21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

117 / 231
117.Stella 大規模レイド編<4>

「オラッ! 『Stella』配信すっぞ!」

 

『わこつ』『あれ、配信予定なかったよね?』『わこつちゃん』『よかった気づけた』『突発配信は困るなぁ、ヨシムネくん』

 

 闘技場の控え室で、俺はライブ配信を開始した。もちろん、告知などはしていないので接続者はほとんどいない。

 突発開催ゆえに、視聴者も状況を理解できていない。なので、俺は『Stella』のPvPコンテンツである闘技場での剣闘試合をすることを簡単に説明した。

 

『なるほど、理解』『ヨシちゃんってクソ弱ビルドじゃなかったっけ……』『自称かたつむり観光客な』『負け確定』『あっ、じゃあグラディウスに行けば、ヨシちゃんの無様な姿見られる?』

 

 無様って、確かに無様な姿をさらすことにはなるだろうが、もっと柔らかい言い方して!

 

「残念ながら、これからすぐ試合だ。今からログインしても間に合わないんじゃないか……って、ヒスイさんからショートメッセージだ」

 

 なになに……。

 

「『これからそちらに向かいます』だって。でも試合には間に合わないんだよなぁ……」

 

『ヒスイさんおらんの?』『配信の魅力半減じゃん!』『ヨシちゃんって、一人で配信の手続きできたんだ』『よくできたね。えらいえらい』

 

「おい、コメント抽出機能、抽出内容に悪意がないか!?」

 

 俺がそう言うと、『気のせい気のせい』とコメントが返ってくる。

 まったく、鋼のメンタルを持つ俺じゃなかったら、くじけていたところだぞ。

 

「ちなみに、参加するのは上級者ランクだ。チャンプに会ったら、いきなりこのランクでやれって言われた」

 

『オイオイオイ』『本当に負け確定じゃん!』『『Stella』って超能力使えないの?』『超能力スキル育てないと無理』『ヨシちゃんエスパービルドじゃないからな』『何やってんだチャンプ……』

 

 そんなやりとりを視聴者としていると、控え室に係員のNPCがやってきた。

 

「ヨシムネ選手、時間です。八番コロッセオまでご案内します」

 

 そうして俺は、控え室を出て廊下を進んでいく。

 

「ずいぶんと本格的な入場だよなぁ。ぱっと登録してぱっと転送って感じの、手軽なPvPじゃないのは敷居が高そうだ」

 

『本格的なのは帝都の闘技場だけだよ』『そうなのか』『地方のコロシアムはもっと簡素で試合数も膨大。帝都はあくまで選別された選手による興行としてやっているから』『解説兄貴詳しいな』『俺も帝都で選手やっているからね!』

 

 はー、選別された選手による試合ね。そんな中に俺が突っ込まれた訳か。

 これは、一方的に負けたら本当に恥をかくやつだ。うーん、負けるにしても本気かつ真剣にやって、できるだけ抵抗することにしようか。

 

 舞台の入口に登場すると、案内NPCが「少々お待ちください」と言ってくる。

 視聴者と言葉を交わしながら待っていると、やがてリングアナウンサーによる音声がこちらまで届いてきた。

 

『皇帝は決まっても、戦いはまだまだ続く! 帝都闘技場ランクマッチ、次の試合の開始だ! とぉ、ここでお知らせだ、今回の対戦者の一人は剣闘初挑戦! 本来なら地方コロシアムから頑張れと言いたいところだが、実はこいつ、ただ者ではない! なんと、あの闘技皇帝クルマエビによる緊急抜擢(ばってき)! 剣闘初心者がいきなり上級者ランクへ殴り込みだぁー!』

 

「ヨシムネ選手、入場してください」

 

 おおい、やたらと期待値上げられているんだけど、このまま入場するのか!?

 俺は、「さあ早く」と急かしてくるNPCにうながされ、入口をくぐった。

 

『チャンプ推薦の超新星! その正体は、21世紀からタイムスリップしてきた人気配信者!? しかも、武器と防具を制限した自称かたつむり観光客なる縛りプレイでの挑戦だ! 舐めている、剣闘を舐めているぞ、このロリっ子! しかし、その本当の実力は、まだ誰も知らない……21世紀おじさん少女ヨシムネの登場だー!』

 

 そんな入場アナウンスがされると、こちらの視聴者達のコメントが笑いに包まれた。

 

『舐めてるだって』『そりゃあ、真面目にやっている人達の中で、マント一丁、弓オンリーだものな』『これで勝ったら相手が情けなすぎますよ!』『ヨシちゃんがんばれー!』

 

