21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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12.St-Knight(対戦型格闘)<3>

 キャラメイクも無事に終わり、いよいよ戦闘開始だ。

 ヒスイさんの解説によると、アーケードモードは十人の敵を倒したらクリアらしい。格ゲーらしく勝負はラウンド制(一度敵に勝っても、規定回数勝利するまで勝負が仕切り直しになって続行する)だが、今回はオプションで1ラウンド先取に設定してある。

 21世紀の格ゲーと違って、VRでの対戦型アクションゲームは細かい回避が可能なので攻撃を命中させることが難しい。ゆえに、一度の勝負に時間がかかるため1ラウンドにしたとのこと。

 

 ちなみに何を基準に勝負が決まるかというと、体力という数値があり攻撃を当てたらそれが減り、体力がゼロになった方が負けというルールだ。格ゲーの基本だな。

 

『ステージ1』

 

 システム音声が鳴り響き、背景が切り替わる。すると、俺は中華風の闘技場の舞台に立っていた。

 正面には、長い(こん)を持った、これまた中華風の格好をした大男が構えている。

 

『ヨシムネ VS.(ヴァーサス) ハオラン』

 

 その音声と共に、BGMが鳴り始める。中華風の優美な曲だ。

 

「いきなり強そうな相手だなぁ」

 

 ゲームだから見た目と強さが一致しないのは解っているが、そんな感想が漏れてしまう。

 撮影されているのを意識しているからか、ここのところ独り言が自然と漏れるようになっている。考えなしで言葉を喋っている節があるので、ライブ配信をするときになって失言しないか心配である。

 

『ファイナルラウンド』

 

 おっと、戦いに集中だ。俺は、セーラー服に追加していた腰のベルトに差してある鞘から打刀を急いで抜く。

 

『ファイト!』

 

 先手必勝! うおおおお!

 

『KO』

 

 ……三十秒ほどの攻防で、あっさり勝利することができた。

 

「イージーなら、こんなものかぁ」

 

 敵のモーションは遅いし、隙だらけだった。

 身体を動かすことに慣れていないゲーム初心者がやるモードなんだから、こんなものか。

 

「そういえばヒスイさんはどこかな」

 

 次のステージへ、という目の前に広がる画面を振り払いながら、俺は舞台の上から周囲を見回す。

 すると、観客席の一番前にヒスイさんが座っており、こちらに手を振っていた。

 観客席とは距離があるから、気軽に会話はできないな。声が長時間途切れるのは動画的に問題があるが、多分、ヒスイさんは試合中解説コメントをいれてくれていると思う。できる女だからな。

 

 俺はヒスイさんに手を振り返すと、画面を操作して次のステージへ向かうことにした。

 そして……順調に俺は勝ち進んでいくことができた。

 思わぬ難易度の低さに拍子抜けしながら、九戦目。敵は槍使いで、場所は洋風の屋敷にある玄関ホールらしき場所。

 これも速攻で行って、ラスボスの顔を拝んでやろうと思ったのだが……。

 

「負けたぁー! 攻撃がかわせねぇー!」

 

 敵の多用する薙ぎ払いが回避できずに、削り負けてしまったのだ。

 モーションは解りやすい。あからさまに同じ構えを取っている。だが、その構えを取った瞬間、ものすごい速さで攻撃が飛んでくるのだ。

 回避を何度も試みたが、思わぬ攻撃範囲の広さにどう動いても避けきれない。

 攻撃に魔法か超能力が乗っているのか、刀で受けても吹き飛ばされてダメージが入ってしまう。これが『-TOUMA-』だったら刀がへし折れていただろう。

 

「お困りのようですね」

 

 屋敷ステージの二階から試合を眺めていたヒスイさんが、こちらに近づいてくる。

 実際困ったので、俺はヒスイさんに泣きつくことにした。

 

「ヒスえもーん、敵の槍がかわせないんだー」

 

「ヒスえもん……? ええ、あれは回避できないでしょうね。アシスト動作による一撃ですので、無理です」

 

「できないの!? じゃあ懐に飛び込めないんだから、遠距離魔法なしの打刀じゃ攻略無理じゃん」

 

「あの技の後は硬直が長いので、回避すれば懐に入り放題ですよ」

 

「回避できないのに回避すればって、どういうことさ」

 

「今のままでは回避できません。ですが、システムアシストがあれば……」

 

「そ、そういうことかぁー!」

 

 システムアシストによるアシスト動作は、キャラクターの持つ素の身体能力を超えた速度で動いたりできる。

 システムアシストが有効な状態で回避を行なえば、高速バックステップ等で槍の一撃も避けることが可能だろう。

 

 ちなみに名前がややこしいが、システムアシストは機能のことで、アシスト動作は実際の個別のアクションのことだ。

 

「ヨシムネ様の挑戦はここまでということで、システムアシストをオンにして、最初からやりなおしましょうか」

 

「え、この九戦目からの再挑戦でよくない? ここ以外はシステムアシストなしでも勝てる敵しかいないし」

 

「今回のゲームはシステムアシストに慣れるための物です。ですので、ヨシムネ様には、これよりシステムアシストのアシスト動作以外の動きを一切しない、縛りプレイをしていただきます」

 

「な、なんだってー!?」

 

 どうなってしまうんだ、それ。

 

「現実の感覚で手足を動かそうとしても動かず、全てを思考操作により動かす……きっと、よい修練となることでしょう」

 

 やっぱりこの人スパルタだよ!

