21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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112.超神演義(対戦型格闘)<6>

 システムアシストを解禁して紂王をすんなりと下した俺は、疲れもないので次に進むことにした。

 

太上老君(タイジョウロウクン)降臨!』

 

『アーケードモードの最後となる七戦目は元始天尊か太上老君、通天教主(ツウテンキョウシュ)の三名の中から選ばれるのですが、どうやら太上老君を引いたようですね』

 

 次の敵が決定するや否や、ヒスイさんがそんなコメントを入れてきた。

 

「えーと、それぞれどういうキャラ?」

 

『元始天尊が味方仙人の親玉、通天教主が敵仙人の親玉、太上老君が最強のお助けキャラですね』

 

「俗っぽい説明ありがとう!」

 

 決定したステージ名は八景宮。ステージに移行すると、そこは自然にあふれた美しい場所だった。そこらに動物がおり、のんびりとまどろんでいる。そして、そんな自然に浮かぶように宮殿が建っている。まさしくこういう場所を仙境と言うのだろう。

 そんな仙境で、審判のジジイが浮きながら言葉を発する。

 

『ここに、神を超えんとする者あり。老子はその挑戦を受けるか?』

 

 それに答えるのは、美しい容姿の青年だ。

 

『お受けしましょう』

 

 青年は輝く服をまとっており、長い銀髪を首の後ろでくくり、手には巻物をたずさえている。これがラスボス、太上老君か。

 老君という名のわりに若いのは、ゲーム的なキャラデザの都合だろうか。まあ、いかにも仙人って感じの老人は元始天尊が担当しているからな。

 

『太上老君は元始天尊と通天教主の兄弟子であり、かの老子と同一人物であるとされています』

 

 ヒスイさんの解説が入る。ふーむ、老子か。学生時代に習ったな。そのものずばり、『老子』って書物を書いた人だったか。でも、ちょっと待てよ。

 

「老子って『殷』の時代に生まれていたかな……?」

 

『歴史的な矛盾は無視するのが、『封神演義』と『超神演義』を楽しむコツです』

 

「あっ、そう……」

 

『ちなみに老子は春秋時代、すなわち『殷』の次の王朝『周』の時代後期に『老子道徳経(ろうしどうとくきょう)』を書いた人物で、道教が開かれるきっかけを作った偉人とされています。ですが、過去視をもちいた歴史学実験では、未だ実在を確認できていません。つまり神話や伝説上の存在なので、『殷』の時代から生きていても問題はないということです』

 

「問題……ないのかなぁ、本当に」

 

『太上老君が使用する宝貝は太極図(たいきょくず)と呼ばれる巻物で、森羅万象すべてを自在に操ります。ざっくり言うと空間操作宝貝で、十絶陣以上にステージそのものが武器となり襲いかかってきますので、注意してください』

 

「なんか、インフレしたバトル漫画の概念バトルみたいになってきたな……」

 

 そんな会話をヒスイさんとした後、相手に動きが見えた。

 

『さあ、君の力を見せてくれ』

 

 太上老君がそう言って巻物を開くと、巻物は空気に溶けてなくなり、それと同時に地面がゆれ始めた。

 俺が目線を下に向けると、金色に輝く巨大な橋が地面からせり上がってくるのが見えた。

 この橋の上で戦う、そういうことなのだろう。

 

『よろしいかね?』

 

 審判のジジイ、元始天尊が橋の欄干(らんかん)にあぐらで座りながら言った。

 俺は、曲刀を構え戦いに備える。

 

『いざ、超神せよ!』

 

 銅鑼の音が響くと同時に、俺の身体は宙を舞っていた。

 攻撃を受けたわけではない。攻撃を受けそうになったのでアシスト動作で自ら大跳躍したのだ。

 

 重力に身を任せながら下を見ると、さきほどまで俺が立っていた金の橋板から一本の針葉樹が生えていた。

 なるほど、森羅万象を操る能力か。自然の操作もお手の物ってことだな。

 

 と、未来視のビジョンに異変あり。サイコキネシスのような見えない攻撃が来るようなので、俺は空中にサイコバリアを張ってそれを足場に宙を蹴った。次の瞬間、先ほどまで俺が居た空間そのものが、轟音を立ててひしゃげた。おお、怖い怖い。

 

 俺はそのままサイコバリアを足場に宙を何度も蹴り、敵に近づいていく。

 飛び跳ねるようにして太上老君の頭上を通過し、即座にUターンして相手の背後を取る。

 

