなくてシミュレーターだぞ、という主張をバリバリと感じるな。

 

 そして二分ほど機体を走らせたところで、場所は荒野から岩山に変わった。

 岩山のふもとには、トラックが何台も止まっている。トラックは非常に大型で、上から荷物を積み込める荷台が備え付けられている。

 

「このトラックに石材を積み込めばいいのかな?」

 

『そうですね。ただし、道が悪く石切場までトラックは進入できません。そこで、二足歩行で踏破性能が高いマーズマシーナリーの出番です』

 

「二足歩行が優秀って不思議な感じだなぁ。バランスが悪い移動方法の代表格みたいな感覚なんだけど」

 

『そこは、ヨシムネ様がいらっしゃった21世紀とは、オートバランサーの性能が段違いです。今の時代から見ると300年以上昔の骨董品ですが』

 

『骨董品……』『まあ、マーズマシーナリーは旧世代の兵器だよね』『一応軍では、新世代の人類用兵器が存在するらしいけど……』『それ知ってる。超能力で遠隔操作するロボットだ』『搭乗兵器じゃないのか』『人道面を考えると、そりゃあ遠隔操作になるよ』『兵器はあっても戦う敵はいないけどな』『唯一発見されている宇宙人、大人しい生態っぽいじゃん?』

 

 遠隔操作ロボットか。ロマンがないが、ロマンと人道は両立しないってわけだな。

 さて、それじゃあ奥の現場まで向かいますかね。

 

 俺はフットペダルを踏み込んで、赤いラインが示す道を歩かせる。

 ごつごつした山道をしばし移動していく。

 

「道をちゃんと整地して、トラック通れるようにすればいいのに」

 

『整地できますよ。ふもとのトラックの近くに整地用オプションパーツも揃っています』

 

「あ、それも自分でやるのね……」

 

『今後もこのステージを使うわけではないので、整地するだけ時間を無駄に消費することになりますが』

 

「駄目じゃん」

 

 そんな会話をしていると、岩肌から石材が切り取られた痕跡のある石切場が現れた。

 

 すると道を示す赤いラインは消え、代わりに『作業用ブレードを使って石を切り出そう』というAR表示がされた。

 

「ヒスイさん、どう作業していく? 分担した方が早そうだけど」

 

『とりあえず、一通りの手順をヨシムネ様が経験してみて、それから分担をしましょうか』

 

「そうすっか。仕事じゃないから効率とか考えなくてもいいし」

 

 まずは石を切り出そう。ブレードは、マーズマシーナリーの腰に備え付けられている。

 パネルを操作してブレードを選択してから右のレバーを操作すると、機体はゆっくりと腕を動かして腰につけた作業用ブレードを右手で抜き、構えた。

 

『うーん、ブレード一つ抜くにもこの作業』『『MARS』の対戦モードだと構えている間に死んでいる』『マニュアル操作って大変だね』『超能力操作って偉大だったんだなぁ』

 

 そんな視聴者のコメントを聞きながら、俺は石材を切り取るために露出したモニター上の岩肌に指示マーカーをつけていく。

 そして、ブレードを入刀。やがて、トラックの荷台に載せるのに丁度よい、1.5メートル四方の石ブロックが岩肌から切り離された。

 

「これをトラックまで運ぶわけだな」

 

『はい、抱えて運び、荷台に載せます』

 

「ちなみにマーズマシーナリーでこの石ブロック持てるよね?」

 

『重さは7トンを超えますが、火星の重力は地球の三分の一です。マーズマシーナリーでも問題なく持ち上がります』

 

「あー、重力の問題があったか……」

 

『惑星マルスの自然区画では、今もその重力を体験できますよ』

 

「へえ、人の呼吸できる大気の密度にしても、宇宙に空気抜けていかないの?」

 

 その疑問に答えたのは、ヒスイさんではなく視聴者だった。

 

『そこはバリアで星を覆う』『星の重力いじったら大変なことになるから苦肉の策だね』『でも人の住むアーコロジーは標準重力だぞ』『人間は惑星テラの環境でしか生きられない生物だからなぁ』

 

 はえー。とってもサイエンスなコメントだな。おじさんついていけないよ。

 俺はそんな話を聞きながら、石材をマーズマシーナリーに持たせた。

 一辺1.5メートルある大きな石材だが、マーズマシーナリーは高さ8メートルあるロボットだ。小さな箱を持つような感じで石材を持ち上げた。

 

「これをトラックまで運ぶ、と……」

 

 俺が機体を歩かせ始めると、ヒスイさんも石切場から石材を切り出して機体の手に持たせ、俺の機体の後ろをぴったりついてきた。その手際はさすが一度プレイして内容を確かめているだけあって、俺の何倍も早かった。

 

「しかし、五本指のマニピュレーターあるのに、こんな重い物持たせて大丈夫かね」

 

『そこは作業用重機ですから、特に頑丈に作られていますよ』

 

「すげーな。頑丈さと繊細さを両立か」

 

 そんな会話を交わしながら、山のふもとに。俺とヒスイさんはトラックの荷台に石材を慎重に載せた。

 

「重力が地球の三分の一なら、トラックにも石材多く載りそうだな……」

 

『調子に乗って荷物を載せすぎてトラックを壊したら、ステージ最初からやりなおしですよ』

 

「うへえ、それは困る」

 