 

「では、リセット」

 

 ヒスイさんがそう宣言すると、背景がタイトルロゴに戻る。

 

「オプションを変更しまして……」

 

 本当に通常動作の項目をオフにしてるよ、この人……。というかこのゲーム、そんなオプションの項目もあるんだな。開発に想定された運用方法ってことか。

 

「では、ゲーム再開です」

 

 アーケードモードが開始されたので、俺は作成済みのPCを選択する。

 

『ステージ1 ヨシムネ VS. ハオラン』

 

 背景が、また最初の中華風舞台に切り替わる。対戦するのも棍使いの男だ。

 どうやら一戦目の対戦相手は固定っぽいな。

 

『ファイナルラウンド ファイト!』

 

「うおおお、本当に身体が動かねえええ!」

 

 突如、金縛りにあったような感覚に襲われ、身体がぴくりとも動かなくなった。

 その状況にあたふたしている間に、敵が棍を叩きつけてくる。

 一発、二発と食らって、俺はその場にダウン。

 

「くそぉ、起き上がる動作すらシステムアシストが必要なのかよ!」

 

 倒れている俺に、敵は追撃を重ねていく。そして。

 

『ユー ルーズ』

 

 アシスト動作を一度も使うことなく負けてしまった。

 

「がんばってください。さあ、もう一度」

 

 観客席から、ヒスイさんの声が響く。くそ、罵倒や呆れの声が飛んでこないのが逆に辛いぞ。

 俺は、思考操作で『コンティニュー?』と表示されている画面のYesボタンを押し、戦闘を再開する。

 

『ファイナルラウンド ファイト!』

 

「だっしゃらぁ!」

 

 とりあえず突進斬りのアシスト動作を発動。一気に相手に接近する。しかし。

 

「ぬあああ! 攻撃敵に届いていねえ!」

 

「イメージ不足で、別のアシスト動作が発動したのですよー」

 

 観客席から解説が飛んでくる。

 そうか、システムアシストのスタイル選択で、全部を選んでいたな。膨大な量のアシスト動作が存在しているのだろう。突進斬りを発動したつもりだが、その中でも短めの距離の物が発動してしまったというわけだ。

 

「うおお! だが負けん!」

 

 隙を晒したが、相手はイージーモードの一戦目。リカバリーは効くはずだ。ここでバックステップ!

 

「ってなんでバック転が発動するのおおお!」

 

 そして、戦いはぐだぐだになり……。

 

『ユー ルーズ』

 

 また負けた。

 身体が金縛りから自由になったので、舞台上で打ちひしがれていると、観客席からヒスイさんがやってくる。

 

「システムアシストの正確な操作に必要なのは、明確なイメージ。どのような動きをするか細部まで想像してください」

 

「『-TOUMA-』で覚えた身体の動かし方と正反対すぎる……」

 

『-TOUMA-』では、戦闘中にいちいち細々と考えることなく、稽古で身体に染みついた動きを直感的に選択することが求められていた。だが、今度は頭を使って深くイメージをすることが求められている。

 

「練習あるのみです。がんばってください」

 

「そうだね、負けても再挑戦だ。そのやり方でミズチにだって勝ってきたしな」

 

 その後、俺は散々アシスト動作の暴走に振り回されながら戦いを続け……。

 四時間は戦っていただろうか。ヒスイさんの的確なアドバイスの数々に助けられて、俺はようやく最終ステージに到達することができた。槍使い? また九戦目で出てきたけど、システムアシストがあれば、ただの隙だらけの雑魚だったよ。隙を突けるようになるまで五回負けたけどな!

 

『ラストステージ』

 

 最終ステージは、戦場だった。鎧を着た戦士達が入り乱れ、戦いを繰り広げている。そして、その戦場にぽっかりと開いた空間。そこの中心で俺と敵が向かい合っている。それはまるで、一騎打ちの光景だった。

 

『我が名はアレクサンダー! いざ尋常に勝負!』

 

 敵がそう高らかに宣言した。このゲーム、ちゃんと敵にボイスがついている。まあ、当たり前のことだが。

 敵は騎士。プレートアーマーを着込んでいる。

 

『ヨシムネ VS. アレクサンダー』

 

 そして敵はなんと、馬に乗っていた。手にはランスを持っている。

 

「そんなのありかよ! キャラメイクの時に馬なんていなかったぞ!」

 

 しかも、敵との距離が他のステージと違って、それとなく離れているような気がするんですけど。

 これだけ距離があれば、馬も最高速度に乗って突進をぶちかましてくるぞ。

 

『ファイナルラウンド ファイト!』

 

「心構えがまだできてねえ!」

 

 開始と共に、騎士らしき敵が突進をかましてくる。って、速え!