 そして、勢いのまま無防備な背後に斬りつけた。

 

『ふふ、そこにはいないよ』

 

 だが、曲刀は当たることなく、太上老君の姿は空気に溶けるように消え去った。

 代わりに、十メートルほど離れた場所に出現する。

 

「幻術か!?」

 

『いえ、空間転移です』

 

 当てずっぽうに言った俺の言葉を訂正するヒスイさん。

 空間転移、空間転移か……。

 

「俺も確か、空間系の超能力適性高かったよな?」

 

『はい、ごく短距離ならばテレポーテーションを即座に発動できるはずです』

 

「相手が空間を支配しているなら、それに対抗してやる!」

 

 そうして俺はぶっつけ本番で、テレポーテーションを習得しようと奮闘した。

 まずはどこに何があるか、どこに何が出現しようとしているか、未来視を併用して確認する。

 すると、何かが来る気配を察知した。足元から怪しい花が咲こうとしている。これを跳躍して避け、さらに避けた先が沼になろうとしているのでサイコバリアを足元に張って防ぐ。

 

 見えない力で握りつぶされそうな気配がしたので、上に跳躍。それを追うように見えない手が迫ってきたので、曲刀で手を斬り捨て、着地する。

 すると今度は雷でできた鹿が生み出され、角をこちらに向けて突撃してきたので、サイコバリアでこれを受ける。

 

 どこに攻撃が行なわれようとしているのか、段々と理解できてきた。

 これが、空間を把握するということなのか。

『MARS』でマーズマシーナリーに乗っている間は、無意識のうちに行なえていたことだ。なるほど、あのロボットは超能力操作の補助輪のような役割をはたしていたのだな。

 

 今や俺は、未来視を使うことなく、おおよその攻撃を避けられるようになっていた。

 相手が空間を支配しているなら、こちらは空間を全て見切っているのだ。

 

 太上老君が面白そうだと言いたげな目でこちらを見る。攻撃の前兆を察知。

 それに合わせて、俺はテレポーテーションを発動した。

 

『ッ!?』

 

 転移と同時に斬りつける。見事に命中。

 返す刀で二撃目を当てようとするが、これは硬質化した空気に阻まれる。なるほど、他のキャラクターには搭載されていなかった、武器で受ける以外の『ガード』ができるのか。

 だが、この距離は俺の間合い。逃がしはしない。

 

 俺は続けざまに曲刀を繰り出し、太上老君の体力ゲージを削っていく。

 これに耐えかねたのか、太上老君は鉄の壁を強引に俺との間に割り込ませると、空間転移をして俺から距離を取った。

 だが、俺の超感覚は相手がどこに転移しようとしているのか察知できている。

 俺もアシスト動作で剣を振り下ろしつつ、太上老君の隣にテレポーテーションで飛んだ。

 

 そして、転移と同時に俺の剣が太上老君の肩を打ちすえた。

 

 血の代わりの白いポリゴンの破片が宙に舞う。

 アシスト動作に任せた強力な一撃だったため、ごっそりと太上老君の体力ゲージを削れた。これで、相手の残るゲージは三割ほど。

 そこで、俺は空間が歪む前兆を察知し、急いでその場を離れた。

 

 轟音と共に金の橋が崩壊し、美しかった庭園がめちゃくちゃになる。

 草は伸び、木々は葉を落としながら急成長し、動物達は凶悪な姿に変わる。

 空は裂け、雷雨が起こり、霧がかかる。

 

「発狂モードか!」

 

 金光聖母の時がそうだったが、追い詰めると相手の攻撃が激しくなることがある。ゲーム用語で〝発狂〟と呼ばれる現象だ。

 格闘ゲームではあまり見ない発狂だが、どうやらこのゲームでは実装されているらしい。

 こちらは体力ゲージが減っても特別なことは何もできないので、この発狂はコンピュータ戦限定の仕様なのかもしれない。

 

 と、攻撃の前兆を察知する。未来視では、火柱がいくつも発生するようだ。

 俺は、テレポーテーションでそれを避け、太上老君の姿を探す。

 すると、太上老君は崩壊した金の橋の上に浮いており、その身体は神々しく発光していた。光りながら、眠るように目をつぶっている。

 

