21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

123 / 231
123.メタルオリンピア300(スポーツ)<1>

 秋も深まる10月1日。

 アーコロジーの中にいると、季節の移り変わりを堪能(たんのう)することがいまいちできない。元農家の俺としては、寂しいかぎりだ。

 だが、ヒスイさんが俺を気づかって、秋っぽい食材で食事の献立を立ててくれている。そのおかげで、季節の移ろいをなんとか感じられていた。

 

 さて、そんな秋のヨコハマ・アーコロジーの部屋に、ミドリシリーズのオリーブさんが訪ねてきた。

 またヨコハマのスタジアムで、アンドロイドスポーツの試合でもあるのだろうか。と、思ったのだが、どうも違うらしい。

 

 なんでも、俺に用事があって、わざわざ直接会いにきたのだとか。

 別に、SCホームにでも来てくれれば、いつでも話くらいするのにな。なんとも律儀な人である。

 

 オリーブさんは、ヒスイさんの出したモッコスを飲みながら、俺に話を切り出す。

 

「ちょっと小耳に挟んだんだけど、ニホンタナカインダストリは、スポンサーとしてヨシにプレイするゲームを強要しないらしいな」

 

「ああ、そうだな。気楽に配信できるから、正直助かっている」

 

「じゃあ、他の組織が、ヨシに特定のゲームを宣伝してほしいって依頼するのはどうだ? 受けてくれたりするか?」

 

「えー、うーん……」

 

 ちょっと想定していなかった話が来たぞ。

 宣伝でゲームか。思い出してみると、21世紀の頃にも人気の配信者やバーチャルユーチューバーは、企業からいろいろ依頼を受けて宣伝動画を配信していたりしたな。

 俺は……どうするのが最適だろうか。スポンサーか……。

 

「……勝手に判断はできないかな。ほら、スポンサーとのあれこれがあるからさ」

 

「ニホンタナカインダストリなら、すでに話は通してあるぜ。あとはヨシがどう思うかだ」

 

「それなら……やるゲームによるかな。つまらないゲームを面白いって宣伝するのだけは、絶対に嫌だ」

 

「そこは安心してくれ! 今回ヨシにお願いするのは、私も開発に協力したゲームだぜ! その縁で、私にヨシを紹介してくれって話が来たんだ」

 

「へー」

 

 オリーブさんが協力したイコール面白い、となる理屈がいまいち解らんが、とりあえず生返事をしておく。

 すると、オリーブさんは俺の目の前に空間投影画面を表示させて、ゲームのパッケージ画像を見せてきた。

 なになに……。

 

「メタルオリンピアっていう、アンドロイドスポーツの宇宙競技大会をゲーム化したんだ。実在選手が登場して、自由に使えたり競ったりできる夢のゲームだぞ!」

 

「へー、『メタルオリンピア300』ね」

 

 名前からして21世紀にもあった、聖火をリレーで運んだりする五輪大会の流れを汲む、国際競技大会だろうか。いや、国家という区分はこの時代には存在しないので、国際ではなく宇宙競技大会か。

 そういえば、俺が実家の家屋ごと次元の狭間に飲み込まれた日付は、2020年の12月26日だった。

 その2020年はいろいろあったために、東京五輪は翌年に延期となっていた。結局、その後、東京五輪は開催されたのだろうか。後で調べてみようか。

 

 そして、疑問が一つ浮かぶ。

 

「ちなみに300というのは?」

 

「宇宙暦300年のことだ。今年は299年だから、来年だな」

 

「ああ、宇宙暦か。300年ってことは節目の年だな」

 

「そうだぜ! メタルオリンピア以外にも、いろんな(もよお)し物が予定されているんだ」

 

 へえ。その節目の年の大会をゲーム化するのだから、結構本腰を入れて作られた作品なのではないだろうか。

 

「OK。配信の依頼、受けるよ」

 

「やったぜ! 電子契約書をヒスイに送るから、確認して電子サインを入れておいてくれな! それと、これ、開発メーカーの宣伝部の連絡先な。一応、サインの前に、宣伝部の担当者と話した方がいいな」

 

 契約書かぁ。確認が面倒臭いんだよな。細かいニュアンスの把握は、ヒスイさん任せにしよう。

 

「契約の内容を簡単に説明しておくと、ライブ配信はNGだ。撮影して編集した動画を一度、開発側でチェックする必要があるからな」

 

「ああ、了解」

 