 

「うおおお!」

 

 俺は横にローリングする形で回避。

 すると敵の馬は、すぐさまひるがえってこちらに身体を向け、再び突進を開始した。

 

「プレートアーマー乗せてる四つ足の動物の動きじゃねえ! 馬にもシステムアシストっぽいの効いているぞ、これ!」

 

 人間を超えて超人的な動きを可能とするのが、システムアシストだ。それに似たモーションを馬が取っている。

 俺はさらにローリングで地面を転がり、無様に突進を回避する。

 俺が今、着ているのはセーラー服だから、パンチラしているだろうな。また視聴者にあざといと言われてしまう。

 

「くそっ、本当にイージーかよこれ!」

 

 このままではいけない。俺は打刀を構え、突進にカウンターを入れることに決める。狙うのは……。

 

「足ぃ!」

 

 すれ違い様に、馬の足を斬りつけることに成功した。

 すると、馬はその場で倒れ、動かなくなる。この馬、凶悪な動きをする代わりに、体力はすこぶる低いようだ。

 

 馬の上に乗っていた騎士は地面に転がると、すぐさま立ち上がりランスを捨て、腰に差していたショートソードを抜く。

 騎士の鎧と剣からは、魔力を表わす青いオーラがほとばしっている。

 だが、地面に引きずり下ろしさえすれば、他の敵と変わらない。ただのイージーモードの敵だ。

 

「死ねえ!」

 

 俺は騎士にシステムアシストを駆使して飛びかかり、打刀を兜に向かって叩きつけた。

 そして。

 

『KO ユー ウィン』

 

 激闘の末、勝利を収めることができた。

 

「はー、勝った勝った」

 

「お疲れ様でした。基本的な動きは習得できたようですね」

 

 戦場のどこにいたのか、ヒスイさんが俺の傍に寄ってくる。

 気がつけば、背景の戦争はいつの間にか収まっていた。ストーリーモードじゃないから、この戦場にどういう背景設定があるかは判別不能だ。

 

「いやあ、馬がシステムアシストを使ってくるとは思いもよらなかったよ」

 

「今回は馬でしたが、『-TOUMA-』でも妖怪が、現実ではありえない挙動をしていたりしませんでしたか?」

 

「……そういえばそうだったな。妖怪だからってスルーしてたわ」

 

 格ゲーで馬というインパクトで忘れていたが、馬が一瞬でUターンする程度、なんてことはなかった。

 

「さて、イージーモードもクリアできたし、ノーマルモードに挑戦するかな」

 

「いえ、少し休憩致しましょう」

 

 ヒスイさんはクリア特典等が表示されているゲームを終了し、背景をVRのホーム画面に戻した。真っ白な空間だ。

 

「五時間ほどプレイしていましたが、現実では三十分程度しか経っていません。ですので、休息用のゲームを使って時間加速状態で精神を休めることにしましょう」

 

 ヒスイさんが何やら操作すると、背景が急に草原へと変わる。

 そして、足元がなにやら柔らかい。見下ろしてみると、真っ白でふわふわしたものが敷き詰められていた。

 

「リラクゼーションゲームの『sheep and sleep』です。ここで一眠りしていきましょうか」

 

 草原には羊たちが放牧されており、のんびりと草を食んでいた。

 なんだ、この空間は……。

 

「これ、ゲームなの……」

 

「ええ、よりよい眠りを追求するゲームですよ」

 

「そうなの……」

 

 俺はとりあえず、その場に寝転がることにした。すっごいふわっふわしとる……。

 地面の柔らかさを堪能していると、ヒスイさんも俺の隣で横になった。

 

「おや、珍しい。ヒスイさんも寝るんだ」

 

「はい、よりよい眠りを追求するゲームですから」

 

 ヒスイさんは普段、AIに休息は必要ないとかいって夜も眠ろうとはしない。『-TOUMA-』内でも、布団に入って眠るのは俺だけで、ヒスイさんはその横で正座をしているだけだった。

 だから、ヒスイさんの添い寝という行為は初めてのことだ。

 

「じゃあ、少し寝てノーマルモードを頑張るとするかな。おやすみー」

 

「おやすみなさいませ」

 

 そうして俺はゲームの中でぐっすりと眠りにつくのであった。

 未来のVRゲームは奥が深い……。

 


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