 近づこうと俺は駆け出すが、火柱がそれをはばむ。

 ならばと、テレポーテーションをしようとするが、相手のそばに飛べない。どうやら、超能力的な力で太上老君の周囲の空間に干渉ができなくされているようだ。

 なるほど、空間を支配する宝貝はこういうこともできるのか。

 

 俺自身はまだ一度も攻撃を受けていないので、このままタイムアップを待ってもよいのだが……それじゃあ面白くない。

 俺は、立ち上る火柱を避け、どうにか相手に近づいていく。

 

 そして、まるであの世の光景かと思うような燃えさかるステージをくぐり抜けて、俺は相手の目の前に辿り着いていた。

 

「オラァ!」

 

 宙に浮く太上老君に飛びかかり、曲刀を打ちつける。

 空間固定で『ガード』をしようとしてくるが、未来視と空間把握でそれをくぐり抜けて命中させ、体力ゲージを削る。

 相手も負けじと空間を爆砕させこちらに痛打を与えようとしてくるが、俺はそのことごとくを避けて反撃を加える。

 やがて――

 

『勝負あり!』

 

 橋の崩壊からいつの間にか逃れていた審判の元始天尊が、制止の声をあげた。

 太上老君の体力ゲージはゼロになっており、ここに勝負はついた。

 

『いい戦いだったよ』

 

 そう言って太上老君は、無数のポリゴン片になって消えた。

 そして、元始天尊が地に足をつけ立ち上がり、言う。

 

『ここに超神の儀を終え、一人の道士が神仙を超えるに至ったことを宣言する!』

 

 おおー、長かった七戦、これで終わりか。

 最後の敵も強敵だったが、どうにか勝てたな。

 

 と、感慨にふけっていたその時だ。

 

『ジョカ降臨!』

 

「うお!?」

 

 突然、目の前にキャラクター一覧が開き、キャラクターセレクトの音声が鳴り響いた。

 

「えっ、ヒスイさん、どういうこと?」

 

『隠しボスのジョカ娘娘(ニャンニャン)です』

 

「にゃ、にゃんにゃん?」

 

 ヒスイさんから可愛らしい台詞が飛び出した! 猫好きが高じすぎて、頭がおかしくなったのか!?

 

『娘娘は女神という意味です。猫の鳴き声ではないですよ』

 

「あっ、そうですか……」

 

『ジョカ娘娘は難易度『神級』でのみ戦える、アーケードモードの真のラスボスです。宝貝は使用せず、いにしえの神として強力な神通力を行使します』

 

「つまりは、『St-Knight』のサイキッカーヤチ再びってことだな!」

 

『身も蓋もないことを言ってしまうと、その通りですね』

 

 そんなやりとりをヒスイさんとしているうちに、ステージが決定された。

 ステージ名は天空である。

 

 視界が暗転し、すぐさま光に満たされる。

 そこは、空の上だった。俺の身体は半透明な板の上に立っていて、眼下には自然に満ちた広大な大地が広がっていた。

 

『ふむ、そなたが神仙を越えし者ですか』

 

 と、前方から話しかけられ、俺は下に向けていた目線をあげる。

 視界に入ってきたのは、美しい女性であった。

 

 彼女がジョカなのであろう。『ボン! キュッ! ボン!』のグラマラスなスタイルで、まさしく女神に相応しい姿である。

 あのロリ金光聖母と並べたりすれば、きっとその迫力の違いが際立つことだろう。

 だが、その美しい姿にも異様な点がある。足元まで伸びた長い黒髪の先端が、蛇の頭となっているのだ。

 

『己を高め、天数をくつがえし、よくぞここまでまいりました。その力、わらわが確かめてみましょう』

 

 この場には審判のジジイはいない。号令はどうかかるのかと思っていたら、ジョカがさらに続けて言葉を発した。

 

『どこからでもかかってきてください』

 

 これは、戦闘はすでに始まったということだろうか。

 俺は曲刀を構え、ジョカに向かって駆けた。

 

 近づいていく俺に対し、ジョカは何もせず立ったままだ。未来視にも、把握している空間にも、特にこれといった変調はない。

 俺は、走った勢いのままジョカに曲刀で斬りつけた。

 だが、これは強力なサイコバリアで防がれる。

 

『宝貝に頼らない姿勢、大変結構です』

 

 ジョカが話している間も、俺は曲刀を振るい続ける。だが、それは固いサイコバリアに阻まれ、突破口を見いだせないでいた。

 

『では、わらわからも、神通力の秘奥をお見せいたしましょう』

 

 ジョカの台詞が終わった瞬間、俺は激しい爆発に見舞われた。

 パイロキネシスだ。それも、マーズマシーナリーに乗って補助を受けている状態に匹敵する、強大な威力と規模。

 

 爆発が次々と起き、俺は必死になってそれを避けていく。さらには雷が走り、光弾が乱舞する。

 サイキッカーヤチの時とは比べ物にならない威力の超能力が、俺に向けて次々と振るわれた。

 

 さすがは超能力格闘ゲームのラスボス、半端ないな! だが、ここまで来て負けるわけにはいかん!