「それと、ヨシは配信者の職で一級市民になっているわけじゃないから、ギャラが支払われるぞ。期待してくれていいぜ」

 

「クレジットは有りあまっているから、別にそこまで高額なギャラも必要ではないんだけどなぁ」

 

 一級市民に配られるクレジットって、研究職の人が私的に研究資材を購入するために使われるものだから、額がでかいんだよな。

 

「ヨシは人間なのに、ゲームのNPCをアンドロイド化して、お婿さんとかお嫁さんとかにしたいって思わないのか?」

 

「俺、生身の頃から、ゲームや漫画の登場人物に深い思い入れを持ったことないから……」

 

 俺の嫁だの推しだのといった概念が21世紀にいた頃にあったが、俺はそれに乗れなかった人種だ。

 結婚システムが売りの農業スローライフゲームでも、結局結婚せずにクリアしてそのままやめるとかしていた。

 

 まあ、この時代だと、高度有機AIサーバに接続したゲームのNPCは人間と遜色(そんしょく)ない人格を持った存在なので、創作物のキャラクターとはまた違う接し方になるのだが……。

 それも踏まえて、俺は言葉を続ける。

 

「少なくとも、この時代に来てから誰かに恋愛感情を持ったことはないな」

 

「そんなものか。いや、私の人間の知り合いは、結構アンドロイドの配偶者持ちが多くて。ヨシもその口かと思ったんだ」

 

「ま、俺は当分、恋人作る予定はないよ」

 

 そういうのは、男のボディに戻ってからにしたい。いや、男のボディに戻る予定も、今のところ全くないのだが。

 

「そうかー。まあ、それはともかく、ゲームの宣伝プレイよろしくな!」

 

 その後もオリーブさんはしばらく部屋に留まり続け、夕食を俺達と一緒に食べてから帰っていった。

 たまに食う飯は美味いとか言っていたので、彼女も以前のヒスイさんと同じように、普段から食事は取らないタイプの人だったようだ。

 まあ、食事に関するスタンスは人それぞれであるべきなので、俺からは何も言わない。ヒスイさんは俺に付き合って三食食べるようになって、すっかり食事にはまっているけどな。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 オリーブさんからの依頼を受けた翌日、契約は成立し、ゲームが無料で送られてきた。

 一応、ゲームメーカーの宣伝部門の担当者とは、ニホンタナカインダストリの広報室を交えてVR上で会議をした。すると、担当者から、まずは自由にやってみてくださいと言われた。なので、早速、その日のうちにプレイをすることにした。

 

 たまにはリアルの姿も映してみようかと思い立ち、カメラ役のキューブくんに出動してもらい、遊戯室で撮影を開始する。

 

「どうもー。21世紀おじさん少女だよー。10月に入り、秋も深まってまいりました。とはいっても、コロニーやアーコロジー在住だと、秋と言われてもしっくりこないかもしれないな」

 

「惑星テラと季節が連動しているMMORPGは、ゲーム内が秋になっていることもあるそうですね。ですので、二級市民の方々は、意外と秋を満喫しているかもしれませんよ。助手のヒスイです」

 

「おお、そんなこともあるのか。ところで、秋といえば、21世紀の日本では、食欲の秋、芸術の秋、読書の秋といろいろ言われていたな。その中でも、今回はスポーツの秋を堪能(たんのう)したいと思う!」

 

 俺がそこまで話すと、ヒスイさんは腕に抱えていた猫型ペットロボットのイノウエさんに目線を向けて、言う。

 

「動物の秋はありませんか?」

 

「聞いたことないな! さて、スポーツの秋ということで、今日はスポーツゲームをプレイしていくぞ。リアルで運動をしにいくと思った人は残念、この配信チャンネルのカテゴリはゲームだ!」

 

「普段からゲームをやらずに、料理風景を配信したりもしていますけれどね……」

 

「それは言いっこなしだよ。さて、それじゃあ、VR空間へゴーだ!」

 

 ソウルコネクトチェアに座って、目を閉じる。

 そして、目を開けると俺はSCホームの庭先に立っていた。日本庭園風にカスタマイズした庭は、秋一色といった風景になっている。

 

「うーん、見事な紅葉。ヨコハマ・アーコロジーの中には街路樹がないから、VR上でしか紅葉を楽しめないのが残念だな」

 

「秘かにモミジやカエデをSCホームの庭に増やしておいて正解でした」

 

 そんなことやっていたのか、ヒスイさん。気が利くな。

 さて、仮想の秋を楽しむのもよいが、本題に入ろう。

 

