21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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116.Stella 大規模レイド編<3>

 試合後、チャンプからショートメッセージで連絡が来た。迎えを寄越すから、闘技場の入口ホールで待っていてほしいとのことだ。

 俺達二人は指示に従い入口に移動して待つ。すると、警備員だか衛兵だかの軍服っぽい服装をしたPC(プレイヤーキャラクター)が来て、「皇帝陛下がお待ちです」とどこかに連れていかれた。

 

 石造りの廊下が、進むにつれて段々と立派な物に変わっていき、大理石っぽいピカピカの床に変わる。

 やがて、俺達は立派な扉の前に到着した。扉の両サイドには、槍を持った兵士NPC(ノンプレイヤーキャラクター)が直立不動で立っている。

 案内人が扉をノックすると、中から扉が開き、なんとメイドさんが出てきた。クラシカルなメイド服に身を包んだ若い女性だ。

 

「どうぞお入りください」

 

 メイドさんにうながされるまま入室すると、そこは赤いカーペットの敷かれた広い部屋だった。部屋の各所にはきらびやかな調度品が置かれている。

 そして、その部屋の真ん中にはガラスのローテーブルが置かれ、革張りのソファーに革鎧姿のチャンプが座っていた。

 部屋に気圧されていると、メイドさんが「こちらにどうぞ」とチャンプの対面のソファーを勧めてくる。

 

 俺は緊張しながらソファーに座ると、メイドさんが「お飲み物は何になさいますか?」と聞いてきた。

 ……なんだ、このVIP待遇!?

 

「さきほどはコーラを飲んだので、モッコスがいいのじゃ。お茶請けも期待しているぞい」

 

 そして閣下は全力でくつろいでいやがる。

 ああ、そういえば閣下は元公爵だったな。この程度の環境で緊張するはずがなかった。

 

「そちらの方は、お飲み物はいかがでしょうか」

 

「あー、とりあえずビール?」

 

 って、俺は何を言っているんだ! 街角の居酒屋じゃねーぞここは!

 

「どうぞ」

 

 すると、メイドさんがインベントリからモッコスとビールを取りだして、テーブルの上に並べた。

 あるのかよ! しかもピーナッツのおつまみつき!

 

「いきなりビールとか飛ばしますね、ヨシムネさん」

 

 緑茶らしき飲み物を飲んでいたチャンプが、そう言ってくる。

 

「言わんでくれ。どこかの居酒屋と混線したんだ」

 

「ははは、なんですかそれ」

 

「立派な部屋だったから、緊張したんだよ」

 

「ああ、この部屋ですか。ここは皇帝用の控え室なんです。俺の趣味ではないですよ? 闘技場って皇帝を選出する場所なので、皇帝では施設にほとんど手を入れられないんですよね。街とか城とかは自由にカスタマイズできるんですが」

 

 なるほどなー。皇帝が自分有利に試合用の舞台とかをいじれなくしてあるのか。控え室くらい自由にいじらせてやれと思うけれども。

 そんなことを思いつつ、俺はビールを勢いよくあおった。ふいー、朝から飲む酒は美味いな。時差のある閣下に合わせて深夜からゲームを始めたので、もうニホン国区は朝になっている。

 

「閣下も『Stella』を始めたのですね。武器は剣ですか」

 

 モッコスを飲んでのんびりとお茶請けの謎のお菓子を食べていた閣下に、チャンプがそう話を振った。

 

「うむ。騎士ビルドじゃ。アーサー王伝説に登場する魔剣と同じ名前の武器を入手して、使いこなすのが目標なのじゃ!」

 

「ああ、確かガラティーンが実装されていますけど、作成難易度がかなり高いと聞きました」

 

「ほう! ガラティーンか!」

 

「剣には詳しくないので、どこで手に入るかは知りません」

 

「うむうむ。あとでラットリーにでも調べさせるのじゃ」

 

 ラットリーとは、閣下の家のメイド長のことだ。稼働年数の長いガイノイドで、俺にとってのヒスイさんのような存在だろう。

 

 さて、話題が途切れたので、早速、俺はチャンプにレイドの話題を振った。

 すると、チャンプが参加人数を聞いてくる。

 

「前の海水浴キャンプ配信で参加者は六百人くらいだったか?」

 

 海水浴にはチャンプも参加していたので、逆にそう聞き返す。

 

「ですね。今回は戦闘ということでヨシムネさんの参加視聴者は減るにしても、閣下側の参加者が未知数です」

 

「私の配信はロボットゲーム好きばかりが見ておると思うのだが、『Stella』に興味はあるのかのう……」

 

「それでも、配信を始めて一年目のヨシムネさんと比べると根本的な規模が違いますよ。今回の配信を機会に新キャラを作るという人が、大量に来そうですね」

 

 うへえ、新キャラでレイドコンテンツに参加か。ちょっと無茶が過ぎる行為だが、止められないよなぁ。

 せっかくのお祭り的イベントなのに、参加レベル制限とかやったら盛り下がりそうだし。

 