 

 俺は、一撃一撃が大爆発とでもいうような超能力の攻撃に身をさらしながら、心を震わせた。

 相も変わらず遠距離戦は分が悪い。俺は人類の平均値ほどしか攻撃用の超能力強度を持たないのに対し、相手の攻撃は兵器としか言いようがない威力だ。

 だが、俺には高い時間適性と空間適性がある。それを武器に、俺はジョカに挑む。

 

 俺は曲刀を強く握り、爆轟をくぐり抜けてジョカに躍りかかっていった。

 

 そして――

 

「……俺の勝ちだ!」

 

『……わらわの負けです』

 

 俺の体力ゲージは残りわずか、そして、ジョカの体力ゲージは残りゼロとなっていた。

 戦いの内容は、純粋な削り合いとでも言うべき壮絶な光景であった。未来視があっても、空間を掌握していても、当たる攻撃は当たると思い知らされた戦いでもあった。まさしく激戦の末での勝利だ。

 

『よくぞ神に打ち勝ちました。そなたはまさしく、神を乗り超えたのです』

 

 そう言ってジョカはポリゴン片に変ずることなく、空気に溶けるようにして消えていった。

 

 そして、どこからか中国語らしき歌が流れ始め、背景にスタッフロールが流れ始める。

 

「おー、エンディングだ。今度こそ完全クリアだ」

 

「おめでとうございます。おつかれさまでした」

 

 ヒスイさんのねぎらいの言葉が届く。横を振り向くと、ヒスイさんが天空ステージに姿を見せていた。

 

「いやあ、どうにか最高難易度制覇できたよ。存分に超能力を使えて余は満足じゃ」

 

「一応、この『神級』の上に、高度有機AIサーバに接続した状態での『神級』があるのですが……」

 

「今日はもう勘弁! あの強さの上に人間的な読み合いが合わさったジョカとか、勝てる気がしない!」

 

 俺は、恐ろしいことを提案しようとしたヒスイさんの言葉を全力で拒否した。

 

「そうですか。今日は紂王以外でリトライすることなく、最後までクリアできましたが、何かつかみましたか?」

 

「ああ、俺の超能力適性って、時間適性以外にも空間適性が高かっただろう? それで、空間を察知して攻撃の前兆をつかむことができるようになったんだ」

 

「そのようなことが……AIの私には理解しがたい感覚ですね」

 

「漫画的な、殺気を捉えたっていうの、こういう感覚なのかなぁって思ったよ」

 

「殺気……本当に理解しがたいですね」

 

 殺気も超能力もオカルトはなはだしいが、こうして超能力が実在するならば殺気も存在していてもおかしくない。

 人の気配とか感じ取っていてもおかしくない、チャンプみたいな人物もいるし。

 と、そこで背景で流れ続けていた歌が止まった。

 

「まあ、高度有機AIサーバへの接続は気が向いたときにやるとして、今回の俺の挑戦は以上で終わりだ」

 

 俺のその言葉に、ヒスイさんも察して視聴者向けの台詞を繰り出す。

 

「ヨシムネ様の活躍、いかがでしたか? ご視聴の皆様も、己の超能力を存分に駆使できるこのゲーム、『超神演義』をプレイしてみるのも面白いかもしれませんよ」

 

「ストーリーモードは配信予定がないので、シナリオが気になる人は自分の目で確かめてみてくれ。以上、自分の超能力に自信が持てた、21世紀おじさん少女のヨシムネでした」

 

「開眼してもまだヨシムネ様には負けません。助手のヒスイでした」

 

 おっ、言ったな? 後で再戦だぞ、ヒスイさん。

 

 なおその後もやはり、複数の宝貝を駆使したヒスイさんに、俺はボコボコにされて負けたのであった。

 

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