 なんとも言えない気持ちで、俺は対戦相手が入場してくるのを待つ。

 相手は、オーソドックスな剣と盾の使い手のようだ。綺麗に磨かれた金属鎧に身を包んでおり、近接戦闘が得意な剣士だと推測できる。このゲームは自由にスキルを育てられるから、もしかしたら魔法剣士かもしれないが。

 

『試合時間は無制限、一ラウンド制、HP回復不可、HP全損で決着となります!』

 

 ルールの確認がされ、俺と対戦相手は向かい合う。

 すると、相手が口を開いた。

 

「武器は出さなくていいのかい?」

 

「戦闘スタイルを事前に知らせる必要もないだろう?」

 

「知っているよ。マント一丁、弓オンリーのかたつむり観光客だろう?」

 

「むっ!」

 

 どういうわけか、こやつ、俺のスタイルを知っている。

 疑問に思っていると、相手はさらに言葉を続けた。

 

「『地方のコロシアムはもっと簡素で試合数も膨大。帝都はあくまで選別された選手による興行としてやっているから』」

 

「ん?」

 

「『俺も帝都で選手やっているからね!』俺がつけたコメントだよ」

 

「さっきの解説兄貴じゃんっ!」

 

「ちなみにテント泊登山にも海水浴にも参加したよ。ヨシちゃんとフレンド登録も済んでる」

 

「昔からの視聴者さんじゃんっ!」

 

『マジでー』『気づかなかったのかよ!』『視聴者の数は膨大だから、顔を覚えきれないヨシちゃんを責められない……』『テント泊登山ってヨシちゃんの配信でも初期の頃だから、解説兄貴かなりのヨシちゃんガチ勢だ』

 

 視聴者コメントを対戦相手の彼も聞いていたのか、ニヤリと笑って言った。

 

「今日はヨシちゃんに、俺の顔を覚えて帰ってもらいます。覚悟しろよぉ」

 

「ひえっ!」

 

 とりあえず、すでに戦闘スタイルを知られているということで、俺はインベントリから弓を取りだした。

 それは、魔法の金属板を束ねて作られた複合弓。しかも、以前までの短弓ではなく、種族的にロリ体形である今の俺の身長に対して1.2倍ほどの長さがある長弓である。

 

「ふわっ!? 何そのごっつい弓」

 

『でけえ!』『ヨシちゃんショートボウ使いじゃなかったっけ』『天の民の筋力でどうやって弦引くの』『いつの間にこんな物用意していたんだ』

 

 ふっふっふ、長弓と短弓はどちらも共通して弓スキルで使えるから、状況によって武器の種類をスイッチするのだ。

 今回は、あえてこれを見せることで相手に遠距離戦を警戒させて、俺の考える必勝パターンに持ち込むつもりだ。

 

『さあ、両者武器を構えました。それでは、上級者ランクのランクマッチ、試合開始ィ!』

 

 ゴングの音が響くと同時、俺は即座に魔法を発動した。

 

「【マイト・リインフォース】!」

 

 腕力を上昇させる補助魔法である。術名や技名はわざわざ宣言しなくても発動できるが、頭の中で念じて発動させる方法の場合、関係ないアシスト動作を誘発しやすい。なので、口頭で発動できる暇があるなら、口頭がよいとされている。

 

「えっ、マイト!?」

 

 天の民である俺が、魔法を使ったことに驚いたのだろう。距離を詰めようとしていた相手が、とっさに足を止めた。

 その隙に、俺は上昇した腕力で弓の弦を引き、無言で弓スキルの(アーツ)、【チャージショット】を放った。

 相手は、それを的確に盾で防ぐ。

 

「!?」

 

 しかし、それは罠。チャージショットのチャージとは、溜めるという意味でなく、突進という意味である。俺も習得してから意味の違いに気づいて驚いた。

 その効果は、触れた相手をノックバックさせる、すなわち後ろに吹き飛ばすこと。盾でもそれだけは防げない。

 

 俺は、距離が離れたチャンスを逃さず、次々とアーツを連発して矢を放っていく。

 

『おおっと、ヨシムネ選手、その正体は弓の使い手だった! なかなかの腕前です。これは意外』

 

 矢を放ち、ときどき魔法も織り交ぜ攻撃し、相手のHPを削りにかかる。

 だが、矢のアーツはともかく、魔法攻撃は全く痛手を与えられていない。天の民は腕力だけでなく、魔力も貧弱なのだ。というか、天の民が得意な分野はテイムモンスターを補助することのみだ。まさしくかたつむり並の弱さである。

【マイト・リインフォース】がそこそこ効果を発揮しているのは、ひとえに補助魔法スキルを育ててあるからだ。

 

 やがて、一方的に攻撃できたボーナスタイムは終わる。懸命に逃げ撃ちしていたのだが、盾を構えて突進してきた相手にとうとう肉薄されたのだ。

 

「もらったよ!」

 

 剣の一撃が、俺の首を刈ろうと迫ってくる。しかし。

 

「!?」

 

 カウンター、いただいたぞ!