 チャンプは腕を組んで、うーんと頭を悩ませる。

 すると、かたわらにいたメイドさんが「クルマエビ様」とチャンプに呼びかけ、そして耳打ちをし始めた。

 このメイドさん、頭上のアイコンを見る限りだとNPCじゃないんだよな……メイドのロールプレイでもしている人なんだろうか。

 

「へー、あのレイドってそういう仕様だったんだ」

 

 おや、メイドさんに対して、チャンプが敬語を使っていない。珍しいな。親しい人だったりするのかね。

 

「……よし、閣下、ヨシムネさん、いいレイドボスが見つかりましたよ」

 

 メイドさんの話を聞き終わったのか、そう告げてきたチャンプの言葉に、俺は内容を聞き返す。

 

「おっ、どんなのだ?」

 

「砂漠と宝石の『星』シミターにいる要塞鯨というレイドボスです。こいつは、参加者の規模と強さによって大きさと最大HPが変わるボスらしくて、しかも攻撃はそこまで激しくないという、レイド入門者向けのポジションにいます」

 

「おー、レイド入門。閣下にもちょうどいいんじゃね?」

 

「うむ。それならば私の視聴者が新キャラで参加しても、問題ないのじゃ」

 

「シミターはクエストをしなくても行ける『星』ですので、そこもお勧めできるポイントですね。ただし、主催者はレイドを発生させる前提クエストをクリアしておく必要があります」

 

 む、前提クエストか。

 

「そのクエストって難しいか? もしくは時間がかかるとか」

 

「俺もやったことありますけど、半日もかからずにクリアできますよ。面倒なら俺がレイドを主催しますが」

 

 俺は閣下に目線を向けるが、彼女は首を横に振った。

 

「いや、ここは私とヨシムネが主催をするのじゃ。前提クエストを攻略する様子も撮影して、ライブ配信の宣伝として動画を用意しようではないか」

 

「いいですね。闘技皇帝防衛戦が終わったので、俺もついていきますよ」

 

 おお、頼もしい仲間が加わったな。『St-Knight』の年間王座決定戦の選抜争いでも忙しいだろうに、友達がいのある奴だ。

 

「では、明日にでも前提クエストをクリアしに行くのじゃ! 事前に必要な物とかはあるかの?」

 

「いえ、特にないですね。クエスト中にアイテムを求められますが、現地調達できます。集合時間はどうします? 俺は明日、道場の仕事がないので二人に合わせますが」

 

「俺も配信の予定はないから、閣下に合わせるぞ」

 

 チャンプと俺が閣下に判断を任せると、閣下はうなずいて答える。

 

「私は仕事が入っておるので、その後じゃな。では、集合時間は銀河標準時の――」

 

 そうして、チャンプというか謎のメイドさんのおかげで、無事にレイドの予定が立てられたのだった。

 しばらくして話し合いが終わったので、あとは解散となる。だが、チャンプが俺を呼び止めてきた。

 

「ヨシムネさん、せっかくグラディウスに来たのですから、PvPの試合に出てみません?」

 

「ん? 闘技皇帝防衛戦が終わったばかりなのに試合ができるのか?」

 

「闘技場には複数のコロッセオが併設されているので、常に試合をやっていますよ。特にタイトル戦とかではない、ランクマッチ的な試合ですね」

 

 ふむ、PvPかぁ。ちょっと興味あるぞ。

 

「ヨシムネさんの腕なら、上級者ランクに出てもよいでしょう」

 

「ええっ、俺かたつむり観光客なんだけど!?」

 

 武器は弓のみで防具はマントのみの貧弱装備なんだぞ!

 

「ははは、その元ネタのゲーム調べましたけど、かたつむり観光客で辛いのは中盤までで、キャラが育ってくるとそこまで辛くはないのでしょう?」

 

「いや、あのゲームではそうだけどな……」

 

 あれはモンスターと戦うPvEしか存在しないゲームだからなんとかなっているだけでな……他のプレイヤーと相対的に比べたら、いくらキャラを育てようと貧弱種族貧弱装備は弱いままなんだよ!

 そうチャンプに主張するも、結局押し切られて俺は試合に出ることになった。

 

「ふふふ、超能力を封じられたヨシムネが、どこまでやるか気になってきたのじゃ」

 

 閣下が愉快そうな顔をしてそんなことを言い出す。

 いっそのこと、はっきり負けるのが楽しみとでも言ってくれ! 半端に「こいつやるのではないか?」と思われてから負けるのは、みじめすぎるぞ。

 

「ヨシムネさんならいけますよ!」

 

 チャンプのその信頼はなんなの?

 くそ、こうなったらやけだ! 突発ライブ配信をやるぞ! 試合の様子を全宇宙に公開して、チャンプの言葉を否定してやる!

 視聴者のみんな、俺の負けるさまを刮目して見よ!

 

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