「ゲームを始める前に、今回の配信について一言、言っておくことがある」

 

 俺は、カメラの方向に真面目な顔を向ける。

 

「今回の配信は、ゲームの宣伝だ!」

 

「……正直に言ってしまいましたね」

 

「オリーブさんを通じてゲームメーカーから依頼を受けて、今回の動画を配信しているぞ! そして、なんとプレイするゲームは……」

 

 俺は、わずかに溜めるようにして、言った。

 

「発売前のゲームだ! フライングゲット! いや違うか。宣伝のために、まだ誰もプレイしたことのない、最新ゲームをこれからやるぞ!」

 

「テストプレイヤーのAIは、すでにプレイしているのではないでしょうか」

 

「……さあ、早速ゲームを起動してみようか!」

 

 突っ込みを無視される形となったヒスイさんだが、気を悪くせずに、いつものようにゲームアイコンを両手に掲げ、ゲームを起動した。

 背景が崩れていき、陸上の競技場へと切り替わる。空は晴天。そして、その空にでかでかとタイトルが表示されている。

 

「今回プレイするゲームは、アンドロイドスポーツゲーム、『メタルオリンピア300』だ!」

 

 俺がそう言うと、満員の観客席にいたNPCが、「わーっ!」と歓声を上げた。

 うおお、びびった。なにこれ、配信内容と連動しているのか? 芸が細かいな!

 

「さて、ヒスイさん、ゲームの説明をお願い」

 

「その前に、まずメタルオリンピアとは何かから説明いたします」

 

 おっ、そこからか。確かに、視聴者の中には、スポーツ観戦とか興味ない層もいるだろうからな。

 

「話は、惑星テラの古代ギリシアから始まります」

 

「そこから!?」

 

「古代ギリシアのオリンピアという都市では、四年に一度、オリンピア大祭というスポーツの競技大会が開かれていました。これは主神ゼウスに対する奉納競技を行なう大会であり、宗教的側面の強い祭りでもありました」

 

 へー、それは知らんかった。

 

「それから時を経ること19世紀。旧フランスで、国際的なスポーツ競技大会を開催することが決まりました。オリンピア大祭にちなんで四年に一度開かれることになったこの大会は、その後、長い間、惑星テラのあらゆる地域から人を集めて、開催され続けました」

 

 これはちょうど俺が居た時代の話だな。

 四年に一度が、夏季と冬季を交互に繰り返す二年に一度に変わったりもした。

 ヒスイさんは説明を続ける。

 

「しかし、第三次世界大戦以後、国際関係が悪化し、全世界の競技者が一箇所に集まるということがなくなりました。人類が一堂に会することができるようになったのは、太陽系統一戦争が終わって、さらにしばらく経ってからのことです」

 

 へえ。火星の反乱に地球側が連合を組んで潰しに来たりしていたが、国際関係は悪かったのか。確かに、火星軍が月まで侵攻したあたりで、内ゲバかまして第四次世界大戦が勃発していた。

 

「しかし、その頃には、惑星テラの環境悪化の影響でスポーツ人口そのものが減少しており、国際的な競技大会というものが成り立たなくなっていました。それからしばらく時代を経ると、アンドロイドスポーツやサイボーグスポーツが勃興します」

 

 ここまで来ると、完全に俺が知らない歴史だな。

 

「そして、再び競技大会の開催が望まれるようになりました。そうして生まれたのがアンドロイドスポーツの宇宙競技大会、メタルオリンピアです。四年に一度行なわれるメタルオリンピアですが、次回の開催は、来年の宇宙暦300年。その大会をゲーム化したのが、この『メタルオリンピア300』です」

 

「なるほどなー。ヒスイさん、説明ありがとう。ちなみにサイボーグスポーツの方は、大会あるの?」

 

「アイアンオリンピアですね。なお、非サイボーグのスポーツ人口は少ないため、残念ながら旧来的な五輪に該当する競技大会はありません」

 

 スポーツする人、みんなサイボーグ化するんだ……。

 ちょっと、その価値観が俺には理解できそうにない。他者の否定につながりそうなので、わざわざそのことを口にはしないでおくが。

 

「さて、それじゃあゲームを始めていこうか!」

 

 俺はタイトル画面からゲームを移行させ、本格的にプレイを始めるのであった。

 さて、オリーブさん推薦のスポーツゲーム、どんな競技が待っているかな?

 




「21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!」を投稿し始めてからちょうど一年が経ちました。二年目も引き続きよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。