 

『えええ』『ヨシちゃんまさかそんな』『その手があったか!』『かたつむり観光客的にそれってありなの?』

 

『ああっとー! なんとヨシムネ選手、剣をかいくぐって、素手で殴り飛ばしたー! まさかの格闘スタイル!』

 

 かたつむり観光客は、遠距離武器と背中防具しか装備できないと言ったな?

 しかし、近接戦闘ができないとは言っていない。実は、素手による格闘は許されているのだ!

 

 ノックバック効果がある格闘スキルのアーツを使ったため、相手は後ろに大きく後退している。俺は追撃として矢を放った。

 相手はまさかの反撃に驚きを見せていたものの、すぐに気を取り直しまた距離を詰めてきた。

 相手に遠距離攻撃手段はないようだが、さすが上級ランクなだけあって、そのハンデを埋めるだけの力量がある。遠距離攻撃に対する盾の扱いが異様に上手いのだ。

 

「さすがヨシちゃん、ただではやられてくれないな!」

 

 そんな言葉を悠長に話しながら、相手は近づいてくる。

 俺はほとんど相手に痛手を与えられることなく、また肉薄されてしまった。

 そこで俺はいくつも用意してあるノックバック技を発動しようとしたのだが……。

 

「甘いよ。【ヘビーアンカー】!」

 

 相手がアーツを口頭で宣言すると、盾が青く光った。

 何事かと思うが、すでにこちらの格闘アーツ、【ショルダータックル】が発動している。

 盾に命中する俺の体当たり。だが、しかし。

 

「!? ノックバック無効技!」

 

「その通り!」

 

 そのまま、相手は盾をこちらに向けて叩きつけようとしてきた。いわゆるシールドバッシュってやつだ。

 俺は、とっさにアシスト動作でバックステップしてそれを回避する。

 だが、相手もそれにすぐ追いすがってきて、剣の間合いになる。

 

『解説兄貴強い』『賢い』『ヨシちゃんピンチ?』『どっちを応援すればいいんだ!』

 

 俺の視聴者なんだから俺を応援してくれよ!

 と、心の中で突っ込んでいたら、相手が剣のアーツで斬りつけてきた。エフェクトつきなのでただのアシスト動作じゃないことが判る。

 

 俺はそれを左手に持った弓で弾いて防いだ。

 

「おおっと」

 

 俺の防御行為に、相手が意外そうな顔をした。

 

 無事に攻撃をしのげたが、本来防具として設定されていない弓で剣を防いだため、弓の耐久力が大きく減じてしまった。

 このゲームの武器や防具には、耐久力が設定されている。耐久力がなくなると、武器は破損状態になり、修理するまで使えなくなる。そして、修理のたびに最大耐久力の数値は少しずつ減少していく仕組みだ。最大耐久力を回復するにはクレジットショップで専用の課金アイテムを購入する必要がある。

 これは全て、量産品である生産プレイヤー産の武具を普段使いさせるための措置だ。クエスト報酬やボスドロップのレア武具は強力だが、そればかり使うと武器や防具を作り出す生産職の仕事が成立しなくなってしまう。つまりは、バランス調整のための仕様だな。

 

 だが、弓の耐久力が削れたところで痛手はない。

 この試合では、インベントリからの武器の取り出しは制限されていないのだ。壊れたらまた新しい弓を取り出せばいい。

 その精神で、俺は左手の金属弓を盾代わりに使って、相手の連撃を防いでいった。

 

「この……!」

 

 攻撃を全て防がれ、相手があせりの表情を浮かべる。

 うむ、チャンスだ。

 

 俺は、相手の攻撃が大振りになったところで前進し、懐に潜り込む。そして、格闘スキルのアーツである【疾風正拳突き】を鳩尾に向けて放った。

 

「ぐっふ!」

 

 鎧の防御力をある程度貫通する強力なアーツなので、貧弱な天の民の攻撃と言えど、相手のHPを大きく削ることができた。格闘スキルは急所攻撃に高いダメージ倍率を持つという理由もある。

 そして、本来なら相手を吹き飛ばす【疾風正拳突き】だが、ノックバック無効の効果で相手は吹き飛ばない。

 つまり、依然として俺と相手は肉薄状態にあり、こちらは連続攻撃をし放題ということになる。

 