『都合よく修理できたりしないのか』『そんなすぐに直りませんよ、ファンタジーじゃあるまいし』『俺がやったことあるシミュレーターはファンタジーだったのか……』『ゲームとして成立させるなら、どこまでリアルに寄せるかの問題がありそうだね』

 

 このシミュレーターは別に職業訓練用じゃないからね。だから、ある程度ファンタジーというかゲーム的な要素があってもいいのだが。

 順路が赤いラインで表示されたりするのは、ゲーム的な要素なのか最初からマーズマシーナリーに搭載されている機能なのか判別つかないな。

 

 さて、そんなこんなで俺とヒスイさんは、ひたすら石のブロックを切り出しては山のふもとまで運ぶという作業を繰り返した。

 トラックに乗せるのは後回しということで、協力して石材を用意していく。

 

「うーん、BGMが欲しい」

 

『コックピットにラジオ機能がありますよ。当時のヒットチャートが流れるだけですが』

 

「おっ、いいねぇ」

 

 俺は早速、コックピットの操作パネルの詳細画面をARで表示させ、ラジオを探す。

 通信機の横にあったのでスイッチを入れると、ご機嫌なミュージックが流れ始めた。

 

「ふっふーう! いやあ、単調作業すぎて、音楽でも聴かないとやってられないな!」

 

『ヨシちゃん……』『やっぱりゲーム配信でシミュレーターは無茶だったんだ!』『でもヨシちゃんなら……マゾゲーマイスターのヨシちゃんなら!』『これヨシちゃんが平気でも私達が先にダウンするな』

 

 見事に見所がないので、俺とヒスイさんは雑談を交わして場をなんとか繋いでいく。

 そして、三十分ほど石を切り出したところで、ヒスイさんが告げた。

 

『トラックに載せる分は、これだけ用意すれば大丈夫です』

 

「よし、じゃあ積み込み作業だ!」

 

 俺とヒスイさんは、ふもとにあるトラック十台のそれぞれの荷台に、慎重に石材を載せていった。

 石材を満載したトラック。だが、自動で走り出したりはしない。

 

「これ、まさか俺が操縦するの?」

 

『いえ、さすがにそれはないですよ。コックピットからトラックに通信して行き先を決定できますので、スタート地点まで自動運転させましょう』

 

「了解。えーと、通信機を使えばいいんだな」

 

 AR表示される操作方法に従って、トラックに指示を出す。すると、十台あるトラックが一斉に走り始めた。なかなか壮観である。

 

『では、トラックを追いましょう。積み下ろし作業があります』

 

「ええー、下ろすのもやるのか」

 

『そこまでやればステージクリアですよ。頑張りましょう』

 

 ステージの難易度の低さって、作業としての単調さも表わしているんじゃないか。だとすると、次は難易度高めのステージを選ぼう。

 俺とヒスイさんは機体を走らせて、スタート地点へ戻っていく。

 スタート地点では、建物の前にトラックが綺麗に整列していたので、今度は積み下ろし作業を行なう。

 

 赤いラインで四角い枠が地面に表示されていたので、そこに石材を積んでいく。

 一台、二台と順番に石材を下ろす。これ、ヒスイさんが手伝ってくれていなかったらめげていたな……。

 

 そして、九台目の積み下ろしにかかっていたときのことだ。

 突然、大きな音でファンファーレが鳴り、ステージクリアと視界に大きく表示された。

 

「うおっ、びっくりした!」

 

『不意打ちすぎる』『一応、視界の端には、クリアに必要な残り石材量が表示されていったんだけどね』『トラックにあるやつ全部下ろしたらクリアだと思ってた』『クリアおめでとー!』

 

「おー、思ったよりもあっさりな終わり方だな。まだ作業も全部終わっていないのに」

 

『ノルマを達成したのなら、残りはもう下ろさなくてもよいでしょう』

 

「この辺、リアルの仕事とは違うなぁ……」

 

 俺はそうつぶやいて、視界に表示されているクリアにかかった時間の表示を閉じる。

 すると、今度はステージ選択画面が目の前に表示された。

 

「うーん、次はどうするか」

 

『順番にクリアしていきますか?』

 

「いやあ、それは視聴者もさすがに飽きるだろうさ。このゲームの配信は今日だけにするつもりだから、面白そうなステージをピックアップだな」

 

 俺はそうヒスイさんの問いに答えて、各ステージの説明文を見ていく。

 

「おっ、これなんてどうかな?」

 

『コロニー:建物を建築する 難易度☆☆☆』

 

 建物の建設。それをマーズマシーナリーでやるのか。ちょっと面白そうじゃないか。

 ヒスイさんも『いいのではないでしょうか』と同意してくれたので、俺は次なるステージをコロニーに決定した。

 

 すると、背景が切り替わり、天井が透明な何かで覆われた空間に変わった。

 そして、俺とヒスイさんの服装はフルフェイスヘルメットの宇宙服から、チュートリアル時の作業服へと変わっている。頭にはハーフヘルメットだ。

 

「おお、息ができる」

 

「ここは火星の地表に作られた、ドーム型のコロニー内部ですね」

 

 なるほど、確かにそれっぽい感じだ。しかし、コロニーか。おそらく、アーコロジーと呼べるほど環境が完璧ではないのだろう。

 俺はそんなコロニー内部で存在を主張する青いマーズマシーナリー二機を見上げながら、次なる作業へ向けて気合いを入れるのであった。

 

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