 そこから、俺は殴る蹴るの連打を相手に浴びせた。金属鎧を殴打する鈍い音が周囲に鳴り響く。盾は邪魔だが、回り込んで盾の死角をついていく。

 HPの回復はルールで禁止されているが、アーツを使うためのスタミナ値を回復することは禁止されていない。なので、聖魔法でスタミナ値を適時回復させて、俺は攻撃を続けた。

 

「くっそ!」

 

 相手も負けじと剣を振るうが、俺はそのことごとくを回避した。

 

『か、解説兄貴ー!』『なんでヨシちゃん避けられんの?』『超能力使ってズルはしてないよね?』『ソウルコネクトのオンラインモードで不正行為(チート)は不可能だよ』『じゃあ純粋なヨシちゃんの力量……?』

 

 純粋な力量です。対戦相手はこうして幾度もPvPを繰り返して過ごしてきたのだろうが、俺だって毎日をぼんやりと過ごしてきたわけじゃない。

 

「うおー! 【武神諸手突き】じゃー!」

 

 俺のスーパーアーツが相手の喉に突き刺さり、最後に残っていたHPを削りきった。

 

 戦闘中に攻撃を命中させたり、支援となる魔法をかけたり、回避や防御を成功させたり、あるいは敵の攻撃に当たったりするとテクニカルゲージが溜まっていく。そのゲージを消費して、技ならスーパーアーツ。術ならスーパースペルが発動する。ここぞというときの決め技である。

 

『決着! まさかの剣闘初心者ヨシムネが、格闘戦で勝利をつかみとった! 本当にこいつは天の民なのかー!』

 

 試合終了を知らせるゴングが鳴り響き、俺は構えを解いた。

 すると、対戦相手が笑顔で剣を鞘に収め、こちらに右手を差し出してきた。

 俺は、こころよく握手に応じる。

 

「おててぷにぷにしてる……あ、ヨシちゃん、なんで俺の攻撃全部かわせたの?」

 

「ああ、あれ? 普通に気合いで回避しただけだよ」

 

「そんなことできるの……?」

 

「できるよ、なぜならば、俺はチャンプが師範をやっている超電脳空手道場で、練習生としてみっちり鍛えているからな!」

 

 正直なところ、ただ漫然(まんぜん)とPvPやアクションゲームでのプレイを繰り返すより、正しい指導をしてくれる先生がいるところで正しいメニューの練習をした方が、上達は早いと思うんだよな。

 だから、俺は空手をやっていたから、これほどまで回避ができたというわけだ。

 

 まあ、その他にも、今の言葉をくつがえすような話になってしまうのだが、最近、『超神演義』で超能力を使ってアホみたいな物量攻撃を回避しまくっていたおかげで、回避のコツをつかんだということもある。

 

『決め手は空手道場』『すげえなチャンプの所』『私も通ってみるかなぁ……』『これでソウルコネクトゲーム歴一年もないというのが信じられん』『ヨシちゃんやるう』

 

 ふふん、視聴者の称賛が気持ちいい。

 

 そして、数百人いる観客から拍手を送られながら、俺はいい気分で舞台を退出した。

 すると舞台の入口脇に、チャンプと閣下の姿が。

 

「おお、二人ともそこから見ていたのか」

 

「うむ、ヨシムネ、よくやったのじゃ」

 

「見ていましたよ。ここにいるのは、皇帝特権ですね。本来は関係者以外立ち入り禁止なんですが」

 

 チャンプが笑いながらそう言ってくる。

 確かに、舞台袖なんて観戦に向いた場所、勝手に客を入れちゃまずいよな。

 

「それよりも、おめでとうございます。大勝利でしたね。俺の言ったとおり、上級者ランクで正解だったでしょう?」

 

「……悔しいことに、その通りだったよ」

 

 負けを見せつけるつもりでライブ配信したつもりが、まさかの勝利を飾ってしまった。

 

 そうして俺は、視聴者に挨拶をして突発ライブ配信を終了させ、改めてチャンプ達と明日の再会を約束して、ゲームをログアウトした。

 楽しみだな、三人での前提クエスト攻略。明日まで、何をしていようか。

 

 そんなことを考えながら、俺はリアルに戻り、ソウルコネクトチェアから立ち上がる。

 さーて、朝飯食うかな。

 そう思って部屋の入口を見ると、ヒスイさんがたたずんでこちらを見つめていた。

 

「ヨシムネ様……」

 

 あっ、闘技場まで来るって言われていたのに、ヒスイさんの存在忘れていた!

 俺は、無視する形になったヒスイさんをなだめにかかる。そして、明日の前提クエスト攻略に同行してもらうことを条件に、なんとか機嫌を直してもらうことに成功したのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。